第三話 手がかりを求めて
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みんなで手分けして情報を集めることになった。長引いても大丈夫なように、寮にも連絡しておく。鍛練や研究のため、たまにしか寮に帰らない人もいる。研究を続ける人は、いずれ職員用の寮に移っていくらしい。稽古は引き続き行うつもりだ。魔人があれほど禍々しくなっていれば、かなり強くなっていると思う。あの禍々しい魔獣はかなり強かった。同じぐらい強い相手でも勝てるようにしておきたい。
ミツエとシノハは研究施設へ行った。先ずは普通に聞いてみるそうだ。ミツエは下調べも行うとのこと。怖い思いをしたのに、自分が一番詳しいからと言って、ミツエ自らが買って出てくれた。イノカとムツミは家から持ってきた資料をもう一度調べると言っていた。何か気になることがあるようだ。私とフタバは図書館にいる。
──うわ、いっぱいあるよ。ヒトミ。
──調べる範囲を絞ろうか。
──うん、どの辺りにしようか。
──北の山脈近辺からでどうかな。
この学園には様々な場所から知識が集まってくる。手がかりが見付かるかもしれない。学園がお休みでも図書館や研究施設は開いている。鍛練場と食堂も開いている。他の在籍者は都の中心街に行ったりする。鍛練場で鍛練したり寮でのんびりする人もいる。図書館で調べものをする人もいる。武術が苦手な覚者は平日の午後から図書館に行く。研究施設へも行き知識の補完を手伝う。逆に武術だけが得意な覚者は午前中から鍛練場に行く。
今日はお休みのため、図書館にいる人は少ない。図書館の一階は受付がある。現在復元中の知識に関する資料もこの階に並べられている。二階は各地の情報が多い。魔物や魔獣の情報もまとめられている。三階は現在の技術力では復元できない知識がまとめられている。今のところ意味が理解されていない知識も三階にある。私とフタバは北の山脈近辺の情報が集められているところへ向かう。
この世界は紙の復元が早かった。あの変なヤツが早めに伝えたのだろう。活版印刷の再現は学園でできている。普及しているものは版画が多い。各家の情報は手書きで写される。珍しい魔物の情報も手書きになる。よく出てくる魔物や魔獣は版画で伝えられる。農業や冶金に関する知識も版画だ。使われている言葉は私の母国と同じものだ。学園に来られないほど遠くでは言葉が違うらしい。
──この辺りかな。
──ヒトミ、あれかも。
──うん、この辺りで良さそう。
──ツカハラ家のものがいっぱいだよ。
魔物や魔獣の情報はツカハラ家から伝えられたものが多かった。北の山脈はいくつかの山脈が連なっている。そのすべてを越えて魔物がやって来ることは少ない。峠があり魔物がやって来やすい場所がある。ツカハラ家はそのすぐ近くにある。魔物や魔獣から人々を守るためだ。ツカハラ家の人々は魔物や魔獣と一番多く戦っている。
そこで得られる情報も多い。代々のツカハラ家からの情報だけで、書架の一つが埋まってしまうほどだ。書架にあるのは写本になる。他の情報も、集まったものは図書館の奥や地下に原本が保存されている。少しずつ書き写し情報が途絶えなようにしている。余った写本は書架に並べられ一般に公開されている。よく利用される情報は元版が作られ、版画が各地方にも配布される。一階は版画で印刷されたものが多かった。
──フタバ、ヨシヒデさんのものがあるよ。
──父上の?
──ヨシノリさんのものまである。
──兄上の分まで?
フタバの父親でツカハラ家当主ヨシヒデさんが書いたものがあった。フタバの兄のヨシノリさんが書いたものまである。
──ヨシノリさんの資料は見やすいね。
──兄上は優秀だから。
ヨシノリさんにまとめてもらった資料を読んだことがある。家や時代ごとにまとめられていて読みやすかった。一晩でまとめたものだった。
──フタバもそうだよ。色々な準備を手伝ってくれたよ。
──兄上ならもっと早くできたと思う。
──フタバが側にいてくれたから私もがんばれたんだ。
──ふふ、ありがとヒトミ。
──それにフタバの方が可愛いですワ!
