第七話 気が済まない
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──開いたわ、シノ。
──うん。
私とミッちゃんは「重なって」いる。ミッちゃんの体術はすごい。私はミッちゃんに教えてもらえた受け方しかできない。夜の研究施設に入るにはミッちゃんのように体術が使える人の方が良い。ミッちゃんと相談して重なって入ることにした。体のほどき方やまとい方、依り代への入り方はヒトミ様が教えてくださった。
私はまだ慣れていない。ヒトミ様のように自在にはできない。コテージで重なってから研究施設へやってきた。二人で重なっているとき普段よりミッちゃんがやろうとしていることがわかる。ミッちゃんにも私のことがわかるみたい。嬉しい気持ちが増える。ミッちゃんが進もうとする方へ風を作った。
ミッちゃんは風を利用しいつもより速く走ったみたい。すぐに研究施設へ着けた。ミッちゃんは気配を読むことにも長けている。残って研究している人のことも遠くからわかるみたい。ミッちゃんが進みやすいように風で音を小さくした。これもヒトミ様が教えてくださった。おかげでスンナリ目的の部屋へ着けた。
──じゃあ、入るわよ。
──うん。
私たちは重なっているので心でお話ができる。第3段階になってからは普段もできるようになった。重なっているときの方が通じやすいみたい。ミッちゃんと心でお話できるのは嬉しいな。
──私も嬉しいけど、今は目の前のことに集中するわよ。
──うん。ごめん、ミッちゃん。
──私も嬉しいんだって。謝ることじゃないわ。
──うん。ありがとう、ミッちゃん。
──あの二人がいつも楽しそうにしている理由がわかった気がするわ。
──うん。私も少しわかったかも。
心が通じ合える人がそばにいてくれるだけでも嬉しい。その人と心でお話をできるのはもっと嬉しい。ヒトミ様とフタバ様もおんなじみたい。
──ああもう、私も同じだから。それは後で。少しあかりをくれる?
──うん、このくらい?
──それで十分よ。シノはやっぱりすごいわ。
──ミッちゃんの方がすごいと思うな。
──シノと話せることは私も嬉しいわよ。
──私もミッちゃんとお話できるのは嬉しい。
──でも今はやることがあるわ。
──うん。
──あの二人に速く話すコツでも聞いておくわ。
──うん、私も聞いておこうかな。
互いの嬉しい気持ちがわかってますます嬉しくなる。ミッちゃんもおんなじ気持ちみたい。でも今は集中しなきゃ。部屋の中は私が作った薄い青の光で少し周りが見える。外に光をもらさないように注意しながら、ミッちゃんの見ているところだけを明るくする。ミッちゃんは次から次へと資料を読んでいく。
ミッちゃんを通してなら私もわかる。私だけだとこんなに速く読めない。読んだ資料はもとへ戻す。もとの場所というだけじゃなく向きまで同じ。傾いていた資料は傾き方まで同じ。これを見て資料が読まれたことに気が付く人なんていないんじゃないかな。
──色々な種類の魔核を集めていたようだわ。
──うん。この部屋の中にもあるみたい。
あの魔人になってしまった人は魔核の研究をしていた。各地から集まってくる魔核の中でも珍しいものを中心に研究をしていた。この部屋の中にも小さな魔核をいくつかおいてある。
──シノ、あれって?
──うん、ヒトミ様がされていたのとおんなじみたい。
部屋の中には霊気のない石や土を使った小さなかたまりが置いてあった。ヒトミ様があの禍々しい魔核を封じ込めたやり方に似ている。霊気は強い瘴気に侵されてしまう。霊気のない石や土なら瘴気の影響を受けない。あの禍々しい魔核を封じるとき、ヒトミ様は土を焼き固めたものを使っておられた。
──持ち帰る必要がありそうだわ。シノ、外が似ているものは作れそう?
──うん、やってみる。
霊気がないものを動かすのは難しい。以前の私ならできなっか。ヒトミ様に色々なデータをいただけた。それを作る鍛練を行った。少しなら霊気のないものも動かせるようになった。私は床の下にある霊気を使って、土や小石を動かす。この霊気は土の中でよく見かける。生き物の体を作っている霊気とは違う。目の前のかたまりと似ている土や小石を集める。床の霊気をほどいて小さなすき間を空ける。すき間を通して土や小石を近くに運ぶ。土の中の霊気と生き物の霊気を使って見た目を似せていく。
──上出来よ、シノ。これを置いておくわ。
──少し違うけど大丈夫かな?
