表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
緑の書
2/365

第ニ話 テストプレイ


 □□□□


 カマキリに散々食べられてしまった。私はほとんどの場合、テストプレイとデバックを同時に行う。ルートによってバグがでるときもある。このアプリにもいくつかのルートがあった。なりたい昆虫を選ぶこともできる。ただ最後は必ずカマキリに食べられてしまう。カマキリを選ぶと一番早く終わる。ふ化したときハードなサバイバルがあるからだ。


 こんなアプリにニーズはあるのか? いや世の中にはいろいろな嗜好を持つ人がいる。中にはこういうことを好む人がいるのかもしれない。少なくともこのアプリの作成者はそうだろう。しかも規定はぎりぎり守っている。感じる痛みのレベルもぎりぎりセーフだ。ただしそれが何度か繰り返される。トータルでもぎりぎりセーフになるよう調節されていた。


 多くのサイトと同様、このサイトでも個人情報は保護されている。ただ同一アカウントには、ハンドルネーム以外にランダムな英数字のIDが付いている。IDで検索してみた。補食されるものばかりだった。


 しかも固定ファンらしきアカウントもいくつかある。なぜか高評価もある。ひょっとしたら市場に出せば売れるのか? いや、正気に戻れ! 低評価の方が圧倒的に多い。この手のものが好きな人たちが何人かいるというだけだ。ランダムではなくなるけど、ともかくこのIDが提供しているアプリはさけよう。ファンらしきIDのものもだ。私は記憶エリアにいくつかのIDを記録しておく。



 □□□□


 気を取りなおし、Bレベルのエリアへ行く。こちらはメーカーのものもいくらかあるようだ。オンラインゲームもある。タイトルを付けずコードだけのものも多い。開発中だからかもしれない。ここでは好きなものを選ぶことにしている。といっても私の趣味に合うものはほとんどやり尽くした。今は体を動かすものを中心に選んでいる。


 リアルの私はまだ隔離治療中だ。自由に体を動かすことも難しい。ただVRのアプリやゲームで体を動かす経験を積むと、リハビリがだいぶ楽になる。私がリアルの姿に近いアバターを使う理由でもある。


 最初に剣と魔法ものを選んだ。オンラインゲームのようだ。ほとんど意識せず接続設定に手を加える。デバック中ならある程度は許可されている。これで送受信できる情報量が増え、高速での演算処理が可能になる。今まで数えきれないほどテストプレイやデバックができたのは、私の神経網に組み込まれている、ハイブリッド・ナノマシーンを使った思考加速によるところが大きい。


 最初は気晴らしのつもりだった。実際にプレイしてみると、すぐに終わってしまった。大手の市場に出ている無料版ならほとんどやり終えてしまった。そのうち自分で手を加えるようにもなってきた。もちろん最初は何もわからない。ネットで調べながら少しずつ知識を増やしていった。今は小さなアプリなら自作もできる。もう少し大きくても作ることができる。


 プログラム関係のデータを検索しているとき、このサイトにたどり着いた。フルダイブのVR環境やゲームはまだ黎明期(れいめいき)だ。メーカーごとにコードセットが異なることも多い。開発中に使わるプログラムの種類も数多くある。ここは多数のプログラムの学習にも向いていた。私の治療に使われているナノマシーンもプログラムを使って動かす。すでにプログラムが入っているものなら、簡単なコマンドだけで動かすことも可能だ。


 プログラムの知識はナノマシーンの制御にも利用できる。医療用ナノマシーン自体まだ研究中のものが多い。その中で比較的安全そうなものが私の治療に使われている。安全そうなものを選んでも不具合のあるものは混ざってしまう。そのナノマシーンの不具合もある程度は直せるようになってきた。ほとんどはプログラムやパラメータの調節だ。中にはそれで足りないものもある。その場合は問題のあるナノマシーンを隔離することでしのいでいる。


