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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
緑の書
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第一話 VRゲーム

前作より一年ほど書き続けてきました。ある程度まとまってきたので投稿します。第一章部分は前作部分の書き直しです。第ニ章以降はこちらに続けます。


よろしければ、お付き合いください。


 □□■□


「あ、兄上」

「何、たいした傷ではない」


 私をかばった兄上が傷を負ってしまった。兄上の言葉とは裏腹に傷は深手だ。私の法術の力は弱い。一刻も早くタネミ様に見ていただけなければ。いや、その前にこの場を離れる必要がある。ここは北の山脈に近い。魔物や魔獣が出てくるかもしれない。


 そのとき三体の魔物が現れた。兄上が万全の状態なら倒せる相手だ。でも私の技量では一体か二体しか倒せない。


「フタバ、このことを父上に伝え人を集めてもらう必要がある」

「し、しかし」


 兄上が私の前に出る。また私が足を引っ張ってしまった。ツグミ様のときもそうだった。もうイヤだ。あんな思いは二度としたくない。このままでは、お兄ちゃ⋯⋯ヨシノリ兄上まで失ってしまう。


 お願い誰か助けて。



 □□□□


 ── ログインしました ──


 色とりどりの光の球が見えた。大きさや明るさも光の球ごとに異なっている。私のアバターはリアルの姿に似せている。固定キャラしか使えない場所以外では、自分に似せた方が演算処理が楽だ。衣服もシンプルなものを選んでいる。デフォルメすることもある。ただこのサイトでは多くのジャンルがそろっている。アバターを単純なものにしすぎると扱いにくいものもある。


挿絵(By みてみん)


 ここはアプリやゲームのテストプレイやデバッグをするサイトだ。この手のサイトはネットワーク上にいくつかある。その中でもこのサイトは種類と数が多いことが特徴の一つだ。個人が作ったものからメーカーが作ったものまでそろっている。メーカーが作ったものはテストプレイが中心だ。デバッグをするさいには期限付きパスコードが一時的に配布される。


 もちろん何の実績もない人はパスコードをもらえない。最初はログインさえすれば扱える小さなアプリからはじめた。ある程度実績を積むと一つレベルがあがる。一つ上のレベルで実績を積めば更に上のレベルにあがることができる。逆に改悪をしたり守秘義務を破るとレベルがさがる場合もあるらしい。細かい規則はサイトごとに異なる。


 このサイトではCレベルからはじまり、Bレベル、Aレベルまである。今の私はBレベルだ。このまま順調にすすめば、もうすぐAレベルになれる。Aレベルはメーカーが作ったものが増えてくる。中には年齢制限付きのゲームもある。私の年齢ではプレイはできない。プログラムの一部を見てバグを直せるだけだ。


 とはいえプログラムさえ手に入れば。いやいや、もちろんしませんよ? 私はどこかの口先だけの遵法精神のかたまりとはちがいます。明文化されていない法の精神まで守る模範的な人間です。でも、ちょっとぐらいなら。いや、いや、ありえない。


 それに私の嗜好は少々マイノリティだ。女の子同士でイチャイチャするのが好みになる。美少女同士なら更に良い。いや美しければ他のことは特に気にしない。美少年や美青年も世の中には存在する。ただ私の好みに合う人やキャラが美少女や美女に多いというだけだ。私も美少女になると思う。ひょっとしたら女神クラスかもしれない。ただしVR環境に限るが。


 ここ何年かでVR環境が急速に進歩した。150年ほど前からあるVR環境は視覚データや聴覚データがメインだった。今のVR環境は五感全ての感覚データを受け取ることができる。普及している端末はヘッドセット型だ。脳波の送受信でリアルに近いものまで再現可能だ。ただ今のところその範囲は狭い。


 演奏の練習用アプリであれば楽器や音響の再現性は高い。それ以外はそこまで再現性が高くない。小さなアプリであれば狭い部屋での練習しか再現できない。大手メーカーが作るアクションゲームなども同じだ。アクションゲームであれば体を動かす感覚の再現性は高い。ゲームによってはパラメータ補正も入る。ただ嗅覚や味覚はないことが多い。視覚と聴覚も限定的だ。動いているときの背景もラグが入りやすい。


 今のところ大手メーカーのものでも、プレイヤーの近くだけリアリティがあるぐらいになる。メーカーのサーバやメインフレームがハイスペックになると少しだけその範囲が広がる。多分大国が管理するメインフレームならもう少し範囲を広げることが可能だ。とはいえ国家がわざわざハイスペックなゲームを提供してくれるとは思えない。経済や行政を優先すると思う。減少しつつあるとはいえ軍備に回すリソースも必要だ。リソースがあれば災害対策や研究プロジェクトに回すだろう。


