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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
紫の書
102/365

第ハ話 通信符号


 □■□□


「膝を先に上げるように意識しなさい」


「はい」

「うん」


 私とムツミ様が、ミッちゃんに体術の鍛練を見てもらっている。イノカ様はオタミさんの住む里へ行かれた。雪が積もる前にもう一度確認しておきたいと言っておられた。


「うん、いいわね。次は腕を後ろに振ることを意識しなさい。もう一方の腕は下げちゃだめよ」


「はい」

「うん」


 ミッちゃんの言う通り意識すると、体のキレがよくなるみたい。ビックリするぐらい速く動ける。形はミッちゃんが教えてくれた。今は力の伝え方や意識の使い方を習っている。


「腰の入れ方があまくなってきているわよ。守りも忘れずにね」


「はい」

「うん」


 守りの手が下がっていた。ミッちゃんに教えてもらえたので、すぐに直せた。


「うん、いい感じよ。そのまま続けて」


「はい」

「うん」


 ムツミ様の動きもよくなったみたい。キレイな蹴りを放たれておられる。左右を逆にして、それぞれの蹴りの鍛練を続ける。


「ずいぶんムツミの動きがよくなったかしら。ミツエさ⋯⋯ありがとうございます」

「いいわよ、これくらい。はい、じゃあ休憩ね」


「はい」

「うん」


 イノカ様が帰って来られた。イノカ様はときどきミッちゃんのことをミツエ様、私のことをシノハ様と呼ばれる。なんだか恥ずかしいので止めるようお願いしている。


「オタミさんに惣菜をいただけたわ。みんなで食べましょう」

「うん、お姉ちゃん」


「そうね。そろそろ昼食の頃合いだわ」

「はい、お手伝いします」



 □■□□


 オタミさんが作ってくださったのは里芋の煮っころがしだった。ご飯に焼き魚とお味噌汁にお漬け物をそえてみんなでいただいた。


「やっぱり美味しいかしら」

「うん」


「相変わらずいけるわね」

「はい、美味しくいただいています」


 ヒトミ様とフタバ様がいないのが少し残念に感じられた。ヒトミ様はオタミさんの作られたものがお好きみたい。お二人が帰ってきたら、オタミさんにお願いしてみようかな。お二人が都の学園へ行ってから四日経つ。あと三日ほどで帰って来られる。



 □■□□


 午後からは法術の鍛練になる。ミッちゃんは治療を覚えたいみたい。簡単な怪我はもう治せるようになった。今は体の外の霊気を動かす鍛練をしてもらっている。法術の効果は霊気の数に左右される。多くの霊気を動かせる方が怪我も治しやすい。ヒトミ様に教えていただけたプログラムはミッちゃんにも渡している。


 ミッちゃんは風までまとえるようになっている。青い大きな光に包まれている。学園でもこれだけ大きな光を集められる人は少なかった。イノカ様は赤い風をまとわれている。ムツミ様からやり方を教わったみたい。イノカ様の風も力強い。二人ともすごいと思う。


挿絵(By みてみん)


 ──シノのおかげよ。

 ──ううん、動かしているのはミッちゃんだよ。


 ──私だけじゃ霊気の集め方もわからなかったわ。

 ──それは、ヒトミ様のおかげかな。


 ──そうね、プログラムって言うのよね。

 ──うん、いろんなことができるみたい。


 ヒトミ様に霊気を動かす道を太くしていただけた。簡単なプログラムならみんな使えるようになった。エア・バイクみたいなものを作るのは無理だけど。


 ──自分で使えるようになって、シノが驚いた理由があらためてわかったわ。

 ──うん、ヒトミ様の繊細さには私もまだまだ及ばないよ。


 ──シノのすごさもあらためてわかったわ。

 ──うーん、そうなのかな。


 ──そうよ、もっと自信を持ちなさい。

 ──うん、がんばる。


 ──っ、シノ!

