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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
青の書
44/365

第十三話 還る理由


 □□■□


「⋯⋯ツグミ様」

「まあ、とうとう気になるお相手でもできましたか、フタバ?」


「い、いえ、私にはまだ早いかと思います」

「あら? 恋に早すぎるということはありませんよ、フタバ。ふふ」


「わ、私には、ツグミ様と兄上と父上がいてくだされば十分なので」

「まあ! なんて可愛らしい妹ですこと。姉としてはとても嬉しいのだけれど、妹の将来が少し心配ですよ。うふふ」


 最近はこの手の話でよくからかわれる。ツグミ様が楽しんでおられるようなので、構わないのだけど。ツグミ様に手伝っていただき、初めて自分の霊気を動かせた日から何年か経った。ほんの小さな怪我なら治せるようになった。本当に小さな怪我だけだけど。


 今ではツグミ様も自分のお体をまとわれる。剣術の稽古も付けてくださる。もう少しすれば私の体を直接動かせるようになられそうだ。父上の話では、そこまで強い精霊様は滅多にいなかったそうだ。でもツグミ様なら大丈夫だと思う。お体をまとわれるのも早かった。


 ツグミ様に動かせていただければ、奥伝の技を直接教えていただける。私はまだ中伝なので、早く奥伝の技を直接学びたい。でも最近気になっていることがある。先日はツグミ様からその話を聞いた。本当は考えたくもないことだけれど。


「⋯⋯精霊様方は何故お還りになられるのですか」

「精霊は霊気のことをよく知っているという話はしたと思います」


 本当はほかの精霊様方のことを聞きたい訳じゃない。でも言葉にすることができない。ツグミ様は察してくださったのだろう。ほかの精霊様方のことのように話してくださる。


「⋯⋯はい」

「霊気についてよくわかってくると、次第に『声』が聞こえるようになってくるのです」


「声ですか」

「ええ、多くの霊気から聞こえてくる声です。この世界の成り立ちについて何度か話したことがあるかと思います」


「多くの霊気で形造られていると、お聞きしました」

「生き物の全てが霊気でできています。それらから聞こえてくる声が、日に日に大きくなってくるのです」


「どのような声なのでしょうか」

「⋯⋯助けを求める声です」


 っ!


「この世界の生き物全てが助けを求めています。精霊の力を必要としているのです」


 ツグミ様にも声が伝わってくるのだろう。だからこんなにも詳しく話してくださるに違いない。


「精霊にも意思はあります。自分達の子孫を守りたいという気持ちもあります。ゆえにこの世界を終らせるわけにはいきません。必ず守り切ります」


「でもツグミ様! わ、私は、ま、まだ」

「ふふ、大丈夫ですよフタバ。私は世界より妹を守り続けたいのです。だからそんな顔をしないでね」


 助けを求める声をツグミ様が放っておけるとは思えない。


「世界のために力を使った精霊は、もどってくることもあります。その時は以前に憑いた者の子孫の精霊になることが多いのです」


 だから最近はいつもあんな話をされていたのだろうか。


「ふふ、フタバちゃんのいい人を早く見てみたいわ。だからフタバちゃんも頑張って早く見付けて、ね」


 いつの間にかツグミ様は私を優しく包んでくださる。背中を緩い調子でたたいてくださる。まるで母親にあやされる子供みたい。私は優しく包まれながら、子供のように泣き続けた。



 □□■□


「フタバ、気を付けて。嫌な気配です」

「はい、ツグミ様」


 ツカハラ家の近くでは数年に一度魔物の数が増える。数十年に一度は数だけでなく、魔物も強くなる。


 今日はずっと魔物との戦いが続いている。ツグミ様のお姿がときどき薄くなるのが気に掛かる。ツグミ様と私は先ほどまで大きなクモの魔物と戦っていた。私一人では倒せなかったと思う。


「ツグミ様、ありがとうござ、えっ?」


 急にツグミ様が私を突き飛ばす。私がいたところを何かがすごい速さで通り過ぎる。


「い、いったい。ツ、ツグミ様!」


 ツグミ様は初めて見る魔物と対峙していた。魔物? でもあれは。


「フタバ、動けますか」

「は、はい」


「ならば、すぐヨシヒデさんに報告を」

「え、私も一緒に」


「なりません、すぐに下がりなさい!」


 今まで聞いたことがない厳しい口調だ。ツグミ様と魔物の戦いが始まる。ツグミ様が押されている。私はツグミ様の助勢に向かった。


「フタバ!」


 私の技量では、却って邪魔になってしまうかもしれない。でもここでツグミ様から離れることなど、できはしない。


「くっ、万物に宿る者たちに、願いたてまつる」


 祝詞(のりと)? でもあれはかなりの消耗をするはず。ツグミ様のまわりに緑の光が集まってくる。今までみたことがない大きさだ。


挿絵(By みてみん)


