第一話 承前、そして
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ここから三章となります。時系列ではニ章直後からです。オオエヤマ家の魔人の話につながります。よろしければ、お付き合いください。
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「ヒトミは、シノを救ってくれたわ。本当にありがとう」
「ヒトミさまは、ミッちゃんを助けてくれました。ありがとうございます」
研究施設の奥にあった魔核の侵食から、かろうじて二人を助けることができた。少し手間取ったけど、シノハはミツエから離れ体をまとっている。
「これは私のわがままのようなものです。お二人が無事なら、それで十分です」
「でもこのままじゃ、私たちの気が済まないわよ」
「ヒトミさま、私たちに何かできることはありませんか」
えっ、いいの、本当に? フフ、フフン。あれにしようかな、あっちもやりたいな。
──ふふ、ヒトミ?
──あら、フタバさんもご一緒しますか。
──何が一緒なのかな?
──もちろん、四人で一緒に⋯⋯、お、お話でもしたいですワ。オホホ。
──今は大変そうだから、落ち着いたらね。
──え、ええ。と、当然ですワ。
「で、では、一つお願いがございます」
「いいわよ、何でもするわ」
「私もです、ヒトミさま」
な、何でも、だと!
「こ、これからこのようなことがあった場合、私の行いを許してくださいませんか」
「えっ、それじゃ、お礼にならないじゃない」
「そうです、ヒトミさま。もっとご自分の望みをおっしゃってください」
「私にとってはそれが最も嬉しいことなのです。私の知っている言葉で『合意』と申します」
「ヒトミにとってそれが大事なら、私はいくらでも合意するわ」
「以前にも言ったと思いますが、私もヒトミさまのされることはすべて合意いたします」
ああ、生きているって素晴らしい! ララン、ララン。
──ヒトミ、後でジックリお話をしようね。
──え、ええ。も、もちろんですワ、オホホ。
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四人で話し合って、しばらくは今まで通りにすることにした。イノカとムツミには伝えるそうだ。学園やイクノブ家には二人で相談してどうするか決めるとのことだった。
私が以前抱いた違和感の正体が分かった。ミツエとシノハはどちらが巫女でどちらが精霊かが分からなかったと、シノハが言っていた。初めて学園で出会ったとき、ミツエは自分が精霊だと言っていた。ミツエが精霊だと判明した出来事を聞いていなかった。
ミツエはシノハを守るため、精霊だと演じ続けていたのだろう。ミツエとシノハの体は、バグのない新しいバージョンのハイブリッド・ナノマシーンのデータで上書きされた。世界の「声」を遮断するプログラムも組み込んだ。ミツエが巫女でも精霊のつとめを果たせると言っていた。もしミツエがシノハの代わりに還りそうになっても、これで大丈夫だと思う。
世界には少し待っていてもらおう。何かあれば教授かツグミさんが知らせてくれると思う。そのときは私も協力する。新しいバージョンのデータも手に入った。侵食に対する耐性が強い。私とフタバの体の表面はハイブリッドでコーティングしておいた。念のため声を遮断するプログラムを、そこに書き込んでいる。
イノカとムツミにも同じことをしておくつもりだ。ミツエとシノハはどちらも世界へ還ることのないように、全身をハイブリッドで上書きしている。他の四人も必要になればそうする。ミツエの魔核はすべてなくなった。シノハの霊気は安定していなかった。ミツエから魔核と霊珠のデータが同時に伝わっていたからだと思う。今は二人とも安定している。
──ヒトミ?
