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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
青の書
57/365

第ニ十六話 それぞれの時


 □□■■


「ミッちゃんの黒いところを消しても良いかな」


 私たちの部屋で休む準備をととのえたとき、シノがそう言ってきた。


「ヒトミに教えてもらったの?」

「うん」

「じゃ、お願いするわ」

「うん」


 シノはずっと気にしていた。自分を責め続けていた。私が何度言っても自分を責めるのをやめてくれなかった。私なんてどうなっても構わないのに。シノは私の胸にそっと手を当てると集中しだした。シノからやわらかな力が伝わってくる。私の中の魔核の欠片が少しずつ減っていくのがわかった。


「ミッちゃん。⋯⋯どうかな」

「うん、だいぶよくなったわ。ありがとうシノ」


 恐る恐る聞いてきたシノに正直な感想を伝える。シノはその場で泣き出した。私はシノの背中に手を回す。ずっと気に病んでいたものね。ありがとうヒトミ。シノの心がこんなにも穏やかに感じられるのは何年ぶりかな。ヒトミ達との出会いは、私たちにとても優しい時をくれたわ。こんな時がいつまでも続けば良いのに。


 ヒトミのおかげで私の力も付いている。シノの憂いも晴らしてくれた。穏やかな気持ちももらえた。でも「私たち」には時がない。もう少し力が付いたら、奥の方まで調べられそう。どうしても私たちにはアレが必要だわ。今はこの優しい時にゆだねよう。シノには穏やかな心を持ち続けて欲しいから。



 □■□■


「お姉ちゃん、これ、食べて」


 ムツミがまた菓子を作ってくれたかしら。言葉もずいぶんよくなった。法術の技は、あの時以上になった。記憶はまだ戻っていない。ムツミと菓子を食べながら話をしてみた。ムツミの状態は日に日によくなっているかしら。冷たいものは難しいと聞いたことがあるわ。ムツミはそれを私のために作ってくれたのね。ヒトミ様にはいくら感謝しても足りないぐらいかしら。


 今日もムツミのことを気にかけてくれた。昨日もそうだったと聞いたかしら。ヒトミ様とフタバのおかげで、私の力も付いてきた。ここ何日かは嬉しいことばかりだわ。幸せだった頃の気持ちを思い出せそう。いいえ、今も十分すぎるほど幸せだわ。私にはそんな資格ないのに。でも今はムツミもいてくれる。私のために頑張ってくれている。話もずいぶんできるようになった。少しの間だけでも、この幸せを大切にしたい。



 □□□□


 私は今フタバの耳そうじをしている。


 ──そんな感じが、いい。

 ──じゃあ、優しく続けますわヨ。


 ──うん、そのままつづけて。

 ──こうもしましょうか?


 ──そこはまだ。うん、いいかも。なんか、へんなかんじ。


 □□□□


 ──ふふ、ヒトミは上手だね。

 ──フタバさんのためにがんばりましたワ。


 ──ヒトミにされると全然痛くないよ。

 ──優しさにこだわりましたワ。


 ──色んな道具があるんだね。

 ──フタバさんのために色々作りましたワ。


 ──外の世界の知識かな。

 ──通信販売というところの見本から再現しましたワ。


 ──私もいつか行けるかな。

 ── ⋯⋯行きたいの?


 ──うん。

 ──そんなに良いものではないわ。私はまだ自由に動くことすらできないのだから。


 ──ごめん、ヒトミ。

 ──ううん、構わないわよ。ずいぶん回復したし。


 ──うん。

 ──オバテクを脅して、いつか何とかしてもらおうかな。


 ──えっ、大精霊様を?

 ──時間はかかると思う。ダメな可能性もあるし。


 ──本当にいいの?

 ──リアルじゃなくてVRになると思うけど。それでもいい?


 ──うん。

 ──そのときはフタバもアバターをまとうのよ。


 ──ふふ、ヒトミみたいに?

