第18話 駒は集まると何かが起きる
「ちくしょう、あのガキ」
せっかくギルドブランドじゃないポーションを買い取ってやろうというのに断りやがって。
いま、街じゃスタンビートが起きるという噂が広まっている。
だから、ポーションを買い求める市民が増えた。
あっという間にポーションの値段が2倍になった。
今、ポーションをもっていれば大儲けできるのだ。
「まぁ、いい。ポーションなら別のルートで手に入れる算段はできている」
たしかに値段は高い。
現在の相場よりさらに高いが、スタンビートが起きたらそんなこと言ってられない。
10倍でも欲しいという客は絶対現れる。
「たったの通常相場3倍でポーション330本」
そんな話に乗らないようでは商人ではないな。
商人というのは、リスクを取ってこそ、大儲けができる。
スタンビートが起きると分かっているから、リスクなどないに等しい。
「だが、まずは金だな。本来なら関わらない方がいい連中なんだが」
すぐに金を用意できるのは、マフィアと呼ばれる連中しかない。
ちゃんと返済をすれば強い味方になってくれるのだ。
こういう儲けの場面では、マフィアすら利用する。
それが成功する商人の特徴だ。
「ほう。1か月で5割増しで返済ですね。いいでしょう。いくら必要なんですか?」
もっと強面が出てくるかと思ったら、礼儀正しい男で驚いたが、実に簡単に話しは済んだ。
商人として20年続けてきた信用があるからな。
これで俺は大金持ちになる。
明日類未来しか見えないぞ。
☆ ☆ ☆
「で。スタンビートはなんとかなりそうなのか?」
「はい。領主様。今のところは、戦力を投入して魔物の増殖を抑えている段階です」
「そうか。ご苦労だったな」
「ありがとうございます」
エイヒメの街長、つまり街の官吏のトップは深々と頭をさげている。
もう20年も街長をやらせているが、こんなことは初めてだ。
「しかし、なんで急にダンジョンの魔物が増えたんだ?」
「私にはまったく分かりかねます」
「だろうな。おい、魔術長。お前は何か知っているのか?」
私の横に座っている黒づくめの服の男に聞いてみた。
「時空震じゃ」
「なんだ? その時空震とは」
「時空震とは、時空の大きな揺れのことじゃな。この世界は時空全体からみたら、ひとつのシャボン玉みたいな物と以前、話したのじゃ」
「あー。あの話か。なんかよくわからなかったな」
この魔術長の話は難しすぎていかん。
「時空は普段は安定しているんじゃ。しかし、時として時空のエネルギーが溜まって世界の周りの時空が揺れるんじゃ」
「するとどうなるのだ?」
「一番弱いところに影響がいくんじゃ」
「それはどこだ?」
「世界の中にあって、別時空が存在している場所。つまりダンジョンじゃ」
ダンジョンが別時空の存在だというのは、前にも聞いていた。
だから、ダンジョンで倒した魔物は光となって消える。
元の時空にもどってしまう。
なんだか、分かるようで分からない話だがな。
「どうしたら、その時空震を止められるのか?」
「時空震を止める! はん。たかが、この世界のちっぽけな存在にしかすぎない人間にそんなことはできないのじゃ」
「なら、どうしたらいいと言うのか?」
「ただ、過ぎ去るのを待つのみじゃ。時空震で活性化した魔物をなんとかすることがせいぜいじゃ」
どうも、魔術長の話は役に立たん。
理屈はどうあれ、対策が立てられんなら意味がなかろうが。
もっと、時空に詳しい魔術士をみつけないといけないな。
「分かった。魔術長、街長、下がってくれ」
「了解しました」「了解じゃ」
ふたりが下がって、ひとりになって深く考えることができるようになった。
今はとにかく、魔物があふれるのを抑えるのが第一優先だ。
多少の被害があったとしても、魔物はダンジョンより外に出してはいけない。
一度、外に出てしまった魔物を迎え撃つのは困難が多いからな。
悪い報告ばかりの中で唯一、ポーションが豊富に入手できるというのはいい話だ。
それも、帝国の舶来物のポーションの入手ルートを持っている自由商人がいるという。
なんとしても、この街に押しとどめて帝国ポーションを流してもらうしかないな。
金なら、いままでの蓄えでなんとかなるはすだ。
人員の問題、物資の問題、士気の問題。
今は考えなければいけないことが多すぎる。
下手をしたら、20年かけて育ててきたこの街が廃墟になってしまう。
それだけは避けたい。
我が伯爵領のすべてを掛けてもだ。