──うん。
気になっていることがフタバに伝わってしまったようだ。奥の扉から霊気や瘴気がもれて来ないように風で抑えている。シノハとムツミにも渡したプログラムの風ではなく、侵食されないVRデータの空気を動かして作った風だ。部屋の奥の霊気と瘴気はどちらも薄い赤に光っていた。オオエヤマ家の霊気の色に似ている。
部屋には入らず、扉から奥を「見る」
どちらもハイブリッドで新しいバージョンだ。元は同じものなのだろうか。バグが有るか無いかの違いはある。それ以外は、ほとんど同じだった。奥の部屋には大きな魔核がある。魔核からは瘴気が放出され続けている。それが浄化されている。浄化されているのは「場」の力だろう。浄化されていない瘴気が付近の生き物を浸食し、強い魔獣になったのだと思う。研究施設の服を着た魔人まで出てきた。実験中の事故か何かで、その人も浸食されてしまったのだろう。
⋯⋯もともとは人、か。
北の山脈沿いの各家の者は、魔物や魔獣から民を守るよう教えられて育つらしい。人々を守ろうとする気持ちが強いのだと思う。各家の者がいなければ多くの人々が襲われる。浸食されてしまうこともある。魔人は他の魔物と同じように人々を襲う。人や精霊であったときの力を使うこともある。会話はできない。人々にとっては魔物と同じ扱いだ。
ともかく瘴気や魔核を浄化しておこう。新しいバージョンの霊気を集めて、ドローンを小さな神刀にする。それを使って風を作る。瘴気はすぐに浄化された。神刀を大きくし、魔核に当てていく。魔核は表面から削られ霊珠に変わっていく。やがて瘴気も魔核もなくなる。少しだけ残し、厳重に陶器に密閉しておいく。陶器は浸食されない通常のVRデータで作った。ふたもない。必要であれば隙間をあけて少し取り出せば良い。魔獣や魔人の魔核も同様にする。
これで他の人が浸食されることもなくなっただろう。私たちは帰途につく。
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「それは、さぞかし大変だったかしら」
「うーん」
ここは休憩所の近くにあるロッジのような建物。今日は学園がお休みなので、六人で来ている。ミツエとシノハが、イノカとムツミに数日前のことを話していた。あの後ミツエとシノハは寮の部屋でゆっくり過ごした。あれだけのことがあったので休養も必要だ。今後のことも相談したかったようだ。フタバの中に入って、イノカとの練習は続けた。シノハがいなかったのでムツミとの練習はアバターで行った。
「ヒトミには助けられたわ、本当にありがとう」
「ヒトミさま、ありがとうございました」
ミツエとシノハの話し方はほとんど変わっていない。シノハがミツエを呼ぶとき、昔の呼び方に戻した程度だ。私たちの方も今まで通りということになった。ミツエとシノハが自分達のことを学園やイクノブ家に伝えれば変わるかもしれない。イクノブ家はともかく学園には報告しないようだ。研究施設での出来事を知っているのはここにいる六人だけだ。魔獣や魔人は研究施設の「場」がいつの間にか浄化していたと思われているらしい。
「たいしたことはしておりませんので」
「私もお二人が無事なら、それが一番嬉しいです」
「ヒトミ、本当に合意だけでいいの?」
「私もヒトミさまのなさることにはすべて合意します。それ以外もいつでもおっしゃってください」
「先日も述べた通り、私にとってそれが一番嬉しいのです」
「ヒトミは本当に喜んでいますよ」
「あら、私もヒトミ様にはお世話になりっぱなしかしら。私とムツミも合意しておくわ」
「うん!」
イノカとムツミもだと! ああ、なんて素晴らしい日なんだ。これでまた一歩近付けた。フフ、フフン。ララン、ララン。
──ふふ、ヒトミ?
──え、ええ。も、もちろん一緒にお話しでもしたかったのですワ!
──すごーく、嬉しいそうだね。
──え、ええ。とても嬉しいカシラ。
──お話だけだよね?
──えっ。
──もうっ、何で意外そうなのかな。
──き、きっと、気のせいですワ。オホホ。
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「もう少し部屋を大きくしましょうか」
このロッジは少し休憩するために作ったものだ。一日中いるとなると手狭かもしれない。
「私はこのままでも構わないわよ」
「私もそうかしら」
「ヒトミさま、お手伝いします」
「うん」
シノハとムツミとは法術の練習をしていた。二人とも体の外の霊気を直接動かせる。再現データも何度か渡した。
『では、お願いできますか』
「はい、ヒトミさま」
「うん、うん」
二人は道を繋いでデータを受け取る準備をしてくれる。
「シノと心で話しているわ」
「目の前で見ると驚くかしら」
「ミツエ様、イノカ様。ヒトミは憑いているわけではありません。『通信』というものを行っているそうです」
「そうね。シノからはそんな感じが伝わってくるわ」
「ムツミとは通信できないのかしら」
「霊気の相性があるみたいです、イノカ様」
「私が憑けるのはフタバだけです。私は『フタバの精霊』ですので」
──もう、ヒトミったら。
──私はフタバさん一筋ですワ。
──ふふ、うれしいよ。ヒトミ。
──当然でしてヨ!
──他の人とはお話をするだけだよね。
──と、とうぜん、でしてヨ。
ともかく、シノハとムツミにデータを渡そう。
『シノハは部屋を広げてくれませんか。ムツミはテラスをお願いします。データはこれです。他は私がやります』
「はい、ヒトミさま」
「うん、うん」
作業がしやすいように木を構成しているナノマシーンをほどき、作業スペースを作る。二人とも慣れてきたようで、私がほどいたナノマシーンを使い始める。
三章では視点人物が一人増えます。
□□□□ ヒトミ
□□□■ 一美
□□■□ フタバ
□□■■ ミツエ
□■□□ シノハ
□■□■ イノカ
□■■□ ムツミ
■■□□ トウジ
となります。




