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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
青の書
37/365

第六話 稽古


 □□□□


「私どもとともに稽古をいたしませんか、イノカ様」


 ここは寮の食堂。昨夜は色々あって、一緒に食事ができなかった。朝に声をかけ、朝食をともにすることになった。フタバとイクノブ家の二人もいる。ムツミは昔の習慣が残っていてまだ眠いのか薄い影の状態だ。


「それは、こちらとしてはありがたいのだけど、私まで入れてもらって良いのかしら、フタバ」

「もちろんです、イノカ様」


 魔人の情報は引き続き集めることになった。まだあまり進捗がない。その間に何かできないかとフタバと相談した。フタバはイノカと一緒に稽古をしたそうだった。強くなりたいという気持ちもあった。フタバの気持ちを汲んで私もそれに参加することにした。


「ただ、お誘いしておきながら申し訳ありません。人前ではあまり稽古や鍛練はしないようにしております。どこか人目の付かぬ場所となってしまいますが」

「ええ、それで構わないかしら。他家の方達も家にお留めの技はそうやってみがくと聞いたわ。この寮の裏手にも何年か前まで使わわれていた場所があるそうだわ」


「では本日の教練は早目に切り上げ、そちらの様子をうかがってみましょうか」

「ありがとう。これがヒトミ様が言っておられた新しい世界というものなのね。あなた達と出会えて良かったかしら」


 な、何だと! 人気のないところで新しい世界をする場所まであるとは。ここはやはり女学校だった。


「まだまだ序の口でしてヨ、オホホ」

「そ、そう。まだ序の口なのね。いったいどこまでしてもらえるのかしら」


 少し顔を赤くした新しいイノカさんが、モジモジする。


「⋯⋯あの、ヒトミ様。よろしければ私もときどきご一緒させていただけないでしょうか」

「シノもやるの? じゃあ私もやろうかな」


 何やら決意を固めた様子でシノハが言ってくる。ミツエも参加するようだ。


「え、ええ。も、もちろん構いませワヨ。シノハ様、ミツエ様」


 こ、ここはもしや桃源郷? そんな桃色の世界だったとは。しかしシノハとミツエの外見はやや幼い。いや、表現しなければセーフだ。行間で何をやろうと、それは規制されないハズ。


「じゃあときどきムツミも一緒でも構わないかしら」

「も、もちろんでしてヨ、オホホ」


 ムツミもだと? そ、それは流石にマズイのでは? いや、これもきっと乗り越えられる。心を強く保て。先ほどからフタバの剣気がバシバシ当たってくるが、今気にするのはそこじゃない。この秘密の花園は私が守るんだ。



 □□■□


 ──もうっ、ヒトミったら。

 ──ごめん、フタバ。


 ヒトミと相談してイノカ様と稽古をすることになった。今の私ではあの赤い瘴気を放つ魔人に勝てない。私よりずっと強いイノカ様でも相討ちのお覚悟を決めるほどの相手。ツグミ様でも追い払うことしかできなかった。私が弱かったから。もう足手まといにはなりたくない。もっと強くなるんだ。私の気持ちがわかるヒトミが稽古を提案してくれた。


 いつかの強い魔獣との戦い思い出す。あのときヒトミは私の戦う相手を慎重に選んでくれていた。強い相手は全部ヒトミが受け持ってくれた。そんなに緊張しないで戦えたと思う。おかげで私も少しは強くなれたと思う。兄上や父上には到底及ばないけど。


 ヒトミはとても暖かで優しい。いつも私のことを気遣ってくれる。昨日もそう。ヒトミがいてくれたから、私も前向きになれた。ヒトミが優しく包んでくれたから、うずくまらずに済んだ。本当はまだ心の中の冷たさは残っている。ヒトミの優しい暖かさで包んでもらえたから、今はあの魔人と向き合える。


 でもときどきヒトミは別のことに気を取られる。私もヒトミの気持ちがわかる。本当は私のことだけを想っていて欲しい。ううん。私のことをいつも想ってくれているのはわかる。ただヒトミの大きな優しさは周りの人も包み込もうとする。イノカ様や他の人のことも放っておけないみたい。私もイノカ様のお気持ちはわかる気がする。お手伝いを申し込まずにはいられなかった。


