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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
青の書
49/365

第十ハ話 シノハの思い


 □□□□


「先ほどは失礼しました。ヒトミ様」

「シノハちゃん、もう大丈夫なのかな?」


 ここは寮の私たちの部屋。シノハも落ち着いたようす。フタバも早目に帰ってきた。ミツエとイノカはまだ教練場だ。ムツミはイノカの近くで影の状態で眠っているらしい。


「初めてのことでしたので、まだ少しは⋯⋯」


 ──ヒトミ、初めてって何?

 ──さ、さあ、何のことでショウ?


「あんなことまでしてもらえたのは、初めてです」


 ──あんなことって何?

 ──さ、さあ、ナンのことデショウカ?


「助けてくださって、ありがとうございます。ヒトミ様」


 ──うん? ヒトミ、シノハちゃんを助けたの?

 ──えー、まあ、そんな感じ?


 ──さっきは色々って

 ──イロイロ助けたのデスワ!


 ──合意がないって伝わってきたよ?

 ──そ、その件に関しては、その、まあ。


 ──ふふ、後で詳しく聞かせてね?

 ──えーと ⋯⋯はい


「た、たいしたことはしておりませんよ、シノハ様。それより何かお話があったとか」

「そ、そんな、これ以上のことは」


「私たちにできることは何かないでしょうか」

「⋯⋯私の力が足りず、私がほどけてしまったら、後のことでお願いしたいことがあります」


「その条件ではお断りいたします」

「えっ」


「シノハ様がほどけぬよう、力を貸すのは構いません」

「ふふ、シノハちゃん。ヒトミはシノハちゃんもミツエ様のことも、放っておけないの」


「一人も欠けず乗り越えるのが、私の望みなのです。シノハ様。みんなで『新しい世界』へ行きましょう!」


「は、はい。はい! ありがとうございます。フタバ様、ヒトミ様!」


 フタバさん、もうちょっと優しく剣気を飛ばしてくださっても構いませんワヨ?



 □■□□


 ヒトミ様がお力を貸してくださるとのことだった。ヒトミ様もフタバ様もとてもお優しい。お二人になら話をしても大丈夫かな。きっと何とかしてくださる。ヒトミ様は、イクノブ家でもできないと言われていた、霊気のゆるみを治してくださった。新しい法術の使い方も教えてくださった。ヒトミ様でもミッちゃんの黒いものを少しずつしか消せない。


 少しだけでもスゴイと思う。私では大きくなるのを遅らせることしかできなかった。新しい世界というものが何かはわからない。最近イノカ様もときどき嬉しそうに口にされる。ヒトミ様やフタバ様がお優しいことと関係があるのかな。お二人なら事情を話し、一生懸命お願いすれば、きっとミッちゃんのことも助けてくださる。新しい世界にも入れていただける。私はお二人に私たちのことを打ち明けることにした。



 □□□□


「私とミツエ様⋯⋯ミッちゃんは同じ時に生まれました」


 シノハが過去のことを話し始めた。


「双子というわけではありません。母の体の中にいた巫女に精霊様がお憑きになられたのです。イクノブ家でも初めてのことです。はじめ精霊様は巫女と重なっておられました。産湯につける頃にお体をまとわれたと聞いております」


 そんなことがあるのだろうか。


「お体をまとわれた精霊様と巫女との区別は付かなかったそうです。イクノブ家ではその二人を姉妹として育てることにしたとのことです」


 シノハとミツエの顔立ちや体つきは確かに似ている。でも髪や瞳の色は異なる。ミツエは髪も瞳も濃い茶色だ。肌も日に焼けたような色になる。シノハの髪は薄い白に近い。肌も白い。瞳は澄んだ海のように青い。産湯につけた後なら、髪の毛の色などでその家系の者かどうかはわかると思う。二人のような髪の毛をもつ父母や祖父母がいたのだろうか。


「イクノブ家の方たちの髪の色はどうだったのでしょうか」


「黒に近い茶色の者が多くなります。ただ法術に長けている者は薄い色になりやすいと聞いております、ヒトミ様」


 髪の色は関係がなかったようだ。


「十をいくつかすぎる頃まで、私とミッちゃんは姉妹として育てられました」


 ──ねえヒトミ、そんなことってあるの?

 ──うーん、どうだろう。


 精霊としての自覚がないまま巫女を真似て育ったのだろうか。そこで違和感に気が付いた。ヨシヒデさんに聞いた話では、精霊は長くても十年ぐらいしかいないそうだ。聞こえる「声」が大きくなって、世界の為に力を使うからだ。ツグミさんもそう言っていた。シノハとミツエは十台の半ばに見える。それほど長い間依り代と過ごす精霊はいないと思う。ミツエは体術に長けている。普通の精霊と違い、霊気のことをあまり理解してなかったのだろうか。


「十をすぎる頃、私の霊気のつながりが緩んできました。イクノブ家では治せないと言われています。ミッちゃんはあきらめず、私を治す方法を探し続けてくれました。イクノブ家の近くには時をかければ魔核を浄化する場所があります」


 時間と場所だけで、ハイブリッドのバグの修正? そんなことできるの?


