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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
青の書
61/365

第三十話 イクノブ家の巫女


 □□□■


「教授、依り代になった巫女と精霊が長く一緒にいることはできませんか」


「うーむ。そのことは、確かイクノブ家だったか、その家の巫女にも聞かれたな」


「⋯⋯イクノブ家でしょうか」


「ああ。その巫女にも伝えたが、いくつもの条件を満たす必要がある。まず精霊と呼ばれる者が、その自覚が少ないか、全くないことが必要だ。精霊は霊気と呼ばれるナノマシーンを使って体を作る。その時点で自分が精霊であることを自覚してしまう」


「精霊だと自覚すると、霊気のことに詳しくなってしまうのですね」


「うむ。霊気だと自覚し、ナノマシーンに詳しくなると、次第に他のナノマシーンからの情報も入ってくるようになる。いつかはそのナノマシーンからの情報を優先する」


「例外はないのですか」


「可能性としてはある。ただ先に述べたようにいくつかの条件を満たす必要がある。事実上不可能に近いと思うがね」


「他には、どのような条件が必要なのでしょうか」


「うむ、他には⋯⋯」




 □□■■


 シノから暖かい「風」が吹いてきた。青く光る風だ。魔獣からの攻撃が弱くなったように感じる。怪我も少しずつ治っていく。少しは時が稼げる? 侵食は遅くなったが止まってはいない。左手の感覚はほとんどない。右手と両足の感覚も鈍っている。シノが逃げる時ぐらいなら作ってみせる! ほとんど動かなくなった左手を盾にし、魔獣に斬りかかる。魔獣に左手を食いちぎられる。代わりに片目を潰せた。


「シノ、早く逃げなさい!」


 シノは逃げてくれない。それどころか、体の中の霊気まで使いだした。シノの体がほどけ始める。っ! 左手が治されていた。


「シノ、早く逃げなさい。私はどうなっても構わないわ!」


 右手の動きが鈍くなる。両足も限界が近い。右手の小刀を左手に持ち変え、魔獣の残った目を潰す。右手は取られたが、一匹の視界を完全に奪った。逃げる相手を追うのは難しくなったはず。くっ、右手が治されていた。両足の動きも戻ってきた。シノがほどけていく。ダメ、シノ。それ以上ほどけたら「気付いて」しまう。


挿絵(By みてみん)


 私のことは構わない。シノには残って欲しい。シノだけは絶対に守りたい!


 ≡≡ エモーショナル・シンパシー率が基準値を超えました。これより第3段階(サード・フェーズ)に入ります ≡≡



 □■□□


 ミッちゃんと「重なった」


 私がミッちゃんの中に入っていた。そうだったのがわかった。私が「精霊」だったんだ。ううん、それは後でいい。今はミッちゃんを助けるんだ。私はまわりの霊気を集めだす。いつもよりずっと大きな光がミッちゃんの体を包み込む。怪我と黒ずんできたところは治せた。まだ魔獣がいる。霊気の糸を何本も重ねて、より強くする。これで大丈夫かな。


 魔獣が襲いかかって来る。霊気の糸を束ねて攻撃を防ぐ。魔獣の爪が霊気の糸をアッサリと切り裂く。爪と牙は魔核でできていた。爪と牙以外は糸で抑えることができるみたい。動きの鈍くなった魔獣の攻撃をミッちゃんがかわしてくれる。私は更に霊気を集める。集めた霊気を熱くしていく。大きな炎のかたまりになった霊気を魔獣に向かって放つ。


 かわされた。急いで炎をほどく。魔獣の動きは速い。動きを止めないと。霊気の集まりを大きくする。部屋の中が青い光で満ちる。魔獣もその中にいる。魔獣の足に霊気の糸を幾重にも巻いていく。魔獣は糸を切り裂く。切り裂かれた分も繋ぎなおして巻いていく。糸の内側を冷やす。魔獣の足が凍り始める。爪は凍らない。牙でも切り裂かれる。


 でも動きは止めた。再び炎を放つ。今度は当たった。魔獣の体が燃え始める。魔獣を包んでる霊気も使い、炎を強くする。まわりが燃えないよう、他の炎はほどく。やがて魔獣は燃え尽きた。後には大きな魔核と、魔核でできた爪と牙が残った。



