第一話
第一話
どうしてこうなった。
もう手も足も動かない、体の下には血が溜まり大きな血溜まりを作っていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、私のせいで無関係なあなたを巻き込んでしまって。」
そう言って泣きながら謝る女の子が俺の隣で膝をつき項垂れていた。
(やばいなんかぼーとしてきた。)
そして俺の意識は暗い闇の中へと落ちていった。
朝が来る、今日もいつもと変わらない一日が始まる。
7時丁度のアラームが鳴り響く目覚まし時計をまだ覚醒しきっていない体を動かして止める。
「おはよう、母さん。」
1階のリビングに降り母に挨拶する。
「おはよう、一」
一、柊一それが俺の名前だ。
「まだ親父は帰ってこないの?」
「そうなのよあの人ったらまだ海外でやることがあるって帰ってこないの」
父さんは何の仕事をしているか分からないが、いつも海外を飛び回っておりあまり家に帰ってこない。
そのおかげでこの柊家は一般的な生活を送れている。
「花梨はもう朝練に行ってるわよ。」
花梨は妹だ、一歳下の中学3年で空手をやっており全国大会にも出たこともある凄腕であり、喧嘩しても勝てる自信がない。
「あいつも大変だな。」
「大変だなじゃないでしょう、あんたも何か部活を、やりなさいよいつも帰ってきてダラダラしてるだけでしょ。」
そこを突かれると少し痛い、俺は今まで部活という部活をしておらず、帰宅部一直線だったからな。
「今度また何か探しておくよ、じゃいただきます。」
誤魔化しながら、テーブル上の朝食を食べ始める。
「続いてのニュースです。」
そう言ってつけっぱなしだったテレビからキャスターがニュースを流し始める。
「昨日の夜間男性が襲われるというこ事件が発生しました、これで通り魔事件は今月で3件目になります。」
そう今月になり夜中に人が襲われるという通り魔事件が3件発生している。
「今回の事件もやはり背中を鋭利な刃物で斬られるという内容になっており、警察では、、」
と事件の内容をキャスターが読み上げていく。
「本当最近は物騒よね、夜中は危ないから花梨と一緒に帰ったら?」
「そうだな、今日は迎えにいってやろうかな。」
「まぁ、あんたより花梨の方が強いでしょうけど。」
確かにあいつの方が強いだろうし守ってもおうかな。
そんなことを考えながら朝食を食べ終え学校に向かう。
放課後
「一帰ろうぜ。」
「一君帰ろうよ」
と同じクラスの男子2人が声を掛けてきた。
ヤンキーのような見た目の方は金剛時綾人、金髪で長身であるがアニメが好きな不思議な男だ。
もう1人は小柄で中性的な顔立ちの朝顔夕、いつも初見では女と間違えられるやつだ。
この2人とは入学したての頃に色々あり、いつも絡んでいるメンツだ。
「すまん、最近物騒だから今日は花梨を迎えに行かなきゃならん、また今度な。」
「花梨ちゃんにお前が守ってもらう立場だな、ハハハ。」
「そうだね花梨ちゃんなら一君より腕が立つだろうから守ってもらいなよ。」
と2人から笑われる、確かにそのとおりだから何とも言えない。
「まあ、確かにそうだ、2人とも気をつけて帰れよ。」
2人に挨拶をし、校門を出て花梨に迎えに行く旨のメールを出そうと携帯をいじりながら歩いていると。
(助けてください!)
どこからともなく声が聞こえてきたような気がした。
周りの人をを見渡しても誰もさっきの声を聞いたような様子はなく、普通に歩いている。
何となく嫌な感じがしたのでメールを打つのをやめ、なぜか近くの路地裏へと足を向けた。
(確かこっちの方だったよな。)
路地裏へと足を向け歩いていくうちに段々と人気のない方へと進んでしまった。
(今朝のニュースのこともあるしまさかな。)
ニュースのことが頭をよぎり嫌な不安が過ぎる。
瞬間、ビルの跡地と思われる空き地に目がついた。
そこには倒れ込んでいる女性と得体の知れない緑色の体色をした謎の生物がいた。
見ただけで分かる、あれは人間じゃない。
(何だよ、あれ!)
