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第1話 農奴解放はスカウトで

新連載を始めました。2週間分くらいは書き溜めがあるので、そこまでは毎日更新です。

「これで4回目」


大きなかめに水を移し入れるが、まだ、満タンにはならない。

後1回は往復する必要がある。


「うーん、大変ってほどじゃないけどさ。つまらないなぁー」


水が湧き出る泉まで徒歩で15分、往復30分。

そこを5往復で2時間半。


それが終わってやっと朝飯だ。


「おい、水汲みは終わったか?」

「もう1回だよ」

「遅いな。早く満タンにしないとお前の朝飯を誰かが喰うぞ」

「じょうだんじゃない!」


13歳になったばかりの僕に、300リットルの水汲みは過酷じゃないの?って思うけど。

他の子だと5倍は時間が掛かるから無理だろうし。


「まぁ、時空収納があるのが却って損する形になっている気がする」


うーん、せっかく時空魔法が使えるのに。

農奴の僕にできることは毎朝の水汲みだけなのか。


「だけど、15歳の成人になったら、誰か僕をここから連れ出してくれるんじゃないかな」


時空魔法というのは、千人に一人のレアスキルみたいだし。

冒険者になれば、荷物を運べる僕は便利なはずだ。


「ほら、ぶつくさ言ってないで、さっさと行きな」


あと、2年。ここで、我慢すればきっと、新しい世界に行くことができる。

それを信じて、毎日の水汲みがんばるか。


「大丈夫。ちゃんとレオの分は取っておいてあげるわ」

「うん」


そう言ってくれているのが、アリアさん。

この農園で唯一、僕のことを気にしてくれる人。


すっらとした体形なのに、胸はりっぱな16歳。

ピンクの髪を長く伸ばして、いつも笑顔で接してくれる。

もちろん、僕達、農奴少年連中のあこがれの的だ。


「よーし。じゃあ、走って行ってくるよ。待っててね」

「うん、がんばって」


いつもはテクテク歩いているけど、ラスト1回だし走れば往復15分で行ける。

アリアさんも応援してくれるし、いっちょ、行ってくるか!


