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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
赤の書
70/365

第ハ話 出発の準備


 □□□□


「学園の方はいかがされますか」


 数日後今後の方針を決めるためコテージに集まった。ミツエとシノハが見付けてくれた情報もオオエヤマ家のあった地方に関係していた。二人が持ってきてくれた魔核はかなり強い瘴気だった。今はセラミックで厳重に封じている。


「そうねえ、一応籍だけは残しおきたいわ」

「はい、籍がなくなるとイクノブ家に帰らなければなりません」


「じゃあ長期休暇の申請をしておきましょう。籍がなくなると私とヒトミもツカハラ家に帰ることになります」


 この学園には集まった知識や技術を研究している人もいる。それをまとめ各地に配布する資料を作っている人もいる。集まった知識や技術を学びにくる人もいる。私たちは知識を伝えにきた方なので、伝え終えたらいつ帰っても良い。ほとんどの人は帰る前にいくつかの知識を学んでいく。故郷に持ち帰って役立てるためだ。知識や技術を伝えるのに長い時間が必要な場合もある。そういう人達はときどき故郷に帰る。そのとき長期休暇の申請をする。それぞれの家の都合などで途中で一度帰る人も同じ申請をする。


「ありがとう、みんな」

「うん」


「別にいいわよ。これは私たちのわがままでもあるのだから」

「ミッちゃんの言う通りです。それにみなさんと離れるのは寂しいですから」


「私とヒトミは元々そのつもりですよ」


「ええ、わかったかしら。でもいつかこの借りは必ず返すわ」

「うん」


 私たちは長期休暇を取ることにした。



 □□□□


 この学園は知識や技術の集積が目的で運営されている。運営を取り仕切っているのがフソウ家になる。集められるのは外の世界の知識を多めに拾った覚者と呼ばれる人が多い。ある程度まとまった知識を覚えている者が覚者と呼ばれる。数は少ないが依り代と精霊も来る。精霊が還っている場合は依り代だけになる。覚者や依り代が出やすい家系は「憑き筋」と呼ばれる。


 依り代になるのは女性が多い。ツカハラ家やイクノブ家、オオエヤマ家は依り代が出やすい家系になる。その家の女性は巫女と呼ばれる。北の山脈から人々を守っている家は憑き筋が多い。巫女や精霊は霊気の扱いか剣術などに長けている者が多い。精霊になると知識も増えやすい。精霊になるとき外のデータを拾いやすくなるためだ。覚えていることは精霊ごとに違う。ムツミのように少ししか覚えていない者もいる。シノハのように精霊であることを忘れる者は今までいなかったそうだ。


 学園は覚者や巫女、精霊が覚えている知識を集めている。一人分では少ない情報でも、何人分も集まれば次第に役立つようになってくる。武術を覚えている精霊や覚者もいる。魔物からの脅威があるので、対抗する力は必要だ。学園で黒色火薬の再現はできている。普及させられるほどの量はない。今でも魔物相手に戦う人は剣や槍を使っている。あの変なヤツは火薬の普及は影響力が大きすぎると言っていた。人同士で使われることも懸念していた。


 強い兵器を使えない理由として、ここがリアルのリゾート用巨大宇宙ステーションの再現データでできていることもある。強すぎる兵器は宇宙ステーションを壊してしまう。リアルの宇宙ステーションは長期居住の実証実験も兼ねている。他の動物や植物も多い。外部からの補給がなくても、しばらくの間は生存可能になるよう設計されている。


 移動や運搬は主に河川を使う。元々は乗馬などの娯楽用であった馬も増やされている。馬を使った馬車で移動することもある。食料用の家畜も増えている。牛と荷車を使って荷物を運ぶこともある。海の幸や山の幸もリアルのものを模倣している。畜産も含め農業技術は早期に再現された。食料不足にはなりにくい。


 魔物の脅威があるので人同士の争いは少ない。人々の性格はおおむね温厚で、人同士は協力的になることの方が多い。北の山脈に近い家の者は魔物や魔獣に対しては厳しい。人々を守ろうとする意識が強いからだと思う。元が人や精霊であっても魔人に対しては厳しい。魔人を放っておくと人々が襲われてしまうからだ。