 □□■■


 シノの法術で魔獣が燃え尽きた。残りの魔獣と魔人も燃やし尽くした。


「⋯⋯シノ、気付いてしまったの?」

『うん、私の方が精霊だったみたい』


「まだ、間に合うかもしれないわ」

『ミッちゃん?』


 私は奥の扉へ近付く。この奥には大きな霊珠があるはず。まだ間に合うかもしれない。奥の扉から清浄な気配と禍々しい気配が伝わってくる。迷っている余裕はない。



 □■□□


 ミッちゃんが扉に近付く。扉の隙間からわずかに霊気がもれてくる。ヒトミ様に見せていただいた霊珠の霊気と似ている。イクノブ家の近くにあった白くて強い霊気とも似ている。扉からもれてくる霊気は霊珠の霊気よりも強かった。魔核の瘴気も混じっている。この瘴気も強い。私は不安になる。


『ミッちゃん、少し待って』

「もう時がないの、シノ」


 ミッちゃんはその扉を開けた。強くて白い霊気があふれ出してくる。強い瘴気もあふれ出してくる。


 ≡≡ 緊急 侵食されました ≡≡


 私とミッちゃんの頭の中に声が響く。瘴気に侵されている。風はまとっている。その風も瘴気に侵される。私の霊気では抗えない。


「⋯⋯シノ、ごめん。しくじったわ」

『ミッちゃん?』


「シノ、だけでも逃げて」

『えっ』


「私に構わず、すぐこの場から離れて」

『いやだよ、ミッちゃん』


「お願い、シノ。もう体がもちそうにないわ」

『すぐに治すから』


 私はミッちゃんの体を治していく。治したところもすぐ瘴気に侵される。一生懸命に治す。間に合わない。ミッちゃんの体がどんどん黒ずんでいく。私の霊気も瘴気に変わっていく。お願い、誰かミッちゃんを助けて。



 □□□□


 私はミツエとシノハの部屋へ近付く。フタバは安らかに眠った。いや、無事ですわヨ! 穏やかに安眠しているだけですワ! 今日シノハから「合意」がもらえた。もちろん、イカガワシイことなどしませんワ。お風呂場で見えなかったことも、全然構いますワ。その分、ちょっとぐらいなら良いんじゃ?


 ──ふふ、ヒトミ?

 ──あ、あら、フタバさんカシラ。


 ──何がちょっとなの。

 ──え、えーと、ち、ちょっとお話でもと思いまして。


 ──ふーん、そうなんだ。

 ──え、ええ、そうなんですのヨ。


 ──でも、二人ともいないみたいだよ。

 ──えっ、わかりますの。


 ──うん、ミツエ様ほどじゃないけど。

 ──言われてみると、二人のデータが入って来にくいカシラ。


 ──ヒトミはいつも二人を見ているの。

 ──えっ! え、ええ。その、なんだ、二人のナノマシーンを直したので、少しわかるだけですワ。


 ──ふーん?

 ──こんな時間にお出かけしたままなんて、心配ですワ。


 ──そうだね。ヒトミは二人の居場所もわかるかな。

 ──ナノマシーンを飛ばせばわかるかもしれませんワ。


 ──じゃあ、少し調べてみてくれるかな。私も気になっていたんだ。

 ──すぐに調べますワ。


 ──居場所を調べるだけだからね。見ちゃダメだよ。

 ──え、ええ。もちろんでしてヨ。


 ──普段は見ているのかな。

 ──そ、そんな、ことは一度もしていませんわヨ。オホホ。


 ──そうなんだ。ふふ、後でお話をしましょうね。

 ──え、ええ、も、もちろん構いませんよ。オホホ。


 私はナノマシーンにドローンを組み立てるプログラムと二人を探すプログラムを伝えた。他のナノマシーンにも順にプログラムが伝わっていく。探索範囲が広がっていく。寮や稽古場所にはいない。学舎や鍛練場にもいなかった。学舎と鍛練場の間にある食堂にもない。


 都の中心街の方へでも行ったのだろうか。この学園から少し離れた場所には都の中心街がある。遅くまで営業している店もある。夜はお酒を飲める飲食店が多い。二人がそんなところへ行くとは思えない。探索範囲を他の寮や職員寮にも広げる。まだ見付からない。図書館や研究施設も調べる。見つけた。でも様子がおかしい。


 ──ヒトミ、わかった?

 ──うん、研究施設の奥にいるよ。


 ──えっ、そんな場所に。

 ──うん、何か様子が変なんだ。⋯⋯これは、戦っている?


 ──ねえ、ヒトミ。

 ──うん、わかってる。

少し忙しく、ここ二枚の挿し絵はAIにかなりの部分を任せました。パラメータの調節も甘いです。後で差し替えるかもしれません。ご迷惑をおかけします。

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