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よくある転移のプロローグ


 馬鹿正直にまっすぐ飛んでくる拳をわざわざ受けてやるほどマゾっ気があるわけではないので、さっと軽く身を反らして避け、ついでにすっと足を出して殴りかかろうとしてきた相手をすっ転ばせた。ぶべっと情けない声をあげて地面に顔を擦りつけた相手に、ちょっとだけ口角を上げる。



「おっと、悪い。すこしばかり足が長かったようだ」


「て、てめえ……っ!」



 ぎっと睨みつけてくるのはいいが、若干涙目になっているぞ。


 そこまで煽ることはせず、それでも鼻を鳴らした飛鳥に、すっ転んだ男はこりもせず立ち上がり、今度は蹴りを放ってくる。とはいえ、所詮素人のそれだ。避けるのも受け止めるのもたやすいため、飛鳥はあえて受け止め、そのままぐいっとその足を持ち上げる。



「え、わ、ちょ……!」



 残された片足をぴょんぴょん跳ねさせバランスを取ろうとしているのだろうが、股関節が開ける限界を越えたらしくすぐに後方へと傾いたため、手を離してやった。今度は尻もちというかたちで地面へと戻っていく。



「ちょっと、ショーヤ」



 慌てた様子で地面に座り込む少年へ駆け寄るひとりの少女。制服をこれでもかと着崩し、がっつりメイクを施した彼女こそが、この状況の元凶だ。


 今回の呼び出しは、オレの女に手を出しやがって、である。


 呼び出したのは座り込む少年。オレの女、が、その傍らの少女。そして呼び出されたのが、制服のポケットに両手をつっこんで平然と立つ少年、石動飛鳥(イスルギ アスカ)だ。

 飛鳥としては甚だ遺憾ながらも、こうして絡まれることはままある。理由こそ割と雑多だが、絡みやすいと思われがちなのか、絡んでいいヤツという認識をされがちなのか、残念ながら慣れたものと言えてしまうくらいには絡まれてきた過去を持つ。

 おかげで、自衛のためにからだを鍛えたりもしてきたため、気づけばちょっといきがっている目の前の少年程度であれば難なくいなすことも可能になっていた。

 取り巻きとかそういうのを連れてこなかっただけ好感が持てなくはないが、呼び出し先が校舎裏とか、ありきたりというか古いというかでなけなしの好感なんぞ帳消しで、なんならそもそもの理由が冤罪なので急降下まっしぐらだったりする。


 そう、冤罪だ。こういった理由はまず間違いなく身に覚えがない。手を出したとされる相手の顔やなまえを知っていればまだいいほうで、今回のようにまったく見知らぬ相手というのもちょこちょこある。当然、だれだよアンタという問いは真っ先に放ったが、なぜか少女を怒らせるに至り、さらに少年をけしかけるというとんでも展開に発展してしまった。


 迷惑極まりない。


 とりあえず、突っかかってこられる以上自衛はするが、過剰な防衛はするつもりもないので、このあたりでお暇しようか。吐き出しかけた溜息は逆上されかねないと思い至りなんとか内心に留め、くるりと身を翻す。



「ちょ、ちょっとどこ行くのよ!」


「そうだぞ、てめえ、逃げるのか!」



 いや、見逃しているのはこちらなのだが。背中にぎゃんぎゃんと声がかけられるが、相手にするだけ時間の無駄だ。無視に限る。


 と、一歩を踏み出そうとしたその瞬間。


 足もとが、唐突にまばゆいひかりを放ち出す。



「は? え? なにこれ」



 そんな声が聞こえたような気がしたけれど。確かめる間もなく視界が真っ白に塗り潰されるのだった。




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