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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
緑の書
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第四話 重なった


 □□□□


 その後何度か練習が続いた。場所や人数、武器も様々だ。少女は剣が多かった。武器として合っているという理由もあると思う。他の武器を使うときもあった。ただ剣を使っているときは必死に何かを振り払うかのように打ち込んでいた。


 次のステージにきたとき、再び違和感を感じた。いや、これが普通のゲームなら何もおかしくはない。むしろありふれてさえいる。場所は屋外だ。キャラは少女と青年の二人だ。二人とも簡単な鎧をつけている。武器はやはり剣だった。小刀ぐらいなら忍ばせているのかもしれない。


 私はいつの間にか二人を「兄妹」として見るのをさけていた。これからおこるイベントを察したからだと思う。これもゲームではありふれたイベントだ。「負確」などと言われていたらしい。ただこのゲームはやけにリアルだ。練習中の怪我もリアルのものと同じぐらい再現性が高かった。その後のステージにしばらく出てこないほどだった。青年の方はすでに手傷を負っている。少女一人だと今回の相手は難しいと思う。


 兄妹と思ってしまったのが失敗だった。これほどリアリティがあるとは最初思わなかった。今も少女は懸命に青年を支えようとしている。青年は立つのが精一杯だ。今夜Cレベルのアプリで私が体験したことを今からこの二人も体験するのだと思う。この後のステージにこの二人は出てこなくなるのだろうか。


 古武術のアプリのはずなのに、大型のモンスターが三体出現していた。まだ一周目の途中だ。この先この二人が出てこなくても、ニ周目には何事もなかったかのように、あの道場から始まるのだろう。そのときにこのモンスターに勝てるように鍛えるか、まったく感情移入しないようにすれば良い。少女と青年が何か言い争っている。青年は少女を逃がしたがっているようにみえる。少女はそれに同意しようとしない。


 ⋯⋯あのときの私と同じだ。


 ここで二人を助けたところで特に意味はない。私が行うニ周目以降か、別の誰かがプレイすれば同じ結果になる。もうすぐAレベルにあがれる。ここで下手なことをしてペナルティをもらうのは賢い選択ではないだろう。心の中で、やらない理由を積み上げていく。


 三体のモンスターのうち、一番近くにいたやつが二人に迫ってくる。少女をかばうように青年が前に出る。少女も青年を守ろうとしている。モンスターの一体が更に二人に近付いた。このまま二人ともモンスターに倒されてしまうのだろう。


 気が付くと走り出していた。


 馬鹿なことをしているのはわかっている。意味がないであろうこともだ。私の今のアバターは普段と同じパラメータだ。ゲーマーの平均値ぐらいでしかない。それでもいくつもの動き方が染み付いている。素早く二人の前に出る。勢いをころさずそのまま蹴りを放つ。


 くっ、すり抜けてしまう。追加の拳も効果はなかった。なら、少しばかりのペナルティではすまないけど、別の方法だ。私は周りのプログラムの一部を書き換える。間髪入れず、爆炎を放つ。さっきデバッグした剣と魔法もののゲームで使われていたものだ。炎のエフェクトは発生した。ただダメージをあたえていない。


 ならこっちだ。私は二人の前に飛び込む。二人ともおどろいている。いや今はこの二人を連れて逃げるのが先だ。少女に触ることはできたはず。少女と青年の手を取ろうとする。


 な、なんて、意地の悪い。少女を軽くつかむことはできた。青年は無理だった。少女だけでも連れて行くことはできるか。いや彼女は青年から離れようとしない。二人分はさすがに無理だ。一人だとしても抵抗されたら簡単にふりほどかれてしまう。


 それを見ていた「兄」は私に礼をし「妹」を私の方へ押しやりながら、モンスターと対峙しようとした。後ろには通すまいとの気迫を感じる。


 くっ、ふざけるな!


 兄にかばわれ、残された妹が、どんな気持ちになるのか知っているのか!


 大切な人を失う場面なんて二度と見たくない!

 それがゲームであってもだ!

 それが他の人にとって大切な人でもだ!


