第ニ十話 ミツエとの稽古
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「ミツエ様、少々稽古に付き合ってはいただけませんか」
休憩が終わり稽古の後半が始まった。フタバとイノカは木刀で剣術の練習を続けている。シノハとムツミは楽しそうに法術の練習をしている。私は昨日できなかったミツエとの練習をすることにした。ミツエは柔道着に似た白っぽい服装をしている。足技も練習するため袴はまとっていない。足は布と木で作られた動きやすそうな靴をはいている。小刀は持っていない。
先ほどまで巻き藁で練習していたため体も暖まっているようだ。全身がしなやかなバネのようだ。ミツエの背は私より少し低い。肌は褐色に日焼けしているかのように見える。私はミツエの服装を真似たものを構成して身にまとっている。手足や体幹が動かしやすい。足元の不安もない。胴のあたりに帯が巻かれている。
「えっ、ヒトミも無手なの?」
「ミツエ様が体術の稽古をしたそうでしたので。剣の方が良かったでしょうか」
「私としてはありがたいけど、ヒトミの体術はたしなむ程度なんでしょ?」
「ツカハラ流になりますが、ほとんどの武術の基本は存じております」
古武術は色々な武術を含むものが多い。武芸十八般と呼ばれるもののうち多くを修めている。古武術の体術は投げ技は多いが蹴り技は少ない。もちろん例外もある。私は色々な武道や格闘技のアプリのデバッグやテストプレイもこなしてきたので、どちらも身に付いている。VR環境に限るけど。
実戦なら槍や剣を使って遠くの間合いから攻撃が届く方が有利になる。手足を使った攻撃は刀で斬るよりは弱い。無手の間合いまで入ると逆に長い武器は不利になる。
「じゃ少しお願いするわ。できれば剣術でも相手をして欲しいんだけど」
「では剣術の方は後程いたしましょうか」
「きつくなったらすぐに言ってね。ヒトミに怪我をさせたくないから」
「お心づかいありがとうございます、ミツエ様」
「じゃあ、最初はゆるめにいくわよ。慣れてきたら徐々に強くしていくわ」
「はい、お願いします」
ミツエは軽い左の突きから入る。かなりゆっくりなので簡単にさばける。それを見たミツエはやや速い下段蹴りをしかけようとする。起こりは抑えずに、足さばきでかわす。ミツエはもう一度左の突きから入る。体をややひねりながら打ち込んでくる。左の外腕でさばき、次に備える。ミツエは反らされた力も利用し、左の肘を突き込んでくる。開き足で右前に避ける。
ミツエは流れた体をひねり、右肘で背中側の私を攻撃してくる。潰すのはさけ、半歩後ろに下がりながら、右の内腕でさばく。ミツエの動きが速くなる。流された体を足さばきと体のひねりで立て直し、そのまま左の回し蹴りを放ってくる。これも潰さずに、腕で流しながら、足さばきでよける。ミツエは右の後ろ蹴りを放ってくる。これは右足で受ける。ミツエは一旦距離を取る。
「たしなむ程度? これで?」
「ええ、そうです。ミツエ様」
「ふっ、思わぬ掘り出し物だわ。本気で行っても良い?」
「ええ、構いませんよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて!」
ミツエの気が高まる。数段速い動きで攻撃を繰り出してくる。実戦の体術で一撃必殺は難しい。連続技が多くなる。一撃で相手の意識を刈りとれれば別だけど。私はミツエの動きを潰さないように流していく。流す方向も技を繋ぎやすいようにする。攻撃も入れ防御も意識してもらう。ミツエとの攻防が続いていく。ミツエの動きがどんどん良くなってくる。ほど良い方向に流さなくても上手く技を繋げてくる。
私は次の段階に入る。ミツエの技の繋ぎをときどき潰す。これにもミツエは対応し、技の繋ぎがスムーズになってくる。繰り返していくうち技の切れ目がほとんどなくなる。次は「起こり」を潰しにいく。ミツエが技を出そうとする瞬間に軽く手足を合わせて、技自体を出しにくいようにする。