──ここまで似ていれば誰も気付かないわ。
──うん、ミッちゃんがそう言うのなら。
ミッちゃんは私が作ったものと元から置いてあったものを交換した。研究室にあったものは布でくるんでしまいこむ。布や紙の霊気は瘴気に侵されにくい。私が床の霊気をもどしている間に、ミッちゃんは近くの資料を読んでいく。
──オオエヤマ家の近くの里で見付けたそうだわ。土でくるむやり方は昔オオエヤマ家から伝わったそうよ。
──あの魔核と関係があるのかな?
──二つ運ばれてきたそうよ。大きい方の土を取り去って、あの部屋へ入れるつもりだと書いてあるわ。
──つもりだったんだ⋯⋯
──シノ、私たちが気にすることじゃないわ。
──うん⋯⋯
ミッちゃんが少し強く伝えてくれる。私のことを心配してくれているみたい。あの魔人になってしまった人のことは、私たちじゃどうすることもできなかった。私たちが気にしても仕方ないのかな。でもいつも暖かでお優しいヒトミ様なら気にされると思う。ヒトミ様は周りの人のことを放っておけないみたい。私とミッちゃんも助けていただけた。世界の「声」さえ遮られた。ヒトミ様のおかげで私とミッちゃんは今も一緒にいられる。
イノカ様とムツミ様のことも放っておけないみたい。イノカ様のためとても大変な作業をアッという間に済まされた。ムツミ様がお話されるたびに菓子を渡される。フタバ様も昔ヒトミ様に助けられたことがあると言っておられた。稽古や鍛練もみんなのためを思って始められたみたい。そんなお優しい方が気にしないでいられるのかな。
──シノ、ヒトミは私たちよりずっと強いわ。
──うん。
──でもあの優しさは隙になるかもしれないわ。
──うん⋯⋯
──そのときは、私たちがヒトミを助けるのよ。そのくらいしないと気が済まないわ。シノもそうでしょ?
──うん、私もおんなじ気持ちだよ。
──そのときのためにも、私は体術をみがくわ。シノは法術をみがきなさい。
──うん、わかった。ミッちゃん、二人でイクノブ家最強ぐらいになっておけばいいかな?
──シノは元々最強よ。私は、いえ、私ももっと上を目指すわ。
──うん。二人一緒なら大丈夫だと思う。
私たちは新たな決意をかためた。
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──ふふ、ヒトミ。このくらいしないと気が済まないの。良いかな?
──ど、どのくらいカシラ?
コテージでライブ・ホタルの構想を色々と考えていると、フタバさんに部屋へ連れ込まれた。いや、元々二人の部屋だからそれは構わない。
カチャン。二人で部屋へ入ると、フタバさんが後ろ手で鍵をかける。念のため付けていたドアロックまでしっかり閉める。安全第一ですワ。これで安心でしてヨ。フタバさんが近付いてくる。思わず一歩下がってしまった。フタバさんが二歩近付いてくる。もう一歩下がろうとした。体が動かない。剣気で「起こり」を抑えられている。
──ふふ、安心してくれて良いかな。
──え、ええ。も、もちろん安心安全ですワ!
流れるような自然な動作で、フタバさんは私の袖を引き足を払った。倒れそうになる私の体を支え、そっと下におろしてくれる。さすがはツカハラ家当主の娘だ。いつの間にか体術も一流の域に達している。足を払われたときもほとんど衝撃を感じなかった。痛みもなかった。剣術の稽古が中心だったのに、いつの間に身に付けたのだろう。
──ふふ、別のこともできると思うかな。
──な、何のコトでしょうか。
──ヒトミがいつも考えていることかな。
──な、何も考えていませんワ!
──今夜は私がヒトミにするね、良いかな?
──ナ、ナニをしてくださるのカシラ?
体は思うように動かせないままだ。フタバさんの手が優しく触れてくる。一切抵抗できない。いや、したくないのか。
──私もしてもらいたくなっちゃった。後でしてくれるかな。
──も、もちろん、ですワ!
私たちはお互いに、健全な耳そうじを行った。




