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急募:平和的解決方法


「と、いうのがそうそう何度もあるとマジで命の危険だと思うんだよ、俺」



 まるっと無傷なのはヴィグィードだけ。からだに欠損が生じなかっただけマシだった飛鳥も、これは致死レベルと思うほどの火傷は負い、けれどそのすべてをアヴィが癒してくれたため、とりあえず死人は出なかった昨日。腕が千切れたり足が千切れたりしても、千切れた先が残っていてかつ時間経過がすくなければくっつけられるというアヴィの癒しの能力に改めて感嘆したりもしたけれど、それはともかく。当然ながら痛みはあるし、精神面はごりごり削られるので、飛鳥としてはできるだけあまり体験したくないことではあった。

 かなりの怪我を負いながらも心底愉しそうだった戦闘脳たちももちろん、無傷ながらも愉しむには愉しめたらしい戦闘脳も、絶対に次を持ち出してくる脳筋たちだ。正直、とてもではないがつきあってなどいられない。


 というわけで、なにかいい平和的解決策とかないものだろうかと飛鳥が相談に来た先は村長であるルツィのもと。相談を受けた彼は、困ったように苦笑する。



「そうですね……。村自体にはアヴィさんの結界が張ってあるから、ひとまずは安全でしょうが……正直、そうそう頻繁に地形を変えられるのは困ります。まかり間違ってベルゲン大森林に引火でもしようものならブランデンドさんたちにも顔向けできませんし……」



 昨日のアレで、当然のように地面にはぼこぼこクレーターができたし、付近の草木は燃え尽きた。ブランデンドに顔向けができないというか、立ち昇った火柱に、即行でシシルから苦情というより抗議が入ったらしい。どうにもシシル的にはヴィグィード自身もお気に召さないらしく、三分の二くらい彼に対する罵詈雑言になっていたとかなんとか。


 いや、うん、それはそれで確かに重要案件だろう。大事なことには違いない。


 けれどルツィ……飛鳥の命の心配はしてくれないのか……。


 内心ちょっと凹みながらも、ルツィは村長だから村を考えるのはあたりまえと自分に言い聞かせ、はなしを進める。



「あいつらの意識を逸らせるような、平和的な方法とかなにかないか?」


「平和的な方法ですか……。それができるならそれに越したことはないでしょうけど……。たとえばどういったものなら意識を逸らせると思えます?」



 訊き返され、悩む。一応、飛鳥としてもいろいろと案は考えてみたのだ。ただ、飛鳥にはやはりこの世界の知識が圧倒的に足りていない。もといた世界でできる方法しか思いつきようがなかった。



「ゲームとか……賭博とか?」


「うーん、負けたときに暴れられたりしそうで、逆に怖い気もしますが……。でも、知識はあっても知能の低いかたですしね。単純なルールのものならハマってくれそうな気もします」



 ……いま、さりげなく毒を吐かなかっただろうか。


 え、ちょ、ルツィ。この短い間になにがあったの? 荒んじゃったの? と、ちょっと戸惑う飛鳥をよそに、ルツィは台所に立つレティを呼ぶ。


 ちなみに本日、ハーフエルフの兄妹がいるのはフルブルックの家ではなく自宅だ。この間レティたちと飛鳥がはなしていた食事のメニューを考えつつ実践していたらしい。



「なに? お兄ちゃん」


「フルルをこっちに」


「? わかった」



 フルル? と、首を傾げる飛鳥の前に、レティが台所からなにかを持ってきた。


 いや、連れてきた。


 そっと飛鳥の前のテーブルの上に置かれたそれは、手のひらサイズのちいさな……まりも。まりも……たぶん、まりもがいちばん近しいのではなかろうか。

 ころりと転がったそれは、けれどすぐにちいさな手足を生やし起き上がると、飛鳥のほうを見上げてくる。ふわふわとしてそうな緑の毛玉は、確かに対となるまるい目を持っていた。



「ぴ」



 高く短いそれは鳴き声だろうか。まるで小首を傾げるように若干からだを傾げたそれは、くるりと身を翻し、またひとつ「ぴ」と鳴いてレティの肩に飛び乗る。


 ……まりもかと思ったが、ひよこかもしれない。くちばしはなかったが。



「ケケモってご存知ですか?」


「ケケモ?」


「正式にはケケモ・ケ・モーモという幻獣の一種です。一応、どこにでも存在してはいるのですが、悪意などに敏感で、そうしたものでもって接しようとする相手の前には姿を見せない存在なんです」



