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第一章 ③ 情報提供者

 ディオラから買った情報を元に、アラジンというPNプレイヤーネームの男を探す為、彼の所属しているクランのクランハウスまでやってきた。

「かわいいお家ですね~」

「そうかもしれんが…、これは男にはきついな」

 『フェアリーテイル』と書かれた表札を掲げる大きな家は、その名の通りおとぎ話に出てくるようなメルヘンな様相だ。

 もしかしたら、今後お菓子の家やお城にクランハウスを移したいと、本気で思っていそうな集団の住処である。

 明らかに、女性比率が高いのは外観からも分かるが、こんなところによく彼は在籍しているものだと、逆に感心する。

 クランハウスにはクランメンバーしか入れないので、玄関にある呼び鈴を鳴らす。

「はーい。加入希望の方ですか?」

 しばらくして出てきた女の名前は、すぐに予想がついた。99%『アリス』という名前だと。

 なぜ予想できたかなんて、至極単純な話だ。

 夢の国で見た覚えのある格好を、そのまんましている金髪の女がお出迎えしたからだ。

「あの、初めまして。プラナシカと言います。加入希望じゃなくて、アラジンって人を探しに来たんですけど…?」

「あー、そうなんだ。アラジンなら、ちょうど今来てるよ。すぐ呼んでくるね」

 近所の友達の家に遊びに来たぐらいの感覚で話が通り、時計を持った白兎を追うように少女が扉の奥へ姿を消すと、ちょっとだけ溜め息が漏れた。

 彼の拠点が、ロポッサの街にあって良かったとしみじみ思う。

 ワイマールのワープ屋を利用して街を移動するには、一度行ったことのある街にしか跳べないので、まだそれほど多くの場所を回ったことが無さそうな彼女を連れて来られなかったからだ。

 その場合、この佇まいのクランハウスに俺一人で赴き、そこに所属するプレイヤーに話を通さねばならなかったので、今思っても心が居た堪れない。

「こんなお家もあるんですねー。私も住んでみたいなー」

「それなら、ついでに加入希望の話もしておけばいいじゃないか。…俺には、とても無理だがな」

 彼女は女の子らしく、こういうメルヘンな物にも興味があるようで、俺とは反対に胸を躍らせているようだ。

「うーん、それも良いんですけど。私、特に童話とかおとぎ話がモチーフの名前でも無いですから、ちょっと場違いな感じになりませんか?」

「いや、このメルヘンでポップな様相は、アラジンでも場違いだと思うぞ」

「まあ、そうですね~。クランはともかく、いつか自分の家を持てるようになったら、こういう風にハウジング(?)って言うんでしたっけ? してみたいなぁ」

「…そうだな。それなら、自分の好きにできるからな」

「バレットさんは、もう自分のお家持ってるんですよね?」

 ランカーなら、当然だよね? とちょっと無用な無言の圧すら感じたが、実際その通りだ。

「ああ、この街じゃないけどな」

 クランにおける拠点がクランハウスではあるが、個人でも家を1つ買うことができ、特に内装はかなり好きに弄れるので、ハウジング要素も高い。

 幼い女の子が好きなおままごとの延長みたいなものではあるが、かなりリアルに作りこまれたゲームであることと、おもちゃとは違って実際に使えるものなので、その手の者からすると、これだけでもかなり遊びごたえがあることだろう。

 実際、俺や同じクランメンバーの死神の少女も、ろくに使わないクランハウスは、ミニマリストと大差ないほど手付かずなものだが、個々の家はかなり手を入れていると聞いている。

 ただ、彼女の家まで行ったことは無いので、どのような仕上がりになっているかは知らないが、あのディオラが営む魔女の住処でさえアレなのだから、死神の住処となれば、足を踏み入れたが最後、生きては返れないような気もする。

