第ニ話 コテージ
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私はシノハとムツミに手伝ってもらい、ロッジの改築を始めた。他の人に欠片やホコリがかからないようにする。
「これはいつもの風かしら」
「うん」
「そうね。でも普段より大きいわね」
「ヒトミさまの暖かで優しい風です」
「ありがとヒトミ」
練習のとき怪我をしないようにまとってもらう風だ。風はナノマシーンを繋いで作った多数の糸でできている。ロッジのナノマシーンを分解する。他の人がいるところは残す。シノハが広めのリビングを作り始める。ムツミはテラスだ。ロッジは小さなものだった。入ってすぐのところに六人分のソファーベッドとテーブルを置いていた。奥にロフトを作り、左側にはバスとトイレ、右側にはキッチンがあった。ロフトとバスとトイレの上に低くめのベッドも設置していた。
外の東屋をほどいて、入り口の手前にウッド・デッキを作る。休憩所はフタバが気に入っているのでそのままにしておく。ウッド・デッキを上がると入り口になる。玄関は広めに作る。入ってすぐ左に化粧室を作っておく。右は小部屋にする。物置にもできるだろう。玄関からリビングまでは広めの廊下にしておく。
突き当たりをそのまま入るとリビングになる。突き当たりの右に階段を作る。左側は大きめのお風呂にする。二階に廊下と大きめの二人部屋を三つ作っておく。部屋の防音機能を念入りにセットする。出窓とベランダも作っておく。水場も各部屋に作る。トイレとシャワーもつける。二階を作る前に柱や屋根は作っておいた。
一階に取りかかる。リビングの右側にキッチンを作る。システムキッチンのようにする。食事用のテーブルと椅子はリビング側だ。キッチンには床下収納庫以外、奥に小部屋を作る。食料の保存もできるように棚も多めに作っておいた。キッチンのコンロは熱電素子を並べておく。冷蔵庫と電子レンジは自粛した。
食器棚も作り木の食器類を入れておく。水は前と同じように近くの小川から引いておく。フィルターと熱電素子も忘れない。動力源は屋根の上に並べた光電素子でたくわえる。排水はフィルタでろ過してから小川に戻す。たまったゴミはナノマシーンで分解して周りの木の肥料になるようにしておく。
リビングや他の部屋の掃除もナノマシーンに任せる。お風呂は念入りに作る。寮のものより大きくしておく。露天部分も作る。周りは木の板で目隠しをしておく。植木などもセットしておいた。
シノハとムツミがリビングとテラスを完成させた。テラスの奥に庭を作る。垣根代わりに木を植え、外からは見つかりにくいようにしておく。すでにシャーレなどは見せている。窓はすべて透明な強化プラスチックで作っておいた。建物も含めて燃えにくいようにしている。空調も熱電素子で行う。換気もナノマシーンで行えるようにしておく。家具や敷物も仕上げる。ベッドは念入りに作った。リビングのソファーも広めのものに変える。
──うわあ、すごいよ、ヒトミ!
──コテージというものになるかな。
──窓はあれで良かったのかな。
──うん。四人になら見せても良いと思う。
──厨房も素敵。
──システムキッチンって言うんだ。二階に部屋も作っておいたよ。
──えっ、上もあるの?
──防音機能は念入りにセットしましたワ!
──もうっ、ヒトミったら。
──お風呂場もありましてヨ!
