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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
青の書
55/365

第ニ十四話 神刀


 □□□□


「今日も良い稽古になったわ。ありがとう、ヒトミ」

「フタバにも入ってくださったかしら。ヒトミ様、ありがとうございます」


「たいしたことはしておりませんので、お気になさらず」


 途中の休憩時間になった。剣術や体術の四人が休憩所にやってくる。


「あら昨日と同じ菓子ね。いただくわよ」

「私もいただこうかしら」


「本日はシノハ様とムツミ様に作っていただきました」


「えっ、シノが?」

「ムツミもかしら」


「ヒトミさまに作り方を教わりました。ミツエ様」

「うん、うん」


「ヒトミはずっと私と稽古をしてたわよ」

「昨日の夜に教えていただけたのかしら」


「そういえば、フタバの中にも入っていたって、イノカが言っていたわね」

「ええ、私も不思議に思ったかしら」


「ミツエ様、イノカ様。私とヒトミは完全に重なっていたわけではありません」


「菓子の作り方は先ほど教わりました」

「うん」


「えっ。じゃあヒトミは私と稽古しながら、フタバに入って、シノにも色々教えてくれていたってことなの?」

「そんなことって、できるのかしら」


「ええ、そうなります。ミツエ様とイノカ様にご迷惑をかけてなければ良いのですが」


「私は今日だけでまた強くなれた気がするわ」

「私も強くなれたと思うかしら」


「私の法術の技もみがいていただけました」

「うん、うん!」


「ヒトミが動かしてくれたおかげで、私も強くなれたと思う。ありがとヒトミ」


「そうね、ヒトミありがとう」

「ヒトミ様、ありがとうございます」


「私も感謝しています、ヒトミさま」

「う、うん。ありがと」


 ムツミがまた少ししゃべってくれた!


「みなさまのお役にたてたのであれば良かったですが」


 私は広場の端の草をほどき、木の器にアイスクリームを盛り付ける。ウエハースとさじも忘れない。


「ムツミ様、よろしければ、めしあがってください」


「うん!」


 やはり子供は甘いものが好きなのだろう。ムツミは嬉しそうに食べだす。ムツミは精霊だが、念のため、お腹をこわさないよう量は少なくしている。その分、風味や味は丁寧に仕上げた。


「ヒトミ、それは何と言うものなの?」

「昨日もいただけたとムツミが言っていたかしら」


「私も昨日いただきました。冷たくて甘かったです。とても美味しかったです」


 みんなのクッキーを食べる手が止まっている。なぜだろう。シノハとムツミが作ったクッキーは忠実に再現されている。昨日と同じ美味しさだ。


 ──ヒトミ、私たちの分は?

 ──フタバも欲しい?


 ──うん、欲しい!


「⋯⋯みなさまも、めしあがりますか」


「そうね、食べてみたいわね」

「ヒトミ様。私もいただいて良いかしら」

「ヒトミさま、それの作り方も後で教えていただけませんか」

「ヒトミ、私にもね」


 全員分を作ることになった。



 □□■■


 シノとムツミがヒトミの法術を初めて見たとき、驚きすぎて体調をくずした理由がわかった気がする。ヒトミの法術はそれだけ凄い。剣術もやっぱり強いみたい。今はフタバに入ってイノカと稽古をしている。イノカの剣術はこの学園で一番強い。そのイノカが更に伸びているのがここからでもわかる。ヒトミはイノカが伸びるように上手く受けているわね。私もヒトミとの稽古で伸びているのが実感できる。


 稽古の前半は昨日と同じように、突きや蹴りの繋ぎが上手くなるように受けてもらえたわ。今は受けと返しの稽古をしている。私が突くと、それを往なされると同時に返し技をしかけられる。何度か手本を見せてくれたわ。その後に同じことをするように心がけると、驚くほど強い力で打ち込めた。ヒトミはカウンターとか言っていたわね。イクノブ家にも似たような技はある。


 ヒトミが教えてくれる技はもっと洗練されていて力強い。まるで極限まで無駄を削ぎ落とし、カウンターだけを突き詰めた人に教わっているみたい。ヒトミは自分の体の強さも変えられるみたい。私が少し遠慮しながら打ち込むと、もっと強くするように言われた。少し強く突いても平気そうだった。次第に強くしていって、いつの間にか全力で打ち込んでしまった。その後ヒトミは踏み込みや腰の入れ方、肘や膝のひねりや力の伝え方を教えてくれたわ。


