8話:運任せ
道具が入ったバックを背負い、3日ぶりに外に出る達也。目的は1つ。人を殺す。
覚悟を決めた達也は未来へ足を踏み出した。
時間はまだ昼過ぎ。達也は、とある悪者が出没すると警報が流されている地域へと足を運んでいた。今回、達也が選んだ標的は連続殺人事件を起こして居る悪者だった。
しかし相手は悪者。達也は力を手に入れたと言ってもただの学生。学生がいくら探そうとしても、潜伏している悪者がそう簡単に見つかるはずが無かった。本来であれば……。
「こっちだよ、お兄ちゃん」
達也はある1人の男の子によって案内されていた。達也が特別な手段を用いたわけではない。ただ、その子供が目立ち、つい喋りかけてしまったことが起因する。話しかけた理由としてはその子供には足が無く、宙に浮かんでいるという事が理由だった。
これは悪魔も予想していなかった回転式拳銃の副作用とでもいうべき現象だった。悪魔と契約し手に入れた拳銃のストックと達也の命はリンクしていると説明されていたが、実際には達也の生命力が拳銃に移され、拳銃のストックに依存しているという形が正しい。その為、現在達也の体には生命力が宿っておらず、仮死状態となっていた。
そして異能が存在し魑魅魍魎が溢れた世界で法則は変わった。化け物や妖怪、悪魔といった存在が現れる様に幽霊すら現れる世界へと変貌を遂げていた。
「こっちに何があるんだ?」
達也は今まで起きた事が無い現象に興味を抱いていた。そして会話を幽霊と重ねていくうちに達也はここに悪い人がいなかったかを期待半分、興味半分で聞いてみた。
すると幽霊は少し考えこむ様子を見せた後、達也を案内していた、
拳銃に残るエネルギーの残量も少なく死が近寄ってきてはいるが、達也は手掛かりになりそうな物も無く、探し続けるよりよっぽど良いと考えていた。
「着いたら分かるよ、お兄ちゃん」
歩く事、十数分。達也もそろそろ痺れを切らしそうになる。命の危機がすぐそこまで迫っている為正常な反応ではあるが。達也は目の前の光景に思わず吐きそうになった。
「あの子だよ。お兄ちゃん」
「うっ!」
そこには達也を連れてきた幽霊、と連れられてきた通夜の他にもう1人女の子の幽霊がいた。
しかし、その幽霊の見た目は痛々しくて見ていられる姿では無かった。肌は爛れ、爪は剥げ、眼は片方が無く空洞に、髪も焼け、体は今にも血が噴き出してきそうな程に酷かった。
達也は動揺する心を無理やり押し殺し、傷だらけの幽霊に話し掛ける。
「どうしたんだ、君。こんな傷だらけで」
傷だらけの幽霊は話し掛けられてようやく達也がいることに気づいた様子だった。しかし話し掛けられたと分かると、片目から嗚咽と涙を零し始めた。達也を案内してきた幽霊が傷だらけの幽霊に寄り添い、慰めている。
「痛かったの……嫌だったの……死にたくなかったの……」
「この子は殺されたんだよ。でかい男に」
傷だらけの幽霊が途切れ途切れに話す言葉を連れてきた幽霊が補足をしていく。達也と2人の幽霊が話していく中で、達也は何が起きていたのかを段々と詳しく理解していくのであった。
「そうか……それは苦しかったな。俺をここに連れてきて合わせてくれた理由が分かったよ。ありがとうな」
達也は話を聞き、それが悪者警報に出ていた殺人鬼であることはすぐに分かった。悪者警報には悪者の特徴も同時に公開されている為である。
「君は……そのでかい男がどこにいたか分かるかい?」
達也は一瞬躊躇するが、傷だらけの幽霊に思わず聞く。
「……」
反応が無い事に罪悪感を覚える達也。
「ごめん。君が思い出したくないようなことを…」
「……知ってる」
「え?」
「その男……今どこにいるか、知ってる!」
傷だらけの幽霊は残った片目で達也のじろりと見上げた。達也は一瞬だが恐怖する。その残った方の眼にはこれ以上無い程の憎悪が込められていたからだ。
そして達也は男の子の幽霊に別れを告げ、導かれるように女の子の幽霊の後ろを着いていく。バッグを片手に、自分の懐に存在する拳銃の感触を確かめながら。
「ここに……でかい男がいるのか?」
「……うん」
傷だらけの女の子は小さく、だがハッキリと肯定する。
案内された場所は郊外の外れにある一軒家であり監視カメラなどが配備されていない。悪者が潜伏している場所としては妥当な場所であった。
「そっか、ありがとう。ちょっと頑張ってみるね」
女の子の霊にお礼を言う達也。何を頑張るかは、はっきりとは言っていないが明白だ。
「うん……ばいばい。お兄ちゃん」
そんな事を言い、空に消えていく女の子。
達也はこれからの事を考える。目の前の家に悪者は居るのだろうか?
そんな不安に沿われる達也だが、とにかく確かめなければ始まらないと考えを改める。
悪者であれば殺す。悪者でなければ殺さない。ただそれだけだと。
「俺は正義に成りたかったんだ。悪者でも無い人を殺せるわけが無い……」
達也は死が近づいていても、そこまで積極的に殺すと考えることが出来なかった。時間制限までに来れば殺す。来なければ終わり。
そんな考えが達也の根底にあった。
「俺は別にどちらでも良い……」
達也は待つ。悪者が来るその時まで。