星と月と太陽そして龍
海にそびえ立つ塔で四極学舎卒業試験が行なわれている。
四極学舎の試験内容は過酷で、入学試験から卒業試験まで、失敗で即退学という厳しい基準が設けられている。
試験に挑むパーティがいる。彼らは7番目の受験者であり、合格すれば2組目となる。
短剣を片手に軽やかに攻撃をかわす少女と、背後から相手の注意を避けつつ攻撃態勢をとる猫耳少女がいる。
短剣少女の後ろには大きな魔導帽子を被った少女と、頭に角が生えている巫女姿の少女も見える。
試験の最終試練は、学長との対戦。
学長は短剣少女の攻撃を軽々とかわし、猫耳少女の攻撃もうまく避けた。その後、学長は二人に問いかける。「後衛の時間稼ぎをしているだけだろ?まだこのレベルでは高難易度のダンジョンで死ぬだけだ。やめとけ。」後衛の方に向き直り態勢を整え、攻撃しようとした矢先、足元から木々が現れ、学長の動きを止めた。
「これは琴音の神樹?時間型のトラップタイプだな?引きつける前に植え込んでいたな。俺の負けだ。」
後ろを振り返ると「ベタな展開だけど、ひっかかったね!」と短剣の少女が喜び、「策士になりきってるんじゃない?」と猫耳少女がぶっきらぼうに答えていた。
「試験間に合って良かった、昨日は騒ぎすぎて心配だったんだ。」そう言いながら、琴音は一息ついていた。その横で、何故か帽子の少女が眠りかかっている。
短剣少女の名前はアリア、帽子の少女の名前はノア。二人は幼馴染だ。猫耳少女の名前はミナで、彼女は獣人種の猫族と人族のハーフ。
先程の神樹と呼ばれる木々を具現化していたのは琴音で桜雲という地域の出身で、神事を司る家系ので、特殊な職に就いているらしい。
四人は、学長からの合格の言葉を受け、冒険者として一歩踏み出す事となった。
今回の学舎試験の合格者は、十二組中三組合格。三割の合格率なので、今年のグループは優秀な様だ。
一度の失敗も許されない制度だが、卒業試験だけは再戦可能なので、再度受けるパーティも複数いる。
「冒険者登録をする前に、授業で学んだと思うけど、確認を含めてランク制度について再度説明するね。」試験を見守っていた冒険者組合員の受付人から説明を受ける事になった。
「Sランク:世界に8パーティほど存在し、得意な才能やセンスを持つトップクラスの冒険者たちが所属しています。
Aランク:世界に30パーティほど存在し、高い実力を持つ冒険者たちが所属しています。
Bランク:世界に200パーティほど存在し、学舎卒業者も多く、高い実力を持つ冒険者たちが所属しています。ただし、AB級になるためには特殊な才能を持つことが必要であり、一般的な冒険者はCランクが最高峰とされています。
Cランク:世界中に多数存在し、一般的な冒険者たちが所属しています。所属地域の組合長の推薦の元、ランク試験を合格することで、Bランク以上に昇格することが可能です。
Dランク以下:冒険者として生活できるランクであり、一般市民が冒険者として活動することも多いです。
ランクには上限があり、Cランク以上に昇格するには、所属地域の組合長の推薦とランク試験の合格が必要です。以上です。」
受付人からの説明を聞いた後、彼らは手に入れたバッジとカードを見つめた。
アリアはバッジを手に取り、軽く握りしめた。その瞬間、暖かみを感じた。
ミナはカードを手に取り、表面に描かれた自分の顔を見つめた。初めての冒険者カードに、不思議な感慨を覚えた。
ノアはカードを手に取り、裏表を確認し、内部の構造に興味津々だった。
琴音はバッジを指で撫で、その表面の彫刻に目を留めた。これからの冒険で、自分たちの名を刻んでいくのだと思うと、胸が高鳴った。
手に入れたバッジとカードを大切にしまい、今夜宿泊する旅館へ向かった。卒業記念という事で学舎が特別に旅館を手配してくれた。
翌朝、目覚めると、部屋の窓からは青空が広がっていた。外はとても気持ちの良い天気だ。
目覚めるとノアは既に起きていて、カードを眺めていた。
カードの表面には、名前、ランク、レベルが書かれている。
しかし、ノアが気になっていたのは、カードの構造だった。カードには、複数の層があるようで、それぞれの層には魔法がかけられているように見えた。
カードを上向け透かして見ながらノアは呟いた。
「このカード、中に色々な魔法が込められている。基本情報、受けたクエスト、経験値が記録されている。カードに複数の情報を記憶出来る魔法見た事ない。」とノアは、興味深そうにカードを眺めていた。
「そうだね。今日もまた新しい発見があると思うよ。そして、今日はいい天気。冒険者として出発するには最高だね。」と起きたばかりのアリアは言う。
ミナと琴音はまだ寝ている様子。昨日も寝るまで今日の行き先を遅くなるまで話していた。
