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第一章 ⑥ 二人旅

 二人が一夜を共にした翌日、懲りもせずにやってきた少女と合流して、次の予定を立てる。

 もう嫌になって来ないかもしれないと思っていた節もあったが、それでは身体を張った甲斐が無くなってしまうので、ある意味当然の結果だったかもしれない。

「さて、今日はレベル上げだな。どっちにしろ、お荷物を抱えていくにしては難易度が高いクエストのようだから、ある程度戦力を整えるつもりではいたし」

「うぅ、すいません…」

「戦闘でも、少しは役に立ってもらわないとな」

 そういうわけで、これからロポッサの街を出る前に、色々と準備しなければならない。

「とりあえず、パーティを組まないと。こっちから、招待するから受理してくれ」

「はい、お願いします」

 メニューを開いて、プラナシカ宛てにパーティへの招待を済ませると、向かい合う彼女も、同じように空虚で手を動かしてメニューを開いた。

 ちなみに、メニューを開く動作は、皆一様に決められていて、Πを描くようにするのだが、右利き左利きに応じて、UI(User interface)が若干変わる。

 『ステータス』や『クエスト』などのメニューアイコンが、左右どちらかの縦一列に並ぶという小さな違いだが、これが意外とバカにならない。

 右側に固定されていると、左利きの人が使いにくく、逆もまた然りなので、どちらが利き手でも使い易く設計されているようだ。

 しかも、Πを書いた側にアイコンが表示されるので、利き手の右手が武器で塞がっている時に、左手でメニューを開いても、左手側の縦一列に並ぶ為、さらに利便性が高い。

 また、左右どちらの手でメニューを開いても、どちらか片方に固定にする設定もあるので、人によってはその方が良いという場合にも対応している。

 彼女がパーティへの誘いを許諾すると、緑色の帯状になったHPゲージがもう一人分増えて、プラナシカと名前も表示された。これで、パーティメンバーの体力も常に把握できるというわけだ。

 特にヒーラーの役割を担う彼女には、ここをこまめに見る癖をつけさせなければならない。

 それは追々やっていくとして、今度はアイテムストレージを漁る。

「ところで、今レベルいくつだ?」

「えっと…ちょっと待っててくださいね。うーんと、一番高いのは僧侶ですけど、まだ11です」

 背中を任せるには、随分頼りない数字だが、今回に限っては良くも働けば、最終的に悪くもある。

「それなら、すぐ上げられるな。最初はそっちのレベルを上げるから、21になったら言ってくれ」

「はい、分かりました」

 3年前のゲーム発売当初なら、21まで上げるのに何日かかったことかと思うものだが、今なら大したことの無い数字だとも思える。

「それで、僧侶で良いんだったよな? まだ初期装備みたいだし、だとすると防具から必要だな…。あれとこれとそれと…あとは……」

 手持ちの中で使わずに眠っていたアイテムを、次々にプラナシカへ譲渡する。

「えぇっと、バレットさん。良いんですか、こんなに頂いちゃって…」

「まあ、別に要らないような物だし、そのくらいあれば、少しはマシになるだろう」

「…そうですよね。ありがたく頂きます」

 貰った物を片っ端から装備していった彼女は、見違えるほど見た目が変わった。

 初期装備のパッとしない普通の防具から、僧侶らしく見える程度の白い修道服を着ただけでも、少しはゲームにこなれてきたプレイヤー感が出ている。

「あとは、これもいいか…。俺はINT使わないからな」

「こ、これ…」

 最後に渡したのは、INTが上がるシンプルなデザインの指輪だった。

 女という例に漏れず、彼女も光り物が好きなようで目を輝かせていたが、そっと左手に収めようとしたので、途中で口を挟んだ。

「おい。間違っても薬指に着けるなよ」

「え? はい、分かってますよ。あはは…」

 そっと位置をずらして小指に填めると、指輪は自動で彼女に合わせて伸縮した。

「武器は…今だけ変えてもいいが、レベル制限に引っ掛かる物ばかりだな」

 ゲーム開始時に好きな武器を貰えるというシステムと、それを随時強化していくことが基本になるこのゲームでは、貰った武器以外の物は重要視されていない。

 必要なレベルを満たし、素材を集めて強化していき、徐々に強くなって頼もしくなる相棒が、さらに姿形を変えていく様を楽しむのも醍醐味の一つだ。

 強力なバフや付与効果が施された武器がほとんど出回っていないことも、それに拍車をかけているが、それ故にこのゲームでは武器屋が繁盛していないことにも繋がる。

 偶に、同じ武器に飽きてしまった者が新たな得物を探しているくらいなもので、クエスト報酬などで武器を手に入れても、すぐに売ってしまう者も多い。

「これで、一通り済んだか。少しは様になってるぞ」

「えへへ、そうですか? バレットさんのおかげですよ」

 おだてられればすぐ調子に乗る女は、修道服自体の露出が低くとも、そのやたら目につく膨らみの自己主張が激しく、ピンクのミニスカートから伸びる白ニーソと色白の脚も健在なので、ちょっとしたコスプレみたいにも見える。

