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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
青の書
36/365

第五話 魔人の行方


 □□■■


 私とシノは姉妹のように育った。一緒に生まれてきたから。双子だったわけじゃない。生まれる少し前の巫女に、精霊様が憑いたから。生まれてすぐに体をまとわれたそうだわ。イクノブ家でも初めてのことだそうだ。他家でも聞いたことがないとのことだった。体をまとわれるとき一人が二人に別れたように見えた。どちらが巫女でどちらが精霊様かもわからなかった。普通の精霊様は数年から十年ほどで還られる。十を過ぎても私達はまだともにいた。これほど長い時を過ごされる精霊様は珍しい。



 □□□□


「シノハ様、ミツエ様、少しお話をさせていただいてもよろしいでしょうか」


 私とフタバは先ほど聞いた魔人の情報を求め、イクノブ家の二人がいる部屋へ向かった。


「私は良いけど、シノは?」

「はい、私も構いません、ミツエ様」


「少しおたずねしたいことがあります。何年か前にオオエヤマ家の里に出た魔人のことです」


「ああ、あの魔人ね。私は直接見てはいないけど、シノはどう?」

「私も一度遠目に見たぐらいです」


「人から聞いた話でも良いので、何か覚えていないかな」


「急にどうしたの、もしかしてイノカ?」


「ええ、そうです、ミツエ様。イノカ様のお力になることになりました」


「遠目に見ただけですが、瘴気は薄い赤色だったと思います、ヒトミ様」

「人から聞いた話だけど、少し背の高い男の人だったそうよ」


「⋯⋯赤い瘴気に、背の高い男の人でしょうか」


「そうね、剣術も強かったと聞いたわ、イクノブ家の者でもかなり強い人しか、相手にならかったそうよ」


「奥伝か皆伝ぐらいの強さですか、ミツエ様」


「フタバ様、申し訳ありません。私たちはその頃十を少し過ぎたほどでしたので、そこまで詳しくはうかがっておりません」


 うん? 私たち?


「ううん、ありがとう、シノハちゃん」


「初伝の人が何人か負けてしまったから、中伝以上だとは思うわ」


「⋯⋯そうでしたか、余計なことを聞いてしまいました。申し訳ありません、ミツエ様」


「いいわよ。イクノブ家の近くでも魔物に襲われる人は出るから、気にしていたらキリがないわ」


「でも、人が亡くなるのはやっぱり悲しいです。ごめんなさい、ミツエ様」


「お気になさらず、ヒトミ様、フタバ様」


「その後、西の方へ行ったと聞いたわ。私が知っているのはこれくらい。シノは?」

「私もそれ以上のことは聞いておりません」


「とても参考になりました。ありがとうございます。フタバ、そろそろおいとましましょう」

「うん、ありがとう。シノハちゃん、ミツエ様」


 西へ向かったのか。



 □□■□


 ──ねえヒトミ。

 ──うん、でもまだ確定じゃない。


 シノハちゃんとミツエ様のところから、私とヒトミは自分達の部家に戻ってきた。二人の前では平静さを保てていたと思う。でも今は、この場でうずくまってしまいそう。ううん、ヒトミがいなければきっとそうなっていた。ヒトミはいつものように優しく包んでくれる。私の背中に緩やかな暖かさを伝えてくれている。私はヒトミによりかかり、少しでも暖かさを得ようとしている。


 この都から見るとツカハラ家は北西の方にある。イクノブ家とオオエヤマ家は都より北の方にある。どの家も北の山脈の近くだ。イクノブ家から山脈に沿って西の方へ行くとツカハラ家に近付く。赤い瘴気と背が高い男の人で剣術が強いという特徴も一致する。ツグミ様が還られたときの魔人と同じだ。