運良く女性と、謎の生物はこちらにまだ気がついていない様子で一瞬でビルの影に隠れる。
「あんまり手をかけさせないでくれよなぁ、こっちは早く連れ帰れって命令がでてるのによぉ。」
苛立ちげな声を上げながら女性に近づいていく。
(どうする、どうする、あんなのに立ち向かってもどうせニュースみたいに殺されるのがおちだ、ここは警察にでも通報して逃げよう!)
嫌な汗をかいて足元には水溜りができていた。
震える手で警察に通報するため携帯をとり出そうとした時。
女性が涙を流し諦めたような表情が見えた。
瞬間震えがおさまりなぜか女性の方へと足が向いていた。
「ちょっと待てこらァァァ!」
女性と謎の生物との間に割り込み怒号を上げる。
「何だお前、俺様の邪魔しようってのか人間のくせに!」
謎の生物はさらに言葉に怒気をはらんだような声を上げ、怒りの矛先を俺に向けてくる。
「お前が何だろうが俺には関係ねぇ!
泣いてる女がいて逃げ出すほど俺はまだ腐ってねぇ!」
必死に震えを抑え、女性を守ろうと退かなかった。
「逃げてください!あなたじゃあいつには勝てません!」
そう言って女性が俺の服を引き逃げるように言ってくる。
「五月蝿え、お前泣いてたじゃねぇか!
昔親父に言われたんだよ、泣いてる女がいたら絶対に助けろって、今がその時なんだよ!」
「あっそ、じゃあ邪魔だから死ねや!」
謎の生物が腕を振り下ろす。
ズバッ!
何かを切り裂くような音が聞こえ、一瞬何が起きたか分からなかった。
すると胸の辺りから痛みが広がっていく。
胸に手を当てると俺の手が鮮血で真っ赤に染まっていた。
その時やっと俺の胸が謎の生物によって引き裂かれたことが理解できた。
(何だよこれ、、、、)
すると体から力が抜け、足から崩れ落ちてしまう。
(全く体に力がはいらねぇ)
俺の体の周りには俺の血でできた血溜まりが段々と広がっていく。
(俺このまま死んじまうのか)
暗い闇の中へと意識が沈んでいく。
「ごめんなさい、ごめんなさい、私のせいで。」
俺の隣で血溜まりを気にも止めず膝をつき涙を流しながら俺に謝罪してくる。
(ごめん、名前も知らない君、俺が弱いから君を助けられなかった)
声が出せず、薄れいく意識の中で謝罪する。
謝罪したところで俺の意識が闇の中へと落ちていった。
目を覚ますと俺は知らない場所にいた。
辺り一面暗く何もない殺風景な場所だった。
「ごめんなさい、関係のないあなたを巻き込んでしまって。」
すると背後から女の人の声が聞こえてきた。
「誰だ!」
背後から聞こえてきた声に反応する。
声の主から返答があった。
「私はアテナ、先ほどあなたに助けてもらった者です。」
すると女性の姿が目の前に現れる。
「あなたは無関係な私のために身を投げ出し、私を守ってくださりありがとうございました。」
「ごめん、でも俺が弱いばっかりにアテナ、君を助けられなかった。」
先ほどの胸を切り裂かれたことを思い出し、俺が死んだことを理解した。
「てことはここは死後の世界ってやつか?」
「いいえ、違います。」
けど確かに俺は胸をあいつに切り裂かれて死んだはず。
「あなたは今死後の世界と現世の狭間に居ます。」
というと、アテナと名乗った女性が何もなかった空間にテレビのような画面を映し出す。
そこには俺が血溜まりの中で倒れ込んでいる映像が写っていた。
「理解出来ましたか、あなたはボイドの攻撃で胸に切り裂かれ死にかけています。」
画面を見せられ俺の現状が再度理解できた。
「やっぱり俺死んじゃったか、ごめん君を助けられなかったよ。」
「いえ、まだ死んだわけではありません、時間がありませんが私の提案する策を受け入れれば現状を打開できます。」
とアテナから提案が申し出される。
「良いよ。」
「えっ!まだ説明もしていませんし、失敗する可能性もあるんですよ!」
アテナは俺の即決する様子を見て狼狽していた。
「だってこのままだったら俺死んじゃうし、君を助けられないだろ?」
「それはそうなんですけど、、、」
「じゃあアテナの作戦教えてくれよ、成功したらアテナも俺も助かるし一石二鳥じゃん。」
まぁ失敗しても俺はあのまま死んじまうだけだしな。
「分かりました、でもこと策に成功してもあなたは前のあなたじゃなくなりますし、失敗する可能性がありますが本当によろしいですね?」
アテナの声には先ほどの狼狽た様子はなく、覚悟が決まったような凛とした顔立ちになっていた。
「いいぜ!やってやろうじゃねぇか!