 愛玩用に売ろうとする人間が多いため、人間の国では滅多に見られない存在らしいが、魔族領ではそれなりに姿を見せてくれているらしい。



「さしてなにができるということもないんですが、簡単な作業なら手伝ってくれたりもしますし、基本的に害になるようなことはないはずです」



 ちょっと気になってレティの肩にいるそれに手を伸ばしてみれば、しばしじっとその手を見つめていたそれは、ぴょいと飛鳥の手のひらの上に跳び乗ってくれた。



「おお……! かわいいな」



 空いている手の人差し指でちょっと撫でてみれば、ふわふわもこもこしていてとても手触りがよい。ぴ、ぴ、と鳴く声も愛らしくある。


 ……だがしかし、これが幻獣……。幻獣といえば、もっとこう、威厳があるというか、貫禄があるというか、そういう見た目をしているイメージがあったのだが。


 いや、うん、些事だ。かわいいし、それでいい。



「それで、このケケモがどうしたんだ?」


「この子たちにレースをしてもらったらどうかと思いまして」


「レース?」


「はい。自分で探して、自分で育てたケケモでレースをするんです。コースに工夫をして飽きないよう試行錯誤すれば、あのかたたちの意識を逸らすのにもってこいなんじゃないかなと思いまして」



 ドッグレースとかそういうイメージだろうか。



「ケケモって育てかたで能力変わるのか?」


「そうですね。能力はわかりませんけど、性格はそれぞれ違いますし、育て主に似ると思いますよ。この子(フルル)はレティが育てているんですけど、おとなしくて静かな性格で、でもいろんなことに一生懸命で、レティのお手伝いをよくがんばろうとしてくれてます」


「なるほど、レティに似てるな」


「え、えと……そ、そうでしょうか……」



 ルツィの説明に納得して頷けば、レティが恥ずかしそうに顔を赤らめ視線を下げる。飛鳥の手のひらの上のケケモ……フルルは、ぴ、と、ちいさく鳴いた。



「確かに。害がないなら、見ていても癒されそうだしいい考えだと思うけど……。あいつら、そううまく乗ってくれるかな……」


「試してみるだけ試してみたらどうでしょう。育て主の能力は関係ありませんから、戦闘力のない住民たちも参加できますし、いい息抜きになるかもしれません」


「そうだな、とりあえずやってみるか。……で、賞品とかあったほうがいいのか?」


「うーん……ここはまだそんなに通貨も流通していませんしね」



 魔族領であっても、魔族領で使える通貨は存在する。というのも、種々の取引にはやはりそういう手段があったほうがわかりやすいし便利だからという理由によるものらしく、当然ながら人間たちの世界では使えない。人間の国は飛鳥のもといた世界のように、国によって通貨は違うようだが、魔族領はだれの統治下の領地であろうと統一された通貨を使用している。

 魔族領は領地持ちの魔族によって領地として区分けされてはいるが、そのトップが魔王ただひとりであることに違いはないのだ。ゆえに、あくまで領地は領地であり、個々の国ではないということなのだろう。

 この村にもすこしずつ通貨のやりとりが浸透してきてはいるが、まだまだ物々交換のほうが主流である。ほかの町に行く予定でもあるならともかく、この村で過ごすぶんにはまだ金銭の価値はさほど高くもないのだ。


 このレースにいちばん引っかかってほしいヴィグィードに関しては、そもそも必要としていなかったり、長く生きていることでいろんな手段によりちゃっかりひと財産築いていたりもするようで、たぶん金では釣れないだろう。



「……でも、ぼく、思うんです。今回どうにかしたいかたがたって、賞品より、いちばんってことに食いつくんじゃないかなって」


「…………確かに」



 よくいえば名誉や名声、だろうか。おそらく単純にいちばんという響きと、てっぺんであることに輝きを見出しそうだなと、ルツィのつぶやきに飛鳥も頷く。


 だってほら、本来の住処、火山の頂だし。


 というわけで、ものは試しとさっそくケケモレースなるものを試行してみたところ、ドン引くほど……いや、驚くほど問題児たちが釣れてくれたので、飛鳥の安寧の日々は守られることになるのだった。





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