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5話:結果

 立花を撃ち抜く瞬間、我に返った達也は咄嗟に込めるエネルギー量を絞った。しかし放たれた銃弾の威力は抑えきれず事が出来ずに立花の肉体を貫いていた。近ななく倒れこむ立花の肉体から漏れ出そうになる蒼白い光を拳銃に吸収しないように意識する達也。


 今回の”杭喰い”の前。他の悪者ヴィランを殺した際に漏れ出る光が吸収される光景に嫌悪し、早く終わらないかと願った事があった。拳銃に願う事により回転式拳銃リボルバーと深く繋がる事が成功していた。更に吸収を早めようとすれば吸収のスピードが上がると理解していた達也は、立花を拳銃で撃ち抜いた瞬間に考えた。


 達也は何院も殺しているような殺人鬼でしかない。しかしヒーローに憧れていた、否、ヒーローに今もなお憧れている達也は悪人でもない人間を殺したくないと思っているし、殺してはならないと戒めていた。


 結果として達也は拳銃と深く繋がることによりエネルギーを取り込むか取り込まないかを選択できるようになっていた。そして達也は立花のエネルギーを吸い込まない様に意識し、拳銃に働きかけた。


 それでも流れ込もうと、拳銃が取り込もうとしてしまう事を完全に抑えることはできていなかったが……。


 達也は衣装を変える事も無く、廃墟に隠していた自分の荷物を纏めて急いでその場を立ち去った。


(急がないとっ!)


 その様子は今まで殺してきた悪者ヴィランの時より焦り、動悸が激しくなっていた。


(人を……殺しかけた)


 初めて人を殺そうとしたかのように焦る達也。悪者ヴィランだって人であることには変わりないはずなのに。


(エネルギーはそこまで漏れ出てない。……平気なはずだ)


 達也は自分の感覚を信じれず、自分に言い聞かせるように思考を続けていく。達也は自己弁護をしなければ維持できない程に心が乱れていた。


 達也はいつの間にか家に帰っていた。前のように自分がどうやって帰ったかも分からない程に。


(人を殺したのか……。なんで。いや、殺していないはずだ!……そうでなくちゃ俺は)


 達也に初めて罪の意識が生まれた。それは何人もの悪者ヴィランを殺したからではない。憧れていたヒーローである正義ヒーローを。倒したからだ。




 達也は学校に登校するために歩き続けていた。心は晴れていない達也だったが、それでも歩き続ける。


(ヒーローが倒された次の日に俺が休んじゃ駄目だ。極力怪しまれない様に行動しないと!)


 疑心暗鬼になっている達也。しかし顔にその表情は微塵もない。ばれないように演技を完璧に行っていた。そんな達也はいつもの人物を見かけ声を掛ける。


いつき! おはよう! 昨日のテレビ見たか?」


 平然と声を掛ける。思考には前には存在しなかった樹が異能統括局の治安維持部隊に所属しているかもしれないという事が思考の隅に存在した。誰にも悟られてはならない。それは樹に対してもだった。なんだったら、治安維持部隊所属の人物に知られることが1番まずいと分かっていた。


「あ、あぁ。達也。今日は元気そうだね」


 反対に樹には元気が無いと達也は今までの経験から、そう分かった。達也の脳裏に浮かぶのは昨日の”狼男”の件。しかし達也は考え過ぎだと、勘違いも甚だしいと考え、親友としての達也が顔を出し、心配する。


「大丈夫か。いつもの樹らしくないぞ? 何かあったか?」


 達也は本当に心配していた。樹の事を。”狼男”の件を勘違いと断定し、棚に上げながら。達也の声掛けに対しても鈍い樹。


「うん……その……立花さん。家庭の事情で来れないんだけど……結構やばそうなんだ」


 樹は心配してくれる達也の為にできる限りのことを伝えた。勿論、自分が治安維持部隊に努めているとは言えないし、琴音ことねのお父さん――上司である”狼男”が重傷を負い、意識不明の重体であることなど伝える事は不可能だ。


「そっか……なら、今度行って助けてやれよな。なんなら、俺も手伝うからさ!」


 そんな樹の心情を知らない達也は、まさか”狼男”の父親が琴音だとは知らずに、それにより誰かが傷ついている等想像もせずに、気休めにもならない言葉を掛ける。


 学校に行く間、樹の顔が晴れることは無く、途中であった生徒会長である一夏いちかの顔もどことなく浮かない表情である事に呑気に首をかしげていた。




 樹は学校が終わってから、達也や他のクラスメイトの誘いに断りを入れて生徒会長――一夏と2人で病院に来ていた。そこには昨晩、重傷を負い意識不明の重体である男が入院している。


「樹君。そう自分を責めるんじゃないよ」


「でもっ!……すみません、会長」


 樹は自分がもう少し上手くやれていれば、現場に駆けつけて入れば、琴音のお父さんがこんな重傷を負う事は無かったんじゃないかと考えていた、それは深夜にもかかわらず電話した際の琴音の声が何回も脳裏に浮かぶ事で原因だった。


「なに、平気さ。……正直な話、私も驚いたよ。錦二ぎんじさん――”狼男”を倒すような悪者ヴィランがそこら辺に転がっていたなんて。錦二さんの独断専行は褒められてモノでは無かったけど、それにしても異常だ」


 一夏はベテランであったはずの錦二が死にかけるような怪我を負う事に衝撃を覚えていた。錦二はベテランもベテランであった。経験と嗅覚、身体能力が合わさることによりすさまじい実力を発揮していた。


 そんなぎんじが実力をまともに発揮できずに達也に負けて理由は複数存在する。1番大きな理由としては今まで錦二が戦ってきたのは異能使いである事だ。悪魔と契約した多雨屋にもたらされた能力は拳銃による実弾が消える銃撃と不死だ。消える銃弾を遺体の状態から知ることはできていたはずだが、不死というあまりにも破格な能力を知った事が災いし、完全に思考の外に追いやってしまっていた。

 悪者ヴィランの能力は1つのみ。その固定概念が達也に負けた大きな敗北理由である。


 そんなことは露知らず、樹とともに一夏は錦二が眠る病室への扉を開けた。



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