第四話 ライブ・ホタル
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今夜フタバさんと「お泊まり」! 普段も同じ部屋だけど、ちょっと違う雰囲気ですワ。コテージではなく別の名前にしようかな。昔あった名前で良いかな。確か「愛」と「宿泊所」が、どこかの言葉で使われていたと思う。「生きる」と「光る昆虫」だったかも。「ライブ・ホタル」だったと思いますワ。
データで見ただけだけど電飾でキラキラしていた。ホタルを名のるだけのことはあった。お城風のものまであった。中の設備も知らないものが多かった。動くベッドまであったかな。帰ったら早速改築しよう。フタバさんとは健全な耳そうじをしますワ。でも、その場の流れとかがありますワ。ラン、ララン。
──ふふ、ヒトミ。それはあとでね。
──ええ、もちろん暗くなってからですワ。
──じゃあ、今はちゃんと調べようね。
──何をですか。
──魔人のことだよ、ヒトミ。
──マシン? 電気でプルプル動くものもありましたワ!
──もうっ、魔人だよ魔人。
──えっ? え、ええ。も、もちろんですよ。忘れてはいませんよ。ほ、本当ですよ。オホホ。
──ミツエ様とシノハちゃんもがんばっているのだから、私たちも真剣に調べようね。
──えーと、⋯⋯はい。
そうだった。ミツエやシノハが怖い思いをした場所までワザワザ行ってくれている。自分の方が詳しいからとミツエが自ら買って出てくれた。イノカも見たくないであろう資料をワザワザ読んでくれている。何か気になることがあるようだ。私だけが浮かれていて良いはずがない。
──ごめんフタバ、真剣にやるよ。
──ううん。楽しみなのは私も同じだよ。だから早く終わらせようね。
フタバさんも楽しみにしてくれていた。私も本気を出す。早く終わらせるんだ。私はデバッグ・モードに入る。資料を構成しているのは有機ナノマシーンだ。インクも植物性のものが多く使われている。できるかもしれない。いや、できるかどうかじゃない。フタバさんとヤるんだ。もちろん健全な耳そうじをヤるのですワ。
私は資料のデータを読み込んでいく。有機ナノマシーンは生き物を構成するときは活発に活動する。紙や布になると活動が休止する。休止したものは侵食されにくい。普通の魔核なら布で包むことで侵食されにくくなる。通常のVRデータでできている石などは侵食されない。資料を作っている有機ナノマシーンのデータを読み込んだ。紙の部分とインクの部分を区別して電脳体のメモリに書き込んでいく。
正面から見ているように処理する。処理が終わったものはテキストデータに変更する。絵が描かれている部分は画像データにする。正面に並べたものも画像データとして圧縮して残す。一冊分読みこめた。あとの作業はモジュール化しRPA化して次々に読み込んでいく。RPAというのは、ロボティック・プロセス・オートメーションの略だそうだ。決まった作業をプログラムにし、そのプログラムやドローンに繰り返し作業させるのに向いている。
テキストデータに直せない文字がところどころあった。ナノマシーンではなく鉱物のVRデータを使ってインクにしているものだ。ナノマシーンより位置がわかりにくい。疑似細胞と同じ大きさの中空の球体を作る。球体の一部に小さな穴を空ける。穴の反対側の内側に光電素子を並べる。データの送受信機能も付ける。これでピンホールカメラができた。
光源として球体の外側に小さな発光ダイオードをいくつか並べる。カメラはドローンに運んでもらう。細胞と同じ大きさなので紙と紙の間に入れる。テキストにできなかった部分を読み取る。テキストデータが埋まってくる。カメラとドローンを大量に作る。こちらもRPA化をしておく。ドローンも動かしているので薄い緑をおびた光に包まれる。
書架の資料はすべて読み取れた。念のため図書館の地下や奥にもドローンを飛ばし新しい資料も読み込んでいく。光はなるべく抑える。ついでに図書館にある他の資料もすべて読み取っておく。ナノマシーンで作った風を飛ばし、学舎や他の寮、研究施設の資料も読み取る。
研究施設は普通の魔核も扱っている。そこから出る瘴気で小さなドローンは動かなくなった。一部の部屋の資料は読み取れなかった。集めたテキストデータの中にある魔人の情報を、時系列も加えマッピングしていく。他の魔人の情報もまとめておく。例の魔人の足跡はほぼつかめた。一通りの処理が終わったのでデバッグ・モードを解除する。
──フタバさん読み終えましたワ。
──えっ、もう終わったの?