教えてくれ現状を打開できる策ってのを!」
俺も覚悟を決めアテナの提案を聞く。
「分かりましたでは、目を閉じて私の手にあなたの手を重ねてください。」
そう言われ俺の手をアテナの手に俺の手を重ねる。
「ではあなたの望みを強く願ってください、まだやり残したことややってみたいことを、強く強く願ってください!」
「夢とかってことか?」
「そうです、あなたの夢ややりたいことをです、時間がありません急いでください!」
アテナに急かされ俺は意識を手に集中し、夢を想像した。
俺が目を覚ますとボイドが血溜まりに足をふみ入れ、アテナに近づく瞬間だった。
「待てやこら、、、、」
足にはわずかな力しか入らなかったが何とか立ち上がる。
「お前まだ死んでなかったのかよ、じゃあもういっぺん死ねや!」
そう言ってボイドが再び俺の体の中心めがけて腕を突き伸ばしてくる。
「後ろに飛んで!」
俺の背後からアテナの声が聞こえその指示に従いアテナを抱えて後ろに飛んだ。
何とかボイドから距離を取る。
すると軽く飛んだつもりだったが予想よりも遠くに飛んでいたようで着地する瞬間バランスを崩し、アテナと共に転んでしまう。
「何だこれすげぇパワーだ、どうなってんだ。」
「説明は後です、今は目の前の敵に集中してください。
まずは、意識を集中して目の前に盾を想像してください、強く堅牢な盾を!」
なんだかよく分からないが、アテナの言われた通りアニメや漫画に出てくるような盾イメージする。
「何か面倒なことになってるが、もうめんどくせぇ、殺してでも連れ帰れって指示が出てるからもうアテナ様も殺すか。」
そう言い、ボイドが距離を詰めてくる。
そしてボイドが三度攻撃してくる。
「急いで、はやく!」
そんないきなり言われても、しかしできないとここで死んでしまう。
「でやがれ盾!」
精一杯想像し、盾をイメージする。
すると光が体の前に出現し、ボイドと俺の体の間に光の層が出来始める。
そしてボイドの攻撃を何とか凌ぐ。
「どうなってんだこれは!聞いてねぇぞこんなの!」
ボイドは光の層から後方に飛んで距離をとった。
攻撃を三度も防がれボイドの声にも先ほどよりもさらに怒気が含まれている。
「次は攻撃です、拳に力を溜めて解き放つのです!」
まてアテナが指示をだす。
しかし、拳に力を溜めて解き放つって、ドラ○ンボールみたいな感じか?
言われた通り拳に力を溜めるイメージを行う。
そして解き放つ瞬間にペガサ○流星拳をイメージし解き放つ!
するとなぜか拳から光が爆発しボイドへと向かっていき、光は爆風を伴いビルの窓ガラスを次々と破っていく。
「何だとこのボイド様がこんな人間相手ににぃぃぃぃぃ!」
そう言い、ボイドに光の大群が直撃する。
ボイドに直撃した光は大小様々な爆発を殺烈させボイドを埋め尽くす。
爆発が収まるとそこにボイドはいなかった、あるのは割れた窓ガラスと爆発した後のみだった。
「やったのか、、」
「そうです、本当にお疲れ様でした一さん。」
アテナから撃退した結果を教えられる。
すると全身の力が抜け再び地面に伏してしまう。
とある場所、とある機関
「A地区において膨大な魔力の爆発を感知しました!映像出します!」
映像には少年と少女、さらには爆心地とも思える爆発痕がモニターに表示される。
「こりやぁすげえな、とりあえずあいつらを回収するために回収を急がせろ!」
「はい、直近の隊員を向かわせます!」
腕を組み指示を出す筋骨隆々な男性は呟く。
(なかなか面白い状況になってるじゃねぇか)
目を覚ますと見知らぬ天井が目に入った。
体を起こすとギシっと音が鳴った。
どうやら俺はベットの上だったようだ。
状況を確認しようと体を動かそうとすると体から激痛が走った。
「痛えぇぇぇ!」
痛さのあまり声が出てしまう。
すると近くのドアが開き、ナース服の女性が入ってきた。
「はーい、怪我人は動かないの。」
そう言ってナース服の女性が近く。
「痛て、ここどこなんですか、それとあなた誰ですか?」
「質問が多いわね、でも回復してきたって証拠かな。」
俺の質問に答えはすぐに返ってこなかった。
「説明はこの後するからちょっときてもらうわよ。」
そう言い俺を軽々と持ち上げ無理やり車椅子に乗せられる。
(何だこの人どうなってんだ?)
