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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
青の書
32/365

第一話 都の学園


 □□■□


 その白い少女を初めて見たとき、何故かヒトミと少し似ていると感じた。年齢も身長も違う。髪や瞳の色も違う。ヒトミはツグミ様やおかあさん⋯⋯母と少し似ている。でも少女はどちらにも似ていない。何故そう感じたのかわからない。


挿絵(By みてみん)



 □□□□


「フタバ、そろそろ」

「うん、もうちょっとだけ、ヒトミとしていたいな」


「ちょっとじゃ、済まなくなりますわヨ」

「ふふ、それでもいいかな」


 私とフタバは都の学園にいる。あの色々なことになる「女学校」です。女学園や女学院でもよろしくてヨ! いや、男子もいるんだけど、数が少ないので、女学校でよろしくてヨ!


 あの禍々しい魔獣との戦いが終ってしばらくの間、ツカハラ家の守りを強固なものにすることに費やした。神刀や治療薬も増やした。防具の霊刀化も行った。これで普段の魔物や魔獣なら怪我をすることも少なくなると思う。その後、私とフタバは都の学園に行くことになった。今は夏の少し前になる。フタバと出会ってから半年と少しだ。この世界の一年や一日は地球のものと等しくなる。


 外の世界の知識をいくらか拾った覚者と呼ばれる人たちや、精霊の依り代になった者は、一定期間この学園に行くことをすすめられる。ヨシヒデさんも在籍していたことがある。ここで彼らの知識を集め、この世界でも使えるものにするためだ。一人分では少ない知識でも、何人分も集まると、体系化され使えるようになってくる。それを学びに来るヨシノリさんのような人たちもいる。冶金や農業の知識もこうして増やされ広げられた。ほかにも様々なものが作られている。


「⋯⋯ヒトミ、そこは」

「だから言いましたわヨ、うふふ」


 二人がいるのは、あの「寄宿舎」の一室! いや正確には女子寮なのですが、気分的に寄宿舎です。精霊に憑かれやすい巫女や、外の知識を拾った覚者は、北の山脈沿いの名の知れた家の人が多い。そのためかここも割りと良い部屋だ。


 精霊と巫女がそろっている場合は二人部屋になる。防音もしっかりしている。簡単に湯かけできる程度の小さな浴室まである。精霊の力によっては巫女と長時間離れることができない。そのため寝具も大きなものが用意されている。フタバと私は二人で一つの寝具を使っている。今もそうだ。私はフタバの弱いところにそっと手を伸ばす。


「⋯⋯あっ、ヒトミ、そこはだめ」


 私は構わずフタバの黒いコマを裏返す。


「ああ、もう! また負けちゃった」


 最近学園で流行っているリバーシの決着が付いた。少々お行儀は悪いが寝具の真ん中にボードをおいて二人で対戦していた。健全ですが、何か?


「ふふっ、慣れればフタバもすぐに強くなるよ。後でコツを教えますワ!」

「うん、ありがと、ヒトミ」


「じゃあ、そろそろ食堂に行こうか」

「うん」



 □□■□


 ヒトミと食堂に向かう途中、あの白い少女に会った。そばには少女の精霊様もおられる。二人とも私より少し年下に見える。


「これからお食事でしょうか。フタバ様、ヒトミ様」


「うん、そうだよ、シノハちゃん」

「ええ、夕げをいただきにまいります。シノハ様、ミツエ様」


 私はこの寮にいる間は割りとくだけたしゃべり方をする。人が多いところでは、もう少しかしこまるけど。ヒトミは兄上や父上と話すときの話し方だ。確か皮をかぶるとか言ってた。


「ミツエ様もご一緒にいかがですか」


 私はシノハちゃんの精霊様に声をかける。お体をまとわれる精霊様は食事から霊気を集めることもできる。


「そうね。私はいいけど、シノはどうする」

「私も構いませんよ、ミツエ様」


「では、ご一緒しましょうか」


 ヒトミが柔く促し四人で食堂に向かう。シノハちゃんとミツエ様の部屋は私達の隣になる。よくこういった風に会うので、いつの間にか親しくなっていた。食堂に着くとイノカ様がおられた。イノカ様の精霊様であるムツミ様は薄い影のお姿をとられている。ムツミ様もお体をまとわれることがおできになる。あまり長い間はまだできない。


 イノカ様とムツミ様の部屋も私達と同じ階にある。精霊様と巫女の二人がそろっているのは、この寮ではこの三組だけだ。イノカ様は食事を終えられたところみたいだ。スッと席を立つと食器を返しに行かれる。長身で流れるような動き方をされる。イノカ様は剣術がお強い。この学園でも稽古を行うが私では三度に二度ぐらい負けてしまう。


「あら、あなた達はこれからかしら」


「はい、イノカ様」


「そうよ、イノカ」

「ムツミ様も、ごきげんようございます」


「次は是非ご一緒させてくださいね。イノカ様、ムツミ様」


「ええ、次はね。じゃあ私達は部屋に下がらせてもらうかしら」


 そう言われるとイノカ様は部屋に帰って行かれた。私達は配膳所からそれぞれ食べ物をいただく。ここの食事は色々な場所から来る巫女に合わせ、いくつかの種類を用意してもらえる。簡単なものなら頼んで作ってもらうことができる。厨房をお借りして自分で作ることもある。


 私とヒトミが選んだのはツカハラ家で食べていたものに似ている。ヒトミは純和食だと言っていた。シノハちゃんとミツエ様が選んだものは山菜が多い。二人の故郷で食べたものらしい。イノカ様も山菜料理を好んで食べられる。シノハちゃん達の近くに住んでおられたそうだ。食事と飲み物をお盆で運んで、四人で空いている席に着く。


