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6話:連絡

 いつき一夏いちかが病室に入り、1番最初に目に留まったのは立花の取り付けられている呼吸器だった。立花は呼吸器以外に取り付けられている物は無い。そんな立花の傍には娘である琴音ことねの姿が存在した。


「……こんにちは」


 2人の存在に気が付き、挨拶をすることね。しかし琴音の表情は明るくない。


「こんにちは……容体は?」


 樹は自分の上司と言っても差し支えない相手。しかも友だちの父でもある。そんな樹が気にならないわけが無かった。


「手術は終わった……けど、意識が無い」


 樹と一夏は命の別状はないことに一安心する。だが、命に別状はないというのに琴音の顔色は優れていない。理由は他に存在した。


「お医者さんが言うには……ひたすらに体の機能が低下してる……脳とか心臓、肺。……全部が衰弱してるんだって」


「異能は駄目だったのか?」


 異能には体の機能を向上させたり、補助したりする能力も存在する。そしてそんな異能の持ち主は病院に勤務していることも存在する。そしてこの病院は大きい。ならばと考えた樹だったが……。


「異能でも……駄目……受け付けないみたい」


「っ! そんな状態なんだね……辛いのにありがとうね」


 とてもつらそうな琴音を見て樹は自分が辛い事を言わせてしまったと、反省し後悔する。そしてこんな事になってしまった原因である悪者ヴィランを恨み、憎む。


 そんな2人の様子を見ていた一夏は、ゆっくりと。だが、明確な意思を持って告げる。


「今回の犯人はワタシが責任をもって捕まえる。絶対に法の裁きを受けさせる」





 一方、達也は学校で授業を受けた後、家に帰宅していた。そして家に帰り何をしていたかというと……。


「昨日のやつ、まだ報道されていないな」


 ネットを介して報道されていないことに疑問を覚える達也。通常の場合、悪者ヴィランであろうと何人も人を殺し、正義ヒーローを倒していれば報道が行われる。しかし今回に限り報道や警報にて注意喚起すらされていないという事が現状だった。


 これには理由が存在した。達也の認識は間違っていない。通常であれば報道はされるが今回に限ってはその常識は適用されない。なぜなら、達也の姿を確認した者がいないからという事が挙げられる。殺している者は悪者ヴィランのみで目撃者はいない。


そうであっても殺している人数が多くなれば報道はされるだろう。しかし今回は、それに加えて治安維持部隊の捜査官が何の成果も得ずに返り討ちにされたという事が大きい。異能統括機構としては面子も重要視される。達也の姿や性別、異能の種類など知る事が出来ず、異能統括機構が誇る正義ヒーローは殺されかけた。そんな事実を公表することが出来ないと判断した為の結果だ。


 そんな事実を達也は知る由が無く、未だネットから情報を得ようと躍起になっていた。そんな達也の元に一通のメールが届いた。


「なんだ? このメール?」


 送り主を見ても相手が思い当たらない。そしてメールにはとある連絡アプリを情報端末にインストールする為のURLとアカウント識別コードが送られている。そして添えられていた1文が達也の目に留まる。


『貴方の正体を知っている』


 達也の顔は一気に蒼ざめた。


(なんで……。何か証拠を残したのか!?)


 アプリを調べ、特に何ら問題ない、多少マイナーな連絡アプリである事が分かり達也は情報端末にインストールを行った。どのみち、秘密を知られているのだ。連絡は取らなければならないと考えていた。


(……それに異能統括機構なら、俺はとっくに逮捕されている)


 焦りつつも開き直って考え、心を落ち着ける。


「これでコードを打ち込めばいいのか……?」


 アプリでコードを打ち込むと現れてくる1つのアカウント。達也はアカウンヨ同士の友達申請を行うと、すぐにメッセージが送られてきた。


『取引がしたい』


「取引? 脅迫の間違いじゃないか?」


 簡潔に書かれたメッセージ。そこには達也の正体を確信しているような文章だ。そしてさらに文章は続いていく。


『君の痕跡から調べさせてもらった。”狼男”を倒した君に協力を願いたい』


 痕跡という言葉が書かれ、何かしらのミスが存在したのだと理解する達也。しかし、脅迫だとしても協力を願い出ている事から話を聞いてみる価値は存在すると思い直していた。


「何故、俺なんだ? 俺より強い奴ならいくらでもいるはずだ」


 メッセージとして単刀直入に尋ねる達也。相手は少しの沈黙の後に1つのメッセージを送っていた。


『君が悪者ヴィランという犯罪者しか殺していないからだ。そして正義ヒーローを殺していない。それは信用に値すると判断した』


「……」


 殺していない。その言葉は達也の心に大きく響いた。いくら調べようとも”狼男”や自分が調べようとも、出てこなかった事だ。自分が判事ア社以外を殺してしまったのでは無いかと悩み続けていた。その為、自分よりも高い情報収集能力を持っていると思われる相手に言われると自分が殺していないという確信に一歩近づくからだった。


『ある場所に来てほしい。場所は……』


 提示された場所。そこはあまり治安が良くないと日ごろから言われている場所だった。しかし達也は場所を確認し準備を行う。


 自分の力を貸してほしいという正体不明の相手。何が起こるか分からない。しかし達也はしっかりとした足取りだった。


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