 == エモーショナル・シンパシー率が一定値を超えました。これより第1段階(ファースト・フェーズ)に入ります ==


「『お兄ちゃん!』」


 初めて「妹」の声を聞いた気がする。いつの間にか叫んでいた言葉と同じだったので気のせいかもしれない。私は妹と「重なった」



 □□□□


「フタバ、このことを父上に!」

『し、しかし、ヨシノリお兄ちゃ、いえ、兄上』


 やっぱり兄妹だった。もうペナルティは気にしないことにする。この体はあの少女、フタバのものだろう。両足から地面の感触が伝わってくる。右手の剣、いや太刀の感覚もだ。これなら何とかできるかもしれない。


 意味があるかどうかはわからない。大きく息を吸い息合いで気持ちを鎮めようとする。


 ⋯⋯落ち着け、まずは落ち着くんだ。


 多分今の状況は何らかのアクシデントだ。ここで自動ログアウトでもすると、この兄妹を助けることができなくなる。心拍数の急上昇や脳波の大きな乱れはまずい。設定しておいたセーフティが接続を遮ってしまう。


『あ、あの、精霊様でしょうか』

「精霊? ああ、そういう設定なのかな。まあ、そんな感じだと思う」


『せ、精霊様、ど、どうか兄上だけでも助けてはいただけないでしょうか』

「うん、もちろん、そのつもりだよ」


 私は近くのモンスターをあらためて見る。体高は2mぐらい。カマキリに似ていた。今日私を散々食べたやつを思い出す。軽く一歩踏み出す。驚くほど反応が良い。アバターのパラメータを上限まであげたときと同じぐらいだ。物理演算もリアル並みの再現度だ。ひょっとしたらそれ以上かもしれない。いや、それは後だ。


 カマキリが振ってきたカマをやり過ごす。そのまま振られたカマを足場に駆け上がり、カマキリの首を斬り飛ばす。残りのニ体はまだ間合いの外だ。首を失ったカマキリは倒れた。これ以上襲ってはこないようだ。


「フタバではない?」

「ええ、今はお体をお借りしています」


 残りのニ体もカマキリに似ていた。体のつくりや能力もおおきくは変わらないはず。先ほど振られたカマから推測値が得られた。それにカマキリの動きは食べられたときに散々見ている。歩きながら補正値を加えていく。


『せ、精霊様!』


 そうだった。これは私のアバターではない。


「失礼しました。5%ほど安全マージンを増やしました。この体は無傷でお返ししますので、もうしばらく貸してはいただけないでしょうか」


『は、はい、それは構いません』


 フタバと話している間にニ体目の間合いに入る。一瞬半歩だけ下がる。カマキリの間合いの6%ほど外だ。10cmは離れたところをカマが通り過ぎる。胸元に引き寄せられるカマの後を追い間合いをつめる。同時に逆袈裟に斬り上げ、動きだそうとしていた反対のカマを斬り飛ばす。下から斬り上げる比較的弱い太刀になる。関節の繋ぎ目を狙った。


 三体目のカマキリがニ体目のすぐ後ろから現れた。大きなカマはまだ三本残っている。アゴの動きにも注意する。足さばきと体さばきで位置を調節しながら三本のカマを同時に往なす。この動きも古武術のものだ。複数の相手を同時にさばく動きの応用になる。名前は確かナガレハだった。


 三体目のカマの動きが乱れた瞬間、ニ体目のカマキリの残りのカマを斬り飛ばす。近くの岩を足場にとび上がりながらニ体目のカマキリの首を斬り飛ばす。空中で手首を返し幹竹割りに真っ向から三体目のカマキリの頭部を狙う。少し無理な体勢だったからかもしれない。太刀が途中で折れてしまった。


『せ、精霊様!』

「フ、フタバ!」


「申し訳ありません。こちらの間合いが短くなってしまいました。相手のふところに入らせていただきます」


 中途半端に下がるより、今の位置なら間合いをつめた方が安全だ。それにこの位置からの方が出しやすい技もある。振ってくるカマを受け流しつつ間合いをさらにつめる。近付いたところへ上からカマがおりてきた。短くなった太刀で受け、下に往なしながら、切っ先の向きをスウと変える。


 互いが進む力を利用し、カマキリの腹部の上の方へ太刀を突き刺す。背脈管と腹部隔膜と呼ばれる心臓に似た部分に届いたようだ。太刀をねじりながら、残りの柔らかい部分をさらに斬り裂く。残っているカマに気を付けつつ2歩下がる。これでカマキリの間合いの外だ。


 今使った技は小太刀を使った古武術の技の一つになる。技の名前はエンヒだったはず。受け流した太刀を足で抑えるなどの変化もある。私が再現に協力したものの一つだ。心臓に似た部分を傷付けられれば、さすがに動きがにぶるようだ。カマキリの上半身が下がってきた。小太刀でも頭部に届く距離だ。私は最後のカマキリの頭部を斬り飛ばした。

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