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戦う手段があることは、イコール戦いたいわけではないのです


 さて。折れてしまった剣の代わりに、ヴィグィードからもらった爪を使って打ってもらった新たな剣が出来上がったらしい。それを受け取りにフルブルックの家を訪れた飛鳥は、渡された剣のあまりの美しさに目を奪われる。



「すご……」



 語彙力がどこかにいった。ヴィグィードの爪は白のはずだが、そこに宿る加護の影響か、新たな飛鳥の剣の刀身も鮮やかなまでの緋色だった。アヴィの棍と同色である。

 その刀身自体がきらきらと輝いてさえ見える様に、アヴィがドヤりたくなるのも理解ができるというものだった。



「ふふん。オレの爪を使って、オレの炎で打って、オレの加護までかかった剣だぞ。聖剣も真っ青ってモンだよな!」



 ヴィグィードの爪に限らず、彼の炎もまたなくてはならない要素であったため、彼がここにいるのは当然ともいえる。腕を組んで胸を張り、どうだとばかりに満面に不敵な笑みを浮かべるヴィグィードのことばは、この剣を目にしたいま、とても過剰には思えない。


 いや、飛鳥は聖剣なんぞ見たこともないのだが。


 打ったのこそフルブルックだが、軒並みヴィグィードでできているその剣は、とにかく神々しい。見た目はフルブルックのセンスが光っているのだろうが、溢れ出る神性さや明らかにふつうの剣ではない神気は、さすが神龍と言わざるを得まい。


 全角どう見ても神剣だ、これ。



「ありがとう、ふたりとも。俺、剣の良し悪しなんてわかんないけど、これがほんとにすごい剣だっていうのはよくわかる。それと、ルツィとレティもありがとな。親方のサポートしてくれたんだろ」


「あ、いえ、ぼくたちは大したことはしてないです」


「はい、師匠がすごいんです!」



 レティは相変わらずここを拠点に、フルブルックに師事することを主として動いているが、ルツィは村長を担ってもらうにあたり、そちらの仕事を優先するようにしてくれている。やりたいことから遠ざけてしまったようで申しわけなかったかなとも思ったが、実はものづくりに関しては、ルツィよりもレティの興味のほうが強かったらしい。

 ルツィも興味自体はあるし、仕事として取り組むにも真剣に行っていたが、どちらかというとレティのおまけという意識のほうが強かったという。なにせレティは内気傾向で、他者とのコミュニケーションがうまく取れないきらいにあったから。それも徐々に緩和されてきたいま、ルツィが間に入らねばならないようなこともそうそうなくなってきたようで、それもまた村長を請け負った理由の一端となっていたようだ。

 とはいえ、レティが心配なのは変わらないし、フルブルックの仕事に興味があること自体も事実に違いないので、こうしてちょこちょこここを訪れるスタイルは変えないらしい。



「そーだな。旦那の腕は確かにいいぞ。ふつう、この条件でこんな剣を打てば、腕なんぞ燃え尽きちまうだろうし」



 いつの間にか親交を深めたらしく、ヴィグィードはフルブルックを旦那と呼ぶようになっていた。わかる。フルブルックのガチ職人具合は、尊敬しかしようがない。



「それはヴィーがワシにも加護をかけてくれたからだろう」


「いやいや、そのうえで、だって。加護をかけてたって腕くらい燃やし尽くしちまうくらいの火力の中でオレの爪使って剣打ってんだぜ? いやマジでやるなあ、旦那」


「え、そんな危険な思いして打ってくれたのか? なんか、ごめん。全然知らずに頼んじゃって」



 フルブルックが腕を失ったかもしれないと知っていれば、さすがにこんなすごい剣を打ってくれなんて頼まなかった。とりあえず欠けてしまった剣くらいの剣があればそれでよしとしたのに、と、危うく自分のせいで悲惨な目に遭うところだったフルブルックに申しわけなく思えば、彼は緩やかに首を振る。



「謝る必要はない。いい経験をさせてもらった。……楽しかったからな」


「そーそー。終わりよければすべてよしってな」


「ヴィーはもうちょっと深刻に考えること覚えろよ」


「えー。めんど」



 これだから脳筋は。


 基本的に短気で好戦的で、とりあえず気に入らなければ燃やせばいい精神のヴィグィードに、思考することを求めるのも酷なはなしか。……いや、持っているちからを考えれば、もうちょっと理性を働かせる努力をしてほしいのだが。


 ちなみに、そんなヴィグィードも、気づけばこの村に住み着いてしまっていた。龍の姿に戻りたいときは火山に戻るそうだが、しばらくはひと型で居座るつもりらしい。ちゃっかり家までちゃんと建てていた。なんか、楽しそうだからとか、そんな理由らしいのだが、本当に本能でしか生きていないのではなかろうかと飛鳥が思っても仕方ないと思われる。

 それと、ヴィグィードをヴィーと呼ぶ許可は村の住民すべてに与えられているが、当然のごとくジグルは敬称をつけていた。ヴィー様というのは親愛と尊敬のちょうど妥協点なのかもしれない。



「よーし、んじゃアスカ、外行くぞ、外!」


「……は?」


「おいおい、なに気の抜けた顔してんだよ。すげー剣が出来上がったんだ。なら、やることはひとつだろ?」



 ……いやな予感がする。いやむしろ、いやな予感しかしない。


 こちらを見据えてくる肉食獣的獰猛なまなざしを目に、飛鳥のくちもとが引きつる。回れ右して逃げ出して、果たして無事逃げ切れるだろうか。



「ダイジョブ、ダイジョブ。今日はひと型で戦ってやるからさ! アヴィ連れてくれば、燃えても千切れても治してもらえんだろ」


「なんにも大丈夫な気がしない!」



 鼻歌でも歌い出しそうに上機嫌なヴィグィードにがしりと服の首もとを掴まれ、問答無用で歩き出されてしまう。



「しまる……! しまるから、ヴィー! いま死ぬ! いま死ぬぞ、俺!」



 助けて、と、フルブルックやハーフエルフの兄妹に手を伸ばすが、手を振って見送られてしまった。当然だろう、なにせ相手は神龍サマだ。


 村の外まで引きずられていく途中、アヴィのほかに、聞きつけたジグルやヒルダリアも合流して、それはもう手の付けられないどこの戦場だという光景が村の外で繰り広げられ、立ち昇る火柱の中、何度となく臨死体験をさせられた飛鳥は、翌日を迎えられたことに本気で涙することになるのだった。




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