 さらに、修道女が頭に被っているウィンプルまで白いので、まだまだひよっこの見習い僧侶といったところだが、白とピンクに包まれた姿は随分甘めで、甘ロリのような印象すら受ける。

 総じていえば、無自覚で男を誘ってしまう、あどけない見習い修道女といったところか。

 これで、順当にレベルが上がって、その都度装備を更新していけば、他のゲームでもよくある謎の法則に則って、どんどん露出が減っていくだろうから、いずれはディオラのような女という性の権化になっていくのだろう。

 全く、今から楽しみである。

 一通り装備も見直して準備も整ったところで、一気にレベルが高い所までワープ屋で跳んでしまえれば一番楽なのだが、それができない以上別の手段を取るしかない。

 このゲームの世界は、上下左右を反転させた日本地図にそっくりで、スタート時点のロポッサの街は、現実の札幌に位置する。

 考えてみればすぐに分かる通り、札幌さっぽろを逆さ読みしただけの簡単な設定だ。

 これを手抜きとみるか、分かりやすいとみるかは人それぞれだが、おかげで話が通じやすい部分もある。

 北海道でいう東部、根室方面へ行くのが初心者がまず行くべきルートで、ゲームが発売された当初は北海道以外のマップに移動制限が掛かっていたのも懐かしい話だ。

 発売から半年ほど経って、ハーフアニバーサリーが祝われた頃に、本州への移動が可能になり、そちらには今までよりも強い敵が出現した。

 なので、ここから北上して本州へ向かっていけば、彼女のレベルに見合わないほどレベルの高いモンスターと遭遇する。

 とはいっても、今の俺のステータスからすれば、この辺の初心者が相手にするようなモンスターと大差ない。

 主な移動手段である馬車を使っても良かったが、馬車に乗ったまま発砲すると、馬が驚いてコントロール不能になることと、AGI(素早さ)が低く走るのが遅い彼女をおんぶして、駆け抜けてしまった方が手っ取り早かったため、その手段を取った。

 決して、足を進める度に背中にぶつかる大きなクッションに、目がくらんだわけではないことを、ここに宣言しておこう。

 彼女がずり落ちないように片手で支えながら、利き手で通りがかったモンスター共に片っ端から風穴を開けて進む。

 あまりにギュッと力強く抱き着かれて、首が締まりそうになった危機はあったが、受けたダメージはそれくらいなもので、着実に彼女のレベルが上がっていく。

 山を避けて走ってきた長い道中の先で、クゴウヨキという町に訪れる。

 足を休めてSGスタミナゲージを回復しつつ、腹ごなしも行い、一旦休憩というわけだ。

 ある程度休んだところで、さらに北東に進み、次に立ち寄ったコセニの町で、宿を取った。

 もちろん、ただ安全にログアウトする為に取ったわけではない。彼女への取り立てが、昨夜の一回だけで済んだわけではなかったので、引き続き対価を支払ってもらう為だ。

 そして、次の日以降も時間が合った時に合流して、同じように道を進んでレベルを上げていき、夜も遅い時間になってくれば、また立ち寄った町で宿を取り、清算してもらう日々が続く。

 人間、慣れというものは恐ろしく、日に日に彼女の抵抗が薄くなって、女としてのウデも上がっている気がする。

 北海道を抜けて本州に移動する為に、テダコハの街までやってくる頃には、目標のレベルを上回っており、今度は俺のジョブレベルを上げる為、一度ジョブを狩人から魔法使いに変更する。

 FPやSPを手っ取り早く集める裏技として、低レベルであれば上げるのが容易なことを利用し、メインジョブ以外もある程度上げておくという手段が流行ったが、幸い俺はまだ手付かずのジョブがあったので、それが仇にならずに済んだ。

 現在、P(プリーストの略)Lv22まで上がった彼女に対し、俺はS(ソーサラーの略)Lv1なので、この状態で俺のレベルを10上げれば、3つ目の条件(自分よりレベルが低いパーティメンバーのレベルを、10以上上げる)をクリアすることになる。

 ジョブ自体は、いつでもメニューを開いて、『ジョブ』のタブから変更できるし、ジョブによって武器種の制限も無ければ、現在のステータスも反映されるので、レベル1といっても彼女以下まで極端に弱くなったわけではない。

