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3話:親友

 窓から差し込む光を受け1人の青年が寝どころから目を覚ます。父親譲りの白い髪が光に反射する。白髪の青年は起床すると立てかけてあった制服を着用し、生徒手帳を胸ポケットに入れる。生徒手帳には柳沼やぎぬま達也と書かれていた。

 達也はテレビをつけながら朝食を作り始める。慣れた手つきで料理を作成している達也の耳にテレビのある言葉が耳に入ってくる。


「今回もまたお手柄です! “流星メテオ”が薬物の違法に取引していた組織を検挙し、取引の場にいた複数の異能使用を行う悪者ヴィランの逮捕にも成功した模様です!」


 達也がテレビの画面に目を向けると、テレビには女性リポーターとともに流星を彷彿とさせる衣装に身を包んだ男性が映されている映像が視界に入る。番組の内容としては”正義ヒーロー”を称えるものである。この社会において正義ヒーローの活動を報道することは喜ばしい事であり、娯楽であり、普遍的なものとなっている。

達也が今確認している事件は“流星メテオ”と呼ばれる正義ヒーローが麻薬取引を行っている現場を押さえ、カルト宗教の悪者ヴィランを逮捕したというものだ。犯罪者の中でも


 達也の顔は親しい人間しか分からない程、小さく歪む。今、達也の内心は異能を発現していない自分に向けて怒りが燃えている。


「分かっているはずなのに……!」


 自分を納得させるように、ぼそりと呟きながらも顔を歪める事も自分の怒りを鎮めることも出来ていない。

 それはひとえに自分がヒーローになりたいという”思い“を捨てきれていない事が原因だった。


 達也には特別な力など何1つ無い、異能のように悪者ヴィランや化け物を倒す力は無い。この世界における正義ヒーローとは異能統括機構であるとされている。世間一般ではそう言われているし、達也もそう思っている。


 しかし、達也は異能が発現しない事に絶望し腐る事は無かった。自分にもできることはあるはずだと考え、行動している。体を鍛え、知識を蓄え、困っている人を見捨てずに助けようとしている。


 だが、達也はテレビに正義ヒーローが映るたびに異能の事を考えてしまう。自分で自分を納得させていようが関係は無い。今の達也では絶対に届かない領域なのだから。


 そんな悔しさと怒りを鎮めた達也はいつも通り通っている高校に登校するために家に鍵を掛け、歩を進める。


 達也が向かっている高校は県内でも有数の進学校だ。達也は知識を蓄える事も重要だと考え、ヒーローになりたいという思いを叶える為に勉強を欠かすことは無かった。その為、学校内でもある程度の順位を維持している状態だ。しかし、達也はヒーローになるという目標の為に部活に入るという行為を行ってはいなかった。


 こんな学校の活動において普通の学生という立場であったが1つだけ周りとは違う事があった。


「やあ、達也。おはよう」


 達也の後ろから話しかけてきた男。10人いれば10人が振り返る。そんな端正な顔立ちの男だ。


「ああ、いつきか。おはよう」


樹は達也と違い、成績の順位は上位に居座り続けスポーツも達也以上に万能という文武両道ということばを体現した男であると周りから囁かれている。


「達也、なんだか辛気臭い顔だね。ボク、心配だよ」


 樹は達也に向けて心配そうに問いかける。樹は達也が昔から正義ヒーローになりたかったと知っている。そして今もその思いが消えていないという事に少し勘づいているのかもしてないと達也は考えている。その為、達也は努めて笑顔で言い返す。


「大丈夫だ、樹。そんな俺にばっかり構っているよりあの人に話しかけろよ」


 達也は努めて笑顔でそう言い切る。達也としては自分が異能を発現しないことにウジウジと悩んでいることを知られたくは無かったのだ。

 そんな達也を見て樹は不思議そうに問い返す。


「あの人?」


 達也はキョトンとした樹の姿を見て少しの怒りと呆れを顔に浮かべる。

 

「お前が相談してきたんだろ!? あの生徒会長さんが好きだって」


 達也は想起する。樹がいつになく真剣な様子で相談をしに来たことを。そして樹が頬を赤らめながら相談してきた時に感じた、ぞわぞわとした感覚を。


「ああ! ごめん。ボクが達也に相談したんだよね」


 頬をかきながら謝罪する樹。


「達也に相談してからボク、頑張ったんだ。畏れ多くて喋れなかったけど、達也に相談してから勇気を出して話してみたんだ」


 達也は思っていた以上に進展した事に驚いている。樹は相談したときに畏れ多く喋れないけど喋りたい、仲良くなりたいと相談していた。達也は理由を聞き出そうにも樹は口ごもり、それ以上話は進まなかった。その為、達也はとにかく頭を空っぽにして話しかけてみろという投げやり、かつ、能筋な解決策を提示していた。

 だからこそ達也は生徒会長との仲が進展したことに驚いている。


「樹にしてはやったじゃないか! それでどうだった?会長は」


 友人の進展は喜ばしきものだ。そして達也にとって樹は昔からの親友だ。喜ばないはずがない。


「会長は……」


「なんだい、君達。私の話かい?」


 透き通るような声で呼びかけられた達也と樹。2人を呼びかけた女性、朽名一夏くつないちかは2人より1つ上の先輩であり、話にも出てきた生徒会長である。

 突然話しかけら来た相手が会長である事が分かり、思わず固まってしまう2人。しかし固まる理由はそれぞれ違う。達也は樹の相談の話が聞かれてしまったからではないかと思った為、樹は好意を抱いている相手に突然話しかけられ心の準備ができていなかったからだ。


「か、会長!? お、おはようございます!」

 樹は反射的に挨拶を行った。頬は赤くなっている。


「いえ、樹のやつが会長と仲良くなれて嬉しいと笑顔で話していたんですよ」


 達也はにっこりとしながらそう言い切る。樹は達也の発言を聞き、言葉を出そうとしているが言葉が出ていない。一夏は少し目を丸くしてから呟く。


「そうか、そう思われるという事は嬉しい事だな」


 一夏は優し気に微笑みを浮かべている。達也は、会長はこんな顔をするのだなと内心驚いている。達也の会長のイメージとしては、規律を守る鉄の女といった印象であるからだ。達也がそんな印象を抱いている理由としては達也の白い髪が関係している。白い髪の件で一夏と関係を持ったため、樹は相談してきたと言っても過言ではない。


 そして樹は意中の相手である一夏が優し気に笑みを浮かべている光景を見てさらに顔を赤く染めている。


 達也はそんな優し気に笑みを浮かべる一夏と顔を赤く染める樹を見てなんだか嬉しくなる。なんだか2人の仲が進展しそうに思えたからだ。2人も達也にとっては親友と先輩。2人とも幸せになってくれるなら嬉しいことは無い。だからこそ、一夏とはまた違う笑みを達也は浮かべる。


 そして3人は樹が平静を取り戻してから学校に向けて歩を進めていくのだった。


 達也は異能が発現せず正義ヒーローとなれない事に少しのトゲを残しつつも現状に満足していた。身近である人が幸せになっていく喜び。それは自分にとってヒーローだと達也は考えていた。


 考えていたからこそ必然だった。達也の心が折れ、……と契約する事は。


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