 ⋯⋯もともとは人、か。


 魔物や魔獣を倒すことはできる。魔人であっても同じようにできると思う。フタバの記憶を見たとき魔人のこともあった。会話もせず襲いかかってくるだけなら魔物や魔獣と同じかもしれない。



 □■□□


「これが馬車かしら」

「⋯⋯う」


「私も初めて見る形だわ。シノはどう?」

「⋯⋯うん、ミッちゃん。私も初めてかな」


「シノハちゃん、大丈夫かな?」


 フタバ様が心配されている。私は驚いてしまった。ムツミ様も同じだと思う。こんなに大きなものをヒトミ様はアッサリ作られた。しかも少し浮いている。


 ──シノ、どうしたの。気分が悪い?

 ──ううん、ミッちゃん。へいきだよ。


 ──全然大丈夫そうな感じがしないわよ。少し休む?

 ──ううん、少し休んでも、おんなじだと思う。


 ──ヒトミの法術って、そんなにすごいの?

 ──ミッちゃん、あれも法術なのかな。


 ──私にはそう見えたわ。シノは違うの?

 ──もう慣れたと思っていたかな。


『少し驚かせてしまいましたか、シノハ』

「私はぜんぜんへいきです、ヒトミさま」


『そ、そう。ごめんねシノハ。あまり目立たないよう気を付けたのですけど』

「はい、ヒトミさま。私たち以外は気が付いていないと思います」


 ヒトミ様はコテージや休憩所を隠すためまわりに木を生やされた。私とムツミ様もヒトミ様に教えていただけたので、少しは木を生やすことができるようになった。丁寧に霊気を集め時をかければ一本ずつなら木を生やすこともできる。生やした木をゆっくり成長させることもできるようになった。


 ヒトミ様は一度で百本ぐらいの木を生やされた。生やされた木をその場で成長させられた。一本ごとに枝葉の伸び方が違っておられた。ヒトミ様といえど同時に百本もの木を自在に育てることはできない。そう思っていた。伸びた枝葉は互いにからみ合いながら、目の細かいカゴのようになった。気が付くと休憩所やコテージがすっぽり覆われていた。霊気の様子で感じとると、中には落ち葉一つなかった。


 からみ合った枝葉が屋根の代わりになっていた。まわりからは木が繁っているようにしか見えない。隙間はツルや草でうまく隠されていた。キレイな空気もあるみたい。カゴの中は清浄に保たれいる。休憩所やコテージもチリ一つ付いていない。その時小さな葉が隙間からカゴの中へ入っていった。小さな葉が休憩所の机の上に落ちかける。小さな葉の霊気がほどかれた。


 ヒトミ様は何もなさっていない。いつものようにフタバ様と心でお話をされている。楽しげな雰囲気が伝わってくる。フタバ様が少し怒られたみたい。ヒトミ様が一生懸命フタバ様に心でお話をされている。今度は小さな虫が机に近付いていく。あの虫もほどかれるのかな。小さな虫が机の上に止まった。何も起きなかった。


 ヒトミ様はまだフタバ様とお話をされている。霊気も糸も飛ばしていない。今度は小さな小枝が風で飛ばされ来る。枝といってもどうにか見えるぐらいの細くて小さなものだ。小枝は小さな葉と同じようにぼどかれた。ヒトミ様とフタバ様のお話が一区切り付いたみたい。再び穏やかな雰囲気に戻る。


 カゴの中は生きて動いているものには何もしない。風で飛ばされて来るゴミになりそうなものだけをほどく。木を生やし始めたときヒトミ様は少し集中されていた。あのとき全ての準備をされたのだろう。百本の木を生やすどころではなかった。私とムツミ様が力を合わせて時をかければ、三本の木ぐらいまでなら成長させることはできると思う。でもこのようなものまでは無理だ。ヒトミ様は少し集中するだけでそれをなされた。


 オオエヤマ家の里はイクノブ家の里の近くだ。そのまま帰ってもいいかな。ううん、ダメ。まだ何もお返しできていない。ヒトミ様があぶなくなかったら助けるとミッちゃんと決めた。あぶなくなるのかな? もしヒトミ様があぶなくなったとして、私とミッちゃんの力でどうにかなるのかな? ミッちゃん、イクノブ家最強だと全然足りないよ。

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