第35話 アリアのおねだり
「ただいま」
「おえかりなさい。あ・な・た」
あ、なんか、どきゅんときた。
なんか、エロい呼び方だなー、「あ・な・た」って。
「そうだ。お土産があるんだ」
「本当!? うれしい」
「マツザ街の特産、マツザ肉だぞ。冷蔵保存してきたから、うまいままだ」
魔導保冷庫っていうのがあったら、ソルダしたんだ。
氷魔法が仕込んである魔導収納庫で、いつも温度が2℃になっているらしい。
0℃が水が凍る温度だっていうから、ギリギリ凍らない温度。
肉を保存するのに最適らしい。
「ほら」
魔導保冷庫ごとスピダしてみた。
中には最高級のマツザ牛の肉が部位ごとに計5㎏も入っている。
「へぇ、保冷庫っていうのね」
「便利だろう。肉を保存できるんだぞ」
「魚もいいわね」
「今度、オーマに行ったらマグロを買ってこよう」
「うん、のどくろって魚もおいしいみたい」
「よし、それも買ってくるとしよう」
アリアには僕は甘々だなー。
なんでも買ってあげたくなる。
だって、僕が帰るのはここ。
アリアのいる僕達の家だから。
「お帰りなさい。あ・な・た」
「うん」
アリアの大きな胸に抱かれて、ほっとしている僕。
ここがすごく気持ちがいいんだよね。
「ね。ごはん、すぐがいい?」
「そんなにお腹すいてないかな」
「じゃあ、お風呂?」
「そんなに入りたくもないかな」
「じゃあ……ベッドに行く?」
「うん!」
やっぱり、それが一番最初だね。
☆ ☆ ☆
エッチして、お風呂に入って、アリアが作ったおいしい御飯を食べて。
ひと段落したところで。
「あのね。お願いがあるの」
「なにかな」
「小さいお店が欲しいの」
「お店?」
「だって、これからもあなたは他の街に行って帰ってこないこと多くなるでしょう?」
「そうだろうなー」
「ただ、ここで待っているのって、つまらないわ」
そうだった。
アリアって農園じゃすごい働き者だった。
子供の世話をして、みんなの御飯を作って。
洗濯も掃除も、なんだってこなしていた。
もちろん、ひとりでやっていた訳じゃないけど、一番働いていたのがアリアだった。
アリアが好きだったのは、そんな働く姿がキラキラしていたから。
他の人のために働くのが嬉しそうだった。
もちろん、アリアの魅力は「おっぱいが大きい」っていうのもあるけどね。
そんな彼女がここで僕のために掃除、洗濯、食事の用意をしても暇を持て余すことになってしまう。
なにか、もっと働きたいっていうのがあるんだろうなー。
「私、お店をしたいなってー、小さい頃から夢だったの」
「へぇ」
「しっかりと働いていると、農園主の奥様がお買い物に連れていってくれるの」
「そうだったんだ」
「荷物持ち兼、お話相手だったけどね」
「そんなこともしていたんだね」
「うん。お買い物をしている奥様について廻ると、素敵なお店が一杯あるの」
「どんな店?」
「一番素敵なとこは、セレクトショップって奥様が呼んでいたお店」
「それってどんなとこなんだろう」
「店主さんが自分が好きな洋服だったりアクセサリーだったり、調度品だったり。いろいろな物をならべて売っているとこなの」
「へぇ、なんでも屋さんなんだ」
「うん、いろんな物を売ってるの。だけど、すべてが店主さんが好きな物だけ」
「あ、そこって自分が好きな物で囲まれている場所なんだね」
「うん。だから店主さんによっては、素敵だったり、豪華だったり、素朴だったり。いろいろなセレクトショップがあるの」
「店主さんの個性でお店が変わるってことなんだね」
「そうなの。それらのお店には、サロンテーブルがあって、そこでお茶をいただくのが楽しいの」
うーん、想像できないな。
僕が好きなお店っていうと、美味い物を喰わせてくれる店くらいかな。
アリアと比べたら、ずいぶんと単純だな。
「だから、私もいつかに自分のセレクトショップを持ってサロンテーブルでお茶を出してお客さんとお話をしたいなって」
なんか夢見る少女ぽいな。
そういう表情のアリアも素敵だな。
「ほら、前にお金がたまったら、家を買おうって言ってくれたじゃない?」
「うん」
そんな話をした覚えがある。
さすがにすぐって訳にはいかないって。その時は思った。
だけど、昨日1日で金貨16枚もたまってしまったし。
クレジットを換金できる商品に変えたら、すぐにお金になるだろうしなー。
「その家の一部屋をお店にしちゃダメ?」
「だけどさ。店だと商業地区じゃなきゃ、お客がこないよな」
「ううん。セレクトショップはそういうとこにないの。静かなとこにあって、お客さんはわざわざ訪れてくれるの」
「そうか。それならばいいね」
一部屋多くなるから、家がちょっと大きくしないとダメだね。
だけど、今の僕の収入なら、無理じゃないね。
「よし、明日。家を見に行こう。すぐに見つかるとは思えないから準備しておかないとね」
「本当!? うれしいっ」
キラキラ輝いているアリアを見ていたら、眠くなってきた。
さぁ、ベッドへ行こう。
あ、エッチなことをするんじゃなくて安眠するためにね。