 とはいえ、二人で会うだけならクランハウスで済むし、わざわざ彼女の家に招かれることも無いだろうから、きっとその真実を知ることは一生無いだろう。

「いいなー。私も、早く欲しいです」

「やりたいことがいっぱいあるうちが、一番楽しいもんさ」

 憧れの未来予想図に目を輝かせた少女と話しているうちに、件の男が現れた。

「ども。僕に用があるっていうのは、あなたたちですか?」

「ああ、その通りだ。俺はバレット。こっちは、プラナシカ。…ここだと落ち着かないから、場所を移してもいいか?」

「ええ、構いませんよ」

 既にアラビアンな恰好をしている男は、雰囲気や物腰も柔らかく、あまり歳を取っているようにも感じられないので、年齢が近そうに思える好青年だ。

 彼を連れてフェアリーテイルのクランハウスから離れ、段々人気の無い方へ向かっていく。

「こういう言い方は不快に思うかもしれないが、あんなクランにいて居心地が悪くないのか?」

「あっはは。まあ、普通はそう思いますよね。男友達にも、よく言われます」

「でも、そんなことないですよ。確かに女の子が多くて、男の立場が弱そうだと思った時期もありましたけど、同じようなものが好きな同志ですから、邪険にされることも無いですし。もしそんなことになっていたら、真っ先にクランを追い出されてると思いますからね」

「確かに、それはそうだな。今も在籍しているのが、何よりの証拠ってわけか」

「はい。それに、これは偏見かもしれませんが、ゲームに慣れてない女の子も多いですから、ゲーム慣れしてる僕に相談を持ち掛けてくる事もあって、ちょっとは頼りにされてるんですよ」

「ははっ、そうか。だったら、あのクランがそのうちキミのハーレムにでもなっていたら、面白いんだがな」

「いやいや、まさか。そんな浮いた話は無いですよ」

 もしそんなことになっても、童話やおとぎ話では語られない酒池肉林の様子が、あのメルヘンな建物の中で行われているとは、誰も夢にも思わないだろう。

 だが、王子様とお姫様であっても、男と女が結ばれたら、行きつく先は皆同じである。

「そういえば、こいつがちょっとお宅のクランに興味があるらしいんだが、実際キミみたいに作中の人物から名前を取っている者ばかりなのか?」

「そうですねー。ほとんどはその通りですけど、全く関係ないPNで、ただおとぎ話や夢の国が好きで入っている人もいますよ。まだ空きもありますし、随時募集中ですから、その気があればいつでも入れると思います」

 好意的に話してくれた彼の言葉を受けて、どうするんだと彼女に返事を促した。

「えぇっと…、ありがたいお話なんですけど、もうちょっと色んなクランを探してみてからにしようかと思います」

「そうですか。でも、確かに似たようなクランもありますし、本当に色んなクランがありますから、探すだけでも大変ですけど面白いと思いますよ」

「はい。すいません、ありがとうございます」

 丁重にお断りした意図は分からないが、彼女にとって何か思うところでもあったのだろう。

「それで、話っていうのは、この事でしたか? だったら…」

「いや…。この辺でいいか。そろそろ本題に入ろう」

 人通りの無い路地まで来ると、足を止めて、後ろを歩いていた彼に向き直る。

「まず、確認したい。キミが最初に貰った武器は、魔法のランプだと聞いている。それは本当か?」

「え、ええ。そうですけど」

「あのアラビアン・ナイトのように、ランプを擦れば魔神が出て、その魔神が代わりに戦ってくれているそうだが?」

「ええ、それも合ってます。正確には原作通りの魔神ではなくて、人と書く方の魔人ですけど」

「ふぅん、なるほど」

「あ、あの…何なんですか? ユニーク武器だからって、色々詮索したいのは分かりますけど…、まさか奪う気じゃ…?」

「いや、それは誤解だ。キミのランプを奪うつもりは無い――だが、教えて欲しい。キミの本当のメインジョブは、調教師ではないのか?」

「――っ、ち、違います! 誰からそんなことを聞いたか知りませんが、僕は魔法使いです。最初から、魔法使いに割り振られてました!」

「それなら、失礼を承知で言うが、キミのステータス画面を見せてくれ。もちろん、マナー違反なのは承知している。だから、俺のステータスも開示しよう。これなら、お互いに不利益は無いはずだ」