 ──うん。


 ミッちゃんが何かの気配をとらえた。ミッちゃんを通して私にも伝わって来た。ミッちゃんはすぐ気配の方を向いた。


「だれ!」

「ここには簡単に入れないかしら」


 ミッちゃんが私の、イノカ様がムツミ様の前に立つ。すぐに抜けそうな体勢だけど二人とも刀は抜いていない。私は二人の風を強くする。ムツミ様も手伝ってくださった。


「なんじゃ、気付かれてしまったのかのう」

「気配をもう少し抑えてください、ヤツエ」


 二人の女の人がいた。イノカ様と同じぐらいの年に見える。霊気の流れが普通の人とは違うみたい。


「失礼しました。ナナミと申します」

「ヤツエじゃ」


「それで、何の用?」


 ──ミッちゃん、気を付けて。

 ──ええ、わかってるわ。


「ご挨拶に来ただけですよ」

「そうじゃのう、ただの顔見せじゃ」


「そう? 私はミツエ」

「シノハです」


「私はイノカ、こちらはムツミよ」

「うん」


「ミツエとシノハも速く話せるのでしょうか」

「今のは、何となくわかったかの」


「ええ、私たち()速く話せるわ」


「シノハとムツミは霊気を強くしてくれましたね。ありがとうございます」


「私とムツミ様は少しお手伝いした程度です」

「うん」


「そうですか、世界の声は喜んでいませんでしたか」


「⋯⋯はい、喜んでいるように聞こえました」

「うん」


「ならば、そのまま続けてください。あなたたちは長い時を巫女と共に過ごせますよ」


「私たち()でしょうか」

「ヒトミとフタバに何かするつもり?」


「仲間になるよう、お誘いしているだけですよ」

「そうじゃ、ヒトミは頼もしいからのう。良いやつでもあるしのう」


「ヒトミ様が頼もしくて良い方の部分は賛同できるかしら。ただし勝手に連れ去るのは容認できないわ」

「うん」


「そうね、まだ借りを返してないわ」

「うん、ミッちゃん。私もおんなじ気持ちだよ」


「もちろん無理やりとは思っていませんよ。無理に連れて行っても、つとめを果たしてくれないでしょうし」

「そうじゃ、それでは意味がないしのう」


「ご挨拶も済んだことですし、そろそろおいとましましょう」

「そうじゃな、シノハとムツミの顔も見れたしのう」


 そう言うと二人は立ち去って行った。



 □■□□


「シノ、あの二人は精霊だったの?」

「うん、多分そう。でも普通の精霊様とは違うみたい」


「ひょっとして、世界を守ってくださっている精霊様かしら」

「うん。そんな感じだったよ、お姉ちゃん」


「ヒトミとフタバにも知らせておく必要がありそうね。シノ、通信は届きそう?」

「信号だけなら届くと思う。お話は難しいかな」


「データのようにまとめることはできないかしら」

「うーん、私には無理そう」


「シノはどう?」

「簡単な言葉を少し込めるだけならできるかも」


「ええ、それでかまわないわ。いくつかに分けて届ければ良いかしら」

「うん、私も手伝う」


「シノ、お願いできる?」

「うん、やってみる」



 □□□□


 信号が届いた。緊急ではない。どの里のものでもなかった。里に置いた鐘は、場所も伝えるように設定している。信号はコテージからのものだった。普通の伝わり方とは異なっていた。長い信号と短い信号が混ざっている。これは二進数? シノハとムツミには以前二進数のコードセットを渡してあった。念のためモールス符号と呼ばれるものも渡してある。ムツミの記憶が戻る前だった。それ以降使っていない。ムツミは忘れていると思う。


 信号を文字に直していく。


 ナナミ ト ヤツエ ガ キタ

 フタリ ハ ツヨイ セイレイ

 ソチラ ハ ブジ カ


 ナナミとヤツエがコテージに来たらしい。精霊ということもわかったようだ。すぐに返事を送信する。


 フタリ ハ コチラ ニモ キタ

 コチラ ハ ブジ

 ケガ モ ナイ

 ソチラ ハ ドウカ 


 しばらくすると返事が届いた。


 コチラ モ ブジ

 ケガ モ ナイ


 被害はなかったようだ。状況を聞いておきたい。


 フタリ ノ モクテキ ハ

 イツ キタ


 アイサツ ト イッテ イタ

 スコシ マエ ニ キタ


 レンラク ニ カンシャ スル

 アリガトウ


  少し前、挨拶に来たらしい。お礼を伝えておく。二人の行動で腑に落ちないところはある。いや、もっと気になることもできた。


「どうかしましたか、ヒトミ」

「わしは、これも気に入ったかのう」


 ナナミとヤツエは、目の前でお菓子を食べている。

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