俺の疑問は一切解消されず車椅子に乗せられ部屋を出た。
ドアが開き部屋へと入る。
「ようこそ、柊一君、特別災害対策本部へ!」
と筋骨隆々な若めの男性の掛け声と共にクラッカーの音や拍手の音が部屋に響く。
「な、何ですかこれ?」
俺が放心状態になっていると車椅子を押していた女性から返答があった。
「ごめんね、さっきの質問の答えでまず私の名前は鳳凪、あそこの声がデカくて体もでかい暑苦しい人はここの責任者で六道玄十郎さんよ」
「どうも柊一君、俺がここ特別災害対策部の室長をやってる六道玄十郎だ、気軽にリッ君とか玄さんとでも呼んでくれ!」
そう言い、六道玄十郎と名乗った人は俺にてを差し出して握手を求める。
「は、はぁよろしくお願いします。
ちなみにここって何ですか?」
パニクって回らない頭を精一杯使い質問する。
「そうだな、簡単に説明すると影の正義の味方
ってところかな。」
「それじゃ説明にならないですよ、さっきの答えの続きだけどここの正式名称は特別災害対策本部って言ってね、世間じゃ公表されてないようなことをやってるの。」
「例えば謎の生物とかを退治したりとか。」
謎の生物と聞き、今日起きた出来事を思い出した。
「そうだ俺あの時死んだんじゃ。」
「正確には死にかけただ、君はあの魔族の女の子と契約して何とか一命を取り留めたんだぞ。」
そう言われ、胸を確認すると、胸にはしっかりと傷痕が残っている。
「そういえばアテナ、俺ともう1人いた女の子はどこにいるんですか!
それと魔族ってなんですか?」
アテナのことを思い出し質問する。
「まぁ落ち着けって、あの子はまだ別の部屋で眠ってるぞ、それと今回のことを説明しよう。」
それと同時に近くのモニターにベットで寝ているアテナが映し出された。
アテナの無事を確認でき少し安心した。
玄十郎さんの顔が先ほどの浮かれた表情は消え、真剣な面持ちとなった。
「まず、柊君は最近の通り魔ニュースを知ってるかな?」
通り魔のことを聞かれ今朝やってたニュースだと思い頷く。
「知ってるなら話が早い、あれは君も襲われた生物、つまり魔族がやってたことなんだ。」
魔族?ますます頭が混乱してくる。
「世間では知られていないが実はこの世の中には人間とそれ以外が実在している。
この組織は人間以外の存在によって起きた事件を解決する組織なんだ。」
「いきなり魔族って言われても、ちょっと実感がないっていうか何というかぁ。」
「そうね、確かにいきなり言われても分かんないわよね、じゃあみててね。」
そういい、凪さんが少し後退りし距離をとる。
「来て、プリン」
瞬間床にはサークルが現れて、サークルの中心からピンク色の生き物が出てきた。
「この子が私の使い魔のプリン、主に回復が得意な子よ。」
と某アニメの回復してくれる施設にいるキャラに似た生き物が出てくる。
「これで信じられるかな、この世の中には人以外の存在がいることが。」
「分かりました、漫画とかだけの話かと思ってましたが。」
目の前でやられたら信じるしかないよな。
「それでた、今回の事件は君ともう1人いた女の子の魔族の女の子が現場にいてそれをうちの隊員が回収したってわけだ。」
