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第4話 綺麗な人は綺麗な物が好き

「おはようっ」

「あ。おはよう…」


毎朝、朝飯の前に水汲みをしていた習慣があるから、日の出前に目が覚めた。

でも、ロジャーはまだ寝ているから、宿屋の下に降りてみた。

僕らの部屋は2階にあって、下は食堂になっているみたい。

あ、美人食堂じゃなくて、普通の食堂ね。


まだ、ガラガラだったから、勝手に端っこの椅子に座ってぼーっとしていた。

ウエイトレスは僕より下の女の子だったけど、注文を聞きに来たりしなかった。

たぶん、僕が丁稚だからロジャーが来てからと思ったみたい。


昨日のことをぼーっと考えていると、30分ほどでロジャーも降りてきた。

挨拶を交わしたら、ロジャーは僕の前の席に座った。


「あー、朝飯、喰う?」

「えっと、食べたいけど、いいのかな」

「あー、いいよ。育ち盛りなんだから。私はパスだ」


ロジャーは朝が弱いみたい。

その代わり夜は元気だったけど。


「おはようございます。朝食は普通のでいいですか?」

「あー、こいつには普通の。私には果実水だけ持ってきて」

「分かりました」


なんか、ウエイトレスの子、ハムスターみたいで可愛いな。

この宿屋はいつも利用しているのかな。

これからも利用するのかな…そうだといいな。ハムスターぽい彼女にも会えるし。


「あと、10分もするとお客が来るから、それまでに飯は食べ終わるようにして欲しい」

「えっ、もう仕事なの?」

「ああ。朝しか無理って言ってたからね」


仕事の話をしていたら、ロジャーは目が覚めてきたみたい。

寝ぼけた顔じゃ仕事できないものね。


「そうだ。預けたあれ、ちょっと出して」

「はい」


《スピダ》


「おいおい、いきなり出すなよ」

「えっ」


ひそひそ声でロジャーに注意された。


「アイテムボックスは秘密だと言ったろ。ここならテーブルの下で出してだな」

「あ、ごめんなさい」


秘密だって、忘れてた。

やばやば。


「まあ、いいか。誰も見てなかったしな」

「よかった」

「で、この中から、おっ、あった。これだ」

「あ、ペンダント。綺麗だね」


ロジャーはペンダントだけ取り出したら、自分の腰につけた袋に入れた。

残りの貴重品袋を手渡された。


「今度は気を付けて収納してくれ」

「はい」


ちゃんとテーブルの下で収納した。


「おっと、ちょうど来た。こっち!」


入口の方にシンプルな服を着た女性が立っていた。

あれ、見たことがある…あ、昨日の胸の谷間のお姉さんだ。

今はシンプルな服だから胸の谷間は隠されちゃって見えないけど。


「あ、おはようございます」

「おーい、この方にも果実水を」

「あ。出来たら、ミント湯がいいんだけど」

「あ、やっはり、ミント湯にしてくれ」


お化粧もしていないみたいで昨日のお姉さんと印象が違うなー。

でも、こっちの方が感じいいかも。


「昨日話したのが、これだ」

「わぁー、素敵。この真ん中の赤い石はルビー?」

「そうだ。ルビーの名産地ランカで採れた一級品さ」

「欲しい! だけど、高いんでしょう?」


あー、そういうことなんだ。

昨日のお店でお仕事をしていたんだね。

胸の谷間をのぞき込んでいるだけじゃなかったのね。


「物は相談なんだけど。お客さんを紹介してくれないかな。こんな感じの装飾品に興味がありそうな人」

「そうねー。どうしよう」

「紹介してくれるなら、それはプレゼントするよ」

「えっ、本当!?」


あ、お姉さんすごく反応した。

分かりやすい人だね。


「もちろん、本当さ。ただし、そうだな。買ってくれそうな人を5人、紹介できるかな」

「5人かぁ。あ、貴族や大商人の奥さんは無理よ」

「分かっているって。あの店に来るような人でいい」

「あー、それは…男の人ばかりだし」

「だからさ。お店の女性に熱を上げている冒険者とかさ」

「なるぅー。それだったら一杯知っているわ」


ロジャーって物を売るの上手いのね。

普通にしていると、のんびりした人に見えるけど、お客さんを前にすると全然ちがう。

お仕事モードの顔になるんだ。


「でも、よくこんな高額な装飾品を街に持ち込めたわね。この街って税金が高いんでしょ」

「あー、高いさ。だけど、それ以上に高く買ってくれるお客さんもいるからな。胸の谷間にやられた男とかさ」

「まぁ、そうね。近くにダンジョンがあるから、ミッション成功した冒険者はお金あるしね」

「そういうこと」


えっ、もしかして。ロジャーが貴重品袋を僕に預けたのは…。

ロジャーを見ていたら、軽くウインクしてきた……あ、やっぱり。


税金をごまかすために、僕に預けたのか。そんな手が!


「じゃあ、これから心当たり当たってみるわね。5人紹介できたら、それ頂戴ね。約束よ」

「ああ。商売の神、ヘルメスにかけて約束するよ」


お姉ちゃんは運ばれてきたミント湯をおいしそうに飲み干すと店を出て行った。


「ロジャーってすごいね」

「なにか?」

「もう、高い装飾品を売れるツテをみつけたんだね」

「ああ。だけど、私の話術だけじゃないよ。相棒がいいんだ」

「僕のこと?」

「ああ。この街の高級品の税率は3割なのさ。その分、安く提供できると簡単に売れると思わないかい?」

「うん。きっとたくさん売れるよ」

「どうだ? 私の相棒はラバより役立つだろう」

「うん」


なんか、評価されるのって、すごく嬉しい。

えっ、税金ごまかすのはどうかって?

そんなの気にすることはないよね。

騙される方が悪いに決まっている。


「さて、仕事も終わったし。もうひと眠りするか。シオンはどうする?」

「うーん。眠くないし、やることないな」

「だったら、市場でも行ってみるか。なんか欲しい物があったら、これで買えばいい」

「えっ、いいの? まだ何もしていないのに」

「だから。ラバより役立つ相棒君。遠慮するなって」


大銅貨1枚、もらってしまった。

うわー、何を買おうかな。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 果たしてロジャーは本当に良い相棒なのか!? 某ドラマの相棒のように、役者間の不和があると切り捨てられたり…とかだったら怖い怖い(笑) あと、120サイズの容積の考え方は自分にとっても非常に…
[良い点] これはいい使い道ですね! 抜け荷! 脱税! お見事!
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