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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
青の書
34/365

第三話 イノカの剣


 □■□■


 私は気になっていたことを確かめることにしたかしら。フタバの成長は著しい。そのうち私では敵わなくなるかも。今は三度のうち二度ぐらいしか勝てない。出会った頃は四度うち三度は勝てたかしら。それでも少し驚いてしまった。


 あの時以来私は鍛練に打ち込んだわ。多分色々なことを忘れたかったのだわ。そんなある日、精霊様になったムツミが帰ってきてくれた。嬉しさと同時に不安も感じた。それと罪の意識も。幸いムツミにはあの時の記憶が残っていなかった。それなら思い出す必要はない。私が覚えていれば良いだけだから。


 アイツを討つのは私のつとめだわ。


 それからも鍛練に励んだ。力も付いたかしら。魔物や魔獣相手に戦って経験も積んだ。まだアイツには勝てない。相討ちならできるかもしれないと思えた。少しは自信が付いたころ、手掛かりを求めてこの学園に来たわ。ここには色々な情報が集まってくる。他家の人とも稽古が出来るので目標に近付く為に都合が良かったかしら。


 他家の人との稽古も私の力になった。同時にこのままではまだ足りないとも感じた。他家の人達も強かった。でも私がやったような鍛練まではしていないみたいだった。むしろそれで良いの。あんな思いをする人はいない方がいいから。そんな少しモヤモヤとした気持ちになっていた頃にフタバと出会った。


 フタバは北の守護者のツカハラ家の者だった。あそこの家は何人もの魔人を倒してきた。同じ寮になって話もできるようになった頃、フタバはまだ中伝だと聞いたのだったかしら。ツカハラ家でも魔人の相手をするのは奧伝でも上位の方達だと噂に聞いていたわ。


 少し残念に思いながらも、フタバとの稽古が始まったかしら。私がこの学園に来てから稽古の相手をしてもらえた人達の中には、他家の奧伝の方も何人かおられた。その方達にも私は一度も負けなかった。


 中伝のフタバとの稽古も、ツカハラ家の技を学ぶ機会ぐらいのつもりだったかしら。稽古で立ち合ってみると、フタバは強かったわ。これで中伝? ツカハラ家とはそこまで強いの? それともフタバが特別なのかしら。学園に来てから初めて負けたわ。四度のうち三度ぐらいなら勝てた。でも私の相手はアイツなの。一度でも負ければ、つとめを果たせなくなってしまう。


 フタバとその精霊様のヒトミ様は、話してみるととても優しい方達だった。何か大きなものを二人で乗り越えられたような感じもしたかしら。イクノブ家の二人も仲が良かったわ。いつしか私は四人と過ごすことに少し安らぎを感じた。あの時以来初めてのことだったかしら。


 しばらくそうして過ごしていると、フタバがまだ強くなり続けていることに気付いたの。もちろん他家の方達も私も強くなってきている。ただフタバの成長は著しかった。フタバも昔何かを振り払うかのように稽古をしたのだと思う。でも今はそんな感じがしなかったかしら。だとしたら原因は別にある? その強さは私にも必要なの。


 私はフタバのことを気にするようになっていた。フタバは剣術以外にも弓術をやり始めた。それ自体は別に珍しいことじゃない。ただその上達の早さに驚いたわ。ここまで急に上達した人は初めて見た。何か特別な理由でもあるのかしら。鍛練のやり方は他の人とあまり変わらなかった。一つだけ違うことと言えば精霊様が教えておられたことだわ。ヒトミ様に何かがあるのかしら。


 そういえばヒトミ様は他の精霊様とは違う感じがするかしら。ムツミは特別だから比べることはできないけど、何かが違っておられる。ヒトミ様は普段弓術しかされないわ。その足運びや体配(たいはい)は非常にたくみだった。もし剣術も同じぐらいだったら? それならフタバの剣が急に強くなっていくのもわかるわ。一度頼んでみようかしら。私はヒトミ様に稽古をお願いした。



