第5話 ダンジョンは夢の入り口なのか
「結局、何も買えなかったなー」
市場を見て歩いていたら、珍しい物がたくさんあって、欲しい物がたくさんあって目移りしちゃった。
おいしそうなお菓子、熟した果実、カッコいいナイフ、小さな神様の像、綺麗なお花を入れた箱。
農園にはお店がなかったし、農園からほとんど出たことがなかった僕は露店がたくさん集まった市場が面白くて仕方なかった。
それも、僕のポケットには大銅貨1枚が入っている。
もちろん、それでは買えない物も多かったけど、買える物だってたくさんあった。
だけど、大銅貨は使ってしまうと無くなってしまう。
そう思うと買えなかった。
「でも、ロジャーはいつ帰ってくるんだろう」
宿屋に戻ると言付けがあり、仕事に行ってくる、って。
ちゃんと言っておいてくれたから食堂でランチを食べている。
野菜とチーズを挟んだパンだった。
やっぱり、美味いんだ。
なんか分からないけど、白いソースが掛かっている。
これがすごく美味くて。
街で食べる物はなんでもうまい。
そう確信したんだ。
それを支えているのが、あの大きな市場なんだろう。
そういえば、ネコだ。真っ白でかわいいネコ。
市場で見かけて追いかけたんだけど、袋小路に入ったところで消えた。
あれは本当にネコだったのか?
それとも魔物とか……分からない。
そんなことを思い出していると、ロジャーが帰ってきた。
「おい。いくぞ! ダンジョンだ。防具も剣を借りてきたぞ!」
「ええっー、どういうこと? いきなりダンジョンって」
「いいか、ここが夢の入り口なんだよ。いい女囲って、それもあちこちの街に」
あ、完全に妄想の世界に行ってしまっているみたい。
どうしよう。
☆ ☆ ☆
「ここがダンジョンの入り口かぁ」
思っていたのより大きいな。
巾は2メートルしかないから、それほどでもないけど高さが5メートルはある。
ダンジョンというより、大きな岩の裂け目って感じ。
「おい、坊主。お前は余計なことをするんじゃないぞ」
「そうよ。メッシャが直衛するから、指示に従うのよ」
男女ふたりの冒険者。
男の方がガンシャで、女の方がリーシャ。
どっちも剣士なんだって。
なんか、シャで終わるシリーズだ。
兄弟か親戚なのか聞いたら、ただの偶然みたい。
「今回はな、2時間を予定している。主に第3階層での戦いになる。もっともお前はただの荷物運びだがな」
そりゃ、農園じゃ、冒険者パーティに荷物運びでスカウトが来ないかなと思ってことはある。
でも、冒険者登録より前に、いきなりダンジョンって展開はやすぎない?
あ、直衛してくれるメッシャは火魔法使いなんだって。
もし、前衛の剣士ふたりが討ちもらしても大丈夫らしい。
「さぁ、行くぞ。2時間でゴブリン10匹は倒す。それが目標だ」
「あら、そんな物でいいの? 余裕じゃない」
「レベリングを甘くみるなよ。全く戦えないのがひとりいるんだぞ」
「まぁ、そうね」
そう、このパーティはロジャーが僕のレベリングの為に雇った冒険者達だ。
冒険者ギルドに依頼を出したら、すぐに受けてくれたらしい。
僕のレベルを上げて、時空収納の容量を揚げること。
それが目的なんだって。
僕が戦わなくても、バーティの一員になっていれば、少ないけど経験値が入る。
まだレベル1のはずの僕なら、簡単にレベルの1つや2つ上がるんだって。
「ほら、ぼやぼやするな。行くぞ」
☆ ☆ ☆
「どういうことだ?」
「わたしに聞かないでよ。分かるはずないじゃない」
今、倒したばかりのゴブリンの魔石を集めている剣士ふたりが話している。
魔物は倒されると光粒になって消えて、魔石とドロップ品だけ残る。
ダンジョンというのは、そういう物だってことは英雄物語で聞いたことはあるけど、実際に目にすると不思議な物だなー。
「な、レオン、だっけ」
「はい、メッシャさん」
「お前はあと何匹ゴブリンを倒せばレベルアップするんだ?」
「そんなこと言われても。。。」
冒険者でもない僕に分かるはずがないじゃないか。
予定ではゴブリン10匹でレベルがひとつ上がって、30匹でもうひとつ上がるとなっていた。
もうゴブリンの魔石が25個も集まったのに、僕がレベルアップしないから、みんなヤキモキしている。
「分かった。要はたくさんゴブリンを狩ればいいんだろう。あと25匹。それでレベルアップしないなら、あきらめて戻るぞ」
「えー、それじゃ依頼失敗じゃない。赤字よ」
「ゴブリンの魔石を売ればトントンさ」
「なによ、それ。無駄骨ってこと?」
「次からは商人のレベルアップ依頼は断ることにするぞ。こんなに上がりづらいとは思わなかったよ」
やっぱり、商人ってダンジョンじゃレベルアップしないんじゃないの?
同じ魔物でも、ダンジョンじゃなくて街にいる魔物、詐欺師とかぼったくり魔と戦って利益をかすめ取る。
そんなことをするとレベルアップする気がする。
「はーい。おふたりさん。方針は決まったんでしょ。とにかく、あと25匹。気を引き締めていこう」
「そうだな」「そうね」
おまけの荷物持ちの僕はただついていくだけだけどね。
☆ ☆ ☆
「メッシャ、一匹行ったぞ」
「ガッテンだ」
緑のぬめぬめした気持ち悪い肌の身長120㎝の魔物。
ゴブリンが牙を見せながら、棍棒を振り回して、こっちに来る。
3度目だから、そんなに焦らないで済む。
『ファイヤーボール!』
「ギェッジャー」
うん、簡単に退治してくれる。
まだまだ、マジックポイントは残っているって言ってたからゴブリン相手なら余裕だ。
いつもはもう一人、大楯を持ったタンク訳のメンバーと4人で、10階層あたりで戦っているんだって。
今、タンク役のメンバーが怪我してお休み中だから、簡単な依頼の僕のレベリングを受けてくれた。
「これで最後だ、50匹目!」
前衛のガンシャがゴブリンの脳天をカチ割り光粒にした。
「あれ?」
なんか、僕も光っているぞ。
なんだ、これ。
「あー、来た来た。よかった。ガンシャー、レベルアップ来たよう」
「おいおい、やっとかぁー」
僕は光に包まれて体の中の何かがぐるぐるとめぐっている。
頭の中にメッセージが流れる。
《時空師レベル2になりました……ソルア&ソルダを覚えました……時空収納が2倍になりました》
おおー、すごい。
本当にレベルが上がった。
新しい魔法を覚えて、収納が増えたみたい、2倍ってことは水だと128㎏。
水汲みで往復するのが半分の回数で済むね…もう、水汲みはしないか。(笑)
「おわった! ちょっと余計に時間は掛かったけど、依頼完了だ」
「よかったわ。依頼失敗の罰金は痛いから」
「マジックポイントはまだまだ残っているけど。依頼達成したから、帰りましょう」
終わったらしい。
帰り道は最短距離で戻るから15分で入口まで行けて、街までだと、さらに1時間弱だ。
陽が暮れる時間になるから、急いで帰ることになった。