☆ ☆ ☆


「よし、7分で泉に着いたぞ」


予定通りだ。

泉の水は満ちているし、十分だよね。


「いくよー」


心の中で、時空魔法を唱える。


《スピア》


泉の水がちょっと波立つ。

ちゃんと計測すると64リットル分減っているはず。


「さて、戻ろう」


泉の水を64リットル分時空収納した。

これが僕のスキル、時空魔法。

すごいことだと思うんだけど、農奴管理人のおっちゃんは水汲みには使えるとしか考えていない。

絶対、もっといい使い道があるはずなのにさ。


「レベルが上がればきっとすごいことができるはずだ」


未来の自分の姿を想像してみる。

すごい時空魔法使いになって、みんなを驚かしている。

どんな魔法を使っているか…全然分からない。


農園には時空魔法を使える人が僕しかいない。

レベルアップでどんなことができるようになるかのか、教えてくれる人がいないから想像もできない。

ただ、すごい魔法が使えるはずだとなんとなく思っている。

だって、時空魔法なんだもん。


☆  ☆  ☆


「ね、聞いた?」

「何?」


いつもと同じ、パンと水だけの朝食の席で、ランちゃんが話しかけてきた。

青い瞳に青いショートカットの髪が似合って同い年の女の子。


「朝食の後、スカウトの人が来るんだって」

「えっ、本当!?」


スカウトって言うのは、農奴の僕らにとって希望を与えてくれる人。

農奴の身分から解放してくれる。


農奴はいくらがんばっても農奴のままだけど、唯一、別の身分になれる可能性がスカウトされること。

一番多いのが、冒険者としてスカウトしてもらうこと。

冒険者の中には将来有望な少年、少女をメンバーとしてスカウトするケースがある。


「そうだってよ。ま、スカウトされるのは俺だけどな。火魔法が使えてこの身体だろ。どうみても将来有望だしな」


14歳で背が高いオクトが主張する。

そろそろ15歳になって成人する彼にはスカウトされるラストチャンスだ。


「もしかしたら、メイドさんを探している館の人かもしれないわ。それだったらランにだって可能性あるんだから」

「えっと、荷物持ちを探している人かもしれないよ」

「ははは、そんな訳ないだろう。60㎏しか運べないならラバの方が絶対優秀だ。ラバ未満のお前にはスカウトは来ないぜ」


そう。冒険者としては、時空魔法持ちはあまり歓迎されない。

もちろん、剣技とか身に着けていれば、違うんだろうけど…僕には無理だな。


「来たぞー。スカウトの人は商人だって!」

「それなら私をスカウトに来たのだよ。この農園で一番計算ができる私を」


あー、いつもは頭でっかちとバカにされている14歳の男の子が主張した。

農園で計算できても意味がないと言われ続けていたのに、奴隷管理人に計算の仕方を習っていたのが彼だ。


「ちぇっ、商人か。それじゃ俺は無理だな」

「そりゃ、そうだよ。この農園で一番、頭の回転が遅い君ではね」


計算か。それも苦手だなぁー。

休み時間を勉強に充てている彼みたいなことはできない。


でも、商人なら荷物持ちが欲しいんじゃないかな。


「おい、おまえ。まさか、自分がスカウトされるかもと思ったのか? ラバ以下のお前を」

「はははは。それはないな!」


いつもそうだ。

スカウトを待つ他の子は、自分の売りをコツコツと伸ばしてする。

僕はどうも、そういうのが苦手で、その時々で面白そうなことばかりしてしまう。

その結果、ラバ以下って言われているんだよなー。


「おい、静かにしろ。これから、スカウトを希望する商人さんをお連れする。失礼がないようにしろよな」

「はーい」


みんな声を合わせて返事をしている。

ここにいる少年7人、少女5人。

誰もがスカウトされることを望んでいて、目をキラキラさせている。


一生農奴として農園でこき使われるだけの人生か。

スカウトされて自由な人生になるか。


分かれ道が今なのだ。


☆  ☆  ☆


「それでどんな子を望みですか? ひとりだけでなくて、2、3人でもいいですよ」


ひょろっと背が高く、旅人の服を着ている20歳くらいの男の人。

この人に気に入られれば、自由が手に入るのだ。

どうしたら、いいんだろうか。


「おいおい、スカウト代はそんなに安くないんだろ。ひとりで十分さ」

「そう言わずに、あ、あの子なんてどうでしょう。これからいい女に育ちますよ」


ランちゃんのことを指さしている。

そういうスカウトがあることは聞いたことがある。

儲かっている商人だったら、美人の妾を囲うっていうのがステイタスのひとつだって。


「今回はそういう目的ではなくてな。商売の相棒を探しに来たんだ」


計算上手の子が嬉しそうにしている。

商売の相棒か、計算できなきゃ無理か。


「あの子だよな。時空魔法が使えるっていうのは」

「えっ、そうですが…。正直言ってお勧めではないですよ。荷物運びとしてはラバより少ないですし」

「時空魔法とあまり知られていない魔法だ。だから、どんな可能性があるのか、分からないじゃないか」

「それはそうですが」


奴隷管理人に僕はあまり気に入られていない。

命令されたときに、なぜ、そんな命令をするのか聞き返すのがいけないみたい。

他の子みたいに言われた通りやった方がいいとは分かっているんだけど。


「ね。君。私と一緒に旅をするか?」

「ぼ、ぼくでいいの?」

「ああ。無限の可能性を持つ、君と一緒に商売をしたいんだ」

「はい!」


13歳になったばかりのシオンに転機が訪れた瞬間だった。


13歳の主人公は追放されないし、「もう遅い」とか言いません。


その代わりにスカウトされるみたいです、はい。


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― 新着の感想 ―
[良い点] こっちもこっそり読んでいます。 [気になる点] すっらとした体形なのに、胸はりっぱな16歳に添い寝をしてほしくてたまりません。 責任取ってください、お父さん。
[良い点] おおー! 新連載ですか! 絶好調ですね!
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