3話:接敵
達也は”杭喰い”が潜伏されていると悪者警報に情報が出されていた地域に来ていた。達也はすでに慣れた様子で幽霊を探し始めていた。服装は黒いロングコートにニット帽、マスクにサングラスと人通りが多い場所を歩けば即通報されてしまいそうな格好だった。
幽霊は惨い殺され方をされる程に地上を漂っている期間が長い。そして幽霊は前にあった少女の霊のように殺された時の姿をしており他の人間と比べて目立ちやすい。達也は気づかなかったが硫酸男の時にあった少年の霊も服の下には胸に大穴が開いていた。
達也が案内された先で悪者を殺すと救われたような表情で消えていく幽霊を何人か見ていた達也。消えていく幽霊を見る事が心の安寧に一役買っていたことは否定できない。達也は自分が憧れたヒーローに成れているかもしれないとそう考えていた。
そして達也は今回も頭や手に穴が開き、とても痛々しそうな姿をした幽霊を見つけ案内してもらっていた。基本幽霊は嘘をつかないのではないかと達也はこれまで話してきた幽霊達の言動から考えていた。今回達也が話した幽霊も達也が殺した者の案内を頼み承諾されていた。
「ここなのか……ありがとうな」
達也は幽霊に礼を言い、一度その場を後にする。場所をしっかりと確認し、家が見える場所から悪者かどうかを確認するという動作を達也は忘れない。幽霊から情報はあるが、それを鵜吞みにする事はできないと考えているからであった。
“杭喰い”の潜伏場所が見える廃墟を見つけ出してニット帽や黒いロングコート、サングラスなどの衣装から別の衣装に着替え始める。
「気休めだけど、無いよりはいいだろ」
黒いロングコートやサングラスとは正反対の色である白。白い仮面や白いロングコート、白い手袋など、白で体を包んでいく。今まで着てきた服は別の廃墟に隠す徹底ぶりだ。
殺しの現場を見られる事を達也は恐れ続けている。もしこの格好でばれてしまったら?この格好を聞き込みされてしまえば?人とは出会わないように気を付けていた達也だが不安は尽きない。考えに考えた末に達也は、視認性を犠牲にしてでも此処まで来た格好とは反対の色を身に纏う事に決めていた。白と聞き、黒い衣装を思い出さないかもしれない。安直だが達也は大真面目だった。
白い衣装に身に纏った達也は銃を構える。悪者であればすぐに殺すために。達也にとって悪魔と契約して得た回転式拳銃はとても使いやすい物だった。自分に良く馴染み、何年も練習してきたように百発百中。恐ろしい制度を引き出す事ができるまでになっていた。達也は悪魔が自分と繋がっているという事が関係しているのではないかと考えていた。実際、達也の考察は当たっている。悪魔が力を使いこなすために用意した唯一の善意と言っても過言ではないかもしれない。
達也は意識を集中させ、悪者が訪れるその時を廃墟から静かに待つ。
―1時間。
“杭喰い”は現れない。達也の顔に焦りは見えずいたって落ち着いている。
――2時間
まだ姿を見ることは叶わない。達也を未だ殻を動かすことは無い。
―――3時間
達也の視界に変化が現れた。人が現れたのだ。しかし達也が探し求める”杭喰い”ではない。達也の眼には普通の人間に見えた。何かを探しているようで訳アリの様子。達也は廃墟にいることがばれないようにひたすらに息を殺し、潜伏し続けた。
――――4時間。
視界はすっかり暗くなったが道には街灯が存在し、顔を確認することは可能と達也は判断した。そんな達也の前に対象が現れる。”杭喰い”だと直感的に確信した達也。息を殺し、街灯で顔が照らされる瞬間。
”杭喰い”と再確認した達也は引き金を引き絞る。反動、銃声とともに放たれる銃弾。エネルギーを使用する銃弾は”杭喰い”の胸から逸れることは無い。胸に吸い込まれた弾丸は胸に穴をあけ、青白い光が漏れ出る。
達也が光は拳銃に吸収され一息ついた瞬間、地面が爆発す両な音が響いた。一瞬沈黙し地面に響き渡る轟音を認識した達也。連続し段々と近づいてくる音。
達也は音が鳴る方向を廃墟から出て急いで確認する。達也の視界に入ってきたものとは……。
「お前かぁ。悪者殺害した犯人か?……いや、犯人でしかないな。儂は”狼男”。お前を逮捕する。大人しく投降しろ」
音が止み、土煙が舞う。土煙の中から聞こえてきた声は達也が犯人だと確信している。達也は数舜動きを止め、思考する。
(まさか……銃声か。警察……じゃないだろうな。治安維持部隊か)
達也は相手の素性を予想し、体制を整える。
「投降するつもりはないようだな。ならば覚悟しろ」
土煙が掻き消え、姿がはっきりと見える。達也の視界に入った姿。それは巨大な狼が二足歩行をしているような姿だった。
達也は相手を見据え、倒さなくてはならないと覚悟を決めた。




