第ハ話 休憩所
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ヒトミ様が休憩所も作られた。ほかの方たちはそのできばえに満足されていた。でも私はそれどころではなかった。ムツミ様も多分おんなじだと思う。ヒトミ様は広場の端にあった木を、アッサリほどかれた。フタバ様と何かお話をされながら!
あのお二人は多分私とミッちゃんよりシンパシー率が高いと思う。第2段階の私達でも心に強く思った気持ちは伝わる。ヒトミ様とフタバ様は普段の会話のように自然とそれをなされる。しかも普通の会話よりずっと速くお話をされているみたい。普通なら数回は息を行う時が必要そうなお話や相談も、一回瞬きをする時で行われているみたい。
法術を使う巫女や精霊様は、自分の体内にある馴染んだ霊気を使い、まわりの馴染んでいない霊気に動いてもらう。直接馴染んでいない霊気を動かすのは難しい。ほかの生き物に馴染んだ霊気なら尚更動かしにくい。強い法術を使う精霊様でも、ほかの生き物を霊気に戻されることは難しいと思う。ヒトミ様はお話の合間にそれをなされた。ヒトミ様はそのほどいた霊気を使って机や椅子、水を引く管などもアッサリ作られた。しかもフタバ様とのお話の合間に!
私が法術を使って同じことをするのは難しい。時をかければ一つぐらいならできるかもしれない。あのような短い時だと私にはできない。茫然としている私とムツミ様に対し、ヒトミ様は椅子に座って休むよう優しく促してくださった。
この椅子や机のできも見事すぎる。ほどかれた霊気で作られたのに、本物の木を削って作られたみたいに見える。私が時をかけてもこれほどのものは作れない。表面がゴワゴワして色もくすんだものしかできないと思う。この椅子や机は木目まで作られている。しかも表面が磨かれたようにキレイだ。何か透明なものまで塗られている。ムツミ様も同じように感じられているご様子。休むどころか二人とも更に唖然としてしまっている。
⋯⋯里に帰りたくなってしまった。
ムツミ様もお誘いしよう。ムツミ様の里はもうなくなったとお聞きした。それならイクノブ家でゆっくり過ごしていただいても構わない。
ああ、あの野山が懐かしい。
今ならあの山菜が採れる頃だろうか。
川魚も添えればご馳走になる。
ううん、ダメ。ミッちゃんを放ってはおけない。ならミッちゃんとイノカ様もお誘いすればいいのかな。でもミッちゃんはすぐには付いて来てくれないと思う。今は先にやりたいことがあるみたい。
「お加減はいかがでしょうか」
「お、お気づかい、ありがとうございます。ヒトミ様」
「う、うー」
ヒトミ様がいつもの優しい眼差しで、ゆるやかに声をかけてくださった。
「⋯⋯まだ気分が優れないようですね」
あのウサギの家族はまだいるかな。
もう誰かに捕えられてしまったかもしれない。
まだ無事だと嬉しいな。
「冷たいものでも召し上がりませんか」
ヒトミ様はそうおっしゃると、奧の水を霊気でキレイにされ、その場でお作りになられた縦に長い器に水を入れて持ってこられた。私とムツミ様がそれをいただく。水は冷やされ氷が浮いている。果物の香りと味もする。ただの川の水だったはずなのに、とても美味しい。
あの果実も食べられる頃かな。
ううん、景色だけでも見たいな。
もう帰ろうよ、ミッちゃん。
返事をすることもできない私とムツミ様の様子を見て、ヒトミ様が更に心配されているみたい。いつの間にか切り分けられた果物が机の上に並べられていた。さっきまではなかったのに。木の皿や楊枝もある。
「ふう、ちょっと一息入れるわね。これはシノが用意してくれたの」
「あら美味しそうね。私もいただいて構わないかしら」
「ヒトミ様がご用意してくださいました」
「うー」
「結構というかかなりイケルわね。シノも食べなさいよ」
「本当、美味しい。こんな果物ここにあったかしら」
イノカ様、先ほどまではありませんでした。
「ありがとうヒトミ。私ももらうね」