「では、いただきましょうか」

「うん、いただきます」


「シノもしっかり食べなさい」

「はい、ミツエ様」


 私達は食事をしながら賑やかに過ごす。ツグミ様と兄上、父上と過ごした暖かい時を思い出す。


「さっきは楽しげな気配がしたわ。何をしてたの」


 ミツエ様が聞いてこられる。ミツエ様は気配を読むのに長けておいでだ。体術や小刀もたくみに使われる。シノハちゃんは巫女としての才能が凄い。治療が上手でほかの法術まで使える。剣術はあまりしないようだけど、流しやさばきはうまい。


「リバーシというものです。最近この学園で流行っていると聞いております」


「リバーシ? シノはわかる」

「私もお話で聞いたことしかございません、ミツエ様」


「後でやってみる? シノハちゃん」

「良いのでしょうか、フタバ様」


「うん、もちろんだよ。ミツエ様もいかがでしょうか」

「そうね、少し見てみたいわね」


「⋯⋯フタバ、あくまでお教えするだけですよ。勝ちにこだらず楽しく過ごしましょうね」

「ええ、ひどいよヒトミ。さっき負けたことは、別に根にもってないからね」


「そ、そうですか。それならば何の問題もございません。フタバ、ごんめんなさいね。⋯⋯ですので剣気を飛ばすのはやめてくださっても構いませんヨ、オホホ」



 □□■■


 さっきはフタバとヒトミにリバーシというのを教えてもらえた。あの二人は巫女と精霊様だけど、何か雰囲気が違う。仲の良い姉妹か家族みたい。もしかして本当の家族のように育ったのだろうか。いいえ違うわ。少し変わった気配はするけどヒトミは確かに精霊様だ。フタバに憑いて一年も経っていないと聞いている。フタバもあのツカハラ家の者だ。剣術の技は私より遥かに格上。今は体術を使って何とか誤魔化しているけど、フタバは着実に成長し続けている。そのうち誤魔化し切れなくなる。やっぱり私は。


「ミッちゃん?」


 気が付くと、シノが心配そうにこちらを見ていた。


「何でもないわ、シノ」

「⋯⋯うん」


 シノが私によりかかってくる。私を思ってのことだろう。私もシノの背中に手をあてる。私は否定したがシノには通じない。今のエモーショナル・シンパシー率は第2段階。強く思っていることが互いに伝わる。シノは本当に凄い。法術の力はほかに類を見ない程だ。そのまま使うと危ないぐらい。普段は抑えるように言っている。私とシノは物心が付く前から一緒にいる。これだけ長い時を共に過ごす精霊様は滅多にいない。もういつ還ってもおかしくない。その前にアレを手に入れる。その為にこの学園に来た。


 学園に来てみると姉妹か家族みたいに仲の良い巫女と精霊様に出会った。そういったところが私達と似ていたからか、いつしか親しくなっていた。今日みたいに四人で過ごしていると心が安らぐ。もし何もなければ、ずっとこのままでも良いと思えるぐらい。でも私たちには時がない。



 □■□□


 ミッちゃんが焦っているのがわかる。また無茶をしなければ良いけど。あのことでミッちゃんの肌が少し黒ずんでしまった。体の中でも少しずつ大きくなっている。やっぱり私のせいだ。私はその気持ちをそっと押し殺す。この気持ちが伝わってしまうと、ミッちゃんを悲しませてしまう。


 今日は楽しかった。フタバ様やヒトミ様と過ごす時は心が安らぐ。私達に少し似ているからかな。それもあるかも。でもそれだけじゃないみたい。二人とも大きなことを乗り越えてこられたのだと思う。そのため私たちのことに気が付いているのかな。だから優しくしてもらえるのかな。


 もしミッちゃんがまた無茶をしそうになったら、一生懸命頼んだら止めていただけるかもしれない。それにヒトミ様は普通の精霊様とは違うみたい。話に聞いたことのある大精霊様かもしれない。これ以上ミッちゃんに無茶はして欲しくない。もちろん私も止めるつもりだけど、時が足りなくなるかもしれない。そのときはヒトミ様に頼んでみよう。



 □■□■


 ムツミは眠ったようだわ。精霊様になったというのに、こういったところは変わらないかしら。またあの四人と会った。巫女と精霊様だというのに、まるで本当の姉妹みたいだわ。私とムツミは例外だと思っていたのに。幸いムツミはあの時のことを覚えていない。このまま思い出さなければ良いかしら。私が覚えていれば良いから。


 剣術の鍛練もやり込んだわ。魔物との戦い方も経験を積んだ。フタバとの稽古も役に立ってくれている。フタバの成長は著しいので、そのうち負けるようになるかもしれない。でも私の目的に近付いているかしら。フタバには負けても構わない。アイツに勝つことが目的だわ。アイツの手掛かりを求めてこの学園に来た。思わぬ出会いに恵まれたかしら。あの四人を見ていると、幸せだった頃の気持ちが少し思い出せる気がするかしら。


 これ以降、視点人物が増えます。


 □□□□ 電脳体のヒトミ

 □□□■ 生体の結芽一美

 □□■□ フタバ


 □□■■ ミツエ

 □■□□ シノハ


 □■□■ イノカ

 □■■□ ムツミ


 ヒトミとツグミ以外は、名前に含まれる数字で表しています。


 ■□■■ ツグミ


 は、もう少し後に登場します。

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