──他の人のことは見ちゃダメだよ。
──も、もちろん、ですワ。
「素敵すぎるかしら」
「そうね、シノも手伝ったの?」
「私とムツミ様は少しだけです、ミッちゃん」
「うん」
「部屋やお風呂場も作っておきました」
「部屋まで作っていただけたのかしら」
「お風呂場まであるのだったら寮に戻らなくても良さそうねえ」
「お台所も素敵です、ヒトミさま」
「あ、りがと」
ムツミがしゃべってくれた。すぐにお菓子を用意しよう。食事用のテーブルもあるのでパフェにしようか。私はナノマシーンと疑似細胞を使ってイチゴパフェを作った。他の人の分も忘れない。再現データもシノハとムツミに渡しておいた。
「キレイな菓子かしら」
「入れ物も透き通っているわね」
「作り方も教わりました。ありがとございます、ヒトミさま」
「あり、がと、ヒトミ」
「お礼を言い忘れていたかしら。ありがとございます、ヒトミ様」
「そうね、いつもありがとうヒトミ」
「ヒトミ、ありがと」
──うわあ、キレイ。
──パフェて言うんだ。
──食べるのがもったいないぐらいかな。
──フタバが欲しいのなら、いつでも作るよ。
──ふふ、ありがとヒトミ。
──フタバさんのためなら頑張りますワ!
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「イノカ様とムツミ様に見ていただきたいものがあります」
パフェを食べ終えたので、各部屋の案内と設備の使い方を説明した。研究施設で得たハイブリッドのデータを使ってそれぞれの武器を神刀にしておいた。木刀や暗器は念のため霊刀にしてある。服の表面も霊刀化しておく。許可を得てからイノカとムツミの体表もハイブリッドでコーティングしておいた。シノハに使ったものと同じプログラムも入れておく。
ムツミはまだ小さいので精霊としての自覚もあまりない。今後どうなるかは分からないが。研究施設にあった魔核をイノカとムツミに見せている。直接触らないように陶器の一部を透明にしている。
「オオエヤマ家の霊気と似ている光り方かしら」
「う、うん」
「学園の研究施設の奥にありました」
「ここは各地の情報や珍しいものが集まってくるわ。でもそんな強い魔核まで集まるとは思っていなかったかしら」
「うん」
「イノカ様が追っている魔人と関係がありそうでしょうか」
「私が見たときはこれほど禍々しくはなかったかしら」
「私が遠目に見たときもこれほどではなかったと思います」
「私とツグミ様が戦った相手もそうだったよ、ヒトミ」
シノハとフタバも以前のことを話してくれる。例の魔人はそれほど強い瘴気は出していなかったようだ。ただ魔人は時間が経つと変化していくらしい。
「時が経って、より禍々しくなる可能性はないでしょうか」
「そうね。私が読み漁った文献の中に、そのような記述があったと思うわ」
「可能性としてはあるかしら」
「それなら、その魔人はもう倒されたのでしょうか」
「うーん、そう簡単に倒せる相手でなかったと思うよ、シノハちゃん」
この中で一番文献に詳しいミツエも意見を言ってくれる。ツグミさんでも追い払うことしかできなかった。魔人はまだ生きている可能性があると思う。
「この魔核がどのような経緯で、学園に来たのかが分かれば、手がかりになるかもしれません」
「文献を調べ始めた頃から、イクノブ家で諜報の鍛練もしたわ。私が一番詳しそうだし、研究施設を調べてみるわ」
「私は職員の方達にお聞きします」
「えっ、でもあなたたちの問題はもう解決したのでしょ?」
「うん」
「私も手伝うわよ。あの程度では私たちの気が済まないしね。シノもそれでいい?」
「はい。私とミッちゃんで、少しでもお返ししたいと思います」
「⋯⋯そうなのね。ありがとう。ミツエ様、シノハ」
「うん」
ミツエとシノハも手伝ってくれるらしい。みんなで手分けすれば情報も集めやすくなる。ミツエとシノハの体はハイブリッドに置き換わっている。侵食されにくい。
「私とヒトミは最初からそのお約束です。イノカ様」
「ええ、もちろん最後までお付き合いしますよ」
「⋯⋯これがヒトミ様が言われる新しい世界なのかしら。みんなありがとう」
「あり、がと」
新しいイノカさんが涙ぐんでいる。例の魔人はさっさと倒そう。みんなで新しい世界へ行くんだ。私は改めて決意をかためる。フタバさんから剣気がバシバシ飛んでくる。新しい世界の前に新しい扉が開きそうですワ!