「いや、むしろ俺の方が損をしているかもしれない。上位ランカーとなれば、ステ振りを参考にして、真似しようとする輩は後を絶たないからな」

「あっ! そうか。どこかで聞いた名前だと思ったら、あなたはランキング5位の…可変銃使いコンバーチブル・デビル、バレットか」

「気づいてなかったのか。まあ、それはどっちでもいい。トリッカー同士、仲良くしようじゃないか」

「ランカーだからって、偉そうにしないで下さいよ。弱い者虐めをしていたら恰好悪いのは、誰であっても同じです!」

「自分が弱者だと認められるのは良いが、だったら…この局面をどう乗り越えるつもりだ? 俺は強さを手に入れる為なら、手段は問わないぞ」

 ジャケットで隠していた銃に手を添えると、いつでも撃てるように身構えた。

「……もう止めて下さい! 私の為に争わないで!!」

 空気がひりついて、これから面白くなってきそうだったところで、少女に水を差された。

 黙って様子を見守るしかなったプラナシカが大声を上げたことで、二人の男はお互いに彼女へ視線を向ける。

「いや、お前の為に争ってたわけじゃねーんだけど…」

 俺の心の声が小さく漏れてしまっても、誰の耳にも入らずにかき消されてしまう。

「ごめんなさい、アラジンさん。私たちは、そんな嫌な思いをさせる為に、お話を聞きに来たんじゃないんです」

「実は、私が…調教師のジョブが欲しくて、その情報を探して、バレットさんにもお手を借して頂いてるんです」

「え? 君が? …君は、バレット…さんの、彼女さんとかそういうのでもなく?」

「はい、そうです。私は、それがあれば、モンスターをテイムできると聞いて、このゲームを始めたんです」

「え? え?」

 熱弁し始めた少女に手を握られて、彼は余計困惑している。

「『ペガサスと夢渡り』って絵本をご存じないですか? 私、幼い頃にあの絵本に出会ってから、ずっとペガサスが大好きで、今でもあの絵本も大事に持ってます」

「いつか、あの絵本と同じように、ペガサスに乗って大空を飛んでみたいって夢見てたんです」

「でも、ペガサスは伝説上の生き物で、現実には存在しないと知って、すごくショックでした。それでも、できないと思うと、余計思いが強くなって…」

「そんなことを思っていた時に、このゲームの噂を聞きました。すごくリアルに作られている現実そっくりなゲームの世界は、ファンタジーな世界観で作られていて、しかも調教師というジョブがあれば、モンスターや動物もテイムできるって」

「もし、それが本当なら、私が幼い頃から思い描いていた夢が叶うんです。だから、もし良かったら…力を貸して貰えませんか?」

「うぐっ…」

 純真な眼が襲い掛かり、さらに彼の良心を咎めている。

 これは、純粋で天然故の暴挙なのかもしれないが、こんなことをされたら、大抵の男は考えを改めさせられてしまうだろう。

 これなら、体付きのことも含めて、キャバ嬢にでもなった方が、よっぽど儲かりそうだ。

 男の良心をダシにして、金を咽び取る最悪のモンスターが誕生することだろう。

「はぁ…、分かったよ。僕もあの絵本好きだったし、僕の知る限りのことを教えるよ」

「ホントですか!? ありがとうございます、ありがとうございます!」

 目をキラキラと輝かせる彼女は、彼の手を握ったままブンブンと上下に激しく振っていた。

「災難だったな。まあ、タダでとは言わない。余ってるアイテムで何か欲しいものがあれば、譲るとしよう」

「そういうのは、もっと早く言ってくれたら、交渉がスムーズにいったんじゃないですか?」

「キミが気に入る物があるかは、分からないからな。あくまで、奥の手ってことさ」

「じゃあ、そっちは後で交渉するとして…あの、そろそろ手を放してもらえますか? メニューが開けないんですけど」

「あっ、すいません!」

 慌てて彼の手を放して、一歩下がった彼女の頭に手を乗せた。

「お手柄だったな。おかげで、こいつを拷問する手間が省けた」

「拷問!? そんなことをしようとしてたんですか?」

「冗談だよ。ただ、殺してしまっても、また復活するだけだからな。最悪、そういう手段を取る必要もあるかな…と思っていただけだ」

 その話を聞いていた彼は、目の前で安堵の息を漏らした。

「はい、これ。僕のステータスです。確認してください」

 周囲のプレイヤーにも見えるようにメニュー画面を可視化して、さらにステータス画面を開いた彼が手を翻して、こちらから見やすい様にしてくれた。

「…百聞は一見に如かず、か」

「ホントに、調教師って書いてます」

 彼のFPの振り分けには興味が無かったので、そちらは全く見ていなかったが、本来5種類の中のいずれかのジョブが表示されているところに、6種類目の調教師の文字が刻まれていた。