 私の今の法的保護者の教授がナノマシーンの開発もしている。一応命の恩人ではある。ただ少しばかり、いやかなりマッドサイエンティストの気質がある。常識もあまり持っていない。明文化された法は守ろうとしている。それ以外はあまり気にしていないようだ。自分の身は自分で守るしかない面もある。


 また考えがそれてしまった。いや思考加速中は複数のタスクを同時に行うことも可能だ。今もゲームの調節も行っている。メーカーが作ったものだろうか。大きなバグはなかった。各ステージごとのパラメータ補正のバランスが悪い程度だ。ほかの多くのゲームと同様このゲームもステージが進むごとに難易度が上がる。それがいくらか極端になっていた。製作者があえて崩しているのかもしれない。何度か最後までプレイし、全体の補正を少しだけなめらかにしておいた。


 私が使うアバターの身体能力は平均的なものから始める。といってもゲーマーの平均値だ。まあゲームをする人はそのくらいが多いと思う。最初のうちは最後までクリアできないものも多かった。そのときは身体能力のパラメータを上げていた。何度も繰り返すうち身体能力を上げなくてもクリアできることが増えてきた。ゲームに慣れた分もあるのだろう。


 練習用アプリなどをやりすぎて、アバターの能力が上がりすぎた面もある。今はアバターの能力を下げてからテストプレイすることにしている。アバターの能力を下げても体の動かし方はあまり変わらない。攻撃されるタイミングなども、いくつかのパターンに当てはまることが多い。不意打ちにも慣れてきた。今ではアバターの能力が低くても、たいていのゲームはクリアできる。



 □□□□


 剣と魔法のゲームの次は、スポーツや格闘技の練習用アプリのデバッグをした。こちらは本物嗜好のニーズもある。アプリによる補正がないものが多い。射撃や武道の中にもそういったものもある。ゲームに組み込まれている場合は補正が入るものが多い。クイズアプリや学習用のアプリなら、アバターの身体能力は関係しない。そちらのテストプレイとデバッグも数多くこなした。


 私のように特殊な事情がある人は滅多にいない。このサイト以外でもアプリやゲームのテストプレイとデバッグを短期間で数多く行っている。一部では有名になってしまったらしい。デバッグやテストプレイの指名をされることもいくらか増えてきた。指名といってもIDに依頼メッセージが届くだけだ。せっかくなのでなるべく受けるようにしている。


 報酬はほとんどないかボランティアだ。もらったとしても、まあ気持ち程度だ。それでも実績には累計される。Aレベルにあがるのが早くなると思う。Aレベルにあがれれば、一部だけとはいえ、年齢制限のあるアプリやゲームも触れる。


 ネットの噂では、肌の質感などに、かなり力を入れているらしい。しかも美少女や美女が多いとの話だ。私の好みに合うキャラも大勢いるに違いない。ああ、早く年齢制限のない年齢になりたい! そうすれば、あんなことやそんなこともできるハズ!


 ⋯⋯いや、落ち着け。


 私の嗜好は少々マイノリティだ。リアルでは出会い自体少ない。ゲームであればその問題はクリアできる。いや、できるできないじゃない、ヤるんだ! もちろん、アレをヤるんですノヨ! ネコやタチも悪くないと思いますワ! 私が目指しているのはリバですワ!


 ⋯⋯だめだ、落ち着けない。別の思考に集中しよう。



 □□□□


 最近は依頼も増えた。依頼を達成した方がポイントは良いみたいだ。依頼の中には変わったものもある。普通にCレベルに出しても誰も手を付けないようなものもあった。一部しか完成していないものもある。小さなアプリなら残りを仕上げたこともある。そのあたりはそれほど珍しいことでもない。Cレベルのアプリ自体未完成なものも多い。あのカマキリのアプリみたいに変な方向で完成度の高いものの方が珍しい。


 いやともかく珍しい依頼もあった。古武術の練習用アプリの一つだった。古武術の中には失われてしまった技もある。その技の再現を依頼された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