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1話:破綻者

 俺はヒーローに憧れていた。人を助ける最強無敵のヒーロー。

誰だってあるだろう?宇宙飛行士、スポーツ選手、お姫様。子供の時には必ずなりたいものがあっただろう?俺はそれが最強無敵のヒーローだった。

だが、そんな俺が今何をしているか問われれば、答えは一つしか思いつかない。

 俺は今、目の前の男に紫色に彩られた回転式拳銃を突き付けている。


「おいっ! 君は一体何者かね!? 私を殺すつもりか!? どれだけの患者が私の事を…」


 暗い部屋の中で目の前の男が何か喚いている。目の前にいる男は世間一般で神の手を持つと呼ばれる医者だ。どんな高難度の手術でも成功させてしまうと言われてはいる。だが…。


「黙れ」


 俺の声がマスクに取り付けられているボイスチェンジャーを通じて無機質な機会音声へと変換され出力される。

 医者である男はピタリと喚きを止める。男の怯えた視線がマスク越しに交わる。


「13件」


 男に告げた数。考えただけでも忌々しい数だ。


「お前がわざと失敗し隠蔽した手術ミスの数だ。死人も13人」


 男はビクリと体を震わすがすぐに、心を落ち着けて言い返してきた。


「はは! 生憎私は医師をやって以来一度も手術を失敗したことが無い事が取り柄でね」


 行ってきた事に一切の良心の呵責が無さそうに囀る男。


ガリッ


 歯が軋む音がした。音がしてから気づく。自分が歯を砕きそうになっていた事に。

 一度息を深く吸い込み、心を落ち着ける。そして男に絶望を与えるために情報端末を取り出してあるサイトを見せつける。


「無駄だ。もう隠蔽の証拠は全て公開している。臓器の取引もだ。お前の神話もこれで終わりだな」


 インターネットに存在するニュースサイトの記事を男に見せつける。

 医者である男は俺の言葉に不安を覚えたのか記事に素早く目を走らせる。男は記事の内容を理解したのか、信じられないといった様子で叫ぶ。


「ば、馬鹿な! 全て消したはずだ! 関係者の口も証拠も全て消した!」


 あぁ、本当に吐きそうになる。関係者の口を封じた?まさか。こいつは手術が失敗した患者の遺族の周りに圧力を掛けていただけだ。そんな事で遺族の口が塞げるわけがない。

 だからこそ、俺に話が来たわけだが。


「……お前、そんな事で死んだ人間の思いが消えるとでも思っているのか?」


 あくまで冷静に。俺はヒーロー。最強無敵のヒーローだ。

 自分自身にそう思い込ませる。ほんとはヒーローとは程遠いものであるはずなのに。そうだろう?みんな。

 医者だった男は、何かに気付いたように視線を俺から少し上に移す。自分を殺すはずの俺に向ける視線よりも怖いものを見たかのように体が恐怖で震えている。

 心外だな。全部、お前が担当した患者だろうに。


「な、何なんだ、君は! 一体!!」


「俺は……ヒーローだよ。少なくともこの子達にとっては」


「「「「「痛かった。苦しかった。死にたくかった」」」」」


 苦悶の表情を浮かべながら口を揃えて悲しみを口に出す子供達。目の前の男が担当した患者は圧倒的に子供が多かった。そして体が覚えていなくても魂は傷つけられる苦しみを覚えている。

 早く、解放してあげよう。


「お前は明日にでも逮捕されるだろう。だが、お前の家は影響力が強いからな。死刑にでもならなければこの子達が浮かばれない」


 臓器を確保するために意図的に手術を失敗し殺害、隠蔽、臓器販売を行った。対象も貧困層が占めていた。しかも隠蔽も高官に根回しまで行っている。裁くに値する人間だ。


「な、何を言っている! 私は間違っていない。いないんだ!」


 男は弾かれたかのように立ち上がり、俺に向けて突進してくる。

 俺はしっかりと男を受け止める。そして俺を媒介として男に伝える。


「あぁ、助かるよ。この子達の苦しみを味わってみてくれ」


 俺の後ろにいた子供達が男に流れ込む。


「ぁ……ああああ!!!」


 男は狂ったかのように暴れまわる。自分の体を掻き毟り、口からは泡を吐き、眼が裏返っている。


「まあ、何と言うか。終わりだ」


 俺は体を痙攣させ意識が朦朧としている男に向けて銃口を向け、撃鉄を起こす。


「死んで償え」


 俺が引き金を引くと、重苦しい爆発音と衝撃が腕に来る。

 銃弾は男の心臓を撃ち抜き、男が纏っていた白衣に穴が開く。胸に開いた穴から血が流れ出る光景を幻視した。しかし穴から血が流れ出る事は無い。代わりに何か青白い光が漏れ出し、俺の持つ拳銃に吸い込まれていく。何度見ても気味が悪い光景だ。

 男の生命活動は急速に動きを止め、死ぬ瞬間をこの目に焼き付ける。これは殺した者の責任だ。

 男の生命活動が完全になくなると、男の体から子供たちが出てきた。

 しかし先程とは違い、子供たちの表情は少し安らぎ、先程より存在が薄い。


「「「「「ありがとう。お兄ちゃん」」」」」


 子供たちは俺に礼を言って消えていった。これで少しは救われたのだろうか?


 俺は最強無敵のヒーローになりたかった。でもそんな俺がやっている事は最強無敵のヒーローとは到底言えない。

 俺は人を殺すことでしか人を救えない破綻者だ。



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