 しかも、既に調教師のジョブレベルは50を超えている。

 これなら、調教師のジョブ特性や一定レベルを超えると得られるスキルなどについても、もう既に知っている可能性が高い。

「僕が最初に貰った武器が、魔法のランプだったことは本当です。でも、割り振られたジョブは、この調教師でした」

「他のジョブがどれか消えていて、代わりに調教師があるわけではないんだよな?」

 もう大丈夫だとばかりにジェスチャーをすると、画面を相手に戻して、彼も可視化を解いた。

「いえ、違います。僕は6つのジョブを持ってますから」

「となると、完全に追加されたわけだ。でも、メインジョブは魔法使いだと聞いていたし、現にさっきも言っていたのは…こういう事態を恐れていたからか?」

「はい。チュートリアルを受けた時に、5つのジョブの話を聞いて、自分が異例なのはすぐに分かりましたし。一緒に始めた友人がいるんですけど、彼からもこの事は伏せておいた方がいいと言われまして」

「まあ、賢明な判断だな。おそらく、初心者相手でも容赦しない連中は、俺以外にもいただろうし。逆にいえば、情報料として最初から質の良い装備を得られた可能性もあるが…結果論に過ぎないか」

「それで、魔法使いと言い張れば、バレないだろうからという友人に同意して、ひた隠しにしていたんです」

「それじゃあ、調教師の存在を知っているのは、キミを除けばその友人くらいか?」

「ええ、そうです。クランメンバーにも、知らせていません」

「それこそ、さっきクランハウスで会った女も、テイムできるものなら白兎でもチェシャ猫でも、いくらでも飼いたいものがあっただろうに。よく言わなかったな」

「ああ、アリスさんのことですか。確かに、おとぎ話に喋る動物は付き物ですからね。でも、話したところで、自慢話にしかならないですから、あまり良いものじゃないと思って…」

