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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
紫の書
100/365

第六話 優先順位


 □□□□


「あなたの力を世界のために使ってくれませんか」

「引き受けてくれんかのう」


 二人の目的は私のスカウトだった。ある程度のつじつまは合う。悪い二人ではないと思う。世界のために仲間や力を求めているのは本心だろう。だが何か引っかかる。この学園に来てからの出来事しか見ていない。ツグミさんとは知り合いのようだが交流はあまりないのかもしれない。いくつか確めておかなければ。


「⋯⋯私はすでに世界のために力を使っているつもりですが、それだけでは不足なのでしょうか」


「そうですね、普通の精霊であれば十分な働きだと思いますよ」

「おんしは、すごすぎるのじゃ。おんしが仲間に加わってくれたら、頼もしいかのう」


「すごすぎるというのは、どういったところでしょうか」


「私が思うに、ヒトミは外の世界の知識が豊富です。ここまで多くのデータを拾えた精霊は過去にもいなかったと思います」

「それに剣術も極伝ぐらいありそうじゃ。剣術の得意な精霊は魔物や魔獣を倒し、魔核を持って帰るつとめがあるんじゃ。おんしであればそれもたやすいかのう」


 ツグミさんの仲間かもしれないが連絡を密に取っているわけではなさそうだ。


「いつから行くことになるのでしょうか」


「そうですね。ヒトミと巫女のエモーショナル・シンパシー率は第3段階と聞いております。巫女がいなくなってからで構いませんよ」

「そうじゃのう、第2段階でも待つことが多いからのう。第3段階であれば、無理に引き離すことはやりたくないかのう」


「それはあなた方精霊全体の総意でしょうか」


「私たちに総意や代表者という考え方はありません。皆に『声』が届くからです」

「そうじゃのう、各自ができることを探して自らやっていくかのう」


「霊気の改良といった難しいことは、何人もの精霊が集まって行います。私もそのうちの一人になります」

「わしは新しい魔核を集めておるかのう。新しい魔核が手に入れば、それに対抗しやすくなるそうじゃ」


 言っていることに矛盾はない。組織がないことに驚いたが、それで上手くいっているのだろう。実際成果も出ている。ただ一つ重要な情報が抜けている。ツグミさんと連絡をとっていないことが裏目に出たのだろう。スカウトに来るのであれば、私の場合ツグミさんでなければならない理由がある。


「ツカハラ家のツグミさんに来ていただくわけにはまいりませんか」


「そうですね。それが筋なのでしょうが、ツグミとは連絡が取りにくいのです」


「ツグミさんに何かあったのでしょうか」


「そういうわけではありません。霊気の改良場所も近くです。ただツグミはときどき姿が見えなくなるのです」

「そうじゃのう。ふらっとどこぞに行って、ふらっと戻ってくることが何度もあったかのう」


 私をこの世界へいざなったときみたいに、システムに何かしてるのかもしれない。


「⋯⋯わかりました。ツグミさんと相談して決めたいと思います。その間も霊気の改良や魔物退治は続けるつもりです」


「そうですね。それがお互い一番スッキリするでしょうね」

「すぐ加わってくれんのは残念じゃがのう。仕方ないかのう」


「一応前回ツグミさんに渡したデータもお渡ししておきましょうか」


「そうですね、念のためにお願いしても良いでしょうか」


 ナナミが左手を差し出して来たので、そこにデータを送り込む。


「瘴気の性質を利用し、霊気の信号を伝わりやすくしたのですね。しかもなんて繊細な操作なのでしょう」


 ツグミさんが仲間に配布したのは完成品のデータだけだったみたいだ。途中の作り方まで入れると膨大な量になる。多くの仲間に渡すのであれば完成品のデータの方が良いと思う。


「ありがとうございました。これで霊気を改良しやすくなったと思いますよ。重ねて感謝いたします」

「そうじゃのう、菓子もいっぱいもらったからのう。感謝するぞい」


「ヒトミ、ときどきお伺いしても構いませんか。このような時を過ごすのは久しぶりなので」

「わしも頼むかいのう」


「ええ、もちろん構いませんよ。次は別の菓子や飲み物もご用意いたします」


 そう言うと、二人は去っていった。



 □□□□


 ──ヒトミ?

 ──うん、大丈夫。


 私の変調を察したフタバが声をかけてくれた。思っていた以上に緊張していたようだ。意識して力を抜くようにつとめる。先ほどの二人は世界のために尽くしている精霊だった。嘘をついている感じはしなかった。二人の言葉は本心からのものだろう。ツグミさんから聞いていた話とも矛盾していない。


 ⋯⋯世界のため、か。


 それ自体は悪いことじゃない。皆で目指せば効果も大きくなると思う。巫女と精霊を無理に引き離すこともしないようだ。お菓子も美味しそうに食べていた。お土産も喜んでいた。また来たいとも言っていた。


 だが場合によっては、敵対することも辞さない覚悟を持っている。つとめのためならひどいこともできるようだ。私は今まで通り霊気の改良を続けるつもりだ。もし断っていたらどうなっていたのか。事実上フタバを人質にとっていた。二人がかりなら私より強い。ナナミだけでも負けるかもしれない。ツグミさんであればフタバの方を優先する。世界よりもフタバの方を大切にしている。私も同じだ。


 ⋯⋯フタバを守りきる力が必要だ。


 ナナミへの仕込みは気付かれなかった。小手先の技術なら通用するかもしれない。ヤツエの言葉からも同じ感じを受けた。一度ぐらいなら何とかなるだろう。対応力は高い。思考加速も気付かれた。デバッグ・モードも通用しないと思う。私自身の強化について考える必要がある。



 □■■■


 ヒトミのまとう雰囲気は何か違いました。


「うまかったのう」

「そうですね」


「ナナミはどう見たのじゃ」

「善良であることは間違いないと思いましたよ、ヤツエ」


「わしもそうじゃ、あいつは良いやつじゃ」

「ええ、そこに異論はありません」


「わしらの仲間になってくれるかどうかかのう」

「そうですね。今は世界より巫女の方を大切にしているよう見えました」


「まあ、第3段階じゃからのう」

「ええ、世界の声も届きにくくなっていると思われます」


 届きにくくなっているのとは違うかもしれません。全く届いていないという感じがしました。そのようなことがあるのでしょうか。それに持っている外の世界の知識もケタ外れでした。私たちの中には大精霊様に憑いてもらえた者もいます。その者たちから聞いている話とも違います。


 大精霊様はお体をまとわれることもなかったと聞いています。知識を伝えに来てくださっていたのでそれで十分だったのでしょう。ですが持っている知識は非常に膨大だったと聞いています。ヒトミはそれに匹敵するかもしれません。


 仲間になってくれるのであれば、とても心強いのですが。もし敵対することにでもなれば、北の山脈の奥にいる魔人より厄介な存在になるかもしれませんね。私と何人かでかかれば抑え込めるかどうかといったところでしょうか。なるべく穏便に済ませたいところです。ツグミが戻って来たら相談してみましょうか。


 ツグミも世界よりあの巫女を大切にしている節がみられます。下手をするとヒトミと同時にツグミとまで敵対することになるかもしれません。それだけは避けたいところです。ツグミはシステムの理解に長けています。ヒトミもすぐにそうなるでしょう。何といってもあのツカハラ家の者たちです。


 魔人のこともあります。同時に敵対するほどの余裕はありません。逆にヒトミを仲間にできれば霊気の改良も一気に進みそうです。魔人を倒し、この世界の瘴気を全て浄化できるかもしれません。慎重に対処する必要があります。

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