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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
青の書
58/365

第ニ十七話 対魔人戦の特訓


 □□□□


 ──フタバごめん。魔人がいるとこの世界が壊されてしまうかもしれないんだって。今から滅ぼしてくるね。

 ──えっ、ヒトミ?


 ──大丈夫だよフタバ。すぐに終わらせるから。

 ──ヒトミ、急にどうしたの?


 ──魔人にこの世界の出口を教えてはダメなんだよ。

 ──えーと、どうしてかな。


 ──外からシステムに干渉するかもしれないんだって。

 ──見付からないようにしちゃダメ?


 ──魔人の知覚範囲は広いかもしれないんだって。

 ──そんなに広いの?


 ──元が精霊の魔人はこの世界の霊気から情報を得るかもしれないそうなんだ。

 ──霊気の「声」が聞けるってこと?


 ──そうなんだよ。霊気はなくせないから、魔人をなくしちゃえば良いんだ。

 ──ヒトミが一人で、全員の相手をするの?


 ──うん、だからちょっと行ってくるよ。

 ──また私のことを忘れるかもしれないよ?


 ──でもフタバを外の世界に連れて行くには必要なんだ。

 ──私は外の世界より、ヒトミの方がずっと大切だよ?


 ──でも。

 ──私はヒトミと離れてしまう方がイヤだよ。ヒトミはそうじゃないの?


 ──もちろん、フタバさんの方が大切ですワ!

 ──ふふ、じゃあ、少し落ち着いてね。


 ──あー、うん。ごめんフタバ。

 ──私のためにしてくれようとしたんでしょ?


 ──うん。

 ──私はヒトミさえいてくれれば、それで良いの。もう二度と一人にしないで欲しい。


 ──うん。ごめんね。

 ──外の世界のことより、私の側にいて欲しい。それじゃダメかな。


 ──うん、ずっとフタバの側にいるよ。

 ──ふふ、ありがとヒトミ。


 ──お詫びに、今夜も優しくしますワ!

 ──今夜だけなの?


 ──何度でもしますワ!

 ──ふふ、たくさんして欲しいかな?


 ──もちろん、たくさんしますワ!

 ──じゃあ、今夜からたくさんね、ふふ。


 健全な耳そうじをたくさんすることになった。



 □□■■


「極め技や投げ技はどうされますか、ミツエ様」


 今日の稽古が始まるとき、ヒトミにそう聞かれた。今日までヒトミに強くしてもらえたのは、突きや蹴りが中心だった。おかげで小刀の扱いもよくなった。これらの技は魔物や魔獣相手でも通用する。極め技や投げ技は人が相手の技になる。魔人を相手にするなら絶対に必要な技術だわ。私はイクノブ家の中伝。魔人を相手にするには力が足りない。奥伝は欲しいところだ。


 ツカハラ家でも、魔人は奥伝の上位者に任されるとフタバから聞いた。イノカやフタバですら魔人に敵わなかったそうだわ。今の二人なら奥伝にはなっていそうだけど。私は下調べに行ったときの気配を思い出そうとする。強い気配だった。魔獣の気配はした。でも他の強い気配もあった。魔人かもしれない。


「そうね、お願いできるヒトミ。私も奥伝以上になったときのために備えておきたいの」


「ええ、もちろん構いません」


 本当は奥伝のことは考えていなかった。ただの口実にすぎない。ヒトミは了承してくれたわ。私の考えも見透かされていそうだけど。


「ではミツエ様のお体に、風をまとわせてもよろしいでしょうか」


「ええ、お願いするわ」


 フタバとイノカがまとっている風のことだろう。あの二人は互いに本気で打ち込んでいる。どちらも傷一つ負っていない。私の周りに薄い緑を帯びた光が集まる。ヒトミと同じように優しくて暖かい。これで怪我の心配もせず稽古に励めそうね。