やりすぎないように調節する。起こりを抑え続けられると、何も通用しなくなるように感じてしまうことがある。自分よりずっと強い人と稽古するとき、そう感じてしまうこともあるみたいだ。一旦距離を取ったり変則的な動きをして対処することもある。実戦なら強引に動き続けるのもありだと思う。そういう練習も必要だ。
ミツエは体術の練習相手を欲しがっていた。多分この学園にはミツエより体術の強い人がいないのだろう。ミツエのリズムをときどきくずしながら、連続技の切れが良くなるように調節していく。ずいぶん動きがよくなった。もう少し練習をすれば突きや蹴りは相当なレベルになりそうだ。奥伝に届いているかもしれない。投げ技や関節技もやってもらいたいところだが、そろそろ体力の限界のようだ。
「⋯⋯ヒトミ、あんた私より強いじゃない」
「それほどたいそうなものではありません」
「ふん、まあいいわ。今日一日でずいぶん強くなれたと思うわ」
「お役に立てて何よりです」
「明日も付き合ってもらうわよ」
「ええ、もちろんです、ミツエ様」
「それから。⋯⋯ありがとうヒトミ」
そう言うとミツエは草の上で大の字になった。
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ミツエの動きが良かった。ヨシヒデさんとの立ち合いを思い出す。あれも楽しいと感じた。ミツエの吸収力は凄かった。いずれ極伝になるかもしれない。この世界は魔物や魔獣の脅威がある。体術だけをやり続ける人は少ない。
剣術を学びながら体術を修める人もいる。武器を失ったときや、手元に武器がないときのためだ。体の動きに幅ができる。ただ古武術自体がもともとそういったことを想定している。武器を手にするまでの繋ぎになることが多いと思う。剣術自体に体術の動きを取り入れている流派もある。ミツエのように体術が中心だと練習相手を探すのも一苦労だろう。ミツエの体術のレベルは高いのでなおさらだ。
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ミツエの中の魔核を見る。今日の昼よりわずかに増えている。
「シノハ様、少し見ていただきたいものがございます」
「はい、ヒトミ様」
シノハを呼んでやり方を見せる。魔核の一部だけを神刀にする。ミツエをくずさないように慎重に行う。一度に魔核の瘴気十個分にする。何度かシノハに見せる。ミツエ自身はまだ草の上だ。
「⋯⋯少しわかったような気がします、ヒトミ様」
「あと何度か必要かと思います。そのたびにお見せします。いずれシノハ様にもできるようになるかと思います」
「は、はい。ヒトミ様!」
「ではミツエ様の疲れも少しいやしておきましょうか」
「そ、そんなことができるのでしょうか」
「軽い治療の一種だと思ってください」
そう言うと私はミツエの筋肉や腱、関節などの一部を修復していく。筋肉の治療は完全には行わない。超回復を妨げてしまう。
「これもヒトミ? いつもありがとう」
「今の霊気の動かし方でしたら、鍛練をすれば私にもできそうです。ヒトミ様ありがとうございます」
他の人の痛めたところや疲労も少し治しておく。全部は治さない。疲労を忘れてしまうと無理をする人も出てくる。
「痛めたところが少しおさまってきたかしら」
「ヒトミ、ありがと」
「うん!」
ムツミは体を動かす練習をしていたわけではないが、腕を上げすぎてちょっと疲れていたようだ。まだ小さいので歩くだけでも疲れるのだろう。軽い疲労感が残るぐらいにしておく。
「では、そろそろ寮にもどりませしょうか」
「そうね、もう歩けそうだわ」
「私も少し体が軽くなりました」
「ムツミも今日は眠たくなっていないみたいかしら」
「うん」
「じゃ帰ろうか、ヒトミ」
それぞれが心地良い疲労感を抱えながら帰途につく。




