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2話:安息

 達也はその日、また悪者ヴィラン警報が公表されているサイトを閲覧していた。そして達也は警報が出ている中でなるべく単独とされている、且つ、凶悪な犯罪を起こした者を探していた。達也は殺すという行為に完全に慣れ始めていた。最初は自分が死ぬという恐怖を、次から諦めの感情が湧いていた。しかし達也もヒーローに憧れてヒーローに成りたいと願った人間だ。殺す事に拒絶反応が出ると思われた。しかし、命の危機が迫る事態だ。殺すという事に心が、体が適応し始めた。


殺した後に訪れる罪悪感が薄れていく。運試しのように殺しを行った”硫酸男”は無かった。偶々幽霊と出会い、偶々場所が分かり、偶々”硫酸男”が現れた。そんな偶然出会は無く計画性が生まれ始めた。結局使わなかった道具の内容を充実させ、しっかりと自分の足取りがばれないように行動する――監視カメラや人通りを意識し場所を限定した。その中で出会っていく幽霊がいた。幽霊は基本悲惨な死に方をすればするほど残っている場合が多く、達也からすれば情報源として役に立った。そして達也の心を癒すといった副次効果も生まれた。


「決めた。次は”杭喰い”にするか」


 達也は自分に言い聞かせるように呟く。こいつを殺すと自分に言い聞かせ、”杭喰い”のプロヒィールを読み込んでいった。


 “杭喰い”は殺人鬼である。殺人人数は5人。どの遺体も杭で貫かれて死んでいる。しかし杭となっているが杭の構成成分を調べてみると、人間の歯で構成されていた。そのことから人が喰われているような現象から異名が”杭喰い”となっている。


「4日前に異能統括機構の治安維持部隊と交戦、しかしそのまま逃走し行方知れず……か」


 達也は”杭喰い”の公表されている予想潜伏地域を見つめ、思考する。4日前で逃走経路が分からないことから捜索はされているだろうが、手掛かりはあまりないと踏んだ。そして具体的な移動手段。それは自転車だ。


達也は人を殺すと決めてから自転車を1台入手していた。入手した自転車は長期放置され錆が酷くガタガタだった。しかし達也にとっては大事な移動手段である、達也は錆びついた自転車を廃墟に隠していた。


廃墟が関東圏、特に都会方面には存在するのかという疑問が生じるが、常々言う通りこの社会は異常である。否、異常が元に戻りかけ始めている。都会であろうが、都会でなかろうが廃墟は存在してしまう。理由として挙げられるのは魑魅魍魎と人間が戦争を行った。全ての社会が荒廃していった時代があった。そんな戦争の名残、傷跡の影響で街外れは未だ廃墟が存在し、監視カメラなどが配備されず人通りも無いような場所が多数存在する。


 達也は意識した。自分が監視カメラに映らないように。誰にも見られないように。誰にもばれないように。現状、達也は逃走手段が貧弱だ。誰かにバレ追いかけられでもしたら逃げる手段はない。いや、1つだけ存在する。追いかけてくる相手を殺すという手段が存在する。達也のヒーローに成りたいという願いとは真逆の行いをすることにはなるが……。


「結構は明日だな……学校にも行かなくちゃいけないし、準備して寝るか」


 達也はその日、準備――道具の用意やその街の地形などを頭に叩き込んだ後、就寝した。




 達也はポケットに入れていた銃弾を手で弄びながら学校に向かっていた。


(結局何なんだ、これ。あの悪魔に渡されたのはいいけど入れたところで引き金は引けない……)


 達也は4人程、悪者ヴィランを殺した段階で悪魔に渡された6発の銃弾がどうにか使えないかを試していた。しかしどう使おうとしても反応はせず。


(こんな灰色の銃弾どうすればいいんだよ……)


 達也は悩み苦しんだ。結果として放置という結論に至ってはいるが。そんな悩める男である達也の背中に話しかけてくるいつもの男が1人。


「達也! 今日も今日とて眠そうだね。平気なのかい?」


「あぁ。樹か。別に平気……」


 いつものような返しを行おうとした達也の前に人影が1つ。


「この人が……達也?」


 達也の声を遮り、樹の影から出てきた女性。達也や樹よりも背が小さく、印象としては大人しそうと多くの人が抱くであろう。


「樹……この人は?」


 達也は樹に簡潔に質問する。誰かから聞いたような口ぶりから察するに樹の知人であろうことを察していた。


「あぁ。この人は立花さん。立花琴音ことねさん。ちょっと前に知り合ってそこからの縁」


「ん……よろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げる琴音に達也はお辞儀を返す。


「よろしくな。……樹、オマエに後で聞きたいことがあるがいいか?」


「え? 良いけど、今でもいいよ?」


「良いから後な! 後!」


 達也は少し不機嫌になりながらも樹に対して念を押した。


 達也が不機嫌になった理由。それは樹の悪い癖を感じ取ったからだ。達也と樹は昔からの付き合いであり、親友である。それは互いが自認している。そんな2人の関係だが度々問題が起こる場面があった。


主にそれは樹の女性関係に起因する。樹は端正な顔つきであり、秀才であり。運動もできる。そんな樹がモテない筈が無い。そんな樹はそのことを自覚すること無く、惚れさせるという事が多発してしまっていた。そして修羅場と言ってもいい程、空気が死んでいる場面もあった。そんな時、樹は達也に助けを求めることが多々あった。達也は樹を見捨てることが出来ず不発弾を何とか処理し、樹が更に達也を信頼するという事もあったりした。


 故に達也は樹に対する女性の視線を把握するという神業が出来るほどに成長していた。そして今度もまた立花琴音という人物から今までの同じ視線を微かだが感じ取った達也は頭を悩ました。


 折角、樹が初めて人に対して恋をしたと言っても過言ではない生徒会長である一夏に対してアプローチをしていたというのに、対象を増やすとは何事かと。


(樹のアプローチは会長に効いてたよな……学校で昼ドラなんて止めてくれよ?)


 そんな事を願いながら学校へと3人で向かっていった。途中で一夏が加わり、達也の胃が痛くなるという事件も起きてしまったが。しかし達也はそんな悩みの種を抱えつつも楽しんでいた。日常という安息を。


しかし、それはあることを棚上げとしたままだという事に気づかないふりをしながら。

 親友である樹が、生徒会長である一夏が、異能統括機構に所属しているかもしれないという事実に目をそらしていた。


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