 私を包む暖かさが大きくなる。私を包む優しさが大きくなる。私が自分を責めそうになる度に。私の後悔がふくれそうになる度に。私を包む暖かさと優しさが大きくなる。



 □□□□


 フタバが落ち着くまでこのままでいよう。


 うん? 何か不自然な信号を感じる。いや、フタバじゃない。フタバと私はよりそっていますけど、それなら違和感を感じませんワ。


 部家の外だろうか。この寮の中かもしれない。このあたりまで魔物は滅多に来ない。北の山脈を越えてきても途中で退治される。バグのあるナノマシーンに似た気配がかすかに伝わってくる。ナノマシーン同士の通信は電磁波か電気信号を使うものが多い。時間はかかるけど化学物質でも行われる。その信号のうち電磁波だけが届いている。


 普通のバグじゃないような感じがする。魔物の体を作ることができる量なら、いくつかは私の視界に入る。それにバグも完全なものじゃない。いや、変な言い方だけど。霊気と瘴気の間を行ったり来たりしている。少しでも「見る」ことができれば、もっと詳しくわかる。今は離れたところにあって、信号だけが伝わってくる。


 うーん、信号も強くないので実害はなさそうに思える。ささいなエラーなら自己修復するか機能が止まる。そう思っているうちに信号が届かなくなった。霊気に戻ったのか機能を停止したのかもしれない。



 □■□□


 気が付くとミッちゃんがいなかった。ミッちゃんはときどき夜になると出掛ける。最近回数が増えたみたい。あの黒いところも少しずつ大きくなっている。ミッちゃんが私のことを思って行動している気持ちは伝わってくる。私とミッちゃんのシンパシー率は第2段階。互いの思いや考えが少し伝わる。


 私のせいだ。


 この気持ちはミッちゃんに伝わってはいけない。ミッちゃんが悲しんでしまう。その気持ちをそっと押し殺す。ミッちゃんに無茶をして欲しくない。でも私に止められるかな。私にはもう時がない。ヒトミ様に頼んでみよう。あの方はとても暖かな感じがする不思議な方だ。フタバ様もいつも優しくしてくださる。あの二人なら一生懸命頼めば、聞いてくださるかもしれない。



 □■□■


『イノカ様には死んで欲しくはございません』

『ともに戦い生き延びることなら、いくらでも御助力いたします』


 まいったかしら。本気で言ってくれた。アイツを討つことができたら、そこで果てても良かったのに。私にはそんな価値はないのに、本気にしてしまいそうかしら。いいえ、あの二人の言葉に嘘はないわ。だから泣いてしまった。


 不思議な二人だわ。互いに考えていることがわかるだなんて。私と話しているときも二人で相談して決めていたみたいかしら。あの二人には及ばないと思うけどイクノブ家の二人もそんな感じはするわ。巫女と精霊様は皆そうなのかしら。いいえ違うわ。他の巫女と精霊様を見たこともあるけど、あの四人とは違っていたかしら。


 私とムツミの仲も良いわ。元々本当の姉妹だったから。でもムツミに私の考えを読ませるわけにはいかないかしら。ムツミはあのときのことを覚えていない。ならそのままの方が良い。フタバ達のように私達はならない方がいい。少し寂しいけれど、その方がムツミも悲しまないから。


 そういえばヒトミ様が口にされていた「新しい世界」って何なのかしら。その言葉をヒトミ様が口にしようとする度に、フタバがヒトミ様に何かしていたわ。あれも何かを伝えていたのかしら。よくわからないけれど、ヒトミ様が望んでおられるのなら、お返しの意味も込めて、私も加わった方がいいのかしら。あの二人は本当に仲が良いわ。私も最初勘違いしてしまった。その中に入れてもらえるということかしら。


 嬉しいけど私にはそんな資格はないかしら。でもあの二人のように仲良くできるのはうらやましい。ムツミが一緒でも構わないのなら、そんな時が、ほんの少しぐらいならあっても良いかしら。その時にはイクノブ家の二人も誘ってみようかしら。あの二人も仲が良いもの、きっと大丈夫だわ。一度ヒトミ様にきちんと頼んでみるのも良いかしら。

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