 今までの全力を超えたと思う。そのまま続けると私の拳や足を痛めそうだった。ヒトミは自分の体の固さを調節して私が傷付かないようにしてくれたわね。おかげで力一杯の技を繰り出せる。ある程度の固さは残して実戦での力加減も想定してくれているようだった。ヒトミのおかげで今はどんどん力が付いているのが自分でもわかる。もう少し付き合ってもらうわよ。



 □■□■


 ヒトミ様がフタバの中に入り稽古を付けてくださったかしら。ヒトミ様の受け方に合わせて打ち込んでいくと、今までよりずっと強く打ち込めるようになった。連続して打ち込む稽古もしてくださった。木刀といってもこれだけ強い打ち込みはフタバにできない。でもヒトミ様はフタバの体に風のようなものをまとわせられたわ。薄い緑の光をおびた優しい風のようだった。


 風をまとったフタバの体に打ち込んでも全然大丈夫そうだった。私はつい力を入れすぎて全力で打ち込んでしまった。フタバの体には傷一つ付かなかったかしら。それだけ風の力が強かった。ヒトミ様に大切にされているフタバが少し羨ましくなったぐらいかしら。気が付くと私の周りも風で囲まれていた。それからは互いに遠慮することなく全力で稽古に励めたわ。


挿絵(By みてみん)


 ヒトミ様はときどき風を使い私の動きを直してくださった。ヒトミ様に直していただけた通りに打ち込むと驚くぐらい速く強く打ち込めた。私が長年みがいてきたあの技と、同じぐらいの強さで全ての打ち込みができるようになったかしら。あの優しい二人はそれだけでは満足できなかった。私がみがいてきた技は守りを捨てることでより強く打ち込もうとしていた。そこを徹底的に直されたわ。


 もちろんどんな打ち込みでも全力で相手を斬る瞬間はそれに集中する。あるいは何も意識しないようになる。踏み出した瞬間から他のことは殆ど意識しなくなる。その前後で守ることにも意識を向ける。私の技は守りの意識さえ捨てて、力を求め続けてきたものだった。他の打ち込みも同じぐらい強くなったのに、常に受けることもできるようになっていたかしら。



 □■□□


「ヒトミさま、これは」

『ツカハラ家では神刀と呼ばれているものです』


 ヒトミ様が休憩中に置いていかれた布の中に小さな刃物が入っていた。休憩後にたくさんの菓子の知識を教えていただけた。ムツミ様にも伝えた。ムツミ様はアイスクリームと呼ばれる菓子を作る鍛練をされている。霊気を使って冷やすのは難しい。一部を冷やすと、別のところが暖かくなる。上手に冷やす方法も教えていただけた。ムツミ様は冷やそうと頑張っておられる。


『シノハ、刃先の表面に付いている霊気に意識を集中してみてください』

「はい、ヒトミさま。⋯⋯これは、白くて強い霊気でしょうか」


『イクノブ家の近くにあったものと似ていますか』

「は、はい。似ています、ヒトミさま」


『そう、やはり霊珠だったのですね』

「これが霊珠ですか」


『正確には霊珠を使って作ったものです。シノハ、もう一つの包みも開けてくれませんか。直接触らないよう気を付けてくださいね』

「は、はい。ヒトミさま」


 ヒトミ様は何でもないことのように言われた。霊珠を使って作る? そんなことができるのかな。私は驚きながらも小さな包みを開ける。


「⋯⋯魔核」

『その欠片です。ツカハラ家から神刀と一緒に持ってきました。シノハ、神刀で魔核に触れてみてください』


「は、はい。⋯⋯えっ、霊珠に変わった?」

『それが神刀の力です。小さな魔核なら霊珠に変えることができるようにしておきました』


 驚きのあまりヒトミ様のお言葉に返事ができなかった。魔核が簡単に霊珠に変わったことにもビックリした。ヒトミ様がそれをなされたことに、もっとビックリしてしまった。里に帰りたくなった。ううん、駄目。ヒトミ様がミッちゃんを助ける方法を教えてくださっている。今は一生懸命学ばなきゃ。

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