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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
緑の書
16/365

第十六話 光の玉


 ■■■■


 ん? 見覚えのないモジュールがあった。バージョンアップ中に誤作動でも起こしたか。あの世界なら何があっても不思議ではないが。ネットワークに繋がっている? いや、ノードを()ぎ足したのか。回線は非常に細いが機能している。自動割り振り番号ではなく固有名。誰かの意思かもしれんな。今は下手に触らない方が良い。もう一度固有名を確認すると【TUGUMI】と表示されていた。



 □□■□


 大きな暖かさが体の中に入ったのがわかる。ツグミ様? いやツグミ様よりも大きい。力をお持ちの精霊様? もしかしたら話でしか聞いたことがない大精霊様かもしれない。でもなぜだろう私と同じだと感じるのは。誰よりも強いけど、誰よりも弱い。こんなに大きく暖かい方が、私と同じであるはずがない。それに今は兄上だ。精霊様のお力添えがあれば、きっと助けられる。


『あ、あの、精霊様でしょうか』


 私はおそるおそる聞いてみた。


「精霊? ああ、そういう設定なのかな。まあ、そんな感じだと思う」


 知らない言葉が混じっていたが、精霊様で間違いないと思う。


『せ、精霊様、ど、どうか兄上だけでも助けてはいただけないでしょうか』


 もし断られたら兄上を助けていただけない。私は必死に頼んでみる。


「うん、もちろん、そのつもりだよ」


 あっさりと、当然のことみたいに応えてくださった。私は大きく安堵する。精霊様がいつも協力してくださるわけではないことは父上より聞いている。ご助力がいただけるようになるまで、長い時を共に過ごすことが必要な精霊様もいらっしゃる。ツグミ様のようにすぐに「母」になってくださる精霊様は、少ない方だと聞いている。


 この精霊様は、どこか特別? そういえば自分で体を動かしていないのに、精霊様が動かしてくださっている。さっきはそれどころではなかったけど、私の方が「中」から話している。ここまで力を持っておれる精霊様は、ツカハラ家のものに憑いていただけた精霊様の中でもかなり珍しいと思う。私が体を動かして精霊様の邪魔にならないよう、気を付けなければ。私が少し考えごとをしている間に、もう魔物が一体倒されていた。


 何てなめらかで力強い。精霊様はすぐに二体目の魔物の方へ向かわれる。そのあまりにも自然な動きに思わず声をかけてしまった。


『せ、精霊様!』


 私だと魔物を相手にするとき、どうしても緊張してしまう。兄上でさえ剣気を高められるそうだ。こんな散歩でもするように魔物に近付くことはできそうにない。


「失礼しました。5%ほど安全マージンを増やしました。この体は無傷でお返ししますので、もうしばらく貸してはいただけないでしょうか」


 よくわからない言葉が混じっていた。多分精霊様なりに気を付けてくださるのだと思う。


『は、はい、それは構いません』


 精霊様の動きは変わらなかった。一度だけ半歩ほど下がられた。その瞬間、こぶし二つ分も離れていないところを、魔物のカマが通り過ぎた。それと同時に精霊様が間合いを詰められる。気が付くと一方のカマが斬り飛ばされていた。その時、もう一体の魔物も加わってきた。大きなカマは三本もある。こちらの太刀は一本しかない。魔物との間合いも近すぎる。今から下がっても間に合わない。


 精霊様は、一本の太刀で三本のカマを同時に往なしておられる。こんなことができるだなんて信じられない。しかも私の体を使っておられる。普段私が出す力より弱いかもしれない。足さばきと体さばきだけでこの状態を作っておられる。一つ一つの動きは私でもできるかもしれない。でも魔物と戦いながらだなんて、私では想像もできない。どれだけの稽古をすれば、ここまでに至れるのだろうか。


『せ、精霊様!』


 二体目の魔物を倒し、そのまま三体目の魔物に斬り付けたとき太刀が折れてしまった。私は覚悟を決めた。兄上だけでも、どうか。精霊様はもう一度振り下ろされた鎌を往なされた。えっ? 途中で折れた太刀が、いつの間にか魔物の腹部に刺さっている。ツカハラ流にはない動きだ。