初めての冒険の先は、学舎寮から学舎に向かう途中の砦跡に、新しいBランクダンジョンが生成されていたのでそこに向かう事にした。
砦のダンジョンだが、思ったより、あっさり終わり一同拍子抜けしながら、帰路に着いていた。
「Bクラスだと課外授業と同じレベルだから面白みなかったな。あのレベルなら、俺たちなら余裕でしょ。」
自信気にミナは言う。
「でもミナさん、途中気を抜いて横から攻撃されて危なかった場面ありましたよね?気を抜いたら危険です。」琴音はミナに釘を刺した。
「あの時はノアが良いサポートだったね。ミナが夢中になってるの織り込み済みで、魔法詠唱開始してた。ノアは今日も凄かったね。」アリアはノアに笑顔で話しかけた。うんうんと満足気にノアは頷く。
少ししょんぼりしてるミナに、
「なんだかんだ言ってもミナは、対処出来る時と出来ない時の判断を間違った事ないから、あの時もきっと対処できると踏んで後衛に任せたんだよ。」ノアがそうフォローすると、ミナは尻尾をフリフリしながらご機嫌になったようであった。
「私たちのパーティはミナもすごいしノアも凄いし琴音も凄いし、みんな凄いから私も頑張らないと!」興奮気味にアリアが言う。
(アリアのセンスの方がすごいと思うんだけど)アリアの発言を受け一同そう感じた。
難なく攻略はできたが、アリアの迅速な指示での立ち位置の調整、弱点の伝達、連携しやすい戦闘運び、アリアの功績もまた大きい物であった。
「産出品は銀貨と宝石のついた首飾りか、今日の組合の受付は終わっちゃってるし、換金しないとみんなの宿代もないから、競市業者に買取だそうかな?」と一向の方を振り返りアリアは声を掛けた。
「異議なーし」満場一致で賛成の様だ。
ダンジョン産の、アイテムはドロップした冒険者の物になり処分方法も自由だ。組合で換金すると適正な価格で引き取られるが、事務処理で日を跨ぐ事もあり即金制には欠ける。
ここ、ミラノス自治領は競市が開催されている為、古物商も盛んで、この手の物は他の大陸地域よりも捌きやすい環境だ。
競市は、巨額の資金が動くが、ここミラノス市はそれだけではなく、資金が集まる所には欲が集まり、欲人が多い場所にはまた闇の部分も追従してくる。
この地域は便利で、自由な街として知られているがその一方で闇社会が集まりやすい環境でもあり、リスクも同じくらいに存在する。善良な一般人なら夜が来る前に帰宅するが、彼女達は冒険者でそこらの悪党より何倍も腕が立つので心配は無用である。
しかし、それでも彼女たちは油断はせずに行動することを心がけていた。競市でアイテムを売却するためには、多くの人々が集まる場所に向かう必要があり、そこには悪質な商人や泥棒も潜んでいるかもしれないからである。
彼女たちは、注意深く周囲を見回し、警戒心を持って行動した。そして、取引においても、慎重に相手を選び、取引条件を確認することを忘れなかった。
彼女たちは、自分たちが手にしたアイテムの価値を正確に把握し、適正な価格で売却することに成功した。その結果、彼女たちは十分な資金を手に入れ、宿泊費に充てることができた。
彼女たちのような冒険者たちは、危険に晒されることが多いが、その分、慎重かつ冷静な判断力を身に付けることが必要である。リスクを適切に評価し、正しい行動を選ぶことができる冒険者こそ、生き残ることができるのかもしれない。
当面の宿代を確保したからには、まずは腹ごしらえだ。
「みんな何食べる?」アリアが問いかけた。
「辛い物、海苔や生姜以外」ノアが即答。
「やっぱりヘルシーでさっぱりした天ぷら?」と続けて琴音が言う。
ミナの方を見ると苦い顔をして手をクロスさせ、
「野菜絶対ダメ」とアピールしている。
「デザートも選べるし、色々なメニューがある居酒屋にする?」と提案すると、全員が一致したため、本日の夕食は目の前にある冒険者御用達の居酒屋に入ることにした。
店内に入ろうと扉に手をかけた時、うずくまっている人がいた。
「大丈夫ですか?」琴音がすかさず声をかけ、顔を覗きこんでいる。琴音は自然な心配りが得意で、その気遣いにはいつも皆、助けられている。
琴音が声をかけるとぴくぴくっと反応した。
「お腹、、空いて、、う、うごけない、、」
上からミナが覗き込んだ。
「今時行き倒れか?女がこの街で?いい鴨になるぜ。」
ミナがこの人物を少し怪しみながらそう言い、見つめていた。
「お腹すいた。早く食事。」とノアがアリアの袖を引っ張り中に入ろうとする。
今日は私たちの冒険記念日だから、その人も一緒に連れてこ。歩けないみたいだし、中に連れてってあげよ。」
そう言って琴音と一緒に、行き倒れ人を店の中に連れて行った。
やれやれという表情をしたミナに続いて、そそくさとノアも後ろからついて行った。
彼女たちは居酒屋の扉を開け、中に入った。店内は暖かみを感じる照明が灯っている。テーブルと椅子が並べられ、中央にはカウンターがある。壁には大きな酒樽や酒の看板が飾られている。