 それを魔物に向かって放つ。魔物が後ろに飛んでいく。


「ツグミ様!」


 ツグミ様がその場で膝をついていた。お姿も薄く見える。私はすぐにツグミ様にかけよる。私は自分の霊気をツグミ様に送る。やがて少しだけ色合いが安定してきた。


「⋯⋯ツグミ様、あの魔物は何なのでしょう」


「あれは魔人と呼ばれています。魔人は元々、人や精霊なのです」

「ひ、人に、精霊ですか」


「魔人になるものは、元々強いものが多いと聞きます。魔人と戦うものは、奥伝の上位以上のものに任せるよう言われます」


 私が知らなかったのはまだ中伝だったからだ。兄上や父上なら戦いになったのだろう。私は助太刀どころか足手まといだ。


「フタバ、まだ終っていません」

「っ!」


 先ほどの魔人が再び近付いて来る。赤味ががった瘴気をまとっている。背が高い男の人のようにも見える。


「さぁ、フタバ。今からヨシヒデさんかヨシノリさんを呼んで来てもらえませんか」

「ツ、ツグミ様はどうされるのです?」


 ツグミ様の霊気はまだ戻っていない。十分な力を出せるようには見えない。私がいたからだ。ツグミ様に無理をさせてしまった。


「私もツカハラ家の者。果たすべきつとめがあれば、それを果たします」

「ツ、ツグミ様。私もおともさせてください」


「絶対に、なりません!」


 さきほどとは比べられないほどの厳しいお声だ。


「⋯⋯フタバ、いずれ私はあなたの子孫の精霊になるかもしれませんよ。ふふっ。今は生き延び子をなすことも考えてください、ね」


 そう言うとツグミ様は魔人と対峙する。後ろには通すまいとの強い決意が伝わってくる。冷たいかたまりが体の奥から這い出してくる。


「フ、フタバ!」


 気が付くと駆け出していた。わかっている。ツグミ様のお力にはなれない。それでもツグミ様を置いていくことなどできない。せめて一太刀。少しでもツグミ様の負担を軽くするんだ。太刀を届かせることだけに集中する。守りや後のことは考えない。私は今までで一番鋭い打ち込みを行った。



 □□■□


 魔人はいなくなっていた。身体中がきしむ。私はもう駄目かもしれない。でもツグミ様が無事ならそれで。


『⋯⋯フタバ、聞こえますか』


 ツグミ様の声がする。


「は、はい。聞こえています!」

『そう、良かったわ。うふふ』


 ツグミ様の話し方はいつもと同じだ。ただ何か違和感を感じる。


「⋯⋯ツグミ様、魔人はどうなったのです」

『ええ、何とか追い払えたわ。妹が助けてくれたおかげね。ふふっ』


 どうやら勝てたようだ。ツグミ様も無事だ。体の痛みも引いてきた。そこでふと気が付く。ツグミ様のお姿が見えない。


『フタバ、体の具合はどうですか』

「は、はい、もう少しすれば動けそうです」


 声は聞こえる。でもお姿が見えない。


『そう、良かった』


 声は頭の中から聞こえていた。


「ツ、ツグミ様?」

『⋯⋯精霊は大きな力を使いすぎると、早く還ることがあるの。今回の相手は手強かったから、ね』


 私のせいだ。私が足を引っ張ったから。気が付くと体のまわりに光が集まっていた。


「ツ、ツグミ様。治療はいいので少しでも早く」

『うふふ。だーめ。これはかわいい妹のためにできる最後のことだから、ね』


 最後って何? お母さんも最後に何か。


『フタバちゃんの精霊になれて良かった。フタバちゃんのお母さんになれて良かった。フタバちゃんのお姉さんになれて良かった。フタバちゃんと出会えたことが、私にとって一番の幸せなのよ。うふふっ』


 声がだんだん小さくなる。


『フタバちゃんのいい人を見ることはできなかったけど、もう一度精霊になれるんだったら、フタバちゃんの子孫がいいなあ』


 やがて私も意識を失った。

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