ミッちゃんにすすめられたので、私もいただきました。ムツミ様も召し上がっています。今まで一度も食べたことのない果物です。とても美味しくいただけました。
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場がととのったので稽古が始まった。フタバとイノカが木刀で打ち合い出す。ここに来る前に学舎で教練をしていた。準備運動は必要なさそうだ。ミツエは一人で体術の形をやり始めた。拳法と柔術にある技を練習している。
小刀の二刀流も使えると聞いた。二刀流を太刀で行うのは難しい。片腕だと力も必要になる。腕や手首の回転も入れにくい。小刀や小太刀に向いていると思う。抜刀術なら初太刀が片腕のときもある。ただどちらかというと防御が強いと思う。とっさの攻撃を受けるのに向いている。抜いた後は両手持ちにする方が多い。
ミツエが練習しやすいように巻き藁を何種類か作っておく。
「うん、良い感じよ。ありがとうヒトミ」
「後で稽古もお付き合いいただけませんか、ミツエ様」
「えっ、ありがたいけど、ヒトミも体術を使えるの?」
「少したしなむ程度でしょうか」
「それでも構わないわ、あの二人は剣術が中心みたいだし。相手をしてもらえるだけで助かるわ」
「では後程お願いします。今は少々あちらが気になりまして」
「そうね、さっきからシノの様子が変なの。ムツミもだけど」
「先にあちらの様子をうかがっておきたいのですが、よろしいでしょうか」
「ええ、頼んだわよ。私は作ってもらった巻き藁で鍛練しておくわ」
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私はさきほどから調子が悪いように見えるシノハとムツミの方へ向かう。何か気に掛かることでもあるのだろうか。
「お加減はいかがでしょうか、シノハ様、ムツミ様」
声をかけても二人ともあまり反応しない。暑気にでもあてられたのだろうか。熱中症にでもなりかけているのだったら水分補給だ。ちなみにこの世界にも病気はある。体の構成もリアルと見分けが付かないほどだ。リアルにある病気にと似ているものに、かかってしまうときもある。体調をくずすことがあるのも、リアルと同じだ。
宇宙ステーションなどで長期間生活する人が一度も病気にかからないと、免疫力が落ちてしまうこともある。現在リアルで稼働中の宇宙ステーションでは、軽い症状の病原菌やウィルスを不定期に散布する。医療用エリアなどは除外される。この世界はリゾート用宇宙ステーションの再現データで作られた。内部の多細胞生物の大きさは、全て10分の1に設定されている。体感的には10倍の大きさに感じられる。病原菌やウィルスも有機ナノマシーンで再現されている。それとは別に呼吸器系や循環器系などの病気もある。
北の山脈の瘴気で体調をくずす人もいる。弱い瘴気が風に運ばれて来ることもある。ツグミさん達のおかげで、この世界の人々や生物の瘴気への耐性は、世代ごとに強まっている。風で飛ばされて来る弱い瘴気の侵食が広がらない理由でもある。
この世界の食べ物も、複数の有機ナノマシーンが作る疑似細胞でできている。食べる方も疑似細胞で体が構成されている。普通に食べることができる。疑似細胞を摂取すればビタミンやミネラルの代わりをしてくれるものも取り込める。
それ以外にも有機半導体で作る光電素子や熱電素子も含まれている。疑似葉緑体まで作ることができる。化学エネルギーがメインのエネルギー源になる。電気エネルギーでも動かせる。電磁波や電気信号でプログラムの送受信も行える。時間はかかるが化学物質を使ってもプログラムを伝えることもできる。たくわえられている電気エネルギーを使い、片面を冷やすこともできる。もう一方の面は熱くなる。一つのナノマシーンではたいしたことはできない。いくつものナノマシーンを使えば即席の冷蔵庫ぐらいのことはできようになる。
ともかく水分補給だ。私は二人の飲み物を作りだした。