 ──まだできるかどうかもわからない話よ。


 ──うん。それでもいい。

 ──じゃあ、リアルでもがんばってみるね。



 □□□■


「教授、少しお聞きしたいことがあるのですが」


「非合法なものはだめだよ。(いち)()君」


(ひと)()です! 何で非合法な話になるんですか!」


「いやー、最近の君は私のフィルタで妨げた場所以外、どこにでも入っているようなのだがね」


「え、えーと、何のことでしょう。ホホ」


「また各国からの苦情が増えてね。確定まではできていないようだが、ここの回線を使って、軍のサーバの情報が書き換えられた痕跡があるようなのだよ。(いち)()君」


「そ、そうですか。不思議なこともあるんですね。オホホ」


「私はささいな違法行為でも、何らかの理由を付けて、どこかの国に拘束される可能性が高いのだがね。(いち)()君」


(ひと)()です! それは教授の自業自得じゃないですか。私のせいではありませんよ、ホホ」


「う、うむ。まあいいだろう。ところで聞きたいこととは何かね」


「あの世界の人を外の世界に連れ出すことはできませんか」


「うーむ、現状では難しいと思われる。君も知っての通り、あちらの世界は再現度が高すぎる。そのままの状態では厳しいだろう」


「VR環境ならどうでしょう」


「うむ、限定的なものなら可能性はあるが、予期せぬ事態が起こるかもしれない。不確定要素になるのが、あちらの世界で、確か精霊だったかね、そう呼ばれる再構成された者たちの動向だろう」


「⋯⋯精霊ですか」


「いや正確には違ったな。精霊や人が侵食された者達になる」


「魔人でしょうか」


「ああ、確かそのように呼ばれていた者達だ。彼らは他の精霊と違いあちらの世界を守る意識がなかったと記憶している」


「ええ、あちらの世界の魔物とあまり違いはありません」


「そこだよ、(いち)()君!」


(ひと)()です! どこなんです」


「ん? 今君が自分で説明したじゃないか」


「ですから教授の基準で判断しないでください! ⋯⋯魔物とあまり違わないというところですか」


「うむ。君の理解力もとうとうアメーバレベルを超えてくれたようで何よりだ」


「誰が単細胞生物なんですか! 博士号を十五個も持っている教授とは違います! ⋯⋯それで魔物と同じならどうなるのでしょう」


「うーむ。あちらの世界との情報のやり取りは非常に限定的だ。あちらから出てくるのはせいぜい私と君ぐらいのものだろう。一部の精霊はこちらの世界へも行き来できるようだが」


「ツグミさん達のことですね」


「ああ、あれには驚いた。システムに干渉できるモジュールまで組まれていた。ただ精霊と呼ばれる者達は、あちらの世界にとって不利益になる行動はとらない傾向がある」


「魔人は違うのですね」


「うむ。魔人と呼ばれる者達は逆に害になる行動を取る傾向が大きい。その者達が知覚できるところで、あちらの人々がこちらにやって来ると、あちらの世界の出口がわかってしまう可能性がある」


「私は何度も出入りしていますが」


「うむ。君や私は元々あちらの世界の住人ではない。それにログアウトにかかる時間も極短時間だ。観測したデータをコピーをするぐらいで、稼働中のナノマシーンの再現データを持ち出さない。認識されていない可能性が大きい」


「⋯⋯あの世界の住人がリアルのVR環境に接続すると、出口が見つかりやすいということでしょうか」


「うむ。精霊と違い魔人はあちらの世界を守ろうとする意識がないと思われる。そのような者達が出口を見つけ、システムに干渉すると、あちらの世界が維持できなく可能性がある」


「魔人の知覚外なら大丈夫ですか」


「うーむ。理論上はそうなる。ただ精霊の知覚範囲は広い。あちらの世界のナノマシーンから多くのデータを拾う者もいる。元が精霊の魔人ならば同じことができる可能性がある」


「では、魔人を全て滅ぼせば良いのですね」


「ま、まあ。理論上はそうなる。しかし、ずいぶん物騒なやり方ではないかね。(いち)()君」


(ひと)()です! 保護者の影響だと思います。過敏な世代はすぐにまわりの大人の影響を受けるそうですから」


「私は遵法精神のかたまりのようなものだよ。その影響を受けたのであれば、君もそうなると思うのだがね」


「ええ、もちろんですわ。現行法には一切抵触しないようにしますわよ」


「そ、そうかね。それならば問題はなさそう、か? まあ、魔人といえど元は人だ。可能な限り穏便にしてくれたまえ」


 ⋯⋯もともとは人、か。

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