──もう、ヒトミったら。
それぞれの資料は送ってくれた人の名前が書かれている。写本にするとき名前まで書き写すようだ。
──新しいので二年前みたいだ。
──私たちが持ってきた分はまだないね。
学園に来るとき新しい資料も持ってきた。あの禍々しい野獣の情報も書いてある。ここにあるのは余った写本だ。二年前なら早い方だと思う。
──もっと最近の分はあとで頼もうか。
──うーん、ここにある分を先に調べよう、ヒトミ。
──ここは私が調べるから、フタバは別のところを調べてくれないかな。
──ううん、大丈夫。ありがとヒトミ。
ここにはフタバとツグミさんが戦った魔人の情報もある。フタバを遠ざけようとしたことがわかってしまったようだ。
──強くなったね、フタバ。
──ヒトミのおかげだよ。でもあとで優しくして欲しいかな。
──当然ですワ、何度でもしますワ!
──うん。じゃあ、あとでお願いね。
──一晩中でも優しくしますワ。
──うれしいけど、痛くならないかな。
──上手にするから大丈夫ですワ。
──じゃあ、コテージの新しい部屋でも良いかな? 一度泊まってみたかったの。
──もちろんですワ、フタバさん!
──ちょっと、ドキドキしてきちゃったかも。
──それで構いませんワヨ!
──もうっ、ヒトミったら。うふふ。
私たちは健全な耳そうじをする約束をした。魔人? それより今は気にすべきことがある。
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私とミッちゃんは研究施設の人に話を聞いてみた。まだこの場所は少し怖い。ヒトミ様に霊気を強くしていただけた。ミッちゃんと一緒なら大丈夫かな。ヒトミ様たちも図書館で一生懸命探しておられると思う。
──シノ、平気?
──うん。ミッちゃんと一緒なら大丈夫みたい。
私とミッちゃんが第3段階に入ってから、心で話すのがずっと簡単になった。少し強く思うだけで通じる。
──シノの気分が悪くなったら、すぐに帰るわよ。
──ううん。ヒトミさまたちもがんばっていると思う。私もがんばる。
──そうね。あの二人なら今頃真剣に探してそうだわ。
──うん。
何人かの職員の方たちに聞いてみた。あの魔核がどこからきたのかは知らないと言われた。魔人になってしまった人が知っていたみたい。魔核の瘴気が強すぎて、部屋を厳重に隔離するしかなかった。いつの間にか浄化されていて驚いたと言っていた。イクノブ家の近くにも魔核を浄化する場所がある。ここにも似ている場所がある。私たちが魔核のことを聞いても、イクノブ家が関心を持っていると思ってくれたみたい。
──あの魔人になった人の研究室の場所を聞いてみるわ。
──うん。
ミッちゃんはあとで忍び込むつもりみたい。ミッちゃんは体術がすごい。それを使って何度かここに忍び込んでいる。私に手伝えることはないのかな。
──シノのおかげで職員の人が簡単に話してくれたわ。ありがとうシノ。
──ううん。ありがとう、ミッちゃん。
私の心が伝わってしまった。ミッちゃんが慰めてくれる。
──本当よ。私だけなら怪しまれていたわよ。前はそうだったわ。
──うん。
こんな簡単にミッちゃんと心が通じるのがすごく嬉しい。ヒトミ様とフタバ様もいつもこんな感じなのかな。
──あの二人はもっと通じあっていそうだわ。
──私たちも、おんなじようになれるかな。
──これからも二人一緒なら、きっとなれるわよ。
──うん。ミッちゃんとずっと一緒にいたいな。
魔人になってしまった人の研究室の場所を聞いた。怪しまれなかったみたい。鍵がかかったままで今は入れない。
──このくらいなら開けられるわ。今夜にでも来てみる。シノは部屋で待っていなさい。
──ううん。私もミッちゃんに付いていきたい。ダメかな。
──うーん、今は強い気配もないし、まあいいわ。そのかわり危なくなったら必ず逃げなさい。
──そのときはミッちゃんも一緒に逃げて欲しい。
──ああもう、わかったわよ。心が通じやすいのも問題ね。シノの気持ちがよくわかって断りにくいわ。
──私はすごく嬉しいよ、ミッちゃん。
私たちは一緒にいる約束を交わした。