 そのジョブでしか発揮されないパッシブ効果や、ステータス補正、ジョブスキルは使えなくなったが、自力でもこの辺りの敵を狩る分には申し分ないのだ。

 本州側へ移動する為には、船を使う必要があり、本来、船に乗るためには、アイテムを集めてくるクエストをこなさなければならないのだが、以前クリアしていた俺は免除され、彼女の分は俺が持っていた物を渡してクリアした。

 巨大なタコやサメに襲われることも無く、静かなひと時の船旅を経て本州に渡ると、また彼女を背負い、次の街まで駆け抜けて、同じように敵を倒していけば、あっという間に目標を達成できた。

 パーティを組んでいると、敵を倒した際に経験値が自動で均等に割り振られるので、こういったパワーレベリングといわれるような手段が取れる。

 ただ、手っ取り早くレベルを上げられるものの、あまり褒められた行為でもなく、普通は引っ張る側が得をしないので、かなりの額や報酬を要求されたりする。

 当然、彼女のような新米プレイヤーでは、それを払う見込みが無いので、場合によっては現金リアルマネーを対価として要求する場合もあるそうだ。

 そういう例外的な場合を除けば、大抵は現実での友人に無償で行ったり、同じクランのメンバーを手っ取り早く強くして、戦力を補強するために行われている。

 以前、それを悪用してクランに一時的に加入し、レベルを上げてもらってからすぐに抜ける奴が現れてから、特にクランでも躊躇うようになったらしいが、あまり俺には関係のない話だった。

 2つの条件を満たし、いよいよ最後の一つを残すのみとなったところで、一つの当てを頼りにさらに移動する。

 もう条件をクリアする為のレベル上げは済んだので、自分のジョブを狩人に戻し、その道中も同じように狩りを続けた。

 俺の方はともかく、少しでもレベルが上がれば、それだけ彼女が使い物になる可能性が上がるので、こういう地道なことも続ける必要があったのだ。

 結局、彼女と出会ってから数日経って、ようやく次の条件を達成させる為の当てがある所までやってきた。

 ここはちょっとしたトラウマでもあるが、このダンジョンには嫌なトラップがあり、ある一区画の空洞に入ると、数十匹の蛇が一斉に襲い掛かってくるというものだ。

 だが、今回はそれを利用する。

 当時ならともかく、今のAGIなら彼女を背負ったままでも、逃げ切れるはずなので、これで一気にカウントを稼ぐ算段だ。

 懐かしくも苦々しい思い出の地を踏みしめ、相変わらず無数の蛇が襲い掛かってきたのを見てから、踵を返して入口へダッシュする。

 その空洞から出れば、それ以上追ってこない蛇が退散してから、再突入してまた引き返す。

 これを繰り返せば、すぐに「100体倒さずに見逃す」という条件を満たせると踏んだが、これが解釈違いだったら、また改めて別の手段を取るしかない。

 それよりも、問題は一度やる度に、耳元ですごい悲鳴を上げる少女の方だ。

 モンスターからのダメージは無くとも、鼓膜の方が先にやられてしまうのではないかと心配になった。

 ピコンッ!

「どうやら、上手くいったみたいだな」

 10回も往復しないうちに、新しいクエストが追加された通知音を耳にすると、走り回っていた俺よりも疲れた顔をした少女を下ろした。

「はぁ、はぁぁ…、良かったですぅ」

 脱力してその場に座り込んでしまった少女や、しゅるしゅると薄気味悪い音を立てながら去って行く蛇たちに目もくれず、追加されたクエストを確認する。

 すると、エクストラクエストの欄に、『ロニコムの長い一日』という文字が見受けられた。

「ここまでは、情報通りみたいだな。そっちはどうだ?」

「ふぇ…? あぁ、はい…今確認します……」

 現実でも好きではない犬猫を相手に、ゲーム内で触れるのすら躊躇う俺と同じで、きっと彼女は爬虫類が苦手なのだろう。

 女の大半はそうであるイメージはあるが、自分の周りにいる女を見ていると、それを忘れさせられるような光景ばかりだったので、久しぶりに思い出したという感覚だ。

「あ、ありました! ちゃんと、エクストラクエストが増えてますよ!」

「よし。それなら、ここにももう用はないな。さっさとおさらばしよう」

「そうですね。すぐ行きましょう!」

 よっぽど嫌だったらしく、俺の背中を押してまで即座に変えることを促した。

「そんなに急がなくても、クエストは無くならないぜ? あの蛇だって、追ってこないだろうし」

「それでも嫌なんですっ! は、早く退散しましょう。…まだ鳥肌が収まらないんです」

「まあ、街に戻ったら戻ったで、今度は俺の蛇の相手をしてもらうことになるけどな」

「…まだ、そっちの方がマシです」

 その日は、最寄りの街で休んで彼女と別れ、翌日例のクエストを進めることにした。

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