作業が多かったので、私だけで加速した。
──研究施設の一部は読み取れませんでしたが。
──研究施設? 今いるのは図書館だよ。
──図書館の分は全部終わりましたワ。
──すごいよ、ヒトミ!
──それほどでもありましてヨ。
──他はどこまで調べたのかな。
──この学園にある資料はだいたい読みましたワ。
──この学園? 他の寮の分もなの?
──もちろん読みまし、た。テ、テキストデータだけですわヨ!
──ふーん、そうなんだ?
──フタバさん以外は見ていませんワ!
──本当かなあ。
──ほ、本当ですワ、私はフタバさん一筋ですワ!
──ふふ、ありがとヒトミ。じゃあ行こっか?
私たちはコテージに戻ることになった。
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私とムツミでオオエヤマ家から持ってきた資料をもう一度調べることにした。ムツミは私が読みやすいよう資料を並べるのを手伝ってくれた。私たちの里はアイツに滅ぼされてしまった。持ち出せた資料はごく一部しかないわ。今までも何度か読んだかしら。ヒトミ様に魔核を見せていただいた。今まで見たことのない禍々しい瘴気を放っていたわ。瘴気の色はオオエヤマ家の者が霊気を使うときに出る光と似ていたかしら。
アイツとの関係はなさそうだった。でも魔核はオオエヤマ家の昔の風習に、関係があるかもしれない。それでもう一度読んでみることにしたわ。アイツがどのくらい前の先祖かわからない。もしかしたら、昔の風習が残っていた時代かもしれない。今のアイツの手掛かりにはならないわ。だから気にもとめていなかったのかしら。
昔のオオエヤマ家へ何世代かに一度、魔人がやってきていた。その魔人も元はオオエヤマ家の者だった。とても禍々しかったと文献には書かれていたわ。その魔人が里に来るだけで、里の者が次々と瘴気に侵されるほどだったそうよ。オオエヤマ家が滅ぶのは魔人にとっても都合が悪かった。魔人は時とともに変化する。多くの魔核や瘴気を取り込んだ魔人は更に強くなると聞いたかしら。
強くなるほど形も変わってくるらしい。最後は魔核と瘴気だけになるものもいるとのことだった。魔人が魔核と瘴気になってしまわないためには、人か精霊の霊気を取り込む必要がある。血筋が近いほど効果がある。オオエヤマ家の直系を求められたと書かれているわ。その魔人は里に近付かない代わりに、数世代ごとに巫女か精霊を寄越すように里の者に伝えた。当時は二十歩以上離れたら瘴気に侵されなかったと書いているかしら。
魔人はますます強くなった。やがて百歩以上離れても瘴気に侵される者が出てきた。その頃から魔人は魔獣を使いだした。近くの動物を強い魔獣に変えて里に向かわせたと書かれている。普段よりずっと強い魔獣が出ると、里の者は巫女か精霊を差し出したわ。巫女か精霊を差し出すと強い魔獣もいなくなった。霊気が目当ての魔人にとっても強い魔獣が邪魔だったのでしょうね。
ときおり魔獣の魔核が残されていた。とても禍々しく直接触れることもできなかった。瘴気に侵されない石や土で覆って都へ運ばれたと書いてあるわ。昔の風習よ。何世代も魔人は来なかった。もし来ていたら私かムツミが差し出されたかもしれない。私たちはオオエヤマ家の直系ですもの。オオエヤマ家の者が放つ霊気と似た瘴気が見付かったわ。もしかしたら魔人は生きていて強い魔獣を里に向かわせたのかしら。
里にはもう誰もいない。それに気付いた魔人が強い魔獣を片付けたのかしら。これ以上魔核を取り込むと、形を保てなくなるほど、多くの魔核を取り込んだのかもしれない。魔人が欲しがるのは私かムツミの霊気だわ。私とムツミのことは伏せて、強い魔人がいる可能性だけでも伝えた方が良いのかしら。