なるほど、だから俺はここのベットで寝てたのか。
「現場に人1人分の血溜まりと魔族と契約した痕跡があったんで調べたら君があの魔族の女の子と契約していたことが分かったんだ。」
「すみません、契約って何ですか?」
「そうだなそこも説明しなくちゃいかんな、凪君頼む。」
「じゃあ説明するわね、魔族と契約すると人間は普通の人間じゃなくなるの、成功すれば魔法が使えるようになるし契約した魔族の力も使えるの、失敗すると魔族に存在ごと食べられちゃうんだけど。」
なるほどこれがアテナの言っていた失敗の副作用か。
「で君はあの魔族の女の子と契約した時に君の体に魔力が流れて傷が治ったの、それは魔力の力で魔力があればあるほど傷の治りは早くなるの。
だからあれほどの傷を負っても君は助かったわけ。
契約した証に紋章みたいなのがあるはずだけど?」
といい凪さんは右手の甲を見せてくる、先ほど床に現れたサークルと同じ紋章だ。
体を確認すると俺の右手の甲に紋章があるのが確認できた。
「それがあるってことは、やっぱり君はあの魔族の女の子と契約してたってことだ。」
「あと、あの子が言ってたんですけど契約したら普通のら人間じゃなくなるって言うのは?」
アテナが言ってたあの言葉の真意を玄十郎さんに聞いてみる。
「その話も聞いていたのか、では話そうか。
まずさっきも話したが魔族と契約すると君の体に魔力が流れる。
すると魔力の影響で君は魔族に限りなく近い存在になり、人間をはるかに超越した存在となる。
恐らくさっきの戦闘で気づいたことがあったんじゃないか?」
「確かに、なんか飛んだら予想以上に飛んだり、盾みたいなのがでました。」
「そういうことだ、君はもう今までの君ではなくなる。」
そう玄十郎さんが言うと、さっきでの戦闘で思い当たる節が色々出てくる。
「普通の人間には戻れるんですか?」
「無理だ、一度魔族と契約すると魔力は体に残り続け人間に近くはなるが完璧に人間戻ることはできない。」
その言葉には重みがあり、周りも重い雰囲気似なり俺はもう今まで俺では無くなってしまったものだと認識した。
「まぁ、そんな悪いことだけじゃないぞ!
見た目は今のまんまで歳をとっても若いままだからな!見ろ凪くんなんて、痛たた!」
「室長その話はやめましょうね!
でも確かに悪いことばかりじゃなないのも事実よ、身体能力も上がるから学校でもモテモテになっちゃうかもね。」
と凪さんは源十郎さんにアイアンクローをしながらこちらに振り向き笑いながら言ってくれる。
「まったく凪君はこの話になるといつもこうだ。
ところで柊一君、ここからが重要な話しだ。」
俺のフルネームを呼び源十郎さんの目も据わっている。
それだけでこれからの話が俺にとって重要な話だと理解出来る。
「なんでしょうか?」
「君は魔族と契約したことにより人間では無くなった、そこでうちで働かないか?
その力を人を守ることにつかってくれないだろうか。」
「いいですよ。」
俺は即答する。
「分かってる、この話が難しいことだと、へっ?」
「いいですよ。」
「一君そんな即決していいのかい?