 本当は私のことだけを見ていて欲しい。でもヒトミがまわりの人のことを放っておけるとは思えない。寂しくないと言えば嘘になる。でも優しくないヒトミなんて想像もできない。なら私がヒトミに合わせられるぐらい、大きな優しさを持てれば良いのかな。


 ──ヒトミはまわりの人のことを放っておけないんだね。

 ──そ、そんなことはないと思うけど。


 ──ふふ、嘘をついてもわかるかな。

 ──う、嘘なんてついていませんワ!


 ──でもイノカ様のことは放っておけないんだよね。

 ──うん。


 ──優しくないヒトミなんて想像もできないから。私もヒトミと同じぐらい優しくなっていくね。

 ──フタバは優しくて良い子だよ。


 ──ありがとヒトミ。

 ──ううん、本当のことだから。


 ──意味は良くわからないけど新しい世界というのも頑張ってみるね。

 ──えっ、いいの? 本当に?


 ヒトミが嬉しそうにする。ちょっとムッとした。


 ──でもヒトミの一番は私じゃないとイヤなの。ごめんねヒトミ。

 ──も、もちろん、私の想いはフタバさん一筋ですワ!


 ──もうっ、ヒトミったら、ふふ。


 少し心が満たされる。



 □□□□


「このあたりだったと思うかしら」


 ここは寮の裏手の奧の方。今朝の話にでてきた人気のない場所。フタバとイクノブ家の二人もいる。ムツミも今はナノマシーンを身にまとっている。この世界の生物もナノマシーンで構成されている。実体を持った精霊と人々の区別は付かないほど、どちらも再現度が高い。


 ムツミはイクノブ家の二人よりずっと幼く見える。精霊の外見はある程度自分で変えることができる。ムツミは精霊になったときに幼かったので、そのあたりのことに慣れていないそうだ。言葉もあまり思いだせていないようだ。イノカと二人だけのとき少しは話もすると聞いた。


 ⋯⋯精霊になったとき幼かったのか。


 多分イノカの里が滅ぼされてしまった頃だろう。イノカもそのときのことは、あまり話したくないようだ。原因となったイノカの先祖の精霊は、赤い瘴気をまとう魔人になった。ムツミも薄い影のときはときどき薄い赤色に光る。


 霊気の光は家ごとに特徴があるらしい。ムツミとイノカのオオエヤマ家は薄い赤色で、シノハとミツエのイクノブ家は薄い青色だ。ツカハラ家は薄い緑だった。私も薄い緑をおびた光を出す。霊気は有機ナノマシーンなどでできている。移動中のナノマシーンは有機半導体部わからわずかにエネルギーがもれる。ある種の発光ダイオードのように光るときもある。もれていくエネルギーなので制御はしにくい。様々な色合いになってしまう。家ごとに特徴が違うのは、ナノマシーンの扱い方が微妙に異なっているからだと思う。


「ちょっと足場をととのえた方が良さそうね。シノはどう思う?」

「ミツエ様のように体の鍛練をされるのでしたら、もう少し足元が見えた方が、怪我をされにくくなると思います」


「怪我をしてしまうと治すのに時がかかってしまい、稽古の量が減ってしまいます」

「ええ、治療に時を取られては本末転倒かしら」


 広さは十分だった。長い間使われていなかったためか、背の低いの草が繁っている。小さな岩もところどころに見える。


「では、少し下がっていただけますか。場をととのえてみます」


「えっ、今から?」

「法術でしょうか、ヒトミ様」

「こんなに広いのに、一人で大丈夫かしら」

「ヒトミなら大丈夫ですよ」


 フタバ以外の人の前では、あまりナノマシーンを動かしていない。この世界でナノマシーンを動かすことは法術と呼ばれる。


「ええ、このくらいなら何とかできるかと思います」


 そう言って私はナノマシーンを動かし始めた。

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