「そのような場所があるのでしょうか」


「ツカハラ家ほどではありませんが、イクノブ家にもときどき大精霊様に来ていただけます。何代か前に大精霊様より知識を授かったご先祖様の巫女がおりました。そのご先祖様の巫女と家の者が協力し、お作りになられたと聞いております」


 あー、あいつか。オバテクとか変な名前で呼ばれていたヤツだ。リアルでは私の保護者を名乗っている。変なヤツではあるが技術は私よりはるかに上だ。


「そ、そうでしたか。イクノブ家もさぞや大変だったかと思います」

「い、いえ。大精霊様は私たちに様々なものを授けてくださいました。イクノブ家の者は大変感謝しています」


「そ、そうですか。個人の感情は個人の自由ですからね。オホホ」

「も、もしかして、ヒトミ様は大精霊様のことをご存知なのでしょうか」


「あんなのとは赤の他人ですワ! 残念ながら面識はあります。頼んでもいないのに、私に色々してくださいました」

「私がヒトミ様に助けていただけたように、ヒトミ様も大精霊様に助けていただけたことがあるのでしょうか」


「ま、まあ、そうですわね。私の『合意』もなく勝手に⋯⋯」


 ──ヒトミも「合意」がなかったのでしょ?

 ──ああ、そうだった! でもどうしても助けたかったんだ。


  『どうしても君を助けたかったのだよ』


 ──ウ、ウルサイワイ。今出てくんなし。


「そ、それはともかく、その場所で魔核が浄化されるのですね」

「長い時をかければになります。そこでできた強くて白い霊気をミッちゃんは取り込みました。つながりの緩み方が少しゆっくりになりました」


「白くて強い霊気とは霊珠のことでしょうか」

「申し訳ありませんヒトミ様。この都にあると聞きましたが、今のイクノブ家には霊珠がありません。それがどの様なものであるかは存じません」


 バグが修正されたハイブリッド・ナノマシーンで合っていると思う。ミツエの中にも霊珠はあった。そのときに取り込まれたのだろう。ここの人々は有機ナノマシーンが作る疑似細胞で構成されている。バグのないハイブリッドが悪影響を与えることはない。身体機能や体調が少し良くなる程度だ。だとしても、ミツエが取り込んでシノハの霊気の緩み方が遅くなるものだろうか。シンパシー率に関係しているのかもしれない。


「そのころシノハ様とミツエ様のシンパシー率に変化はなかったでしょうか」

「どうしてヒトミ様はおわかりになったのですか。ミッちゃんが私のために一生懸命になってくれていたとき、第2段階になりました」


「私たちも同じような経験をしたのです、シノハ様」

「ヒトミが頑張ってくれたんだ。シノハちゃん」


 ──ヒトミ、あのときもありがとね。

 ──フタバさんのためなら、いつでも頑張りますワ!


 ──もう、ヒトミったら!

 ──ですので、そろそろ剣気を飛ばすのはやめていただいても構いませんコトヨ、オホホ。


 ──ふふ、それはヒトミ次第かな。

 ──私の一番目はいつもフタバさんですワ!


 ──ありがとうヒトミ。私のことを一番に想ってくれて。

 ──当然ですわ、フタバさんはいつも一番目ですワ!


 ──とってもうれいしいよ、ふふ。

 ──フタバさんの寛容さはワタクシもうれしいですワ!


 バシバシ飛んで来た剣気の数が減る。まだときどき飛んで来る。これは、あれだ。仲よくおしゃべりするとき、相手の肩を軽くたたくようなものに違いない。親愛表現の一つですワ。ちょっと強めだけど親しい相手同士ならこんなものですワ!


「そ、その後はどうなったのでしょうか」

「そこで浄化された魔核はミッちゃんが全て取り込んでくれました」


「全てでしょうか」

「浄化には長い時がかかります。浄化されたものはそれほど多くはなかったのです。ミッちゃんは浄化が済んでいないものまで取り込み始めました」


 シノハの顔が悲しそうに歪む。


「その頃からミッちゃんの体の中に黒いものができて大きくなってきました。体も黒ずんできました」


 あれは日焼けではなかったのか。


「何度もミッちゃんを止めようとしました。でも私の中の霊気の緩みが進むたびに、ミッちゃんは浄化の済んでいないものを取り込みました」


 光るものがシノハの頬をつたい落ちる。


「全部⋯⋯私のせいです。でも私の力では、ミッちゃんの中の、黒いものを、消せません。ヒトミ様、どうか、お願いします。ミッちゃんの体を元に戻して⋯⋯くだ⋯⋯さい」


 もう言葉も続けられないようだ。


「ええ、もちろん構いませんよ、シノハ様」

「私も手伝うよ、シノハちゃん」


 私とフタバでシノハを優しく包み込む。

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