まだ詳しく仕事内容とか話してないのだが。」
俺の即答に源十郎さんは少し驚いている。
「えぇ、俺の命はあの子に救われたようなものだし、一度死んだと思えばこの命を誰かのために役立てるのなら。」
そういい、俺は玄十郎さんの目を直視する。
俺は確かにアテナに助けられた、それにあの子は俺に助けを求めてた、ならそれを助けるのは当たり前のことだろう。
「なるほど、君の覚悟受け取った。」
俺の目を見て、俺の覚悟を理解したようだ。
「では、今日はもう帰りなさい。
それと明日の放課後に迎えを行かせるからまたここに来てくれ。」
と源十郎さんは言い残しここから去っていった。
あのあと所属の黒服の人に家まで送ってもらい、時刻を確認すると午後10時だった。
母には適当に誤魔化し、シャワーを浴びその日は寝りに着いた。
放課後
教室の出入口付近が騒がしくなる。
その原因は1人の少女だった。
出入口の近くに立つまるでアイドルかと見間違う程の美貌を持つ少女。
俺と同じ1年の上条悟、彼女はこの学校じゃ知らない奴はいないくらいの美人でスタイルも良く、成績も常に上位であり、既に親衛隊もできているという噂だった。
「おい一、なんで悟ちゃんがうちのクラスにきてんだよ!」
「あの子のがうちのクラスの子と話したりしてるのは見たことないけど。」
確かにクラスの奴と接点があるように見えないが、なぜうちのクラスに来たのだろうと俺も疑問に思っていると、すぐ答えがでた。
「このクラスに柊一君はいますか?」
と何故か俺の名前が呼ばれ、クラス視線が俺に集中する。
「なんだよ一、お前学校のアイドルと知り合いだったのかよ!」
「いや、俺も知らんよ、俺こそ理由が知りたいくらいだよ。」
とりあえず呼ばれたので彼女の元へと向かう。
「室長の命で迎えに来ました、ついてきてくだい。」
「なるほど、てことは君が迎えのひとってこと?」
「そうです、既に迎えが来てるので行きましょう。」
なるほど、昨日源十郎さんが言っていたのはこういうことか。
「悪い、綾人、夕先に帰っててくれ、彼女俺に用があったみたいだ。」
「了解、お前もあの子に手を出すなよ、学校に居られなくなるぞ。」
と綾人は茶化してくるが言ってくる。
確かに彼女に手を出そうものなら噂の親衛隊とやらに狙われるかもしれない。
と、クラスを後にし彼女に着いていく。
校門を出て少ししたところに昨日と同じ黒服の人達が車で待っていた。
車を少し走らせ郊外に向かう。
すると山道に入り、大きな扉が目の前に現れる。
その扉が開き車のまま進む。
車が止まり、上条さんが降りる。
「ではここからは少し歩きましょう。
その間に色々話しましょうか。」
「わかった。」
彼女に促され一緒に車を降り、歩き始める。
「早速質問、さっきも聞いたけど君が言ってた玄十郎さんが言ってた迎えの人?」
「そうです、ちなみに君とあの子を回収したのは私ですよ、現場にすごい量の血が流れてましたが、今はもう大丈夫みたいですね。」
上条さんは俺の体を見てそう言う。
少し、歩くと昨日の部屋の前に到着する。
「室長、上条及帰還及び柊君を連れて来ました。」
「おう、来たか入ってくれ。」
とマイク越しに源十郎さんの声が聞こえてくる。
同時にドアが開き上条さんと部屋に入る。
「よく来てくれた一君、悟も迎えご苦労。」
部屋には源十郎さんと凪さんがいた。
「昨日の今日ですまんな、今日は昨日出来なかった詳しい話をしようか。」
昨日聞くことが出来なかった話が聞けるようだ。
「それと君にいい知らせがある、入ってきてくれ。」
という合図と共に再度ドアが開き一人入ってくる。
「昨日はありございました、一さん。」
入ってきたのはアテナだった。
「アテナ無事だったのか、良かった!」
「目覚めたの今朝のことですが、会えて良かったです。」
アテナは微笑み、俺に抱きついてくる。
その時アテナの大きな胸が俺に張り付き、俺の鼻下が伸びたのは秘密だ。
「彼女は魔力の回復のため今朝まで寝ていの、怪我とかはしてないから安心してちょうだい。
多分あなたと契約した時に大量の魔力を使ったんでしょうね。」
凪さんがアテナの容態を説明してくれる。
「すみません、一さん昨日は契約の詳しい内容を説明もせずに契約してしまって。」
「いいよ、契約のおかげで俺は助かったし、君も助かった。」
「そう言ってくれるとありがたいです、ほんとにありがとえございます。」
アテナの感謝の言葉に少し照れてしまう。
「彼女には君がうちで働いてくれるということは説明してある。
それに彼女もそれに賛同してくれている。」
