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4話:逃走

 達也が出会ってしまった”狼男”。狼男と達也は暗い夜道で対面していた。達也は相手の動きに対応できるように身構えている。そして”狼男”は死んだと思われる”杭喰い”の死体を一瞥して白装束の悪者ヴィラン――達也がどのような異能を保持しているか考察し警戒していた。


 達也は回転式拳銃リボルバーを隠し、撃ち込めるようにしているが、”狼男”――立花は達也が何かをしようとしていることは直感で分かった。しかし互いに動くことは無い。相手が何をしてくるか分からないからだ。

未知とは脅威であり既知とならなければ足をすくわれる事など、ざらにあるからだ。


 互いに動くことが出来ない2人だが、達也は焦っていた。捜査官と思わしき人物が1人、この場に来たという事は他にも増援が来る可能性が存在する。いや、増援が来ない筈が無いと考えていた。


 故に先に動いたのは達也だった。達也は立花を見据えながら少しずつ後ろに下がり始めた。しかし立花にとってそれは朗報だった。


 立花にとって相手は何をしてくるか分からない悪者ヴィラン。立花の”狼男”としての異能が銃声を聞き取り、他のエリアや悪者ヴィランを担当していた中に連絡すること無く駆けつけていた。1秒でも時間が惜しかったからだ。立花の狙い通り姿を確認できた訳だがそこからが問題だった。どのような異能を使用したか分からないという点だ。


立花は銃声が聞こえた理由から何かしら拳銃を使用したかと駆けながら予想していた。しかし“狼男”としての異能――狼の特性を用いても火薬の匂いがしなかった。そして”杭喰い”の死体から血の匂いがすることは無かった。立花の経験から正確な異能の予想を行う事が不可能に近かったからだ。明らかな異常に立花は少しの恐怖を感じていた。


 そして立花は少しでも相手の情報を得ようと嗅覚を解放するかを迷っていた。嗅覚を解放した場合、人間では感じられない匂い――相手の匂いは確実に捉える事ができる。しかし嗅覚を解放すれば他のにおいも流れ込み、人の脳では確実に処理しきる事が出来ず、酷い頭痛に襲われ、隙をさらしてしまう。それは致命的な隙になると考えていた。


 そんな中、立花は白装束が後ずさりするという情報を得られた。後ずさりするという事は距離を空けなければならない異能と判断し即座に距離を詰める。


 達也は即座に距離を詰めてくる”狼男”に反応することが出来なかった。狼のような脚力と力で距離を詰めてくる”狼男”を少し前まで一介の学生であった達也が即座に反応できるわけが無かった。


 白装束が動く前に立花は詰め寄り達也の右腕を切断した。


「……がっ!」


 達也は声を上げることを必死に堪えた。声から性別がばれることを警戒し、本能を理性でねじ伏せた。前にカルト宗教に腕を切断されたことが幸いしたのかもしれない。


 立花は白装束の右腕から血型治療に出てくる光景を幻視したが、白装束の腕から血が流れ出ることは無かった。


「……なに?」


 立花は困惑した。明らかに何かしら攻撃系や移動系――取り寄せや転移の異能であることは間違いないと踏んでいた。しかし血が流れないとはどういう事だと混乱している。


 達也はエネルギーのストックを回して右腕を再構成していた。痛みは急速に引いていくような感覚を覚えた達也は次の手を考える。幸いにも相手は警戒して距離を再び詰めてくることは無い。達也は考えた。


「……っ!」


 達也は拳銃が仕舞ってある右とは反対。左ポケットに少しオーバーにポケット手を入れようとした。しかし”狼男”は動きを見逃さない。


 立花は相手が異常な回復が持っていようと何もさせなければいいと考え実行する。相手がポケットに手を入れて何かしようとするなら相手の腕を切り落とせばいい。幸いにも相手は腕が勝手に繋がるようだ。立花は距離を再び一瞬で詰めて左腕を切断した。


(勝った)


 達也は仮面の下で初めて笑みを浮かべた。左腕が切られる瞬間。”狼男”の鉤爪が振り払われた瞬間。達也は右ポケットに忍ばせた拳銃を取り出して構え、一息もつかずに銃弾を放つ。


 放たれた銃弾を視界に入れながら立花は自分がブラフに引っ掛かった事に気づいた。目の前の圧倒的な死が迫る。いかに身体を増強していようが、狼のような特性を持っていようが、当たりどころが悪ければ銃弾1発で死ぬ。


 距離が段々ゆっくりと近づいていく。立花の視界にはそんな風に見えていた。迫ってくる弾丸を見据えながらふと思い出したことが立花にはあった。


 立花の孫についてだった。立花には孫がいた。本人は知らないかもしれないが立花は隠れて目に入れても痛くないぐらいには溺愛をしていた。だからこそ、近い年代の樹を家に招いた際に孫――琴音が樹に惚れていると直感で感じ取り、驚きと怒りを感じていた。アイツはやめておけと忠告し喧嘩となってしまった孫の顔が思い浮かぶ立花は申し訳なさと後悔を感じながら瞳を閉じた。


 鈍い音を立てながら貫通した銃弾が壁にぶつかる。そして銃弾が通った道に力なく倒れこむ1人の肉体。


 沈黙する”狼男”を見てた達也は逃走を開始した。


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