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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
青の書
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第ニ十五話 お礼を言えた



 □■□□


『シノハ、今変わった霊珠の上に手をかざしてもらえませんか』

「はい、ヒトミさま」


 私は霊珠の上に手をかざす。私の手から目に見えない糸のようなものが流れ出す。霊気を動かすときの力に似ているみたい。糸が霊珠に届き、細かな変化が起こる。


『これで良いと思います。これが本来の霊珠なのです』

「はい、ヒトミさま」


『じゃあ次はこれを神刀にします。よく見ていてください』

「はい、ヒトミさま」


 ヒトミ様は霊珠の中から白くて強い霊気を取り分けられる。いつの間にかできていた透明で平たい器のようなものにその霊気を慎重に入れられる。私の手はかざされたままになっている。ヒトミ様は私の手の中の道を使い、霊珠から取り出した霊気にまた細い糸を送られた。霊珠の霊気が少し変化し神刀の霊気に変わったみたい。


『シノハにはこれを覚えてもらいたいのです』

「はい、ヒトミさま」


『私も手伝うからやってみてくれますか』

「はい、ヒトミさま」


『シノハ、大丈夫ですか』

「はい、ヒトミさま」


『今日の夕食は何が良いですか』

「はい、ヒトミさま」


『⋯⋯新しい世界へ一緒にいってみる?』

「はい、ヒトミさま」


『ふふ、じゃあ、今夜から始めましょうか』

「はい、ヒトミさま」


 次の瞬間、ヒトミ様の霊気が乱れた。フタバ様が何かされたみたい。はっと、我に返る。ヒトミ様はあまりにも繊細に霊気を動かされていた。その技を見て気が遠くなりかけていた。ヒトミ様が教えて下さっている。気をシッカリ持たないと。


「ヒ、ヒトミさま。申し訳ありません」

『え、ええ。か、構いませんよ、シノハ』


 ヒトミ様の霊気は乱れたままみたい。苦しそうな気配が伝わってくる。少しドキドキされている。胸が苦しいのかな。



 □■□□


 ヒトミ様とフタバ様が心でお話をされている。ヒトミ様は何か否定されているみたい。フタバ様は続けて何かされているみたい。ヒトミ様が何か謝っておられる。フタバ様が引き続き何かされておられる。ヒトミ様の苦しそうな気配が続く。お話がしばらく続き、やがて穏やかな雰囲気に変わった。ヒトミ様とフタバ様のお互いを思いやる雰囲気が強くなった。


『ご、ごめんね。シノハ』

「い、いえ。こちらこそ申し訳ありませんでした」


『さっきのことは、気にしないでもらえると嬉しく思います』

「は、はい。もちろんです、ヒトミさま」


『いきなり神刀は難しいでしょうから、霊刀から始めましょうか』

「霊刀でしょうか」


『ええ、普通の霊気を少し変えます。瘴気だけなら霊刀で清めることができます』

「そのようなことができるのでしょうか、ヒトミさま」


『修正プログラムというものを送るようにするだけです。シノハならすぐに覚えられると思いますよ』

「修正プログラムでしょうか」


『えーと、そうですね。他の霊気に働きかける力と言えばわかるでしょうか』

「ヒトミさまが送られる、細い糸のようなものでしょうか」


『ええ、それで良いと思います。私も手伝うからやってみましょう』

「はい、ヒトミさま」


 ヒトミ様は普段私も使っている霊気を、透明で平たい器に集められた。ヒトミ様から印象も伝わってくる。器はシャーレやペトリ皿と呼ばれるものみたい。


『霊気をよく見てください』

「はい」


 ヒトミ様に言われた通り霊気を見る。私たちの体を作る霊気と同じものがあった。


『これを変化させることから始めましょうか』

「はい、やってみます。ヒトミさま」


 ヒトミ様は私の道を使い、細い糸で霊気全体を包まれた。霊気の動きが遅くなって細かな変化をさせやすくなった。霊気は普段扱っているものと同じもの。ヒトミ様から伝えられた知識で霊気を変化させていく。私の中に作っていただけたものと同じみたい。


『普通の霊気を変えると霊刀と言われるものに変わります。瘴気だけならこれで清められますよ』

「⋯⋯これは、ヒトミさまが私の中に作ってくださったものでしょうか」


『えっ、そ、そうです。か、勝手に作ってごめんなさい』

「ヒトミさま、私は感謝しかしていません。どうか、ご自分を責めないでください」


 ヒトミ様から合意がなかったという言葉が伝わってくる。何かしきりに反省されている気配が伝わってくる。私を救ってくださったのに、私に謝ろうとされておられる。


『シノハは優しいのですね』

「そ、そんなことはありません。ヒトミさまの方がずっとお優しいと思います」


『ふふ、じゃあ次からは、ミツエもシノハも勝手に助けますよ?』

「はい、ヒトミさま!」



 □□□□


 シノハの「合意」が得られた。ミツエのことも許してくれるらしい。よし、何をしてもOKだ。フフ、アレが良いかな、それともアッチかな。ああ、世界って美しい! フフ、フフン。


 ──ふふ、ヒトミ?

