第36話 新魔法を使ったら不思議なことが起きたぞ
「じゃ、今日1日はお休みってことでいいんだよね」
「ああ、今日だけじゃなくてもいいぞ。明日も休みだ」
「わーい」
マツザ街に行って帰ってきた次の日。
僕はメイさんと茶室にいた。
街の食堂に併設してある部屋で、商人が打ち合わせをするときに使う部屋だ。
もっとも普通の商人はそんな場所を使わず、広場のベンチで打ち合わせをするのが普通だ。
僕らは儲かっているから、茶室も使えている。
「ロジャーさんは別のことをしているのね。緊急の問題が起きた時以外は週一回の報告だけでいいって言われてるの」
「ははは。メイさんにお任せっていことだね」
「それ以外の日ってロジャーさんは何をしているのかしら?」
「きっと、もっと大切なことだと思うよ」
さすがに、ぐーたらしていると教えるのはどうかと思う。
やる気なくなるんじゃないかなと。
「私はこの街でいろいろと当たって、マツザ街やオーマ街と商品取引先を開拓するわ。条件が良くできるから取引先は簡単に開拓できると思うの」
「うん。メイさんにお任せだね」
「本当はオーマの先にある王都も交易したいけど、まだ早いわね。まずはこの3つ街で交易実績を作るのが先ね」
「うん、そうだね」
この街と王都だと、片道2日半はかかるらしい。
早馬を使ったとしても。
商品が飽和するようだと、新しい街との交易が必要だけど、今はまだ飽和どころか全然、商品が足りていない状態。
もっと得意先を増やせば、利益率もアップするとメイさんが保証してくれた。
「じゃあ、僕はこのへんで。やりたいことがあるから」
「わかったわ。どこかに行くときは宿に知らせておいてね」
あ、前にロジャーにも言われたことがあったなー。
あやしいとこにいると、どこにいるか全くわからないみたいたから。
ちょっと反省して、居場所が分かるようにしないとね。
☆ ☆ ☆
「うん。このあたりでいいかな」
僕は今、街道からちょっと離れた草原に来た。
ここなら、誰もいないし、新魔法をつかって何か起きても迷惑をかけないですむだろう。
どんなことが起きるか分からないから、安全のためにね。
「スピエとスピイだったな」
だいたい時空魔法は2つがセットになっている。
時空収納にアイテムを出し入れするスピアとスピダ。
ソル市場に時空収納からアイテム売買するソルアとソルダ。
今回のはスピエとスピイ。
頭2文字がスピだから、時空収納に関係する魔法かな。
まぁ、分からないときは使ってみるに限るね。
「スピエ」
うわーーー、なんだ?
唱えた瞬間にいきなり強い光に包まれて何も見えなくなってしまった。
しばらくすると光が弱まってきて目が見えるようになる。
「ここはどこ?」
なんと、さっきまでいた草原じゃない。
真っ白い霧の中にいるのかな。
白いだけで何も見えやしない。
「よく来たニャン」
「うわっ」
いきなり声がしたから驚いた
声をした方の足元を見ると、まっ白の猫がいる。
普通の猫じゃないな。二本足で立っているし。
「君は…猫かな」
「あー、猫っていえば猫かニャ」
「うー。でも、普通の猫じゃないよね。立っているし」
「そうだニャン。吾輩はただの猫じゃニャい。神様の使い獣って言えば分かるかニャン」
「あ、狛犬みたいな?」
「そうそう。狛犬も使い獣の一種だニャン」
僕のいた農園には、端に祠があった。
その祠の左右には動物の石像があって、狛犬だって教わったことがある。
「だけど、狛犬は動かないよ」
「うん、それは狛犬の像だからニャー。本物の狛犬は動くニャン」
「そうなんだ。えっと、神様の使い獣の白猫さんは何をしているの? ここで」
白猫さん。
なんか不思議な格好をしている。白い服に白い被り物。
なんか、物語に出てくる忍びの人みたい。
「君を待っていたんだニャン。ずいぶん来るのに時間が掛かってたからニャッ」
「えっ、僕が来るの知ってたの」
「そりゃ知っているニャン。スピエの魔法覚えたニャン」
「うん。そのスピエを唱えたら、ここに来ちゃったんだ」
「そうニャン。スピエはスピ界に入るための魔法だニャン」
あ、やっぱり、ここはスピ界なんだ。
なんと、アイテムじゃなくて、僕がスピ界に来たみたいだ。
「すると、君はスピ界の住人ってことになるね」
「そうニャ」
「君の名は?」
「名前はまだニャー」
「ないんだ。じゃ、僕が付けていい?」
「もちろんニャッ」
しろ、だと当たり前すぎるにゃー。
あ、ヤバ。語尾がうつった。
たま、もダメ。
あ、そうだ。
「クリームっていうのはどう?」
「クリームって、どういう意味かニャー」
「牛乳で作った甘い物なんだ。白くてふわふわでおいしい」
「うん、なら吾輩の名前はクリームだニャン。吾輩はクリームであるニャ」
おっ、喜んでくれたみたいだぞ。
なんか甘い感じもクリームって合ってる気がする。
「ところでさ。ここから出るにはどうしたらいいの?」
「出るには、スピイなのニャ」
「あ、そういうことね」
入るのがスピエで、出るのがスピイ。
そのセットなのね。
「じゃ、スピイ」
「えっ、もう行っちゃうのかニャ」
クリームが名残惜しそうにしていたけど、一度戻ることにした。
光に包まれて・・・あれ?
《どこに戻りますか?》
「えっと、エイヒメの街じゃないの?」
《戻る場所を指定してください》
「えっと。じゃあ、オーマの漁港」
つい、おいしいマグロを思い出したから言ってみた。
そんなこと、できるのかな。
あ、真っ白い霧が晴れてきた。
青い海が見えてきた。
漁船もたくさん泊まっている…やった、オーマの漁港だー。
「あれ? シオンじゃん。こっち来てたんだ」
「あ、ジョン。それにエレナじゃん」
「ほれ、シオンだぞ。ずっとエレナ、会いたいって言ってたじゃん」
「嘘っ。そんなこと言わないもん」
なんか、エレナ、真っ赤になってる。
「僕はエレナにまた会えて嬉しいよ。ジョンもね」
「おう、俺もそうだ。エレナは違うって言うけど」
「違わないもん。シオンにまた会えて、すっごく嬉しいもん」
女の子ってなんかややこしいな。
会いたくないって言ったり、会えて嬉しいと言ったり。
「あ、シオン。今日は泊まっていくのよね、この村に」
「えっと」
「お母さんが言うの。シオンに会ったら、うちにお連れしてって。お礼がしたいって」
「そうそう、エレナの母ちゃん元気になったかな?」
「うん。とっても元気なの。毎日、みんなの漁具の補修をしてるの」
「それはよかった。あー、じゃあ、今日はエレンの家に泊まらせてもらおうかな」
「やったー。母さんもよろこぶーー」
なんと、新魔法の実験をしていたら、エレンのうちに泊まることになっちゃった。
まぁ、いいか。明日もメイさん、お休みだって言ってたしね。
レベルがあがると、時空魔法が強化されるね。
新魔法は瞬間移動らしい。
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