 □■□■


「始めていただいて構いません」


 一度は断られそうになったので、重ねて頼み込んだかしら。ヒトミ様がフタバの中に入って稽古を付けてくださることになった。対峙した瞬間圧倒的な強さを感じたかしら。フタバの中から聞こえる声はいつもと同じで優しげだった。動きも呼吸でもするかのように自然だった。でも私は思わず、アイツと戦う為の構えをとっていた。防御は最小限だけど必ず仕留める為の技だわ。相討ちでも構わないと思って鍛練を積んできたものだった。


 フタバ相手にそんな打ち込みはできない。体が勝手に反応してしまった。私はフタバに打ち込んでしまったわ。ヒトミ様はとくに力を入れる様子もなく、木刀を軽く持ち上げられた。私が何年も鍛練を積んだ技があっさり受け流された。まだよ。自信がなかった頃に鍛練を積んだ二の太刀を振るってしまった。今度は木刀すら使わず、足さばきだけで避けられてしまった。ここ何年かは一の太刀だけを鍛練してきたわ。それが通じない相手に二の太刀が通用するわけもない。


 もうこれ以上は意味がないことはわかったかしら。私は素直に負けを認めた。これほどまでに強い人がいるだなんて。私がつとめを果たせなかったときに後を託せるかもしれない。一度きちんとお願いしてみようかしら。



 □□■□


 一瞬イノカ様の剣気が膨れ上がった。この感じは私にも覚えがある。後のことや守りを考えずに振るわれた太刀だ。ヒトミは普段と変わらない様子で受け流していた。私には無理だ。それほどにまでイノカ様の剣には気迫が込められていた。二合目は一合目よりもするどくなかった。多分一合目に使われた剣だけを何年にも渡って鍛練されてこられたのだろう。お覚悟も感じられた。目的が誰だかはわからない。そこで果てても良いとのお考えだろう。



 □□□□


「⋯⋯参りました」


 イノカは二太刀だけで何かを悟ったようだ。ここは下手な気休めや慰めを言って良い場面じゃないと思う。


「⋯⋯後でお話をしましょうか、イノカ様」


「お願いしても良いのかしら」


「ええ、構いません。まだ稽古をされている方もおられますから、一度寮にもどりましょう」


 短い攻防だったので、まわりの人にはほとんど気付かれていない。フタバは何かを感じとったみたいだ。私達はそっと退出した。



 □□□□


 寮に戻ってきた私達は、一度落ち着くためにそれぞれの部屋に戻った。話ができるぐらい落ち着いたら、イノカがこちらに来ることになった。


「ヒトミ、さっきのイノカ様は」

「うん、多分フタバが考えている通りだと思う」


 私たちは少し強く思うだけで互いの考えがわかる。互いの記憶も見たことがある。


「私も同じような剣を振るったことがあるよ」


 ツグミさんのときのことだろう。私はフタバを優しく包み込む。フタバも私に寄りかかってくる。優しくあやすように背中を緩くたたく。


「ふふ、暖かい。いつもありがとう、ヒトミ」

「ううん、全然構わないよ」


「ねえ、ヒトミ」

「うん、そのつもりだよ」


 互いの言葉は少ないが、思っていることは伝わり合う。私達は楽な姿勢をとり、互いを暖め合う。穏やかな時が流れていく。ちょっとだけならいいんじゃ?


「ふふ、ちょっとじゃなくてもいいよ」


 そう言うとフタバは私に想いを伝えようとしてくれる。私もそれに応じ、自分の想いを伝えようとする。互いの想いを伝え合う。互いの想いに応じ合う。


「入らせてもらうわ」


 ノックの後に、イノカの声が聞こえ、扉が開かれる。


 えっ! イノカも入る? いいの、本当に? イヤー、そっちはまだ経験ないけど、新しい世界かあ? ちょっとドキドキしちゃう!


「っ! 出直してくるわね」


 ああ、いかないで! 新しい世界!


「⋯⋯ヒトミ、他のひとでもいいの?」

「え、ええ。当然フタバさん一筋ですワ!」


「でも、新しい世界って、伝わってきたよ」

「そ、それは、その⋯⋯ゴメンね、フタバ」


「ふふ、ゆるしてあげないかな」

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