「君は魔族、その同族と戦うことになるんだかいいのか?」
「はい、そのことについて一さんに話しておこうと思います。」
アテナは少し思い雰囲気を出していた。
「では、まず昨日説明していなかったうちの仕事について説明しよう。」
「では説明は以上だ、何か質問はあるかな?」
「いえ特には。」
「分かった、他の隊員については今度ゆっくり紹介しよう。
まあ、悟のことは知ってるだろう同じ学校だからな。」
まあ関係はなかったが名前だけだけど。
「柊さんこれからよろしくお願いしますね、あと、悟って呼んでもらって大丈夫ですよ」
「俺の方」こそよろしく、まだ分からないことだらけだけど、こっちこそ一でいいよ。」
悟と握手を交わす。
「次はこちらの説明の番ですね。
昨日のことについて説明します、昨日私が襲われていた原因は魔族間での争いからです。
今魔界では穏健派と過激派が政権争いをしています。
私は穏健派のリーダーの娘だったので、誘拐して交渉を有利にしたかったんでしょう。」
なるほどそういう理由だったのか。
アテナの説明は続く。
「そして、今過激派が有利になってきており、魔族が人間界で事件を起こすようになりました。
その後、過激派が人間界に進行しようと計画を進めているという噂を聞き、その計画を止めるために動いていたところで邪魔だてが入り、人間界に身を潜めていました。」
「その情報をうちでも入手していたからこの町での警戒を強めていたから、君たちの戦闘にもいち早く気づけたんだ。」
なんか複雑な話になってきたな。
そんな心境が顔に出ていたのか源十郎さんが俺に言ってくる。
「分かりやすく言うと人間界と魔界が戦争に突入しそうだってことだ。」
なるほそこまで噛み砕いて説明してくれると俺でも理解出来た。
「今回来てもらったのはこの説明ともう1つ理由がある、悟、たのむ。」
「分かりました、では一さんこちらへ。」
悟に案内されたのは広い無機質な部屋だった。
するとマイクから源十郎さんの声が聞こえてきた。
「では今から悟と模擬戦をしてもらう、君はこれから魔族と戦ってもらうことになるので君の戦闘力を見ておきたいからな。」
なるほど、ここは戦闘ルーム的なとこなのか。
「まだ魔力の扱いには慣れていないだろうがアテナ君にサポートしてもらいながらやってみるといい。」
たしかに俺は戦闘というか喧嘩もあまりしたことがない。
「一さんサポートは任せてください。」
アテナが後ろから声をかけてくれる。
「わかった、色々頼む。」
「では、悟初めてくれ。」
「分かりました、一君よろお願いします。」
「こっちこそよろしく。」
そう言って悟は腰を低くし戦闘態勢を取る。
「来てフェンリル!」
悟の足元に紋章が現れ、紋章から狼のような生き物が現れる。
そして狼は霧状になり、霧が悟の全身を覆い尽くす。
霧が晴れ中からは黒い鎧を纏った悟が現れた。
その鎧は単純な黒ではなく、漆黒というのが正しい表現だろうか。
「これが私の契約してるフェンリルです、一応手加減はしますが一君も本気でかかってきてください。」
「分かった、恨みっこなしだからな!」
先程までとは違い悟りからは本気の雰囲気が漂ってくる。
「では一さん、昨日みたいに全身に意識を集中して鎧を想像してください。
そして体中に流れる血に魔力を載せるイメージを。」
アテナに促され意識を深く集中させ、体中に魔力を流すイメージをする。
「一さんは私と契約しているので魔力は流れています、その魔力を使って鎧を作ります。」
鎧、鎧、某漫画の金の鎧をイメージしていく。
「いい調子です、そのまま集中りよを高めてください!」
さらに意識を集中させ、まだ何となくしか分からないが魔力を流すイメージを行う。
瞬間、体中に力が溢れるのが理解出来た。
「できました、これが一さんの防具
黄金の鎧
です。」
目を開けると俺の体には黄金色の鎧が全身を覆っていた。
「出来ましたか、では行きますよ!」
悟が宣言と共に俺に襲いかかってくる。
(一さん避けて!)
とアテナの声が直接脳内に聞こえる。
アテナの指示どおりに横に飛びすんのところで回避し、構えをとる。
(私は今一さんの中にいます、一さんは自由に戦ってください、私がサポートします。)
「分かった、頼むぞアテナ。」
今まで読んだ格闘漫画の内容を思い出しながら何となくやってみるか。
「なかなか目はいいみたいですね、ではこれはどうですか?」
悟は腕を突き出し、黒いオーラを集める。
「黒狼の強襲!」
集められたオーラが狼の群れを形成し俺に襲いかかってくる。
これはヤバそうだ!
