第3話 美人食堂は危険な香り
「いいか、この袋をアイテムボックスに入れて欲しい」
「はい。これだけでいいの?」
もう少しで街に着くという時点で10㎝くらいの中身が入った袋を手渡された。
何が入っているんだろう。
「これは貴重品だから、安全のために入れておくんだ」
「うん。時空収納だと獲られることないから安心だね」
「それともうひとつ。アイテムボックスのことも、この袋のことも街では誰にも言ってはいけないよ」
「うん、そうだね」
冒険者は自分のスキルを仲間以外には簡単に話さないってことを聞いたことがある。
なんかスキルを秘密にするのって、冒険者になった気がしてワクワクする。
「シオンはな。丁稚だからね」
「丁稚って?」
「成人する前の少年が仕事の覚えるために手伝う役割のことだよ」
「へぇー。そうやって、商人になる物なんだね」
「もちろん、シオンは商人になる訳じゃないけどな」
「えっ、なんで?」
「ははは。計算が嫌いな商人は、いるはずがないんだよ」
「あちゃっ」
うん、僕は商人にならなくていいみたい。
難しい計算をしないといけない仕事は嫌だしなー。
「まぁ、シオンが何になりたいのかはこれから考えればいいさ。今は私の仕事のパートナーだからね」
「うん」
「ラバよりちょっと役立つくらいのね」
「あ、ひどい!」
どうして、時空魔法をラバと比べるんだろう。
荷物運び以外だっててきるはずなのに……何ができるのか、って聞かれても分からないけど。
「ほら、街門が近づいてきたぞ。私は自由商人で丁稚のシオンの雇い主だからな。ちゃんとしてくれよな」
「うん、分かった」
丁稚って何をするのか良く分からないけど、まぁ、何とかなるだろう。
街門の前には旅人らしき男達が並んでいる。全部で10人ほど。
5分くらい待ったら、僕らの番になった。
「次!」
「はい。入街証はこれに」
「なんだ? 商人なのか。それにしては商品がないようだが」
「今回はこいつを丁稚としてスカウトしてきたんです。だから商品はこれから買いそろえる予定です」
「なるほど、そうか。お前、丁稚になる前は何をしていた?」
「えっと、農奴だよ」
「ほう、農奴が商人の丁稚にスカウトされたのか、それはよかったな」
「はい」
それからいくつか聞かれたけど、問題なく通してくれた。
「お前の身分証を作らないとな。いちいち説明するのも面倒くさいし」
「身分証。どうやったら作れるの?」
「商人ギルドで私の丁稚として登録しよう。私と一緒なら街に入るのも街道の宿場に泊まるのもそれでオッケーさ」
「へえ。そうなんだね」
農園ではみんな顔見知りだから身分証なんていらなかったのに。
街になると、いろいろ面倒くさいみたいだな。
「まぁ、その前に飯だな。水浴びもしたから美味い物でも喰うか」
「えっ、食事するのにも水浴びしないといけないの?」
「そりゃ、そうだぞ。女に嫌われるからな」
「女?」
食事だよね。女の子って関係なくない?
「ほら、ここだ。美人な女がいると有名な店だ。ちょっと高いが今日は特別だ。お前も一緒に来い」
「うん」
☆ ☆ ☆
「いらっしゃい。そこ、空いてるよ」
「おう。まずはエール! こいつには果実水だ」
「あいよっ」
な、なに、ここ。
すっごい煌びやかな服きた女性がお盆を持ってテーブルを廻ってる。
それもすごいおっぱいがおっきくて、胸が谷間が丸見えだー。
「どうだ? いい眺めだろう」
「うん」
「こういう店に来るためにも稼がなきゃいけない。お前も手伝え」
「うん」
こんな世界があったなんて。
農園じゃ考えられないな。
これからも新しい世界をロジャーと一緒なら見て回れるかも。
「じゃあ、それと後はあれ」
ロジャーは煌びやかなお姉さんにいろいろと注文している。
お姉さんは注文を受けるとき。なぜかひざまづいている。
僕のとこからも胸の谷間がきわどくなっているのに、背が高いロジャーだと見えちゃうんじゃないの?
「わかったわ。ちょっと待ってね」
お姉さんが去ってから聞いてみた。
「ここって、ただの食堂なの?」
「いや、美人食堂って言ってな。ウエイトレスが美人で飯が美味い食堂さ」
「・・・」
ロジャーは美人食堂を堪能しているけど、僕はきわどい谷間が気になって落ち着かない。
「はい、まずはスープね」
「おう」
ロジャーがお姉さんを目で追いかけているのを横目にスープを一口飲む。
「!」
「ん、どうした?」
「これ、うまい!」
「えっ。ただのサービススープだぞ」
ロジャーも確かめるようにスープを啜る。
「どう?」
「どうって、普通だろ」
「そんなことない。野菜スープなのに味が深いよ」
「これはコンソメスープと言って鶏ガラから出汁を取って細かく切った野菜を具にしたスープだぞ」
「そうなんだ。いつも飲んでたスープは野菜を水で煮ただけだったから。無くなっちゃった。お代わりしていい?」
「ああ。おーい、スープのお代わりを頼む」
僕がうまそうにスープを飲んでいたら、ロジャーが微笑んでいた。
「お前は安上がりでいいな」
「そんな」
「この世界には美味い物も綺麗な物も良い女も山ほどある」
「うん」
「ただ、それを手にすることができるのは一握りの人間さ」
「うん」
「私はその一握りに入りたいと思って、有り金をはたいてお前をスカウトしたのさ」
「えっ」
「ラバ以下なんて言われておくな。お前は金の卵を産むかもしれないし、オリハルコンの卵かもしれない」
「えっと」
「よくわからない時空魔法と言う物の可能性に賭けてみたのさ」
「うん」
「頼むぞ。私の夢の卵さんよ」
「うん!」
それからは、何を話したか忘れてしまった。
だって、その後来たのが、鶏の直火焼きって料理でこれがめちゃくちゃ美味くて。
農園の収穫祭でちょっとだけ食べた鶏肉と全然違うんだ。
夢中で食べちゃったから、会話を忘れちゃった。
この日の夜は満ち足りた気持ちのまま、宿屋のベッドで寝たんだ。