「それもそうか。キミは最初から持っていたが、入手手段を知っている訳ではないから、結果的に自慢話で終わってしまうのか」

「それで、調教師って、噂通りモンスターとか動物をテイムできるんですか?」

 彼の経緯などを聞いているところで、逸る気持ちを抑えきれない様子のプラナシカが、辛抱堪らずに問い掛けた。

 その期待に満ちたキラッキラ光る目を前にすると、こっちの方が引いてしまいそうだ。

「はい、できますよ。実際、僕ももうしてますし。ただ、レベルとか色々条件もあるので、ペガサスは大変だと思いますけど…」

「でも、できるんですよね! だったら、できるようになるまで、ひたすら頑張るだけですっ!」

「あはは…すごいガッツだ。でも、それは僕も同じ気持ちですよ」

 お互いの強い意気込みを聞いたところに水を差すようで悪いが、彼女のハードルはなかなか高いことは事実だ。

「まあ、そもそもペガサスを見た覚えが無いがな」

「え? バレットさんでも、見たことないんですか?」

「ああ、まだ未解禁の地も多いって話だからな。いずれは、遭遇するかもしれないが…」

「見つけたら、すぐに教えてください! いいですか? すぐですよ、すぐっ!」

 今までにないほど押し迫ってきて、身体が触れ合う事すら厭わずに、真っ直ぐな目を向けられた。

「あー、はいはい。覚えてたらな。それより、まずは調教師のジョブを手に入れないと話にならないぞ」

「あ…そうでした」

 むしろ、彼女自身が興奮状態の馬のようだったところを落ち着かせ、根本に立ち返る。

「何か、当てがあるんですか?」

「ああ、一応な。…ちょっと惜しいか? 自分だけの6つ目のジョブが普及してしまうのは」

「…そうですね。でも、仕方ないです」

 自分が特別な存在で無くなってしまうのを、惜しく思うのも無理はない。

 だが、仮に調教師を持つ者が広まっても、彼がトリッカーであることには変わりない。

「なぁに、悪いことばかりじゃないぞ。調教師が普及してくれば、キミも調教師であることを隠す必要が無くなるだろうからな」

「あ、そっか」

「ただ、最初から持ってたってことは、伏せた方が良いかもしれん。もちろん、俺たちもキミがそうだったことは、誰にも話さないと約束しよう」

「はい。恩を仇で返すようなことはしませんよ」

「すみません、助かります」

 彼からお礼を言われる必要も無いと思うのだが、素直に受け取っておいた。

「それで、さっきの代わりに何かくれるって話なんですけど…」

「ああ、なんか希望はあるか?」

「次にテイムしようと思ってるのが、魔法の絨毯っていうか、空飛ぶ絨毯でも良いんですけど、心当たりありませんか?」

「いや…残念ながら、遭遇した覚えが無いな。そもそも、敵のモンスターって感じでもないし…」

「あー、言われてみれば、そうですよね…」

「あとは、何か無いか? どのステが欲しいのかは知らないが、INT(知力)とかMP(魔力)を上げる指輪とかなら持ってるぞ」

「あー、それもいいですね。効果値が高いものだったら、尚更欲しいんですけど…でも、そうですね…。頭に被る小さい帽子みたいなの無いですか? あれ、探してるんですけど、イマイチ見つからなくて」

「んー、ちょっと探してみるか」

 何かのタイミングで使うかもと思って、大量に溜まっているアイテムストレージの中を漁り、1つそれらしき物を見つけたので、一度自分に装備する。

「こういうのか?」

「あっ、それいいですね。欲しいです」

「なら、これをやるとして…そういえば、まだこっちのステータスを見せてなかったな。必要ないなら、わざわざ見せないが…」

「あ、ついでにお願いします」

「ついで、ね」

「あっ…! すいません」

「いいよ。先に言い出したのは、こっちだからな」

 彼に帽子を渡してから、メニューを可視化させてステータス画面を開こうとするが、その前に便乗して覗こうとしていそうな女を追い払う。

「おい、お前はちょっと向こう行ってろ。見る必要ないだろ?」

「え? 私も興味ありますっ!」

「興味はあっても、見る権利は無いだろ。それとも何か? 代わりに、お前のスリーサイズでも教えてくれるってのか?」

「それは…言えませんけど…」

「そうだろうな。なら、あっち行った行った」

「はぁい…」

 冗談交じりに無理難題を突き出せば、俺のメインジョブのレベルの数値を優に超えていそうなバストを手で覆い隠して、恥ずかしそうに引き下がった。

「…結構、手厳しいんですね。余計なお世話かも知れませんけど、彼女さんじゃないからって――」

「それこそ、余計なお世話だ。俺は、このゲームに女を探しに来てるわけじゃない」

「あ、すいません…」

 彼のクランのように女所帯の中で生きるのであれば、異性に対する気遣いや処世術も必要だろうが、相手によっては、それを逆手にとって悪用し、甘い汁を吸おうとして近づいてくる者もいるので、一概に彼が正しいとはいえない。

 せめて、心優しい彼が、その良心に付け込まれて、ハニートラップに掛からないことを祈るとしよう。

「ほらよ。もう二度と見る機会は無いだろうからな、じっくり見とけ。まあ、大したもんでもないけどな」

 プラナシカを遠ざけて、アラジンだけに見えるように画面を動かすと、俺たちが彼のステータス画面を見た時と同じくらい驚いていた。

「うわっ、もう90まで言ってるんだ! すげーっ…」

「おい、見るのは良いが、口に出すな」

「あっ…」

「90…?」

 見れはしなくとも、しっかり聞いていた少女は、こちらを振り向いてポツリと数字を呟いた。

 いっそ、聞いてしまったのなら、こちらもスリーサイズまでいかずとも、せめてカップサイズくらいは問いただしてやろうかと、邪な考えが過ぎる。

「へぇ…。ちょっと思ってたのと違いました。ありがとうございます」

「ああ、何の参考にもならないだろうけどな」

 野次馬がやってこないうちに、さっさと可視化を解除すると、そのままメニューを閉じる。

 すると、その様子を遠巻きに見ていたプラナシカも、またこちらへ戻ってきた。

「それじゃ、これで交渉終了だな。俺たちは次の用があるから、これで失礼する」

「はい。ありがとうございました」

「こちらこそ、ありがとうございました」

 お互いに礼を交わす男女を尻目に、俺はすたすたとその場を去った。

「あ、ちょっと! おいてかないで下さいよぉ~!」

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