「ではいくつか動きを見せます。ミツエ様が身に付けることを望まれたものがあれば、それの稽古をしたいと思います」

「最初は私から動いた方が良い?」


「どちらもございます。では最初に動いていただけますか」

「今の私の力も試したいわ。思いっきり行くわよ」


「ええ、いつなりとも」


 私の力ではヒトミに届かない。でも間接を極めたり投げるときは、一瞬別の動きが入る。その隙間を狙わせてもらうわよ。私は間合いを詰め、左の下段蹴りから入る。ヒトミが簡単に受ける。そのまま踏み込み左の突きで人中を狙う。ヒトミが右の外腕で反らす。そのときには私の右の突きがヒトミの水月に刺さりかけている。ヒトミの左腕が降りてくる。私の突きの方が速い。


 ヒトミはわずかに体を右にひねる。打点がズラされた。同時にヒトミの左腕が私の右腕の肘の内側を打つ。右腕が内側に曲げられると同時にヒトミの右手が私の右手の手首をとる。私の右腕を極めながら、ヒトミの左肘が迫る。左足を引いてかろうじてかわした。と思ったら、残った右足を払われた。体勢を崩したところに、ヒトミの左足が後頭部に迫る。


 あごを引いて衝撃を殺す。ヒトミの左足はそのまま頭上を滑っていった。即座に前から左足が首を刈りに戻ってくる。足を払われたときには後ろに倒れかけていた。二人が倒れたときには、私の右手は極められ、首は足で押さえ付けられていた。私の右の突きから流れるように続いた。ここまでで一つ技なのだろう。


「いかがでしょうか、ミツエ様」

「ええ、そうね気に入ったわ。それを教えてくれる?」


「他にもまだございますが」

「じゃあ、それもお願い」


 私たちの体は緑をおびた風に囲まれている。衝撃は伝わってきたが怪我はない。多分そう加減してくれたのね。その後ヒトミに多くの技を教えてもらった。魔人を想定しているものが多かった。



 □■□■


「イノカ様、本日はつばぜり合いでの往なし方をやりたいと思います。よろしいでしょうか」


「ええ、ヒトミ様。それでお願いするかしら」


 魔物や魔獣相手ではあまり使いどころのない技術だわ。魔人が相手なら必要な技術だわ。私は一人で鍛練していた時が長かった。打ち込む力は上げることができた。魔物や魔獣相手に経験も積んだ。人相手の守りはこの学園に来てから稽古した。フタバとの稽古が一番力になったかしら。私とヒトミ様が入っておられるフタバが対峙する。フタバの剣は力強い。フタバの人柄を表すような素直な剣なので受けやすい。


 ヒトミ様の剣は力みも何もないので読みにくい。まるで息をされるかのように自然に動く。いつの間にか打ち込まれていることが多いわ。二人で対峙していると、いつの間にかつばぜり合いになっていたかしら。私が剣を押すと力が流される。上から押さえ付けられている。私が下がると同じ距離だけ詰めてこられ、つばぜり合いの間合いを保たれてしまうわ。


 片手では押し返せない力で押さえ付けられる。暗器や小刀があっても、どちらかの手を緩めた瞬間、押し潰される。押さえ付けながらヒトミ様の動きをよくみる。私が動く少し前に対応されている。起こりを抑えられていることがわかったかしら。次はヒトミ様がわかりやすいように起こりを見せてくださる。私はそれを感じ取った瞬間に起こりを潰すように動いた。


 何度も繰り返すうちに、自然と体が動くようになってきたかしら。ヒトミ様は徐々に起こりを小さくされていく。それを読みと取って動いている間に、かすかな起こりにも対応できるようになってきた。ヒトミ様は別の起こりや目線を混ぜてこられるようになった。これに対応するのは難しい。いくつかの別の動きの中に本当の起こりを混ぜられている。私は細かな動きではなく、全体を見るようにした。


 次第に不自然な動きを見分けられるようになった。これは普段の間合いでも使える。相手の動きの予測が、ずっと正確なものに変わっていったかしら。起こりがほとんど感じられない相手との稽古になった。これも何度も繰り返し見ていると、相手の気配を察知できるようになった。この力があれば、いきなり斬りかかられても防ぐことができる。私は更に稽古を続けた。これでアイツと戦うとき、少し有利になれたかしら。

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