 ──あら、フタバさんもご一緒しますか。


 ──何を一緒にするのかな。

 ──ナニを一緒に、⋯⋯し、しませんですワ!


 ──ミツエ様とシノハちゃんに変なことをしちゃだめだよ?

 ──へ、ヘンなことってナニかしら。


 ──ヒトミが今考えていることかな。

 ──な、何も、か、考えていませんでしてヨ!


 ──ヒトミはすぐ他の人にも優しくするんだから。

 ──私の一番目はフタバさんでしてヨ!


 ──本当かなあ。

 ──本当ですワ!


 ──また、してくれるかな。

 ──何度でもしますワ!


 ──もう、しかたないなあ。他の人に優しくした分だけ、私にも優しくしてね。

 ──も、もちろんでしテヨ。


 ──ふふ、じゃあ今夜ね。

 ──いつもよりたくさんしますワ!


 フタバさんの耳そうじをする約束をした。たくさんしても痛くならないように優しくしよう。



 □■□□


 ヒトミ様がフタバ様とのお話をまたされている。お二人は本当に仲が良い。少し行き違ってもすぐに仲直りされているみたい。私とミッちゃんもあんな風になれたら良いのに。私とミッちゃんも仲が良い方だと思う。お二人にはかなわないけど。私たちも第3段階になれたら、あんな風になれるのかな。ううん、今はミッちゃんの黒いところを消す方が先。ヒトミ様が教えてくださっている。シッカリ学んで、ミッちゃんの役にたつんだ。


『で、では次の段階に進みましょう』

「はい!」


『無機、えーと、土の中などに入っている霊気はわかりますか』

「はい、わかります。ヒトミさま」


『では、それに同じことをします』

「はい」


 ヒトミ様は土の中の霊気を別のシャーレに取り分けられた。私はその霊気に手をかざして同じことをしていく。ヒトミ様が霊気の動きを遅くして、細かな変化をしやすくしてくださる。伝えていただけた知識を使って霊気を変えていく。


『よくできていますよ』

「はい、ヒトミさま」


『霊珠の霊気はこの二つで作られています。それを同時に変えることができれば、神刀を作ることができます』

「ど、同時にでしょうか」


『魔核ほどではないけれど、霊珠も元に戻ろうとする力が強いのです。一方だけを変えても、もう一方が元に戻してしまいます』

「わ、わかりました。やってみます」


『最初は私も手伝いますね』

「はい、ヒトミさま」


 ヒトミ様は霊珠の一部をほどいて別のシャーレに移された。霊珠の霊気をよくみると二つの霊気が混ざっている。私が手をかざすと、ヒトミ様が細い糸を出して全体の動きを遅くしてくださった。教えていただいた知識を使って、両方の霊気を変化させる。


『すごいわ、シノハ。一度でできる人はなかなかいないと思いますよ』

「ヒ、ヒトミさまと比べると、まだまだです」


『ふふ、じゃあ次は霊気を遅くする練習ですね』

「はい、ヒトミさま」


 気が付くとまた別のシャーレが並んでいた。少し慣れてきたのかな。ビックリしすぎて、気が遠くなることも減ってきたみたい。里に帰るのはミッちゃんを治してからにしよう。ヒトミ様がまた知識を伝えてくださった。今度は霊気を遅くするやり方だった。霊気全体にその力を伝えるみたい。少し手間取った。何とか霊気を遅くする。


『その調子です。次は二つの霊気を変えてみてください』

「はい」


 霊気は遅くなっているので変えやすい。両方の霊気を同時に変えるよう意識する。少しずれてしまった。元の霊気に戻る。何度か繰り返すと、ようやくできるようになった。


『ええ、よくできましたね。じゃあ効果を試してみましょう』

「はい、ヒトミさま」


 ヒトミ様がまた別のシャーレを用意されていた。布に少しだけ残っていた魔核の霊気をほどいて一部をシャーレに移された。私は神刀化した霊気を、それにそっと注いだ。魔核の霊気が白くて強い霊気に変わった。これならミッちゃんの中の黒いところを消すことができる。


『うん、効果は十分ですね。ミツエの中の霊珠を変えるときは、ほんの少しずつに変えるようにするのですよ。⋯⋯シノハ、よく頑張りましたね』


「⋯⋯はい、ありがとうございます。⋯⋯ヒトミさま」


 目の前は歪んでいた。でも今度はお礼を言えた。

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