店内では、そこら中から騒がしい声や笑い声が聞こえてくる。様々な人たちが、食事や酒を楽しんでいる様子が伺える。狭い店内はほぼ満員の様子で、居心地が良さそうな雰囲気が漂っていた。
「空いてる卓にどうぞ。」酒屋子はにっこりと微笑みながら、メニューを渡してくれた。
アリア達は空いてる卓を見つけ、まずは腰掛けメニューを手に取った。居酒屋特有の騒がしさや、居心地の良さが彼女たちの心を癒していく。店内では、様々な卓で熱いトークが繰り広げられている。
冒険者達は、冒険の疲れを癒し、商売人は一日の売り上げを振り返り、勤め人は職場の愚痴を打ち明ける。各々楽しい時間を過ごしている様子が伺える。この場所の雰囲気は、彼女たちにとっても心地よく、安らぎを感じる場所となっていた。
お腹が空いてる急病人の為に、入り口で注文しておいた即席食が届いたので琴音は行き倒れ人に食べさせていた。
「食欲あるならきっと大丈夫!さあ何食べよっかな!」アリアはメニューを手に取り考えていたら
飲み物とミナの料理はもう運ばれてきていた。先程席に着く前に注文してた様だ。
ノアはこういうささいな心遣いが昔から得意であった。
「とりあえず乾杯。今日は私たちの始まりの日」
そう言ってノアが飲み物を各自の前に差し出した。
行き倒れ人は一口食べたら食欲刺激したらしく自分で食べている。
ミナは目の前の肉を見ながらソワソワしている。
「じゃ、リーダーのアリアちゃん」と琴音が促した。
「乾杯!」そう言ってグラスを皆で一斉に持ち上げ一気に飲み干す。
ミナは乾杯終わった瞬間に肉に被りついていた。
「ミナって、いっつもガッツ食いするからうちの猫にそっくり。」
ニヤニヤしながらミナの事をノアが見つめている。
見られていようがお構いなしにひたすら肉を頬張るミナ。
わちゃわちゃとしてるうちにアリアとノアが頼んだ料理も、食卓に並んだので食事を開始した。
一通り口に運ぶと、アリアは行き倒れ人の方を見つめ、「少しは元気になりましたか?まだ食べれるのなら頼みますよ?」と問いかけた。行き倒れ人は申し訳なさそうに口を開き、
「いやー、助けてくれてありがとう。ここ数日負けが込んでて、気まずくて家に帰れなくて、何も食べれてなかったんだ。助かるよ。ありがとう」屈託のない可愛い笑顔でその女性は答えた。
先程は薄暗くあまり見えなかったが、
埃まみれにはなっているが、服装はとても洒落ていて何より長い白髪の髪がとても綺麗だった。
「ギャンブルじゃねーか、自業自得だろ。」
ある程度肉を補給して、胃休めの休憩をしていたミナが突っかかる様に言っていた。どうやらミナは獣人の血の習性から何か感じて警戒している様子だった。
「やーやー申し訳ない。それとあんまり警戒しないでおくれ、僕はこう見えて怪しいものじゃないんだ。確かに店の前に倒れ込んでたのは怪しいけれども。」
そう言ってガサガサとポケットを漁り何かを取り出した。
「あったあった」何やら文字列が書かれた、カード状のものをだして彼女は続けた。
「これは身分証明書みたいなものかな。冒険者で言うと、冒険者カードみたいなものさ。
この近くの店で仕立て屋を営んでるフローラっていうんだ。そこそこの評判店なんだ。」
カードには店の名前と、簡易的な地図が載っていた。
「仕立て屋さんだったんですね。肌触りの良い生地を組み合わせた布地だったから、理由がわかりました。」琴音が横からそう答えた。そういえば先程から行き倒れ人の服を興味深そうに琴音は見ていた。
琴音曰く、感触の違う生地同士の繋ぎは難しいらしく、一定の技量が無いと出来ない代物らしい。となるとこの身分証も偽造品では無い証明にもなる。
「ふーん」とミナは身元判明して安心したのか、また新しく運ばれてきた肉に夢中で食いついていた。
「そう言う訳なんだ。店主をやっているので、体裁と威厳という物がある。店の代表が文無しになって、ウロウロしてるとか従業員に知れたら威厳にかかわるからね。」とおどけて言った。その後堰を切らずに続けて、
「僕は仕立て屋のフローラって言うんだ。長い事営んでるので、情報屋っぽい事も出来る。何か必要な情報があれば無償で提供するよ。助けてくれたお礼だ。」
(長い事って、推測すると少し上っぽくは見えるけど、エルフの血が入って見た目より上なのかもしれない。)話しを横で聞いていたノアは口には出さなかったが、そう考えていた。
ノアはマイペースでのんびりしてる。とよく人に言われてるが、
思ったことをすぐ口に出すタイプではなく、
頭の中で整理して必要か必要でないか処理し話すので、のんびりしてる様に見える様だ。ノアは、興味有無のオンオフが人より激しいが、見た目よりは考えているのである。幼馴染のアリアはそれをよく知っているみたいであった。