7話:力
「契約成立だ」
瞬間、達也と悪魔は光に包まれる。
しかし光はすぐに収まり、悪魔には先程まで持っていなかった何かがあった。
「オマエの力はこれだ」
達也に悪魔が何かを、切り落とされていない手に手渡した。渡された物を受け取った瞬間、達也は明確に何かと繋がったと理解した。繋がった影響でとある現象が起きる。
「手が生えた?」
目の前の現象を理解できずにただ呟く男とそんな様子を眺める悪魔。そしてそんな現象を起こしたのが渡された物――紫色の回転式拳銃である事に気が付き、拳銃をまじまじと見つめる。
「ソレはオマエと繋がった。分かるだろう?」
「ああ、力が湧いて来る。今なら何でもできそうだ」
達也には今、一種の全能感のような感覚が存在する。拳銃から引き出された力は達也に流れていき、達也を強化している。
だが達也はそんな力に代償があるとは考えすら抱いていなかった。
「でも気をつけろ」
「何に?」
達也にとって悪魔からの忠告は寝耳に水だ。達也は先程悪魔との会話で対価はもう払われているという事を覚えていた。だというのに何か問題があったのかと考えていた。
「その力は限りがある。溢れる力も終わりが来る。終わりが来れば、オマエの命もオシマイだ」
達也が短時間ではあるが見てきた悪魔の表情の中でも一番綺麗な笑顔を浮かべていた。
一瞬見ほれそうになる達也であったが、自分の命が終わるという話をそのままにして置くという事は出来なかった。
「どういう事だ? この力が有限だとしても何故俺の命までもが終わる?」
達也は言われた事が衝撃で却って冷静だった。
「オマエとその拳銃は繋がっている。力があればオマエの肉体は治り力を渡すが、無くなれば命すら終わる」
詰まる所、達也が持つ超常な力を与える拳銃はエネルギーのストックが存在すれば達也に力を与え、達也の肉体を癒す。しかし拳銃にストックされるエネルギーは達也の命とリンクしており、エネルギーが無くなれば達也の命の灯は消え去ってしまう。
だが力としても欠陥もいいと所。救済案が無いはずもなく……。
「だがエネルギーは補給することが出来る。補給の方法も簡単だ」
「……その方法は?」
嫌な予感を感じつつも聞かずにはいられない達也。
悪魔はにっこりと笑う。
「人を殺せばいい」
「は?」
「人を殺せばいいんだ。人を殺せば命、つまりはエネルギーをストックできる。簡単だ」
「そ、そんな事できるはずが無い! 命を犠牲にするなんて!」
達也は叫ぶ。達也からすれば当然だ。ヒーローに成りたいはずが何故殺人鬼に成らなければならないという事になっているのか。
しかし達也の悲痛な叫びも虚しく、悪魔は楽しげだ。
「ヒーローも人を殺して人を守るだろう? 殺す事に意味を持たすことの何が悪い?」
悪魔からすれば殺人鬼もヒーローも平等だ。殺人鬼は人を殺し続けるが、ヒーローは殺人鬼を殺すことによって人を守る。殺すという行為は同じなのに何故そこまで忌避するかが悪魔には分からない。動揺する人の様子を楽しんではいるが……。
「オマエは人を殺し、ヒーローとなる。そしてストックが増える。一石二鳥というやつじゃないか?」
そして悪魔は次いでと言わんばかりに、6発の銃弾を達也に渡す。
「コレの使い方はもっと深く繋がれば分かる。これにて契約は完了した。楽しみだ。オマエがどうするのか」
悪魔の姿が半透明になっていき、段々と消えていく。しかし、悪魔は面白いおもちゃが出来たとばかりにご満悦だ。達也は何かを喋ろうとするが喋ることが出来ていない。
「最後に1つ忠告だ。色々あるだろうが……」
名案を思いついたかのように基地を開く悪魔。
「ワタシと契約したオマエの最期はきっと悲劇的だ」
達也はその後、自分がどうやって家まで帰ったのかを覚えていなかった。気が付けば家におり、部屋の隅に座りぼんやりとしていた。
自分の持つ拳銃を眺めながら悪魔が言っていた事を思い出す達也。
「ヒーローも人を殺して人を守るだろう? 殺す事に意味を持たすことの何が悪い?」
(人を殺す事に良いも悪いも無いだろう)
達也は悪魔の言葉を否定する。しかし拳銃と繋がっている達也は自分がこのままでは、そう長くない命だという事を理解していた。繋がっている事により、拳銃について必要な事も使い方も分かっている。
しかし、殺すという明確な悪を達也は拒否していた。ヒーローに憧れた者が悪を為す。そんなギャップに苦しめられている。
――1日経った。
達也は誰からの連絡も拒否し塞ぎ込んだままだ。考えが空回り、何一つ建設的なことを考えられていない。
――――2日経った。
何も考えずにただひたすらに惰眠を貪った。ストックは残り少ない。
――――――3日経った。
ストックが少ない。命の危機が迫れば、人は覚悟を決める。覚悟を決めざるを得ない。
達也は覚悟を決めた。
おもむろに情報端末を開き、悪者警報が出ていないかを確認する。悪者警報が出ていれば逆説的に犯罪者がいる目印となる。
達也は道具を用意し、決行するために外に出掛けた。幸いにも悪者警報が発令されている地域は無数に存在した。そこから危険とされている所を選び、目的地とする。殺せなければ、どちらにしても同じだ。そんな思考が達也を支配していた。
道具が入ったバックを背負い、3日ぶりに外に出る達也。目的は1つ。人を殺す。
覚悟を決めた達也は未来へ足を踏み出した。