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8話;契約

柳沼やぎぬま達也。僕と契約しろ」


 虎太郎に契約を結ぶように促された達也は再び考え込む。自分にとってメリットが多いという事は理解している達也。そして虎太郎は自分が殺人を犯した犯罪者であることを警察などの行政に知らせていないという事実。


(メリットがあるのは事実。だけど……)


そんな事実が存在していても虎太郎が自分に何をさせたいのか。分からないという事は恐怖である。特に悪魔と契約した達也にとっては。


「駄目だ」


「……なに?」


 虎太郎は眼をぱちりと見開き、茫然とする。しかし、虎太郎は自分が聞き間違えたと思ったのか再び達也に言葉を放った。


「すまない。何か聞き間違えてしまったようだ。もう1度言ってくれるか?」


「駄目だ。俺は虎太郎と契約は結べない」


 達也の言葉を咀嚼する虎太郎。しかし言葉を理解していくにつれ、顔が赤くなっていった。


「本当に……」


「え?」


 虎太郎がボソッと言った言葉を聞き取ることが出来ず、虎太郎に耳を寄せながら聞き返す達也。


「本当に! 度し難いな! 君は!」


「うるさっ!」


 耳を虎太郎に向けていた為、虎太郎の大声をもろに食らってしまった達也。耳をおさえながら虎太郎に文句を言う。


「だって仕様がないだろう? 虎太郎が何をしたいのかが全く分からないんだ。 デメリットが言われていないもの程、危ないだろ」


 達也が言ったことは至って当たり前のことである。メリットふぁけを言ってデメリットを言わない契約や商品ほど危険が存在する。それは一般的なことである。達也は悪魔と契約して、その事を実感していた。


自分の正体がばれてしまったという事は他の人物にもばれる可能性がある。その為、達也に契約しないという選択肢は存在しなかった。ただ、契約内容が不透明なところがある事さえなければ、すぐにでも契約したかもしれなかった。


 しかし契約はしない。分からないという恐怖が存在する故に。


「……だがっ! これは君にもメリットがある。……そうか、ならばこうするか」


 虎太郎は何か思いついた様子で情報端末を操作する。達也は何か考えが存在する虎太郎の動きをじっと見つめていた。数分、端末を操作している虎太郎を、見つめていると達也の端末にデータ送信された旨を伝える通知が来ていた。


「これは……?」


 達也は虎太郎に疑問を投げかける。通知が来ると同時に虎太郎は情報端末の操作を止めていた。その為、虎太郎が何かしたのだろうと予想した。


「新しい契約の内容だ。さっきの無いように更に内容を付け加えた。読んでみたまえ」


 ふんっと鼻息を荒く、尊大に話す虎太郎。その様子はごちゃごちゃ言う達也が面倒だと言わんばかりだ。達也はそんな小太郎の様子を気にすることなく、情報端末に表示された契約の内容を読み進めていく。そして契約の内容はあまり変わらなかった。ある内容を除いて。


「これは……良いのか?」


 達也は自分に有利すぎる内容に対して虎太郎に聞き返す。


「ふん! 君が強情だからな。ある程度はこちらが譲歩しよう。僕の腕を見て判断してくれ。君がもう僕のサポートなしでは動けないようにして見せるさ」


 虎太郎は不敵に笑う。その様子は自分の腕を信頼しており、達也が契約しないとは美人も思っていないようだった。


「俺が虎太郎の試用期間として使い、それで判断するのか。しかも俺の事を口外しない契約まで……」


 達也に渡された契約書の中には達也のサポートとして試用期間を設け、その結果をもとに達也が判断するといった内容だった。そして契約が成立、不成立関わらず、達也が犯罪者であることを口外しないといった内容まで書き込まれていた。


 達也はメリットに関しては魅力的に映っていた。自分の情報端末のログを調べ、自分が悪者ヴィラン殺しをしていた事を把握した手腕。その腕が自分のサポートを行う等、惹かれない筈が無かった。


「君が契約しないという結果はあり得ないからな。さぁ、どうする柳沼達也。僕と契約するか?」


 改めて問う虎太郎。その顔はやはり自信に満ち溢れていた。


「あぁ。よろしく頼む。虎太郎」


 達也からすればその顔はやはり悪魔のように思えてならない。虎太郎が何故自分に力を貸し、力を望まれているかは分からない。だが、腕は確かだ。達也はそんな相手が仲間になればヒーローに近づけると無意識的に考えた。


 殺人という行為を行う犯罪者がヒーローに成れるはずが無い。そんな常識をどこかに置き忘れて。




 1人の犯罪者と1人の少年が出会った。この出会いは犯罪者にとって、少年にとって1つの岐路となった。



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