昨日の盾をイメージし、盾を作り出す。
「こい盾!」
何故か俺の脳内に浮かんだ言葉を口に出し、目の前に昨日より正確に盾の形をなした物が現れる。
盾があるとはいえ、悟の攻撃を受け盾は軋みをあげる、これは長くは持ちそうにない。
(一さん作戦があります、よく聞いてください。)
アテナから作戦を提案され耳を傾ける。
アテナの作戦を聞き終えると同時に悟の攻撃が終わる。
「初めてとはいえなかなかの防御力ですね、一君。」
「いや、中々今のは効いたぞ、今度はこっちの番だ!」
まずはアテナ作戦の第1段階だ!
腕に魔力を集め、解き放つ!
「目くらましですか。」
悟りは俺の即席スタングレネードで目を手で覆い隠し目を細める。
目を開けるとそこに一君の姿はなかった。
「彼はどこに?」
「俺はここだ!」
すると頭上から声が聞こえる、彼は拳に力をためこちらに襲いかかってくる。
「喰らえ、星砕き(スター・ブレイク)!」
アテナからの提案はこうだ。
悟の攻撃を防いだ後に目くらましを行い、その瞬間に上空に飛び頭上から襲いかかるというものだった。
まあ、作戦とまではいかないがこれでどうだ。
(今です、魔力を解放してください!)
魔力を悟に向け解き放つ、大量の力の本流が悟を襲う。
「中々いい攻撃です、ですがまだまだですね。」
悟がそう言うと、腕を簡単に振り払う動作で、俺の攻撃を受け流す。
「だろうな!」
そう、この作戦はもう一段階ある。
振り払われた力の中を突き進み再度攻撃を仕掛け、拳を悟にぶつけようとした。
「これは中々、ですが残念でした。」
悟はこの攻撃も読んでいたように、1歩も動かずにこちらに目を向けていた。
瞬間俺の腹に衝撃が走る。
「ぐはぁ!」
どうやら俺は鳩尾を悟に殴られたようだ。
立ち上がろうとするが足腰に力が入らず、上手く呼吸もできない。
「そこまで、凪君救護を頼む。」
ドアが開き凪さんが入ってくる。
「あちゃーやっぱりやられちゃったか、じゃ治療するから動かないでね、おねがいプリン。」
俺の体の周りに暖かい光が俺を包み込む。
体中の痛みがすぐに引いていく。
「ありがとうございます、凪さん。」
「いいのよ、これが私の仕事だから。」
戦闘ルームを後にし、俺と悟は玄十郎さんの元に集まった。
「模擬戦だが2人ともご苦労、一君これできみの力がある程度こちらでも測定することが出来た。」
結果は惨敗だったが、これでいいのだろうか。
「君はこれまで何か格闘技やスポーツはしていたのかい?」
「いえ、これまでは帰宅部でした。」
そう答え、少し恥ずかしくなってくる。
「なるほど、先の模擬戦を見ていたが中々筋が良さそうだったな。
良かったら俺と特訓をしないか?」
源十郎さんがこちらに鍛え抜かれた筋肉を見せ促してくる。
それはまたともない、チャンスだった。
俺1人だったら悟には手も足もでなかっただろうし。
「分かりました、このままじゃまたあの魔族に襲われても誰も守れないですし。
誰かを守なら強くならなくちゃいけない! よろしくお願いします!」
「いい返事だ、では明日の6時に運動しやすい格好でここに来てくれ。」
と源十郎さんはめも用紙をこちらに手渡してくる。
場所は俺でも知ってるくらいの高級マンション街の一画だ。
午前5時半忍足で家を出て、原十郎さんに指定されたマンション街へと足を向けた。
指定場所は何とあたり一体が日本屋敷の塀で囲まれた家だった。
「なんじゃこりゃ、」
という一般的な感想しか出てこなかった、本当にデカかったからだ。
とりあえず門扉についているインターホンを押す。
「おはよう御座います、柊です。」
「おはよう、柊君少し待っててくれ今門を開ける。」
すると数秒後門が大きな音を立てて開いた。
開いた門の後に原十郎さんが立っていた。
「おはよう、柊君早速トレーニングをしようか!」
そういう原十郎さんはタンクトップに身を包み、腕のゴツゴツとした筋肉が隆起していた。
「おはよう御座います、玄十郎さん。
それと俺のことは一でお願いします。
トレーニングについていけるか分かりませんがよろしくお願いします!」
「そうか、一俺のトレーニングは厳しいぞ!」
といい、原十郎さんのトレーニングが始まった。