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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
青の書
60/365

第ニ十九話 潜入


 □□□□


「あら、また明るくなったかしら」

「そうね、洗剤の種類も増えたみたいだわ」

「うーん」

「体を洗うものと、髪を洗うものがあります」


 稽古が終わった。汗を流し疲れをとるため六人で寮のお風呂場に来ている。お風呂場の灯りは油を使ったランプだ。目立たないように発光ダイオードもコッソリ設置した。寮の外側の壁に光電素子を並べて電気をためている。私たちの部屋も同じようにしている。シャンプーはリンスの入ったものを疑似細胞に分泌させて作った。ボディーソープも同じだ。容器は有機ナノマシーンで作った。見た目は木を真似ている。


 ──あのー、フタバさん。

 ──ふふ、何かな。


 ──また目が見えなくなりましてヨ。

 ──ふーん、そうなんだ。ふふ。


 脱衣所に入ったとたん、視覚情報が途切れた。ナノマシーンのデータでまわりのようすはわかる。映像データだけが入ってこない。


「あら、泡立ちが良いかしら」

「そうね、洗いやすいわね」

「うん」

「お肌もスベスベになります」


「ムツミ、こっちにいらっしゃい」

「うーん」


「シノも洗ってあげるわ」

「きゃっ。くすぐったいです、ミッちゃん」


 ──ヒトミは洗うのも上手だね。

 ──優しく洗っていますワ。


 ──うん、でも、ちょっとくすぐったい。

 ──それでよろしくてヨ。


 ──何か、ぞくぞくしちゃう。

 ──このまま続けますわヨ。


 ──ふふ、他の人もいるからね。

 ──他の人は見えませんワ!


 他の人は最後まで見えなかった。



 □□■■


 私は学園にある研究施設に近付く。この学園では様々な情報を集めている。各地で取れた珍しいものも集まってくる。魔核や霊珠もだ。魔核は魔物を倒せば手に入る。魔核を浄化すれば霊珠になる。イクノブ家の近くに魔核を浄化する場所がある。この学園の研究施設にも同じ場所がある。魔核や霊珠の働きはよくわかっていない。少しの霊珠なら体調がよくなり、身体も動かしやすくなる。


 私のように多くの霊珠を取り込んでも、それ以上は効かない。多くの霊珠を取り込んだら、シノのほどけ方が遅くなった。霊珠が尽きると浄化されてない魔核も取り込んだ。体調が少し悪くなったけど、シノのほどけ方は遅くなった。シノの法術の力は強い。多くの霊気を放てる。放つ霊気が多くなるほど体がほどけやすくなる。イクノブ家では治せないと言われた。歴代の法術に長けている人も早くに亡くなった。


 ヒトミはシノを治してくれたわ。魔核を消す方法もシノに伝えてくれた。稽古で力も付けてくれた。本当にありがたいわね。ありがとうヒトミ。でも、それだけじゃ足りないのよ。イクノブ家にはときどき大精霊様が来てくれる。魔核を浄化する場所の知識も授かった。学園の場所も多分そうね。ほどけ方を遅くする方法も文献で伝えてくれたわ。「私たち」の問題を解決する方法も文献に残されていた。


 たまたまイクノブ家の奥の蔵で見つけた文献の一部だった。ところどころ欠けていて全部は読めなかった。必要なことは読み取れたと思う。これが上手くいけば、私の方が「還る」ことになると思う。でもシノは残れる。それで十分だわ。本当はずっと一緒にいたかった。精霊はいつか必ず還る。なら私が還れば、シノは残れる。シノはヒトミに懐いている。私が還っても任せられると思う。シノのことを頼むわよ、ヒトミ。



 □■□□


 ものすごく不安になって目が覚めた。ミッちゃんがいない。この学園に来てから、ミッちゃんはときどき夜に出かける。行き先はわからない。でも強い気持ちを感じる。私のために魔核まで取り込んだときみたい。だいたいの方角はわかる。ヒトミ様に相談してみようか。ううん、夜も遅い。ヒトミ様とフタバ様も休んでおられる。ご迷惑をおかけしたくない。私は出かける用意をする。お二人の部屋は隣にある。できるだけ音をたてないようにソッと出ていく。