 端末側で工夫をし、少し再現性をあげることはできる。端末の演算回路や記憶容量に手を加えると、ほんの少し再現性があがるそうだ。脳波の送受信がインターフェースになっている。コアなゲーマーは頭髪をそることもあるらしい。私の場合、少し特殊な事情がある。端末の工夫をしなくてもVR環境を再現しやすい。



 □□□□


 私は半年ほど前に大きな事故に巻き込まれた。月の公転軌道上にあるリゾート用巨大宇宙ステーションへ、家族で行く途中で起こった事故だ。そのとき家族は失われた。私自身も体の半分以上を失った。失われた部分には脳の神経網も含まれる。通常の治療では間に合わなかったらしい。幸い治験承認がおりたばかりの治療を受けることができた。新しいタイプの医療用ナノマシーンを使用するものだ。


 私の体は半分以上医療用ナノマシーンで代替されている。大部分は有機ナノマシーンだ。医療用の有機ナノマシーンは付近の細胞のゲノム情報を読み取り、本物とほとんど区別ができない疑似細胞を作ることができる。時間さえあれば神経細胞の再現まで可能だ。私の場合欠損が大きく、それだけでは間に合わなかった。


 医療用有機ナノマシーン自体がまだ治験段階だ。すでに完治した人もいるらしい。完治後ナノマシーンの不要な増殖機能を不活性化させれば、隔離治療も終わるらしい。私の隔離治療が終わるのは当分先だろう。私の治療に使われたものには、複数の有機ナノマシーンで作る疑似細胞の中に、何種類かの無機ナノマシーンを組み込んで作る、ハイブリッド・ナノマシーンも含まれている。無機ナノマシーン自体は材料工学や建築に使われているものもある。


 無機ナノマシーンは信号伝達速度が優れている。ただ生体の中にそのまま入れるのは難しいそうだ。ハイブリッド・ナノマシーンはそれを可能にする。有機ナノマシーンに包まれているのでまわりの生体との結合がしやすい。その上、失われた神経網の代わりを無機ナノマシーンが担当する。神経網の代替が可能だ。私が失った脳組織の一部もハイブリッド・ナノマシーンで代替されている。


 ハイブリッド・ナノマシーンによる神経網は、信号の伝達が通常の神経網より速い。ナノマシーン同士の信号の伝達も最適化されていく。結果的に私の神経網の伝達速度が上がった。伝達される情報量も増加しているらしい。副次的な効果として私の思考速度が上がった。特に情報量の多いVR環境との相性が良い。いくつもの無機ナノマシーンを集めてデジタルコンピュータの代わりもできる。


 今の私は端末を使わずにVR環境に接続ができる。可能になったのは接続だけではなかった。記憶容量も大幅に増加した。ローカル環境に小さなアプリやソフトを取り込むこともできる。ローカル環境といっても端末は使わなくてすむ。私の神経網の余ったリソースを使っている。その中でなら処理速度倍率を上げることも可能だ。


 オンラインゲームであっても倍率を上げることができる。特にこのサイトにあるようなものは、デバッグするときなら、ある程度までは許容されている。私のリソースと合わせればメーカーの設定した倍率を超えることもできる。もちろんAPI連携などに手を加える必要がある。そのあたりのこともずいぶん慣れてきた。今ではほとんど意識せず行うこともある。


 いや、考えがそれてしまった。ともかく今日のノルマをこなそう。ノルマと言っても自分で決めた目標だ。まずはいつも通りCレベルのアプリをランダムに選ぶ。私はBレベルになる。上のレベルの分はまだ触れない。下のレベルの分のデバッグやテストプレイなら可能だ。他のサイトでも業界全体のためか、下のレベルのデバッグも推奨されている。


 Cレベルのアプリは個人や数人のグループで作ったものが多い。市場に出す前のチェックというより人手が欲しくてこのサイトを利用する人もいるようだ。報酬がないものや少額になるものがメインになる。それでも実績に入るので毎回いくつかはデバッグしている。並べられているアプリも小さなものが多い。このくらいなら私のローカル環境でも稼働させることができる。


 今回は五つのアプリをランダムに選んだ。選り好みをするとジャンルが偏ってしまう。Cレベルのアプリはランダムに選ぶことにしている。四つはパズルなどのミニゲームだった。残りの一つは私が苦手な変身ものだ。変身といっても強くなるものではない。ほかの生物の気分を味わえるものだ。VRアプリの中にはときどきこの手のものがある。一部だけとはいえリアリティを感じることができる。今回は昆虫の一生を体感することができた。


 最後にカマキリに食べられるところまで、やけにリアルに作られていた。

挿し絵はAIを使っています。詳しく知りたい方は「登場人物・設定など」の「挿し絵について」をご覧ください。


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