 その後精霊様は二歩だけ下がれた。近すぎる。魔物のカマは届きそうだ。でもこちらには折れた太刀しかない。あまりにも警戒していない精霊様の様子に、心がすくむ。精霊様の邪魔だけはしないよう、自分で体を動かすことを、懸命にこらえる。


 カマはギリギリ届かなかった。こぶし二つ分も離れていないところを通り過ぎる。この間合いはさっきと同じかもしれない。精霊様にとっては十分に離れておられるんだと思う。やがて魔物の動きが少し鈍くなった。とたんに最後の魔物が倒された。そのまま兄上の近くまで歩くと、周りの霊気を集められる。先ほどとは違う法術を使われた。


 法術まで、自在に使われる。特に力を込める様子もなく兄上の怪我を治してくださる。兄上は深手だった。ここで精霊様に血止めをしていただき、本家で何日か養生していただかなければ。私がそう考えている間に、怪我が治っていた。これ程の力をお持ちだなんて。「私と同じ」だなんてとんでもない。


「ヒトミと申します。精霊様では面はゆいゆえ、そう呼んでいただければと思います」


 それが私とヒトミさまとの出会いだった。



 □□■□


 少し前、私はヒトミさまに向かって叫んでしまった。今日兄上を失いそうになった。またあの冷たいかたまりが、私の心を凍らせようとする。ヒトミさまに憑いていただけてから、あの冷たさは体の奥の方へいった。ヒトミさまの優しい眼差しが私の心を暖めてくれる。ヒトミさまといると、体の奥の冷たさが優しくとけていく。


 何年振りだろうか、こんなにも心が暖かくなったのは。ツグミ様と過ごしていたときのことを思い出す。でもツグミ様はもういない。ヒトミさまの優しさが何よりも嬉しい。でも何よりも失うのが怖い。ちょっとしたことで崩れてしまいそうになる。


『私はただの精霊です』


 気が付いたら、私の心は冷たいかたまりでいっぱいだった。


 また ことばが うまく でなくなる

 ごめん なさい ヒトミさま


「構いませんよ、フタバ」


 ヒトミさまが優しく私を包んでくれる。背中を優しく叩いてくれる。暖かくて柔らかいものに包まれる。とても懐かしい感じがする。ずっとこうしていたいな。


 むかし こんな かんじが あった

 おかあ さん



 □□■□


 一人の女の子が悲しんでいる。孤独に震え言葉も出せないみたい。あぁ、私と同じだ。もういい。帰ってもツグミ様もおかあさんも、もういない。兄上と父上には、あとであやまろう。もう一人大切な人がいた気がする。


『⋯⋯フタバ』


 そう、こんな風に優しく話しかけてくれた。


『あなたに渡したいものがあります』


 そう言うと、優しい声は光の玉をくれた。これは何。


『あなたにとっての大切な思い出です。私はもう思い出せないけど、あなたはまだ、ね』


 優しい声は、悲しんでいた少女だった。ヒトミさま? 少女は悲しげで優しい眼差しをする。少女も愛する人を失った。私と同じ、いやもっとひどい。少女は思い出まで失った。体もたくさん失った。それでも私に優しくしてくれる。出会ってからずっと私の冷たいかたまりを優しくとかしてくれる。


 暖かで優しくて悲しい不思議なひと。私は少女にもらった光の玉に意識を向ける。おかあさん? 光の玉は私が幼すぎて覚えていなかったおかあさんとの思い出でできていた。


『あらあら、もうおネムなの、うふふ。おかあさんにとって、フタバちゃんはとっーても大切なの。そっか、寒いんだ。じゃ、おかあさんが暖めてあげる。おいでフタバちゃん。いっしょに寝ましょう、ね』


 涙が(こぼ)れていく


『フタバちゃん大好きよ。私のところに来てくれてありがとう』


 これは、最後のときの。


『こんなに早くいくことになって、ごめんね。お父さんとヨシノリを支えて上げて。別のところにいっても、愛しているわフタバちゃん、いつまでもね』


 気が付くと大きな声を出して泣いていた。そんな私を優しく包んでくれる。いつもの暖かさだ。私はそのひとの腕の中でずっと泣き続けた。

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