 □□■■


 研究施設の奥から伝わってくる気配が強くなる。私はそちらへ向かって進んで行く。ほとんど人はいない。私は体術と気配を読む術だけは長けている。まだ研究のために残っている人や、見回りの人の気配を感じるたびにやり過ごす。ヒトミとの稽古のおかげで体の動かし方も上達した。誰にも気付かれずに奥へ進む。やがて一つの扉の前に辿り着く。中に入らないよう注意する紙が貼り付けられている。


 ここまでは前にも来たことがある。奥から伝わる気配が強かった。そのときの私では敵いそうになかった。今は以前より私も強くなっている。清浄な気配と禍々しい気配が扉越しに伝わってくる。扉には丈夫そうな鍵が三つ付いている。まわりに「人」の気配はない。私は細長い暗器を取り出し鍵を開けていく。扉越しに伝わる気配に気付かれないよう静かに鍵を開けていく。


 ガチャ。三つ目の鍵をあけるとき、少し大きな音をたててしまった。気配が動きだす。息を殺して様子をうかがう。やがて気配も動かなくなった。扉を開けて静かに入る。奥にはまだ扉があった。分厚そうな扉だ。鍵は一つしかない。奥の気配が伝わってくる。かなり手強い。私はできるだけ音をたてないように鍵を開ける。静かに扉を開ける。部屋の中は薄暗い。気配が直接伝わってくる。


 ⋯⋯いる。二匹と一人? 目的のモノは更に奥にあるハズ。ここで引き返すわけにはいかない。私たちの時は少ない。静かに進む。二匹は丈夫そうな檻に入れられている。禍々しい気配を放つ魔獣だった。もう一つの気配が読みにくい。まわりを警戒しながら慎重に進む。


 っ! 突然襲いかかって来た。檻の中の魔獣の禍々しい気配が大きくなる。襲ってきたのは別のモノだ。私は即座に距離をとる。薄暗いが輪郭はわかる。


 魔人! その魔人は研究施設の人が着ている服を身に付けていた。研究中の事故か何かで瘴気に侵されたのだろうか。ならそれほど強くないハズ。小刀を引き抜き両手で構える。体術のときと同じ動きが多く使える。今の私なら勝てる。


 魔人の手が迫る。左の小刀で流し、右の小刀で斬り付ける。怯んだ魔人の体が後ろにくずれる。左の小刀で魔人の胴体を刺してねじる。同時にくずれた魔人の前足を払う。魔人が倒れかける。右の小刀で、のけ反った魔人の喉を斬り裂く。倒れた魔人の水月に左の小刀を刺してねじる。


 ヒトミに教わっておいて良かったわ。魔人はまだ生きている。両手と両足の腱を切る。これで動けないハズ。ふっと気を緩めた。次の瞬間、檻の扉が弾け飛び、禍々しい野獣が飛び出してきた。



 □■□□


 ミッちゃんの心が揺れている。戦っているんだ。私は目の前でそびえ立つ研究施設に入り込む。人がいる様子はない。急いでミッちゃんのいる方へ向かう。分厚い扉が二つもある部屋にミッちゃんがいる。ミッちゃんは見たこともない恐ろしそうな魔獣に襲われていた。


「ミッちゃん!」


 私はミッちゃんに向かって「風」を送る。この風でミッちゃんを守るんだ。



 □□■■


 檻から飛び出してきた魔獣に襲われた。魔獣に噛まれた左手が黒ずんでくる。瘴気に侵される。魔獣から距離をとり、取り出した紐で左手をきつく縛る。魔獣に引っ掛かれたところも黒ずんできた。魔獣の爪や牙は魔核でできていた。右手と両足はまだ動く。魔獣の攻撃をかわしながら、奥の部屋へ入ることができるか。


 迷っている暇はない。魔獣の攻撃をかろうじてかわしながら機をうかがう。今まで倒してきた魔獣より、はるかに手強い。侵食も進んでいる。もう少しで動けなくなる。その後は魔獣に食い殺される。あるいは魔人になってしまう。心に絶望が広がっていく。


「ミッちゃん!」


 シノが来ていた。


「シノ、来ちゃダメ!」


 このままではシノまで巻き込んでしまう。シノ、早く逃げて。そのとき、シノから風が吹いた。青く光る風だった。

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